ゲームフェイズ2:大広間2
……ということで、バカは四郎の周りをぐるぐる回って『四郎のおっさんだ!よかった!無事でよかった!』と大喜びした。四郎は困惑しきっていた。
「しかし……こいつはどういうことだ?もう発表フェイズが終わった、ってのは本当か……?」
「本当ですよぉ!四郎さん、発表フェイズが終わっても戻ってこず!我々がチーム分けしてる間も戻ってこず!そして!今!我々がお迎えに行ったら!何食わぬ顔でそこに居て!私!大変びっくりしまして!」
更に、タヌキもバカと一緒に四郎の周りをぐるぐる回り始めた。タヌキなりの『心配したんだからね!』というアピールであろう。
「もうそんなに時間が経ってたってのか……?くそ、時間の感覚には、自信があったんだが……」
四郎はやはり困惑しており、首を傾げている。
だがバカとしては、ひとまず四郎が無事であったことが喜ばしいので、四郎の困惑など些事であった!万歳!
……そうして、バカとタヌキが四郎の周りをぐるぐるやっていたところ。
「あーあ、ホント酷い目にあったわァ……」
個室が床から生えてきて、そして、中から無事、五右衛門と七香が出てきた!
「あっ!五右衛門!七香!おかえり!」
「……もう皆さん、お揃いでしたか」
バカが2人を出迎えると、五右衛門は少々疲れた顔でひらひらと手を振って答えてくれて、七香は相変わらずの鉄面皮であった。
「全く、信じらんない。アタシ達、逆さ吊りよぉ?まあ、七香がバチクソ強かったからなんとかなったけどォ……」
「あら。そちらこそ」
……そんな2人の会話を聞く限り、『12』のアルカナルームもとんでもない部屋だった様子である。バカは、『俺達の部屋はおめでとう!だけで終わりだったもんなあ……』と、何とも言えない申し訳ない気分になってきた。
別に、悪いことはしていない。していないのだが……自分だけ酷い目に遭っていないと、なんとなく、気まずいのであった!
「さて。そろそろ次のアルカナルームに行きたい。いい?」
孔雀が声を掛けると、四郎以外の全員が頷いた。四郎だけは、『どういう状況だ?』と首を傾げていたが、タヌキが『かくかくしかじかぽんぽこぽん、で、ひとまず全員協力してアルカナルームを全て攻略することになりました!』と説明していた。
「……四郎さんについては気になることが多いけれどね」
だが、そんな中、デュオは四郎のことが気になるらしい。何やら考えながら、四郎をじっと見つめている。
……すると。
「悪いけれどその時間が惜しい。さっさとアルカナルームを攻略しよう」
そんなデュオの前に、孔雀がするりと割って入る。
「次は、『20』に、俺とむつと五右衛門さん。『19』に樺島さん、海斗さん、ヤエさん。『10』に七香さんとタヌキが入ることになる」
孔雀が話を進めていくことについて、デュオは少し思うところがあるようだったが、特に何も言わず、『やれやれ』というように少しため息を吐いて、それきりにしていた。
「……となると、デュオさんと四郎さんはどう振り分けるか……」
「あっ!そういうことなら、四郎さんは私のチームに来てください!心強いので!」
そして早速、タヌキが『四郎さん!四郎さん!』とラブコールである。七香は何も言わない。何か言ってもタヌキは止まらないだろうと踏んでいるのかもしれない。
「は?……おい、タヌキ。お前と俺と7番の姉ちゃんだと、足して14だろうが。『10』に入るなら……」
「あっ、四郎さん、そこは大丈夫です。四郎さんは『0』になりますので!」
「……は?」
四郎は、『どういうことだ』と言わんばかりの顔で眉間に皺を寄せている。なので……。
「樺島。出番だぞ。四郎さんの腕輪を破壊してこい」
「分かったー!解体は俺の得意技ぁー!」
「はあ!?おい、腕輪!?解体!?一体何の話だ!?」
バカ、出動である!
そして四郎の腕輪は、『バキイ!』と見事に破壊されたのであった!
「……はい!これで四郎さんは私のチームです!やったー!」
そうしてタヌキがぽんぽこと踊る中、四郎はなんとも言えない顔で自分の左腕の、さっきまで腕輪があったあたりを見つめていた。
バカは、四郎に『はい!どうぞ!』と、破壊した腕輪の残骸を渡した。四郎の腕輪は青くて、更に青く透き通った宝石がついていて、何やらかっこよかった!
「……引き千切りやがった」
「えっ!?ごめん!壊したらまずかったか!?ごめん!」
「あ、いや……まあ、いいんだが……」
「そっか!いいんならよかった!他にも壊すもんあったら言ってくれよな!俺、がんばる!」
四郎はやっぱり何とも言えない顔をしていたが、まあ、これで四郎はタヌキと一緒に居られるので丁度いい、とバカは思う。何より、タヌキが嬉しそうなのでよいことである!
