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発表フェイズ1:大広間1

「脱出……できなくてもいいのかぁ!?」

「そうね。ま、元々こんなゲームに参加する時点で、命は惜しくないってことでしょ、皆」

 五右衛門がさらっとそう言うのを聞いて、バカは『そ、そうなの……?』と全員を見回す。

 ……が、案外、『いやあ、そうは言っても脱出はしたい』というような顔をしている人が多かったので、バカはちょっぴり安心した!

「ま、そういう訳で、アタシの分は勘定に入れなくていいわよぉ」

「そ、そうなのかぁ……」

 五右衛門は至って自然に、ひらひらと手を振って笑っているのだが、バカとしてはなんとなく落ち着かない。折角なら全員で脱出したいのに……。


「……まあ、五右衛門はそういうことなら別にいいけど」

 そこで、話し始めたのは孔雀だった。バカは、『燕が喋るぞ!』と大いに身構える。そわそわしているので非常に不審である!

「どうせ殺し合う羽目になるなら、その前に、話し合うだけ話し合ってみないか」

 ……更に、孔雀がそんなことを言い出したので、いよいよバカは不審者になってしまった!そわそわしすぎて、細かな振動が発生しているのである!さながらバイブレーションモードのスマートフォンのようだ!そんなバカを見て、タヌキが『うわあー!』という顔をしていた!




 揺れるバカはさておき、話は進む。

「……誰が生き残るべきか、っていう話し合いかな?……なら悪いけど、俺は折れられない。どうしても達成しなきゃいけない目的がある」

「私も、ここを出る必要がありますので」

 孔雀の提案に、デュオと七香がそう、それぞれに言い放つ。バカは、『デュオと七香はなんかでっかい目的がある……』と記憶した。

「別に、誰が誰を殺すかって話だけじゃない」

 だが、孔雀は動じずに話す。バカより年下であろうに、大したものである。バカはなんだか嬉しくなってきた。

「全員で脱出できるなら、それに越したことは無いだろ」

「……全員で?」

「ああ」

 更に、孔雀がそんなことまで言うので、バカは『俺と目標が一緒だぁ!』と、大変嬉しくなってきた!

 ……そんなバカを見て、海斗がバカのシャツの裾をつまんで下に向けてくいくい引っ張った。『嬉しくなりすぎて浮くんじゃないぞ』という忠告である。バカは慌てて、浮きかけた体をそっと元に戻した!

「脱出経路が1つしかないとは、ルールに書いてない。それに……もう、気づいてる人もいるんじゃないのか?俺達10人が『セフィラ』でセフィロトを構成しているなら、11番目のセフィラ、『ダァト』が存在していてもおかしくない、って」

 バカは、うんうんと大いに頷きつつ、『さっき海斗が言ってたやつだ!』とにこにこした。バカは自分がちょっぴり賢いような気分になれたので、ますます嬉しい!

「この個室はエレベーターになってる。だが、ここの床の上には『ダァト』があるような痕跡は見られない。なら……この上層か下層に、『ダァト』があって、それが外に繋がるエレベーターになっている可能性はある」

 なんと、孔雀は、その『ダァト』を見つけたら全員での脱出が可能かもしれない、などと考えているようである!バカは驚くと同時に、『本当にそうだったらすげえ!』と目を輝かせた。

 だが。

「ちょ、ちょっと待って孔雀!ダァトって何!?」

 むつが叫んだ。

 ……バカは、なんだかまたちょっぴり、むつのことが好きになってきた!




