11.悪役令嬢なので相手をサゲるほうを選びます
私は探知魔法で爆砕竜を見た。
うん。さっき獲物を食べてたときと同じで、2匹とも普通にS級よね。
それなのに、なぜか3人は苦戦している…。
これは、詳しく調べる必要があるわね。
私は神眼を戦闘用に切り替えた。
こうすると、相手の身体能力や魔法力(MP)の量や耐性なんかがわかるの。経験からくる強さまでは、さすがにわからないけどね。
ゲーム的に言うなら、パラメータと種族固有のスキルは見える。でも、その個体が自力で習得したスキルは見えないってところかしら。
闘気や魔法力の流れも見えるから、行動の先読みもできるわよ。
それじゃ、爆砕竜のチェック開始!
今のシーンをイラストにしたら、私の目から広がる光線的なものが、爆砕竜をスキャンしてる感じになると思うわ。
実際に私の目から光線が出てるわけじゃないけどね。
そうね、絵師さんによっては、爆砕竜の断面図まで描くかもしれないわね。
念のため言っておくけど、ブレス用の岩石袋は描いちゃダメよ。
ブレスは魔法で出してるの。
ついでだから言っておくわ。火炎袋や冷凍袋を持ってるモンスターも、この世界にはいません! でもね、毒袋を持ってるモンスターはいるの。
ここ、テストに出るわよ。
はい、2匹ともスキャン終了~。
ぅゎ爆砕竜っょぃ!
シアンさんペアが戦ってる個体はS級とSS級のボーダーぐらい! 殿下と私が戦ってる個体は普通にSS級じゃないの!
あっ、でも、それだけじゃ、今の状況の説明がつかないわね。
いや、実質1人で戦ってる殿下が翻弄されてるのは仕方ないのよ。殿下の強さはS級とSS級のボーダーぐらいで、相手はSS級だもん。
でもね、殿下と同じ強さのシアンさん&タランさんペアが、同じぐらいの強さの相手に2対1で苦戦してるのは、どう考えてもおかしいのよ。
私は3人をサポートしながら、さらに爆砕竜たちを見た。
うわ~っ、やっぱりか…。
この2匹、戦闘力をコントロールしてます!
必要な部位に必要なだけ闘気を集めたり、戦闘力を一瞬だけ上げたりと、どこぞの念能力者や戦闘民族も感心するレベルです。
これは探知魔法じゃ拾えないわけだわ…。
私の見立てだと、爆砕竜の強さは文句なしのSS級。
これ、勝ち目はあるのかしら?
というわけで、シアンさんたち3人もチェーーック!
あ、断面図は想像しないように! あと、装備を剥いた姿を想像するのも無しよ!
おうふ。
どう贔屓目に見ても、3人ともいっぱいいっぱいで戦ってます。
3人の名誉のために言っておくわ。相手が1匹だったら、互角に戦えてたと思う。今回は、2匹いたのが想定外。それで苦戦してるの。
もっとも、最初から2匹いるってわかってても、結果は同じだったと思う。
理由? 討伐隊の5人目6人目に加われる騎士や魔導士がいないからよ。
3人の力は、それだけずば抜けてるの。
さて、困ったわ。
今回の件は、私が爆砕竜を倒せば終わる話ではあるの。でもね、それをしちゃうと色々まずいのよ。
まず、3人のプライドを傷つけちゃうのがマズい。
自他ともに認める戦闘職のトップが倒せないモンスターを、非戦闘職の私が瞬殺なんてしたら、ねえ…。
私が逆の立場だったら、ものすごく凹む。自分で自分が許せなくなるわ。
私が知ってる限り、3人は挫折を知らない。
どれだけ落ち込むか、そこから立ち直れるのか、立ち直るのにどれだけかかるか、全てが未知数なわけ。
国家としたら、気が気じゃないわよね。
そして何より、私の実力がバレるのがマズい。
正確には、それで私の立場が変わるのがマズいの。
今のプルミエルは、王族と騎士団と王宮魔導士が、戦力として釣り合ってる状態なの。
それを軽々と超える戦力が教会にいるのを、王族や貴族が認めると思う?
はい、そういうことです。
私がSS級のモンスター2匹を瞬殺できる力――誰がどう見たってSSS級相当――を持ってるとバレたらどうなるか?
その答えは、「教会住みから王宮住みになって、副官という名の監視役2名が四六時中はりつくようになる」です。
そんな状況で、私を陥れた者たちの調査ができると思う? ええ、どう考えても無理よ。
ちな、監視を拒否したら、私は魔王扱いされて討伐対象になります。
返り討ちにするのは簡単なんだけど、私はそんなことがしたくて地上にいるわけじゃないからね。
だから、私が爆砕竜を倒す展開は、絶対避けなきゃならない。
なんとかして、3人が爆砕竜を倒す展開にしたいのよ。
となると、3人を超絶強化するか、2匹を超絶弱体化する必要があるわね。
どっちが今の状況に合ってるかしら…?
うん、2匹を弱体化する一択ね。
3人は自身を限界まで強化して戦ってる。
これ以上強化しても、心身の負担が増えるだけ。体力や気力が一気に消耗するから、やるべきじゃないわ。
一方、敵の弱体化なら、多少やりすぎても聖女だからで押し切れる!
というわけで、ここは神種覇気の出番ね。
神種覇気は、神様が持ってる圧倒的な威圧感のようなものよ。
これを浴びた相手は超ビビる。ビビったついでに力をほとんど出せなくなっちゃうという、実に都合のいい技なの。
あっ、そうか。相手がいきなり弱くなったら、私が何かしたってバレちゃうかもしれない。
となると…。
そうだ! 動きを止めたところを攻撃してもらって、命中する直前に弱体化すればいいんだわ。
3人の攻撃は、今の爆砕竜にも通用する。
弱体化した状態で攻撃を当てれば確実に倒せるわ。
うん、これで決まりね。
私は3人に告げる。
「神聖魔法で爆砕竜の動き止めます! その間に攻撃してください!」
3人は頷き、魔導防壁の後ろで攻撃態勢に入った。
それじゃ、行きますか。
「全停止!」
私は神聖魔法で爆砕竜たちの動きを止めた。
シアンさんと殿下が間髪入れずに駆け出し、それぞれの相手に剣技を放つ。
「竜破斬!」
「サンダースラッシュ!」
竜殺しの剣の特性を最大に引き出すシアンさん!
弱点属性――正確には、一番通る属性――を竜殺しの剣に乗せる殿下!
タイミングを合わせ、私は神種覇気を放つ。
爆砕竜の強さが大幅にダウン!
2人の剣が、弱点の頭部を正確に撃つ!
爆砕竜たちは、崩れるように倒れた…。
今回は2525文字でした。
ね、狙ったわけじゃないですよ?




