ゲームフェイズ2:『21』世界
そうして、それぞれのチームが3つの個室に別れることになった。
……が、ここで少し問題になったのが、『どの個室をエレベーターにする?』という問題である。
1つのアルカナルームには、2つの個室が対応している。
海斗の個室からは、『1,2,0』。
デュオの個室からは、『0,3,4,5』。
タヌキの個室からは、『1,3,6,7』。
四郎の個室からは、『5,8,9,10』。
五右衛門の個室からは、『7,8,11,12』。
むつの個室からは、『2,4,6,9,11,13,14,15』。
七香の個室からは、『10,13,16,17,18』。
ヤエの個室からは、『12,15,16,19,20』。
孔雀の個室からは、『17,19,21』。
バカの個室からは、『18,20,21』。
……と、それぞれの個室から、それぞれのアルカナルームへ対応しているのだ。
セフィロトでいうところの端っこに位置する海斗やバカの個室からは、対応するアルカナルームが少ない。
一方、セフィロトの中心に位置するむつの個室は、対応するアルカナルームがいっぱいである!
尚、バカはこれらについて『覚えられねえ!』と頭を抱えていたが、海斗から『流石に覚えなくていいぞ……』と言ってもらえたので、すぽん!と忘れることにした!
……さて。
こうして、『1つのアルカナルームに対応する個室が2つある』という状況であり、同時に『22のアルカナルームに対応する個室は10個しかない』という状況であるので……誰がどの個室を使うか、というのは、ちょっとだけ重要なのである。
「今回は、『21』、『16』、『12』の個室の攻略だから……えーと、『21』には樺島君の個室を使ってもらって、『16』は七香さんの個室、『12』は五右衛門さんの個室から行けば、それぞれ救助が必要になった時に救助が可能だね」
……そう。
『1つのアルカナルームには2つの個室から到達できる』ということは……最悪の場合、帰ってこないチームがあったとしても、そのチームが使わなかった方の個室を使えば、帰ってこないチームが入っているアルカナルームの様子を見に行くことができる、ということである。
逆に言うと、例えば今回だと『16』に入るチームが七香の部屋を使って、『12』の部屋に入るチームがヤエの部屋を使ってしまった場合……もし、その2つのチームに何かあったら、『16』のアルカナルームに入る手段がなくなってしまうのである!
……ということが起こり得るので、まあ、『何があるか分からないから、それぞれの個室同士でアルカナルームを潰し合わないようにしようね』ということになった。らしい。
らしい、というのは、バカが海斗からかいつまんで説明してもらった内容がそうだからである。
……バカは、『俺、本当に海斗が居てくれてよかったなあ……』としみじみ思うのだった!海斗、ありがとう!
「じゃ、皆ー!気を付けて頂戴ねー!またここで落ち合いましょー!」
「うん!そっちも気を付けてなー!ご安全になー!」
……そうしてバカ達は出発した。
『21』のアルカナルームには、『バカ、ヤエ、タヌキ』の3人が。
『16』のアルカナルームには、『孔雀、むつ、海斗、デュオ』の4人が。
『12』のアルカナルームには、『七香、五右衛門』の2人が挑む。
バカとしては、海斗と離れてしまったのはちょっぴり不安だが、こっちにはタヌキとヤエが居る。多分どっちもいい奴なので、バカは『この2人は俺が守るぞ!』と気合を入れ直すのだった!
……そうして、バカ達は『21』のアルカナルームへ到着した。
緊張しながら、バカが先頭に立って、そっと、『21』と書かれたドアを開ける。
……すると。
目の前で、ぽん!と光が弾けた。
ぽかん、とするバカ達3人の目の前では、金色のくす玉が割れて、中から『Congratulations!』と書かれた垂れ幕とキラキラメタリックの紙吹雪が落ちてきた。
キラキラ、ひらひら、と紙吹雪が光り輝きながら舞い落ちてくる中……ようやく、バカ達は我に返る!
「……なんだこれ!?何語!?読めねえ!」
「え、英語ですよ!『おめでとう』って意味です!『おめでとう』って意味ですよこれぇ!」
……バカが慄き、タヌキが解説し、ヤエがぽかんとしている間も、紙吹雪はキラキラひらひらで、相変わらず『おめでとう!』の雰囲気であり……そして、何も無い!
