2.悪役令嬢がスライムになった理由
同じ姿のスライムという安心感と親近感のせいだろう。私は思ったことをそのまま言葉にする。
「ダール様、なぜ私がこうなったのか、順を追って教えてください」
「お、おう……」
ダール様は、少したじろいだ感じの間をおき、言葉を発する。
「そうだな、全部話してもいいが、それだと無駄に時間がかかる。ネージュ、知りたいと思うことを順番に考えてみろ。それでわからなかったことがあれば、教えてやる」
「?」
知りたいことを考えてみろって、どういうことかしら?
それで答えが出てきたら、神様と同じよね?
でも、ダール様がでたらめを言うはずがないし……。
言われた通り、順番に考えてみましょう。
まず、私が処刑されたところからね。
私は断頭台にかけられた自分がどうなったのかを考えた。
えっ!? こ、これは……?
頭の中に浮かんだのは、最期の言葉を吐き出す私の姿。
その姿が、雲の上から見下ろしてるように見えてる。
そして私の言葉が終わった瞬間、空から大きな光球が降る。
光球は断頭台を飲み込み、私もろとも消し去った。
い、今の光球は何?
そう思った時には、既に答えが出ていた。
あれは消滅弾、ダール様の魔法……。
そうか、私は斬首されて死んだんじゃなく、ダール様の手で天に召されたのか……。
でも、なんでそんなことを?
この答えも返ってきた。
私をアンデッドにしないために、ダール様は魔法を使ったのだ。
私の無念は強かった。断頭台で首をはねられたら、間違いなくアンデッドになっていただろう。
あの状態からそれを回避する方法は一つしかない。
それは、私の命を神の手で絶つことだ。
神の手で絶たれた命は、必ず成仏する。
どれだけ強い恨みを持っていても、遺体が野ざらしのままで朽ち果てても、絶対にアンデッドにならないのだ。
ん? ということは、私がアンデッドになると、なにか不都合なことが?
この答えは浮かんでこない。
これは、あとで質問させてもらいましょう。
「あー、そこから先は、俺が説明しよう。知識として与えてないからな」
「?」
知識として与えてない……?
あ、なるほど。そういうことか!
私、新しい身体だけじゃなくて、新しい知識ももらってたんだ。
それで考えたら答えが出たのね。
そしたら、私、すごい魔法とかも覚えてたりするのかしら?
うわっ!?
私、人間じゃ絶対無理ってレベルの魔法の知識までもらってる!
ああっ、そうか! それで私は神種のスライムになったんだ!
使えない魔法を知ってても、何の意味もないもんね。
そう考えると、さっきスラスラ出てきた変な言い回しも、ダール様からもらった知識の一部よね。
ということは、私の知らないところで何かしらの御利益があるはず。
そうね、浮かんだらありがたく使わせてもらいましょう。
あ、ダール様の話が始まるわ。ちゃんと聞かなきゃ。
「まず、お前にはやってもらいたいことがある。アンデッドになっちゃうと、それを頼めなくなるんだ。だから、俺の手で命を絶たせてもらった」
「はい、ありがとうございます。それで、私は何をすればいいのでしょう?」
「お前がやりたいと思ってたことだよ。お前がなぜ無実の罪で断頭台送りになったのか、それを調べ、しかるべき処置をしてもらいたい」
ああ、やっぱり神様は正しい者の味方なんだわ!
私が無実なのを、ダール様はご存じだった。しかも、ダール様から直々に、冤罪を晴らして関係者を処罰するよう頼まれた。
そういうことなら、全力でやらせてもらいます!
あ、でも、なぜダール様は直接手を下さないのかしら?
この答えは知識にあった。
なるほど、神様はあくまでも世界を見守る存在。世界を導くのは、神の代理であるアバターの役目なのね。
「そういうことだ。ネージュよ、今の時代のアバターはお前だ。頼んだぞ」
「はい、任せてください!」
こうして、私はダール様の代行者として元の世界に戻ることになった。
といっても、いますぐにというわけではない。
何事にも準備が必要なのだ。
まず、私は変身をマスターする必要がある。
理由は簡単。スライムの姿では王宮に入れないからだ。さらに言うと、教会に入れるかも怪しい。
ダール様は太陽の神。元の世界では、そう思われてる。そこに神の使いとしてスライムが現れても、誰が信用するのって話よ。
なので、私は人間に変身して、常にその姿で動けるようになっておく必要がある。
変身のモデルは人間だった時の私、ネージュ・カデット。ただし、髪は元の金髪縦ロールから青髪のストレートに変える。一部の人には残念だろうけど、黒の盛り髪という選択肢はないわ。
青髪にする理由? それが聖女の証だからよ。
しかし、聖女の髪が青い理由はダール様が青いからだなんて、教会の人たちには想像もつかないでしょうね。
教会には聖女という特別な地位がある。
神託のとおりに現れ、邪な者たちを浄化すると伝えられている聖なる乙女。それが聖女よ。
そう。私は聖女としてプルミエル王国に戻るの。
聖女の身分は子爵級。王宮に呼ばれる機会も多い。何よりありがたいのは、教会がバックにつくこと。あれこれ調べるには、もってこいなのよ。
それじゃ、変身の練習を始めましょうか。
私の種族はヒルコスライム。ダール様と同じくユニークモンスターなの。
神種だから強さはハンパないんだけど、それを見せる機会は無い方がありがたいわね。
そんなヒルコスライムの最大の特徴は、完コピと言っていい変身能力よ。
本物と見分けられるのは神様だけ。
それ以外の者が本物と見分けるには、どちらかに目印をつけるしかないの。
当然だけど、もふもふとか、ぷにぷにとかも再現できるわよ。
聖女に変身できるようになったら、ネコ耳とかシッポとかも生やしてみたいわね。
☆
変身はすぐにマスターできた。聖女の姿での動きにも短時間で慣れた。ネコ耳とシッポもバッチリよ。
ヒルコスライムの変身能力と、私に才能があったかおかげね。
というわけで、あとはダール様が神託を下すのを待つばかり。
それまでは、魔法や武術を練習するわよ。