「じゃあ、デュオさんだけれど……」
さて。四郎が決まったところで、次はデュオである。
「なら、俺は樺島君のチームに入ろうかな。戦力っていう点では、五右衛門さんが強いみたいだから孔雀のチームには人手が足りてるだろうし……あと、多分、俺と孔雀は役割が被るだろうし」
「……海斗さんとも被るだろ。あと、どう考えても腕輪を素手で引き千切れる人のところに増員は不要だと思う」
……が、デュオがどちらのチームに行くべきか、については、何やらちょっぴり揉めそうだ。
「海斗ぉ!そうなのか!?」
「……まあ、僕と孔雀とデュオさんとで、方向性は被っていると思う。要は、頭脳派だからな。だが正直なところ、僕は孔雀とデュオさんには一歩及ばないと言わざるを得ない」
「そ、そうなのか!?」
そしてバカは『方向性が被る3人』について混乱している。
バカにとっては、『全員めっちゃ頭いい!』なので、誰がどのくらい頭が良くて、海斗が本当に『一歩及ばない』のかは分からないのである。頭がいい人にしか、頭がいい人がどれくらい頭がいいのかは分からないのであった!
「あー……まあ、そういうことなら、デュオさんにはこっちに来てもらった方がいいかもしれない」
が、そこで助け舟を出したのは海斗である。
「樺島が居れば戦力の心配は一切無いが、頭脳については僕1人では完璧と言い難いから」
「海斗君で不足するとは思わないけれど……まあ、そういうことなら」
デュオは微笑んで、『よろしく』と、海斗に手を差し出し、握手した。なのでバカも握手した!……ついでに、同じチームになるヤエも、握手していた。皆で握手!
「えーと……孔雀ぅ。デュオ、こっちでもらっちゃってもいいかぁ……?」
が、一応は気になるのが、デュオには自分のチームに入ってもらいたかった様子の孔雀である。
バカはちょっと気になったので、孔雀に声を掛けてみたが……孔雀は、こくん、と頷いた。
「ああ。別に、細かいところに異議は無い。……まあ、お互い、気を付けて」
「うん!ご安全に、だな!」
まあ、孔雀も納得しているのなら大丈夫だろう。バカは笑顔で手を振って、早速、海斗とヤエとデュオと共に、『19』のアルカナルーム目指して、個室へ入っていくのだった!
そうして、エレベーターが動くのを感じながら、バカ達4人が到着を待っていると……。
「……ところで、海斗君と樺島君は友達同士なんだっけ?」
デュオが、そう声を掛けてきた。なのでバカは、満面の笑みで『そうだぞ!』と頷いた。……海斗も、ちょっと遠慮がちに、こく、と頷いた。
「そうか……いや、不思議だな、と思ってね」
「ん?」
「ほら、2人とも、タイプが違うから」
デュオがそう言うので、バカと海斗は顔を見合わせる。
……確かに、デスゲームが無かったら出会わなかった2人であろう。それは間違いない。
ついでに、デスゲームが無かったら、出会っていたとしても友達にならなかった2人かもしれない。それも、間違いない。
「2人とも、幼馴染か何か?小学生の頃からの付き合い、とか?」
「ん?違うぞ?」
バカは、『海斗が小学生の時ってどんな小学生だったのかなあ……』とちょっと想像してみつつ、ちら、と海斗の方を見る。なんというか、説明は海斗の方が上手なので。バカが頑張っても、あんまり伝わらないことが多いので……。
ということで、バカの意図を汲んでくれた海斗は、こくん、と頷いて代わりに説明してくれた。
「僕達はこのデスゲームより前に一度、別のデスゲームに参加したんです。そこで樺島と会いました。ただ……そのデスゲーム、まるでデスゲームに、ならなかったので……」
「……と、いうと?」
「樺島が全部破壊したんですよ。檻からドアから、果ては出口の門まで、全部……。なので、参加者は全員生存。全員、今も連絡を取り合う仲です」
……説明は以上である。
この説明を聞いて、ヤエはぽかんとしているし、デュオもびっくりした様子である!
「……参加者が、全員、生存……?そんなことって……」
「実際、あったんですよ。樺島は本当になんでも破壊するので……」
「おう!解体なら俺に任せろ!」
バカは胸を張って、堂々と笑ってみせた。実際、解体は得意である。建築の方はまだ勉強中だが、解体だけならバカは『お前のタックルはキレがある!』と先輩達に褒められるほどの解体上手なのだ!重機を使わない解体については、バカは先輩達にも勝てるくらいなのである!
「……なら、この会場も破壊できたり?」
そこで、デュオは少しばかりの期待を込めてか、そう、尋ねてきた。だが、バカはちょっと考えて……難しい顔で、首を横に振る。
「流石に全部は、俺1人じゃ難しいよぉ……。工具もねえし……」
「あー……その、『無敵の盾』とか、そういうものがあれば、樺島は大体なんでも壊せるので、もし見つけたら譲ってください」
「無敵の盾……まあ、うん、見つけたら教えるよ……」
「おう!ありがとな!デュオ!」
ということで、バカは『工具が見つかったらよろしくな!』と、デュオと握手した。デュオは何やら、複雑そうな顔をしていたが……。
「……私も、見つけたら持ってきます」
「本当かぁ!?ありがとな、ヤエ!」
更に、ヤエも協力してくれるらしいので、バカは大いに喜んだ!こちらも握手である!バカは嬉しい!
そうして、エレベーターは無事、『19』のアルカナルーム前に到着した。
バカが先頭になって、ドアを開けて……そして。
「まぶしっ!」
……あまりの眩さにバカは、ぱたふん!とドアを閉めた。
「……何だったんだ、今のは」
「太陽……かな?確か、『19』は太陽だったよね?」
……一瞬だけ、見えたところによると。
どうも、ドアの先は真夏のヒマワリ畑であるらしかった。