「おおー!これはいいシャンパンですね!ケーキもありますよ!すごい!すごい!お祝いムードですね!」
「しゃんぱんって何ぃ!?」
「あっ、お酒です!しゅわしゅわするタイプのやつです!ケーキはですね、甘くておいしいやつです!」
「ケーキは知ってる!酒は知らなかった!」
……更に、部屋の中には長机があり、そこには料理にお酒に、と、如何にも『おめでとう!』なかんじのものが並んでいる。
「食べ……たらまずいですかねえ」
「やめといた方がいいんじゃ……」
「ですよねえ……ああーん!惜しい!とても惜しい!そもそも私、タヌキボディですからチョコレートケーキは食べられないんでした!ああーん!」
タヌキが『ものすごく悔しい!』とひっくり返ってジタバタしているのを見て、バカも『俺もケーキとか酒とか、食べないようにしよう!』と、しっかり決意した。
……こういうのは、皆で食べた方が美味しいのだ。つまみ食いにはつまみ食いの美味しさがあるが、バカとしてはやっぱり、皆で囲んで食べる美味しいごはんが好きなので、『食べるのは今じゃない!』と、にこにこ顔である。このバカは『待て』ができるバカなのだ!
「あの、カード、ありました」
更に、そうしている内にヤエがカードを見つけてくれた。どうやら、くす玉からぶら下がっていたようである。バカとタヌキは『でかした!』と、大いに拍手を送った。ヤエはほんのちょっとだけ、笑っていた。
「……じゃ、戻ります?」
「そうだな!他の皆も戻ってきてるかもしれねえ!」
「いや、この早さじゃ私達が一番乗りだと思いますよ……?」
……そうして、バカ達は『この部屋、何だったんだ?』という気持ちになりつつ、大広間に帰ることになった。
まあ、無事が何よりなので、これはこれで良かったのだろう。
……バカとしては、『活躍の機会が無かった!』と、ちょっぴり残念に思わないでもなかったが……。
そうしてバカ達が凄まじいスピードで大広間に戻ってきてしまうと、案の定、誰も居なかった。
「おおー、やっぱり私達が一番乗りですよ!」
「だな!いえーい!」
「いえーい!」
一番乗りはなんとなく嬉しいバカは、タヌキとハイタッチした。尤も、タヌキ自身が非常にローな場所に居るため、タヌキに合わせてのハイタッチは、バカにとっての超ロータッチである。でもいいのだ。気分がハイだからこれはハイタッチなのである。
「ヤエも!ヤエも!いえーい!」
「いえーい……?」
そして、ヤエともハイタッチである。こういうのは皆でやった方がよろしい。そして、タヌキも『ヤエさん!ヤエさん!』とやって、ヤエと超ローなハイタッチをしていた。
……が、ヤエはしゃがむ時と、立ち上がる時にちょっとふらついた。やはり片脚が義足な分、しゃがんだり立ったりするのは辛いのかもしれない。バカは、『俺がタヌキ抱っこしてやればよかったなあ……』と、ちょっぴり反省した。
「それにしてもさっきの部屋、何も怖いことが無かったですねえ……」
さて。そうしてバカ達は大広間で待機することになった。バカは、『じゃあコレに座って待ってようぜ!』と、自分の個室にあったベッドを担いで持ってきて、それをベンチ代わりに、皆で座って待つことにする。
「そうだよなあ……。さっきの部屋は、剣振り回してくる像とか、でっけえ宇宙飛行士とか、無かった……。あっ、でもほら、水とコップの部屋は怖くなかったぞ!」
「剣振り回してくる像!?アッ!?樺島さんの個室の横に置いてあるあのでっかい剣、もしかしてソレですか!?」
「あ、うん。そうそう。なんか、天秤持ってるでっかい像が、もう片っぽの手に剣持っててぇ……天秤がちょっと傾くと、剣ぶん回してくるんだよぉ……」
「ひええええ……」
バカが、『こういうポーズの!こういう像!』と説明すると、タヌキは慄き、ヤエは静かに聞いていた。
「そ、そうですかぁ……あっ、ヤエさんが五右衛門さんと入った部屋は、どんな部屋でしたか?」
