ゲームフェイズ2:『19』太陽
眩しくても、『眩しい!』で止まってはいられない。バカは頑張って、おひさまポカポカの部屋の中へと入っていく。
「ちょっとずつ目、慣らしていったら大丈夫かな……うわあ眩しい!」
眩い太陽の光がさんさんと降り注ぐ室内……室内と言っていいのか分からないが、そこは、ヒマワリ畑である。
ヒマワリは背丈が高い。バカよりは低いが、海斗よりは高いくらいだ。そんなヒマワリが、鮮やかな黄色の花を大きく咲かせて揺れている。
そんなヒマワリ畑が、どこまでもどこまでも広がっているように見えるし、上を見上げれば、天井ではなく青空が見える。そして、そんな青空に輝くのは、眩い太陽。
「……すごい」
ヤエが目を瞬いて、驚きを表情に表していた。バカと海斗は、『ああ、そういや羊の鍋パ部屋もこんなかんじだったな……』と思うだけだが、このように室内が屋外のようになっているのは、確かに驚きであろう。
「さて……すごい場所だけれど、どうしたらいいんだろうね。カードが何処にあるのか、見当がつかないけれど」
……が、デュオの言う通り、驚いてばかりもいられない。
バカ達はここで、カードを探さなければいけないのだ。しかし……このヒマワリ畑、特に何も無いのである!只々、ヒマワリが咲き誇るばかり!そして、お日様がさんさん光を投げかけてくるばかりなのだ!
只々青い空が、ちょっぴり憎いバカなのであった!
「虱潰しに探す……というのは、あまりにも非効率的か……うーん」
海斗が眉間にちょっぴり皺を寄せつつ悩んでいる。デュオも、きょろ、と周囲を見回しているばかりで、有効な策はまだ出てこないらしい。
「しかし……暑いな、ここは」
……そして、そうしている間も、太陽の光はさんさんと降り注ぐ。ヒマワリ畑に相応しい日差しは、正に真夏のそれであり……流石のバカも、段々と『あっこれあったかいんじゃなくて暑いんだ!』と自覚し始めた。
バカはまあ、いい。いいのだ。炎天下で土木作業をバリバリこなすバカは、多少暑くても大丈夫だ。だが、デュオや海斗は流石頭脳派らしく、この日差しの暑さと眩しさが堪えるらしい。
海斗の肌が少し汗ばんでくるのが見えて、バカは『ああー!羽広げて日除け作ってやりてえけど、それやったら俺が天使だってバレちゃう!』と、葛藤し始めた。
……と、そんな中。
「……ヒマワリが、太陽じゃない方を向いてる」
ヤエが、ふとそんなことを言った。……途端、海斗とデュオが、『あっ』と言わんばかりの顔でヤエを見つめた。バカは『なんもわかんねえ』とやはりヤエを見つめた。
「あ……その、ちょっと、気になって……」
「いや、恐らくそれが正解だよ。流石だね、ヤエさん」
デュオはヤエを褒め称え、そして、ヒマワリを観察すると……ふ、と笑った。
「成程。どうやらヒマワリは、ある一点を示してくれているみたいだね」
ということで、バカは広大なヒマワリ畑の中を、わっせ、わっせ、と進むことになった。……その肩に、海斗を肩車しつつ!
「あー、樺島。もうちょっと右だ」
「右!?分かったー!」
ヒマワリは背丈が高い。バカならともかく、海斗がヒマワリ畑の中に入ると、すぽん、と隠れてしまうほどだ。
そしてバカ自身としても、ヒマワリ畑から頭が出てはいても、やはり視界が悪いことには変わりがない。……ということで仕方なく海斗を肩車して、海斗に周囲を見てもらい、ナビゲートしてもらいつつヒマワリを掻き分け掻き分け、進んでいくことにしたのだ。
……そして。
「あっ!これかぁ!?」
全てのヒマワリが向いている方……空に浮かぶ太陽をまるきり無視してヒマワリが見つめるその先に、『太陽』のカードが落ちていたのである!
こっちが太陽だったらしい!
