10.悪役令嬢は男のプライドを傷つけていたようです
今の状況を簡単に説明しておくわ。
古代の森には、数匹の大型モンスターが暴れまわれるだけの広場になってるところが何カ所かある。
そして、広場と広場を結ぶように、大型モンスターが使う獣道が走ってる。
狩りゲーのエリアみたいなイメージね。
2匹の爆砕竜は、同じ広場にいるわ。
この2匹が怪獣映画みたいにガチで戦ってくれてたら、私たちは楽だった。
共倒れしてくれれば超ラッキー。動けない相手に軽く止めをさして、素材――鱗とか爪とか――をはぎ取るだけの、簡単なお仕事になるからねー。
普通にどちらかが勝ってもラッキー。ズタボロの敗者と、疲れてる勝者を倒すのは楽勝。あとは、はぎ取って任務完了。
痛み分けでも悪くはない。どちらもダメージを受けてるから、倒すのに苦労はしないわ。あとは、楽しくはぎ取ってお終いよ。
でもね、今回は2匹が争ってないの。
それどころか、共同で狩りをしてたっぽいのよ。
私の探知魔法には、頭を爆破されて絶命した草食恐竜タイプのB級モンスター(爆砕竜より大きい)を、仲良く食べてる爆砕竜たちの反応があるの。
これは最悪と言っていいパターンよ。
片方を攻撃すれば、間違いなくもう片方が助けに入る。
それどころか、連携して私たちに対抗してくる可能性まである。
なので、当初の計画――タランさんが魔法で相手の動きと視界を制限して、シアンさんと殿下が死角から攻める――は使えないと思いました!
えっ、私の役目?
支援と万一の時の回復役に決まってるでしょ。
強力な魔導防壁が使えるから護衛が要らない、超優秀な支援&回復要員よ。
えっ? 攻撃は、ですって?
私、強力な攻撃魔法も使えるところは見せてませんので。
理由? そんなことしたら、王宮魔導士の立場がなくなっちゃうでしょ?
博物館で見せたのは、あくまでも解呪。攻撃魔法じゃありませんから。
ファイヤーボールの迎撃? あれは「器用さです!」で押し通したわ。
初級のファイヤーボールだから同時に使えて、数を撃つために小さくしましたってね。
話を戻すわ。
この状況で討伐を成功させるなら、2人ペアで爆砕竜1匹を相手にする形が無難だと思う。
3人とも、爆砕竜を単独で倒せる実力の持ち主だからね。
2匹を分断させれば、負ける要素はないわ。
そう考えた私は、3人に提案してみた。
そしたら、2人は賛成してくれた。
でも、1人は思いっきり反対してきた。
さて、ここで問題です。反対してるのは誰でしょう?
答えは殿下よ。
理由は、その戦い方だと魔法でもダメージを入れることになるから。
それの何が問題かというと、素材の損傷。
魔法だと、どうしても剣より損傷面積が広くなる。特に、私はファイヤーボールしか使えないことになってるから、確実に焦げる。
殿下は、それが気に入らないの。
まったく、国家の一大事だっていうのに、何考えてるんだか。
殿下は昔っからそうなのよねー。
王位を継げないのが決まってるからだと思うんだけど、富と名声にものすっごくこだわるの。
その執念が天賦の才を開花させたんだから、一概に悪いとは言えない。でもね、「時と場合を考えろ!」と声を大にして言いたいわ。
「殿下、ここはネージュ殿の言う通り、討伐を優先するべきです」
「そうだよ、ヴェント」
「いいやダメだ! このメンバーなら討伐はできて当たり前。だったら、より多くの富を持ち帰ることを考えるべきだ!」
シアンさんとタランさんが説得してるけど、殿下は首を縦に振らない。
う~ん。私と婚約したころは、ここまでお金に執着してなかったのに、どうしてこうなっちゃったのかしら?
ハッ!?
まさか……私と付き合ったからってことは……ないわ…よ…ね?
確かに私の方がお小遣いが多かったり、食べてる物のグレードが上だったり、衣装や小物が高価だったりしたけど、それは男性と女性の差のレベルよ?
それに、私はお父様から商会をいくつか任されてたから、取り扱ってる商品のPRモデルも兼ねてたの。ほら、異世界でよくある、公爵令嬢の嗜みってやつよ。
自分で言うのもなんだけど、私って結構有名人だったの。私が身につけた商品は、売れ行きがグーンと上がったわ。だったら、高価な物を身につけるのは、オーナー一族として当然でしょ?
そのおかげで、他の公爵家じゃ無理よねーってレベルの贅沢ができるぐらい稼いでたわ。
当然、殿下からプレゼントをもらったら、倍ぐらいのお返しをしてたわよ。ささやかなお礼の気持ちですって。
あら? どこかから「お前のせいやないかーい!」って声が聞こえた気がするわね?
☆
最終的に、殿下は折れた。
私とペアを組んで、私は魔法でダメージを与えないという条件で、しぶしぶ首を縦に振ったの。
私の名前を口にするときにぎこちなかったり、なるべく目を合わせないようにしてるのは、「ネージュ」っていう名前に何か思うところがあるみたいね。
とにかく、これでようやく討伐に取り掛かれるわ。早速戦闘開始よ!
☆
私は今、鳴り物入りで入団した超大物プレイヤーが全然結果を残せてない某チームの監督になった気分よ。
シアンさんとタランさんペア、メチャメチャ苦戦してるんですけど!? ついでに殿下も…。
3人ともS級モンスターと互角以上に戦えるはずだったのに、どうしてこうなったの!?
戦況を端的に説明するわ。
まず、タランさんの魔法は、爆発しまくる爆砕竜のブレスを相殺しきれない。なので、シアンさんが切り込めない。
2人ともそうなんだけど、着弾点から離れてなきゃいけないのが超ネックになってるわ。
殿下の方は、そもそも爆砕竜の動きについていくのがやっとというね…。
私が魔導防壁を飛ばしてなかったら、とっくに3乙で討伐失敗よ(狩りゲー的表現)
これは、城に戻ったら責任者を問いただす必要が……って、責任者はペアでここで戦ってるんだけどね。
とにかく、この状況はよろしくない!
このままじゃ、前回と今回の私の説明がウソってことになっちゃうわ!
しかし妙ね。
3人の魔法や動きは、訓練で見たときと同等以上よ。
それなのに苦戦するって…。
私の頭に、考えたくない仮説が浮かんだ。
まさか…、今の爆砕竜の強さはS級を超えてる…とか?




