13.悪役令嬢のドレスは凄いことになってました
陰謀のことを考えるのは、一旦終了。
私は当初の目的を果たすため、お店に入ることにした。
このへんをスパッと切り替えられるようになったのには、自分でも感心するわね。
えっ? スリジエ? いたらいたで構わないわよ。
今この場でどうこうするより、全てを明らかにした後で、しかるべき報いを受けてもらうことに決めたから。
そう決めたら、気持ちが整理できたというか、落ち着いたというか、上手く言えないけど普通に接することができると思えたの。
ついでだから言っておくわ。殿下に対しても、今は同じように思ってる。
こういう考え方は、公爵令嬢だった頃にはできなかったわ。
生まれ変わった私は、精神的に少し大人になった気がする。
☆
お店に入った私は、店内を見渡した。
ほほー、中はこんな感じだったのかー。初めて入ったから、ちょっと感動しちゃったわ。
あ、こんな感じってだけじゃ、どんな感じかわからないわよね。
まず、お店は広い。
教会の集会場ぐらいはありそうね。
商品の衣装は、男性用と女性用に分かれてるのは当然として、おおよその身長別に分けて、並べられてるわ。
プルミエルの貴族には、極端に横に大きい人はいないから、この程度の区分けで十分なのね。
各々のコーナーには、そろいのメイド服を着た女性店員が何人か待機してるわ。
通路は広めにとられてる。
利用者の大半が貴族だから、この配慮はありがたいわね。
ほら、ぎゅうぎゅう詰めのバーゲン会場みたいな絵面って、貴族には似合わないでしょ?
社交シーズンだから、客は多い。
貴族本人だったり、使用人だったりするけど、ほとんどが女性よ。
男性は正装で夜会に出席する人が多いから、貸衣装屋にはあまり来ないんだろうと思う。
それを裏付けるかのように、品数は女性用の方が圧倒的に多い。これは、どこの世界でも同じなんじゃないかしら? あ、男性の方が着飾る世界があれば、逆になるのか……。
ドレスは全体を見なきゃ選べない。正面はおとなしいけど、背中が大きく開いてるのとかがあるからね。
なので、基本、ハンガーにかかってる。見るからに高そうなのは、人形に着せてるみたいね。
デザインや色はバラバラ。並び順に規則性はない。
夜会用のドレスは、基本一点もの。同じデザインで違うサイズのドレスがあったら、それは仲のいい姉妹が着ていたものと考えていいわ。
おうふ。
店内の目立つところに、かつて私が着たドレスがドドーンとディスプレイされてますがな。
そして、それを尊い物を見る目で見ている女性客たちの姿ががが……。
まあ、確かになー。私の遺品は客寄せにもってこいだわなー。
ほら、前に話したでしょ。私、ネージュ・カデットは病死したことになってるって。
そして、その後に調べてわかったんだけど、なんと! その嘘は、一般市民だけじゃなく貴族の間でも事実だと思われてることが判明しましたーっ!
考えてみたら、それは当然のことなの。なんせ、王家とカデット家が合同で盛大な葬儀までやったんだから。
それで疑う人が出たら、それはその人がおかしいだろって話よ。
ちな、あの日、断頭台ごと消えたのは、敵対国の女スパイってことになってるわ。罪状は、国王陛下の暗殺未遂よ。
処刑当日、私は目隠しされ、いかにも罪人ですって格好をしてました。
はい。断頭台の大罪人をネージュ・カデットと結びつける人なんて、いるはずがありません!
そんなわけで、ネージュ・カデットは、悲劇のヒロイン的なポジションにいたりします。
そんな人の遺品のドレスを飾れば、集客力マシマシになるわよねー。
もしかすると、生きてた時より人を集めてるんじゃないかしら? お店に来たのは初めてだから、断言できないけど。
あ、もしそうだとしたら、仕立てたときより高い値段で売ってるとか……?
私はドレスに近付き、値段を見た。
うわっ!? 一泊二日のレンタル代金が金貨100枚! なんという強気なプライス! このドレス、たしか、それぐらいで仕立てたって聞いたんですけど?
いやいや、ネージュ・カデットさん、どれだけ人気なのよ!?
ハッ!? まさか、神格化されてる……とか? 今の私は神種のスライムだから、ある意味合ってるけど(苦笑)
ていうか、これ、借りる人いるのかしら……?
金貨100枚って、法服の男爵の月給より高いの。ここのメインの客層じゃ、出すのはかなり大変だと思う。
付け加えて言うと、見た目が同じドレスを着たいだけなら、仕立てた方が断然お得な金額よ。汚れや型崩れが無ければ、4割ぐらいで買い取ってもらえるから。
さらに見ると、売価は応談と書いてある。
一応、売り物ではあるようね。
このドレスは結構気に入ってた。公爵家の暗黙の掟が無かったら、手元に置いておきたかったのよねー。
よし、決めた! 買うわよ!
私は近くにいた店員(20代半ばぐらいのお姉さん)に声をかける。
「このドレスを買いたいんですが、おいくらでしょう?」
「えっ!? あっ、し、少々お待ちください。店長を呼んでまいります」
お姉さんは「一瞬何を言われたかわかりませんでした」的なリアクションの後、店の奥の方にパタパタと駆けて行った。
ドレスを見ていた女性客たちは、「えっ!? マジですか?」って感じで私の方を見てる。
うん、まあ、そうなるだろうとは少し思ってたわ。
というのもね、レンタルで金貨100枚のドレスを買おうと思ったら、最低ラインは金貨500枚だと思うの。
しかも、価格応談の品物を分割で買う人は、あまりいない。見栄っ張りな貴族だと、とくにね。
つまり、私はそれだけの金額をポンと出せる側だと見られたわけです。
聖職者って清貧なイメージがあるから、驚かれるのはしかたないわねー。
お姉さんは店長を連れて戻ってきた。店長は、めっちゃ美形の少年!
えっ、ちょっとマジっすか? パッと見、私と同い年ぐらいなんですけど!
あ、でも、私も商会をいくつか回してたし、お金に余裕がある貴族や商家なら、後継ぎに店の一軒ぐらい任せるのはアリか。他の世界じゃ「こども店長」もいたって話だし。
それはそうと、私、彼をどこかで見た記憶があるのよねー。でも……、おかしいわ、全然思い出せないの。
そんな店長が、私にあいさつしてきた。
「聖女ネージュ様、カピタールコスチュミにようこそ。私、店長のブランと申します。どうぞお見知りおきください」
約半月ぶりの更新になりました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回の更新は、そこまで間は空かないと思います。




