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ゲームフェイズ1:大広間4

 そうしてバカと海斗が大広間に戻ると……そこには、むつが居た!

「あれっ!?むつ!どしたんだ!?孔雀は!?」

 バカは、手にしていた巨大な剣をそこに『よっこいしょ』と置くと、むつに向かってテケテケと駆けていく。

 何せ、むつは、孔雀と一緒に居たはずである。そして2人は友達同士であったはずで……バカは、『もしかして喧嘩しちゃったのか!?』と、おろおろしたのだ。だが。

「え?ああ……えっとね、孔雀は1人で9番の部屋に入っちゃった。だから私はここで待ち時間。もう6番は済んでるみたいだから……」

「えっ!?6番、もう埋まっちゃったのか?」

 ……どうやら、むつが1人で居るのには理由があったようだ。バカは、『喧嘩じゃないならよかった!』と、ほっとした。


「……ということは、デュオと四郎さんが『6』に入ったのか。五右衛門さんはまだ戻ってきていない様子だしな……」

「おおー……大丈夫かなあ、四郎のおっさん……」

「……まあ、彼にも考えがあるんだろう。僕達が心配することじゃないさ」

 むつが1人でここに居るのに『6』のアルカナルームが既に攻略済み、ということならば、それは即ち、『海斗と五右衛門』または『デュオと四郎』の組み合わせで『6』のアルカナルームに入った、ということである。タヌキが2匹居れば話は別だが……タヌキは1匹である!

「えーと、じゃあ、むつ、俺らと一緒にどっか入るか?俺と海斗とむつだったら……えーと、17番に入れるぞ!」

「気持ちは嬉しいんだけど、『17』は私と孔雀とデュオさんとで、最初に入っちゃったから……」

「えっ!?あっ!そっか!そうだった!」

 バカは、既にどこに誰が入ったか、忘れ去ってしまっている!バカには覚えていることがいっぱいすぎて、難しいのだ!ということでバカはもう諦めた!


「今、どこの部屋が攻略済みなんだろうな……」

「ああ、それならね……えーと、『6、7、11、13、14、15、17、18』が攻略済みみたい。モニターの数字を見る限り、だけどね」

 むつは既にあちこち見て回った後らしい。大分詳しかった。バカは、『ほええ』と感心した。

「成程な。……このモニター、攻略済みの部屋は数字の色が変わるのか」

 海斗も早速、ちょっとモニターを確認して、『僕らが攻略した部屋の数字は色が違うもんな』と頷いていた。

「でも、攻略『中』の部屋については、特に表示がないみたいだから……ええとね、今、9番に孔雀が入ってるよ」

「あー、じゃあ、誰がどこに入ってるのかは分かんないのかぁ……」

 バカは、くるくるとあちこちを回って見てみて、消えている個室を確認する。

 今、無い個室は、海斗の個室、デュオの個室、タヌキの個室、四郎の個室、五右衛門の個室、七香の個室……計6個である。大分、いない!

「……デュオさんと四郎さんがそれぞれ、『2』と『4』に入っていると考えられるか。それで、タヌキが1人で『3』に入って……むつさん。七香さんはもしかして、1人でもう一度『7』へ?」

「うん。なんか、私がここで孔雀を待ってるって言ったら、『2人きりにはなりたくないの』って言って、行っちゃった」

「えええ……」

 バカは『七香ってよくわかんねぇ……』としょんぼりした。バカだったら、1人で待っているところにもう1人来たら、大喜びなのだが……。七香は、誰かとのお喋りが好きじゃないタイプなのだろうか。

「五右衛門さんとヤエさんは、攻略はしたけれど戻ってきていない、ということか……?心配だな」

「アルカナルームで休憩中、ってことかな。うーん……13番の様子、見てきた方がいい、かな……」

「……まあ、発表フェイズに入ってもまだ戻ってこなかったら、見に行ってもいいかもしれない。幸い、13番なら樺島とタヌキの2人組で確認しにいけるから」

 ……色々と心配なことは多い。だが、バカはバカなので、『考えてもしょうがないもんなあ』と割り切った。こういう時はやっぱり、割り切りが大事なのである!