「カード見つかったぁあー!」
ということで、バカは元来た道を走って戻る。急いで戻る。何せ海斗がそろそろ、暑さで限界なのだ。『あんまり日差しの下に海斗を置いといちゃ駄目だ!』と大慌てのバカは、大慌てしながらできるだけ急いで戻ったのだ。
……だが、そうして急いだのが、よくなかった。
「あっ!ああああ……」
デュオとヤエが待つ場所まであと少し、というところで……バカは、うっかり、ヒマワリを1本、踏み折ってしまったのである。
「あ、ああああ……ヒマワリ、折っちゃった……」
「……まあ、仕方ないな。そういう仕掛けだったから。本来、もっと大規模に刈り取ることもあり得たかもしれない。偶々、お前の身長が195㎝だったからヒマワリの上に頭が出たが、他のメンバーだったらいよいよ、周りが見えない状態でヒマワリの中を進むことになっていたわけだし……」
海斗は励ましてくれるのだが、バカは、折っちゃったヒマワリを、しょんぼりと見つめる。
バカは解体および破壊が得意な性分ではあるが、ものを慈しみ、大切にする気持ちも持ち合わせているバカである。
特に、お花は綺麗で可愛らしくて、それでいて健気なので……無闇に踏んだり折ったりしてはいけないのだ。バカはかつて仕事で葛を駆除した時にも、『葛のお花、綺麗なんだけどなあ……電線にまで伸びちゃったら、危ないからなあ……ごめんなあ……』としょんぼりしながら駆除したものである。
「うーん……じゃあ、このヒマワリ、ヤエにプレゼント……」
「えっ」
そして、お花を折っちゃった以上は、粗末にできないバカなので、そっ……と、ヤエに大きなヒマワリを差し出した。
「え、あ……その、ありがとう……」
ヤエは少し戸惑った様子で、自分の背丈ほどもあるヒマワリをそっと、抱えた。
……だが、その大輪の花がヤエの顔の横で揺れるのを横目で見て、ヤエは、ふわ、と笑った。
なのでバカは、ちょっと元気が出た。……ヤエをちょっと笑顔にできたのだから、お花は無駄にならなかった!
……そうして、バカ達は『暑いからさっさと戻ろう』と個室へ戻り、エレベーターを作動させて、ふよよよよ……と上昇していき……。
「……よし!また一番乗り!」
無事、一番乗りで大広間へ戻ってきたのだった!バカはなんとなく嬉しくなって、『やったー!』と飛び跳ねる。何事も一番というのは、なんとなくよろしいものである。
喜ぶバカが『一番乗り!』と大広間を駆けまわっていると、にょにょにょ……と個室が動き始めた。
『帰ってきた!』とバカがにこにこ笑顔でそちらへ行くと、現れた個室からむつと孔雀と五右衛門が出てきた。
「おかえりー!そっちどうだった!?」
「あっ!樺島さーん!何も無い部屋だったー!」
「何も無かったのぉおおお!?」
「何も無かったのー!」
……そして、元気に出てきたむつと『何はともあれ無事でよかった!』と喜び合った。なんとなく、むつとはもう仲良しである!バカは嬉しい!
むつと『いえーい!』とハイタッチすると、むつは早速、『あっ!?ヤエちゃん、そのヒマワリどうしたの?』とヤエに駆け寄っていった。ヤエはちょっと笑って、『樺島さんに貰った』などと話している。バカはまたにこにこした!
「……そっちはどういう部屋だったんだ?」
そこへ、孔雀がやってきて、少し呆れたようにバカに話しかけてきた。バカは、『孔雀も話しかけてくれる!嬉しい!』と思いつつ、さっきのヒマワリ畑の話をした。
青い空、眩い太陽、黄色いヒマワリ。……そんな話をすると、いつの間にか来ていた五右衛門とむつも、『そんな部屋があるとは』と驚いていた。
「へー。いいなあ、ヒマワリ。私もちょっと見てみたかった」
更に、むつがそう言うので、バカはちょっと考えて……しょぼ、とした。
「むつの分、もう一本ヒマワリ貰ってくればよかった……」
「えっ!?いや、そういう意味じゃなくて……あああ、でもありがとうね、樺島さん」
「うん……」
バカは、『俺って気が利かないんだよなあ……』としょんぼりする。ついでに、孔雀や五右衛門にもお土産として持ってきた方がよかっただろうか……と思うのだが、孔雀は既にデュオと海斗と何か話し始めているらしいし、五右衛門はヤエに話しかけに行っている。
……まあ、彼らはあんまり気にしていないらしいので、バカは気を取り直した。ヒマワリは、皆で見に行く機会があったら見に行けばよいのだ。それこそ、脱出前とかに……。
「むつ、何か好きな花あるか?やっぱヒマワリ?」
ということで、雑談がてら、バカはそんなお花トークをすることにした。
……バカはバカなので、花の種類はあまり多く知らない。だが、職場の先輩達が時々『樺島!これはバラじゃなくて椿だぜ!』とか、『おい樺島!これは百合であってチューリップじゃないんだぜ!』とか、『刺身の上のコレは実はたんぽぽじゃなくて菊だぜ!』とか教えてくれるので、ちょっとは知っている。
それから、最近は海斗も『ああ、銀木犀か。……あの白い小さい花だ。香りですぐ分かる』とか、『これはトサカじゃない。ケイトウという、れっきとした植物だ』とか、『ローズとはいっても、このクリスマスローズは薔薇とは違う植物だぞ』とか色々教えてくれるので、またちょっと詳しくなってきているところである!
