1.悪役令嬢は断頭台の露と消えた?
恋愛ものは初挑戦になります。
よろしくお願いします。
公爵家令嬢だった私、ネージュ・カデットは、断頭台の上で最期の時を待っていた。
「王家に仇なした大罪人よ、最期に言い残すことはないか?」
投げやりになってる頭に刑吏の声が届く。
最後に言い残すこと……か……。
そんなもの、何も残ってないわ。
婚約者を奪われた。婚約は一方的に破棄された。
身に覚えのない罪状を並べられ、私は捕縛された。
私は聞かれたことすべてに、嘘偽りなく答えた。全能なる神、ダール様に誓ってね。
でも、私の言葉はすべて否定された。
家名を守るために、家から縁を切られた。当然、名前も取り上げられた。
そしてその日から、私は大罪人とだけ呼ばれるようになった。
もう、何を言っても無駄ね。
こうして考えるのにも疲れたわ。
思い残すことがないわけじゃないけど、早く終わってほしい。
そうね。そのためには、何か言わないといけないのよね。
取り乱さない。命乞いはしない。悪いことはしてないから謝らない。
それが貴族として生まれ育った私の矜持よ。
「別にないわ。早く処刑してちょうだい」
そう言い終わった瞬間、身体が消えていくような不思議な感覚に包まれた。
そうか、死ぬってこういうことなのね。
何も見えない、何も聞こえない。
私の意識は、そこで途切れた……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『再生』
どこか遠いところから、若い男の声が聞こえた。
私は意識を取り戻したようね。
上手く言えないけど、眠りから覚めて目を閉じてるような感覚だわ。
目を開けようとして、私は全身の違和感に気付いた。
手がない。足もない。首もない。
今の私は魂だけの姿――たぶん人魂っぽい――だろうから、これはわからなくもないわ。
この状態から強くなって幽霊やゴーストになると考えれば、不思議でも何でもない。
でもね、体中がポヨンポヨンしてるのって、おかしくない?
まあいいわ。
目を開けて現状を受け入れましょう。
目を開けると、私は真っ白なところに浮かんでいた。
人魂みたいなものなんだから、これは当然ね。
うわっ! なにこれ、視野がもの凄く広い!
前後左右に上下、身体を動かさなくても全方位が見えてるの!
人魂って、こんなにすごいモノだったのね。これならポルターガイストとか起こせそうな気がするわ。
ううん、それどころか、呪殺とかもできちゃいそう。
メラメラメラ。「こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か(この恨み、晴らさで置くべきか)」とかね。
壁抜けとか姿を消すのは当然できるだろうから、私を断頭台送りにした連中を探し出して……。
「あー、残念だけど、人魂じゃポルターガイストは起こせないし、壁抜けもできないぞ」
「!?」
突然声が聞こえた。さっきの若い男の声だ!
私は声がした方を見た。
そこには、淡く光る青い物体が浮いてた。少し潰れた球のような形で、見るからにポヨンポヨンだ。
スライムに似てるけど、目がなくて、頭のてっぺんが尖ってない。そもそも、スライムは言葉を話せないはず。
じゃあ、この青い物体は、いったい何者?
「俺はダール。見ての通りスライムだが、この世界を任されてる神だ」
「え゛!?」
言葉にならない声が出た!
目の前の物体が、全知全能の神ダール様ですって!?
教会のレリーフに彫られたダール様のお姿は、御使いたちに崇められる太陽のよう。だから、ダール様は太陽の神様だと誰もが思ってた。もちろん、私もそう思ってた。
なのに、それなのに、ダール様はスライムですって!?
……確かに形は似てるわね。それに、少しだけど光ってるし……。
いいえ、待つのよ私。
ハース大陸――私が生まれ育ったプルミエル王国がある大陸よ――のスライムは、いわゆる雑魚モンスター。それが神だなんて、そんなことはあり得ないわ。
そもそも、外見がスライムとは違うし。
「あー、その件は、だな。モンスターが俺と同じ姿じゃ人間たちが討伐できなくて困るだろ? だから、ちょっとだけ形を変えたんだ」
「……!?」
今気付いたけど、私の考えてること、ダール様(自称)に読まれてる!
さっきから、私は考えてるだけなのに会話ができてる!
そんな真似、神様か高位魔族でもなければできないはずよ。
……ということは、まさか……、目の前にいるのは……自称じゃなくて、本物のダール様……?
「ああ、本物だ」
「し、失礼しましたーーー!!」
私は全力でジャンピング土下座を試みた。
あ れ ?
伸びあがった拍子に、自分の全身が見えた。
淡く光る青いポヨンポヨンな物体が……伸びて……る?
えっ? えっ!? ええぇぇぇぇぇっ!!?
私……、ダール様と同じ姿になってる!?
困惑中の私に、ダール様のありがたーいお言葉が届く。
「ふう、ようやく気付いたか。ネージュ、それが生まれ変わったお前の新しい身体だ。神種のスライムだから、メチャメチャすごいぞ」
あ……ありのまま今知ったことを話すわ!
私は断頭台で処刑されたと思ったら、神種のスライムに生まれ変わってたの。
な……何を言ってるのかわからないと思うのだけど、私も何でこうなったのかわからないわ。
普通に死んで、普通に弔われた人は成仏する。だから、幽霊やゴーストなど、いわゆるアンデッドモンスターの類にはならない。
でも、無念が強いと幽霊やゴーストになる。弔い方が雑だと、ゾンビやスケルトンになる。
それがダール様を祀る、ダール教の教えよ。
だから、身に覚えがない罪で処刑された私がアンデッドになるのはわかる。
身の潔白を明かしたい。私を断頭台送りにした連中にそれ相応の報いを受けさせたい。その思いは強いからね。
でも、スライムになるなんて話は聞いたことがない。
しかも、神種だなんて。
これって見た目だけじゃなく、能力も神様クラスってことよね。
貴族の娘だったとはいえ、人が神様に近い力を得るなんて、普通は考えられない。
そも、「しんしゅ」を「新種」じゃなく「神種」と変換できてる時点でおかしいわ。
それに、「メラメラメラ。この恨み~」とか「あ……ありのまま~」とか、見たことも聞いたこともない言い回しがスラスラ出てくるのって、あり得ないと思うのよ。
これは、ダール様にキッチリ説明してもらう必要があるわね。
新連載始めました。
ストーリー上のつながりはありませんが、神様の設定は拙作「俺、スライムに転生できました」(https://book1.adouzi.eu.org/n8082fd/)の主人公を流用しています。
よろしければ、感想、ブクマ、評価などお願いします。