「さて。整理すると、今攻略済みなのが、『6、7、11、13、14、15、17、18』の8部屋だ。そして今、攻略中だと考えられる部屋が、『2、3、4、9』の4部屋……。残りのアルカナルームは、10部屋か」

「残ってるのは、『1、5、8、10、12、16、19、20、21』……と、『0』だね」

 そうして、確認も終わったところで……バカと海斗とむつは、はあ、とため息を吐くことになる。

 ……既に、バカが入れる部屋は残り6部屋だ。そして、バカが持っているカードは、2枚。

 ここから先、バカが入れる部屋全てにバカが入り、その上でバカがカードを独り占めしたならば、『7枚』に到達できる。できるが……そうはならないだろうなあ、ということは、バカにもなんとなく分かるのだ。

「……ゲームの進行状況としては、これで折り返しになる、のか。だが、まるで『半分』の実感は無いな……」

「だよね。私もそうだなあ……。私、全然、このゲームのこと、よく分かってなくて……」

 海斗が深々とため息を吐けば、むつもまた、苦笑しながらそう零した。

 ……バカは、ふと、思う。

 むつは、どうしてこのデスゲームに参加しているのだろう、と。




「えーと……あの、海斗さん、『0』の部屋、どうやって行くのか、分かる……?」

「……こうじゃないか、と思うことはあるんだが、そこに至る道は見つけていない。そんなかんじだ。そちらは?」

「うん。孔雀がなんか分かってそうなんだけど、教えてくれなかった」

 むつと海斗が話しているのを見ながら、バカは考える。

 むつは、デスゲームに参加するような人ではないように見える。今、戸惑っているのだってそうだし、話すのを聞いていて、どうも、そんな気がする。

 ……そんなむつが、デスゲームに参加しなければならない理由があったのだろうか、と。


「なあ、むつ……いっこ聞いてもいいか?」

 なので、バカはドストレートに聞いてしまうことにした。

「むつは……どうして、デスゲームに参加したんだ?」




「え?私?……えーと、ねえ……」

 バカはドキドキしながらむつの返事を待っているが、むつは困っている様子であった。

「あ、あの、言いにくかったらいいんだ。その、話したくないこと、あると思うし、その……」

 なのでバカは、慌ててそう続ける。むつの事情は気になるし、むつが仲良くしている孔雀が『駒井燕』なんじゃないか、ということも気になるが……でも、彼らに失礼なことをしてはいけない。バカは改めて、肝に銘じた。

「あ、ううん、その、話しにくい、っていうか、説明が難しい、んだけれど……うーん」

 だが、むつはどうやら、話したくないわけではない、らしい。『ちょっと話したい』ような様子にも、見える。

「……あの、樺島さんは、なんでここに来たの?その、答えにくかったら本当に、いいんだけれど……っていうか、聞かれたの私なのに、先に答えてもらうの、やっぱり変だよね。えーと、ちょっと待って。えーと……」

「ん?別にいいぞ!俺と海斗は、頼まれたからここに来たんだ!」

 ……そんな彼女が話しやすくなるなら、と、バカは堂々と宣言してしまうことにした。

 宣言してしまってから、『あっ!?これ、言っちゃ駄目な奴だったか!?』と海斗の方を見たが、海斗は『別にいいぞ』というように頷いていたので、バカはほっとした!

「頼まれた、から?」

「うん。依頼で……えーとな、ここに居る人を、助けるんだ。救助の依頼で、俺と海斗はここに来たんだ!」

 バカがにこにこと答えれば、むつは、まんまるにした目を、ぱち、と瞬かせた。

「そ、そっか……そういうのも、あるんだね」

 満面の笑みのバカを見て、むつは『世の中は広いなあ』とばかり、ほわ、とため息を吐いた。そう。世界は広いのだ。バカを受け入れてくれる会社だってあるくらい、世界は広いのである!


「そっか。……あのね?私は、友達を追いかけてここに来たんだ」

 そして、むつは話してくれた。バカは、むつが話してくれることを嬉しく思いつつ……彼女の話す言葉に、首を傾げる。

「……孔雀のことか?」

「うん。そう。……なんだけど、ここで孔雀に会うとは、思ってなくて……あ、ええと、ちょっと変なんだけど、本当に、そういうかんじで……」

 むつは、話しながら少し戸惑っている様子だった。……何か、彼女にも事情がありそうだが……。

「……えーと、その、樺島さんと海斗さんは、友達同士なんだよね?」

 そんなむつは、ちょっと気を取り直したように、バカと海斗へそう問いかけてくる。なのでバカは、満面の笑みで頷いた!