「好きな花……えーと、チューリップ、だなあ……」
そして、むつの言うチューリップは、分かる!バカは、『分かる!』と元気になった。バカはバカなので、自分に分かるものがあると嬉しいのである。
「チューリップ!いいよなあ、かわいくて!」
「うん。いいよねえ、チューリップ」
バカは、頭の中でチューリップを咲かせる。童謡を思い浮かべるバカの脳内チューリップは、赤と青と黄色である。……無論、こちらは童謡としては誤りである。正解は赤と白と黄色なのだが、そのことをバカに教えてやれる者はバカの脳内には居ないのであった!
「小学校の時に球根植えたんだ。それ以来、ずっと好き」
「そっかぁー!何色のだった?赤?青?黄色?」
「あ、青?……えっとね、私が植えたのはピンクだったよ。どうしてもピンクがよくってさ……でも、ピンクは競争率、高くて。じゃんけん大会になったんだよね」
バカは、『じゃんけん大会でチューリップを……!?』と慄いた。そういうのはプリンとかゼリーで起こるものではないだろうか!実際、キューティーラブリーエンジェル建設の社食では、最後に余ったプリンやゼリーをかけてのじゃんけん大会が勃発することがあるのだが!
「……その時、孔雀も『俺もピンクがいい』って言い出して、じゃんけん、参加したんだ」
……だが、チューリップじゃんけん大会よりも更にビックリする情報が来てしまって、バカは慄く。
「孔雀もピンク好きなのか!?」
あのメタルフレームの眼鏡の奥の目の鋭さを思い出すに……孔雀が『俺もピンクがいい』と言い出す場面が全く想像できないのだが!
「あ、いや、違う違う。孔雀はピンク、どっちかっていうと嫌いだと思うよ。そうなんだけど……えへへ」
むつは、へにょ、と笑うと……ちょっと声を潜めて、教えてくれた。
「私、じゃんけん大会で負けちゃって、黄色いチューリップの球根になっちゃったんだよね。……でも、孔雀は勝ち抜いて、ピンクの、手に入れてて……それ、交換してくれたんだ。だから、孔雀のは黄色で、私のはピンクのチューリップだった」
「……へええー!」
バカは、声を潜めつつ、目を輝かせて、ほわ、と感嘆のため息を吐き出す。
「孔雀、いい奴だなあ……!」
バカは覚えた。孔雀はいい奴!とっても、いい奴!
バカはこういう、人間の優しい話を聞くのが大好きである!なんだか気持ちがふわふわして、幸せになってくるので!
「うん。そうなんだ。孔雀って、なんか冷たいように見える奴かもしれないけど、そんなことなくてね。そのチューリップも……」
むつはちょっと嬉しそうに笑って、話を続けようとして……しかし。
「……あ、七香さん達、帰ってきたみたい」
丁度その時、ふぃーん、と個室が上がってきた。どうやら、七香とタヌキと四郎のチームが戻ってきたようである。
「じゃ、行くかぁ。……続きはまた後で!」
「うん。また後で!」
バカとむつは笑顔で『また後で!』とやって、早速、帰ってきたチームを出迎えに行く。バカが『おかえりー!』と叫べば、『ただいまですー!』と、タヌキが跳ねてくるのだった。ぽんぽこぽーん!
「……さて。じゃあ残りは、『8』と『5』と『1』と……『0』か。どう組む?」
そうして、全員が揃ったところで……最後の部屋割りが行われる。
「既に『5』は、俺の腕輪と四郎さんの腕輪が無い時点で、五右衛門さんに入ってもらうしかないのは確定だけど……」
「『5』は五右衛門さん、『1』には僕が入らなければならないから、8を作れる組み合わせも無い。となると、ヤエさんも確定で『8』か。或いは、2回に分けて、『8』と『0』を攻略することにしてもいいんだろうが……」
デュオと海斗が話しているのを、バカは『ほげえ』と聞いている。このあたりの話は、バカには難しすぎるのであった!
「入る人数をできるだけ多く、ということなら、『1』に海斗さん、『5』に五右衛門さん、『8』にヤエさんが入るのは確定として……他の全員が腕輪を破壊するのがいい。樺島さん、俺、七香さん、むつ、タヌキが『0』になれば、それぞれの部屋に3人ずつは入れる。……どう?」
そして、孔雀が提案すると、海斗とデュオはそれぞれに考える。……多分、七香も何か考えているのだろうし、四郎と五右衛門も何か考えているのだが……ヤエとむつは『まあ、決まったらそれに従う』くらいなのだろうし、バカとタヌキはそもそも何も考えていないのであった!
「……まあ、そういうことなら僕は賛同する。いいか?」
「そうだね。じゃあ、それでいこうか」
……そうして結局、海斗とデュオも賛成し、周りの皆も『まあそれでいいか』となったので……。
「樺島!出番だ!」
「おう!任せろー!」
……バカの出番である!バキイ!