「私?あ、ええと……」
そこでタヌキがヤエに話を振ると、ヤエは少し戸惑った様子だったが、教えてくれた。
「馬に乗った、骸骨の騎士?が、襲い掛かってくる部屋、でした」
「ひええ……そ、それ、大丈夫だったんですか……?」
「まあ、なんとか……。その、五右衛門さんが、助けてくれたから……」
バカは、『大変だったんだなあ』と思うと同時に、『五右衛門、やっぱりあいつ、いい奴だなあ……』と、この場に居ない五右衛門に尊敬の念を送るのだった。
「あの、タヌキさんは、どんな部屋に入りましたか?」
「あ、私が入った部屋ですか?私、途中までは樺島さんと一緒でしたので、えーと、『星条旗を振り下ろしてくるでっかい宇宙飛行士っぽい化け物の部屋』と、『樺島さんがコップを水に沈める部屋』には一緒に入って、あと、『3』の部屋には1人で入りましたよ」
続いて、今度はヤエがタヌキに話を振る。するとタヌキはそう答えて……それから、もじもじ、と体を丸めた。
「……その、『3』の部屋については、ちょっと、話したくないですね……あ、いや、その、うーん……部屋の内容を詳しく言ってしまうと、私の異能がどんなものか、概ね分かっちゃうと言いますかぁ……」
バカは『そういうのもあった!』と、慌てる。そうだった。前回のデスゲームでも、海斗は『僕の異能が分かってしまうと、僕に戦闘能力が無いことがバレて狙われやすくなる』というようなことも言っていた!
「そ、そっかぁ……。じゃあ、えーと、そういうのは話さなくっていいぞ!」
なのでバカは、タヌキに詳しい説明は求めないことにした。多分、タヌキも戦うのがそんなに得意じゃない異能なのだろうし、それを明かさせるのは酷である。
「あ、助かりますぅ……えーと、じゃあ、ぼんやりと、ぼんやりとお伝えしますとですねえ……」
ということで、タヌキが説明してくれるのをそわそわと待っていると……。
「……ちょっと、その、えっちな部屋でした」
……タヌキは、そう言った。
バカは暫し考えた。
考えて、考えて……結論を出した。
「……えっちな部屋……!?」
「はい。えっちな部屋です……」
ひそひそ、と確認してみたら、ひそひそ、と答えが返ってきた。成程!どうやら、えっちな部屋があるらしい!
……大変である!バカは、『うっかり3番の部屋には女子が入らないようにしなきゃ!いや、男もそうだ!多分タヌキ以外が入ったら大変だ!』と覚えた!大変である!大変である!
「とりあえず、入ったのがタヌキで良かったですよ。これがうっかり、海斗さんとデュオさんの2人で入っていたら絶対に阿鼻叫喚でしたよ。大変ですよほんとにもう」
「わ、分かった!俺、海斗に『絶対に3番のアルカナルームには入るな!』って言っとく!」
「そうですねえ……あっ、でも、もうデュオさんの2番の腕輪は破壊済みですから大丈夫ですよ!」
「そっか!じゃあ『もう大丈夫だぞ!』って言っとく!」
……ということで、黄昏るタヌキの背中あたりをぽんぽん叩いて励ましてやりつつ、バカは『海斗に言わなきゃいけないことがいっぱいあるなあ……』と、ぼんやり思う。
同時に、『海斗、大丈夫かなあ……』と、心配になってきた。
あのチームは4人も人が居るから、大丈夫だろうとは思われるが……。
「あの、ところで樺島さん。1つ、お願いがあるんです」
さて。そうしてバカが落ち着いたところで、ふと、タヌキがそう、声を掛けてきた。
「七香さんと五右衛門さんのチームより先に、海斗さん達が帰ってきたら……海斗さんをちょっとお借りしたいのです」
「へ?」
海斗を?とバカが首を傾げていると……。
「……私と海斗さんの2人でなら、『4』のアルカナルームに入れます。その……四郎さんの様子を、見てきたいのです」
……タヌキは、心配そうな顔で、ちら、と向こうの方を見る。
そこには、四郎が使っているまま戻ってこないと思しき個室があるのだ。