「うん!そうだぞ!俺達、相棒なんだ!えへへへ……」

「……まあ、そうだ。こいつはバカだから、その、僕の力が必要らしくてな……」

 即答したバカの後から、そっ、と海斗も同意してくれる。ちょっぴり遠慮がちでちょっぴり捻くれた同意が海斗らしかったので、バカは、『こういうの、おくゆかしい、っていうんだ!』とにこにこした。最近覚えたての言葉を使いたがるのがバカの習性なのである。そして、なんか意味を間違って使うのもバカ故である。

「なんだかいいなあ。ちょっと羨ましいかも」

 そんなバカと海斗を見て、むつは楽しそうに笑う。……なので、バカは、はて、と首を傾げた。

「……むつは、孔雀とは、あんまり仲良しじゃないのか?」


「え?」

 むつは、きょとん、としてしまった。バカは、『あれ?俺の思い過ごしかなあ』と、また首を傾げた。

 ……でも、むつの『羨ましいかも』が、なんだか、とても……さらり、と出てきた割に、本当の本当にそう思っているような……裏を返せば、『仲良くないから仲良しが羨ましい』のではないか、と思われたのだ。

「……うーん、仲良しじゃない、とは、思わないんだけど……でもなあー」

 そして、むつはちょっと悩んで……そして。

「私、バカだからなあ……」

 ……そんなことを、零したのだった。


「その、孔雀が、私と仲良くしてる意味は、あんまり無いんだよね。私が一方的に……っていうか、うーん……」

 ……むつがそんなことを言って悩み始めたので、バカは『あわわわわわわ』と慌て始める。横を見てみれば、海斗も静かに慌てていた!

 そう!バカはバカだが、海斗は海斗で友達が少ない奴なのだ!こういう時に相談に乗れるほど、賢さや友達経験値が多くないのがこの2人なのである!

「そ、その……俺よりはバカじゃないと思う!だから大丈夫だ!な!」

 よって、バカの励ましはこんなことになってしまうのだった!そして海斗は海斗で、どう声を掛けてよいものやら考えすぎて、すっかり固まってしまっているのだった!


「え、えっと……えへへ……樺島さん、いい人だねえ」

「そ、そうかぁ……?」

 そうして、むつは苦笑しながら、そう言ってちょっと笑った。バカは、『俺がもっと頭良かったら、もっとちゃんと言えることあったんだろうなあ……』と思いつつも、『いい人だねえ』と言われたのは嬉しい。なので、半分しょんぼり、半分にっこりのバカである。

「うん……実は、孔雀と話すの、ちょっと久しぶりなんだ。色々、聞きたいこととか、話したいこととか、まだ沢山あって……」

 むつは、自分の中でもう答えを持っていたらしい。ただ、それがちょっと不安で揺れていた、というだけなのだろう。

 バカは、『むつはしっかりしてるんだなあ』と思う。『多分、俺よりしっかりしてる!』とも、思う。

「……うん。そういうの、思い出したらなんかちょっと元気、出てきた。ありがと!」

「うん!元気出たならよかったぁ!」

 ……そんなむつが、ちょっと笑顔になってくれたので、バカはすっかり『駒井燕』のことなんて忘れて、笑顔になってしまうのだった。




「……あ、帰ってきたかも」

 そんなむつが顔を上げる。見れば、個室が『にょにょにょ……』と生えてくるところだった。成程、エレベーターにもなる個室は、アルカナルームから戻ってくる時、ああやって生えてくるものであったらしい……。

「私、行ってくるね!」

「ああ。その方がいい。孔雀も心配していただろうから」

「むつ!また時間あったら話そうぜ!」

 そして、むつはバカと海斗に手を振ると、さっ、と走り出して個室の方へと向かっていった。個室からは案の定、孔雀が出てきて、そして、むつの姿を見て、ほっとしたような顔をしていた。

 ……やはり、『むつが一方的に孔雀と仲良し』というわけではないのだろう。孔雀もちゃんと、むつのことを大事に思っているように見える。

 見えるのだが……ちょっと不安に思ったバカは、隣に居る海斗に、聞いてみた。

「なあ、海斗ぉ……。海斗は、俺がバカじゃない方がよかったか?」

「いや」

 が、ちょっぴり不安だったバカに、海斗はそう、即答してきた。あまりの即答ぶりに、バカは『へ』と素っ頓狂な声を上げてしまった。

「……その、妙なことを言うようだが、僕は、お前がバカでよかったと思ってる。僕は……お前がこんなにバカじゃなかったら、もっと意固地になっていただろうから」

「いこじ……?」

「頑な……いや、これもお前には難しいか……?その、素直になれない……?いや、それは何か違う……」

 海斗はぶつぶつと呟きながら、『言葉選びが難しい……』と嘆いていた。が、バカはバカなりに、『そっかぁ、海斗は俺相手だと、なんか意地っ張りにならなくて済むってことかぁ!』と、概ね正解に辿り着いた!

「まあ、その、そういうことだ。僕から見ても、孔雀とむつさんが、その、お互いに大切にしている間柄だということは、なんとなく分かる。少なくとも、むつさんが『バカだから』という理由で孔雀から嫌われているようには見えない」

「うん。だよなあ……よかったぁ」

 バカはにっこりしつつ、むつと孔雀が何やら話している様子を見守る。

 声は聞こえないが、むつが元気に何か話しかけ、孔雀が少し呆れた顔をしている様子を見ていると、なんとなく嬉しくなってくるのだ。

 ……まだ、孔雀が『駒井燕』だと決まったわけではない。ないが……バカは、『孔雀にもちゃんと友達がいるの、よかったなあ』と、にこにこするのであった!




「……さて。折角だ。『ゲームフェイズ』が終わらない内に、やっておきたいな」

 バカがにこにこしている間にも、海斗はちゃんと別のことを考えていたらしい。海斗は、ちら、と孔雀とむつの方を見て……彼らが、個室の向こうの方に行ってしまうのを見て、すかさず異能を使い始めた。

「対象は……うーん、むつさんと孔雀から見えない位置で、となると……七香さんを調べるのが丁度いいか」

 海斗はそんなことを言うと、少し考え……そして、宣言した。

「『リプレイ』。対象は五右衛門さんの個室。時間は、『最後にこの個室から人が出てきた瞬間から』だ」


 ……そうして、バカと海斗は『リプレイ』を鑑賞することになった。

 海色の光が集まっていき……それは、七香の形になる。どうやら、七香が『7』のアルカナルームから帰ってきた時の状態が見えているようだ。

 七香は個室を出ると、すっ、と視線を動かして、周辺の様子を探っているらしかった。

 そしてそのまま、視線だけを時折動かしつつ、待機している。

 ……動かない。

 バカと海斗は、『もしかしてこれ、このまま動かずに1分間が終わるか……?』と思って、七香のリプレイを見ていたのだが……。

「あ、動い……えっ!」

 七香は、突如、動き出した。振り返って、そちらへ駆けていったのだ。その様子を見て、バカも海斗も、絶句する。


「……笑った」

「笑って、た、な……」

 ……七香はその時、花が綻ぶように笑っていた。

 その表情は、あまりにも……バカや海斗に向けられる冷たい微笑みとは印象が違う。

 まるで、愛しい人を出迎えるかのような七香の笑顔を見て、バカは初めて、七香に人間味を感じた。同時に、『七香、美人さんなんだなあ……』とも、思った。

 冷たい表情を浮かべているだけの七香ではない、嬉しそうな微笑みを浮かべる様子を見てしまって……そして、そこで終わった『リプレイ』は掻き消えてしまい……バカと海斗は、顔を見合わせる。


「なんだ、今のは……」

「わ、わかんねえ……!」

 ……そして2人揃って、『今のは、一体何だったんだ……!?』と、混乱するのだった!


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― 新着の感想 ―
セフィロト…アルカナ…脳内検索してもセフィロスとアルカしか出てこない私はそのあたり履修していなさそうです← バカとともにハテナを飛ばしながら読みます! それにしても素敵な笑顔の七香さんが見たものとは……
今回もバカくんに憑依というか、前回より難しすぎてもう推理は諦めてます! でもこういうカード揃えてから564あえ〜。だと単純に力の問題で女性参加者は不利じゃないですかねー。格闘技習ってる人がそう多いとは…
誰の部屋からどの数字のアルカナに行けるか知りたいのですが…。 というかネットのセフィロトの樹を参考にすると、同じルームに二部屋からアクセスできるんですかね? 例えば「13」のルームには、むつと七香の…
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