 ということで、孔雀による『セフィロトとは何か、セフィラとは何か、そして大アルカナとは』の説明が始まった。

 概ね、海斗がしてくれた説明と同じだったし、個室のドアの裏側の模様を見せながらの解説だったので、『孔雀って海斗と似てるところあるんだなあ!』とバカはまた嬉しくなった。

 ……そうして、孔雀の解説を一生懸命聞いていたむつ、そしてタヌキとヤエと五右衛門は、『成程ねー』と納得の頷きを繰り返したのであった。

 バカは、『むつとタヌキとヤエと五右衛門は、せふぃろと知らない仲間!』と覚えた!バカには仲間が沢山居る。安心である。

「……まあ、そういう訳で、『ダァト』があることが予想される。というか、ダァトが無いなら『0』のアルカナルームが存在している意味が分からない」

「そっかー。うん、大体分かった!」

 孔雀が締め括ると、むつも笑顔で頷いた。見守るバカも笑顔である。

「だから、俺は……カードのやり取りより先に、探索を優先するべきだと俺は思う。どう?意見を聞きたい」

 ……更に、孔雀がそう言い出したことにより、全員がまた、考えることになり……。

「俺は賛成!俺、全員が脱出できた方がいい!」

 そこへ、バカが誰よりも先に、そして誰よりも元気に手を挙げた。

「あっ、勿論、出たくない奴は出なくていいと思うんだけどぉ……でも、出てから考えてみても、いいんじゃないかな、って……」

 バカは、『脱出しなくてもいい』と言っていた五右衛門に遠慮して、ちょっと落とした声でそう続けてみた。……のだが、そうする必要は無かったかもしれない。

「私も賛成!カードのことは、本当にどうしようもなくなってから考えてもいいと思う!」

 むつも元気にそう言って、賛同してくれたのだ。更に。

「私も!タヌキもそう思います!あちこち探してみましょう!まだ見ていないアルカナルームもいっぱいありますし!『0』は気になりますし!色々とことを進めるにあたって、懸念は少ない方がいいでしょうし!」

 タヌキも、元気に前脚を上げて宣言してくれた。なのでバカはぱちぱち、と拍手を送る。

「僕も賛成だ。不明な点があるまま悪魔の掌の上で踊らされるのは御免だからな。あらゆる可能性を検証してからなら、無為に殺し合う必要も無いかもしれない」

 そうして海斗も賛同を表明したところで……孔雀が、海斗の方を見た。

「……で。さっき言ってた『全員で脱出できる方法』っていうのは、何?」

 ……そう。さっき、孔雀は海斗の提案に、賛同しなかった。

「根拠があるなら、提示しろよ。それができないなら信用しない」

 どうも……孔雀は、バカと目指す方向が一緒でありながら、こちらを信用してはくれていないらしい!




「根拠、か……。難しいな。何せ、この会場の外の出来事だから……」

 そしてこちらも難しい!海斗が『どうしたものか』と頭を抱える。

 それはそうである。『実はこの会場は既に警察とキューティーラブリーエンジェル建設に包囲されておりまして』というところから説明する必要があるのだが、如何せん、キューティーラブリーエンジェル建設に現実味が無さすぎるのである!

 ……そこで、ふと思いつくことがあって、バカは海斗にひそひそと聞いてみる。

「あの、海斗。俺が天使やってるって教えたら、まずいかなあ……」

 そう。『キューティーラブリーエンジェル建設』の存在は嘘みたいな話であるが、バカが天使をやっていることは本当のことであり、ここで証明しやすいことである。何せバカには羽があるので!……輪っかは無いが!

「……誰が悪魔かにもよる。場合によっては、お前が謀殺されかねないからな。僕としては、悪魔にはお前の正体を知られたくない」

 が、海斗からは待ったが掛かってしまった。バカは、ちょっともどかしい気分であるが、海斗の言い分も分かる。分かるのだ……。

「少なくとも、『誰が悪魔なのか』は分かってからじゃないと、ここでお前が天使であるということを公表するのは危険だと思う。或いは、全員の異能や思惑が分からないと、ということか……」

 ……バカは、前回のデスゲームを思い出す。

 前回のデスゲームは、色々上手くいかないことが沢山あって、けれど、最終的には皆、納得して上手くやれた、と思う。

 それまでにバカは沢山、『やり直し』した。やり直して、少しずつ、皆の事情や能力を知って……それができたからこそ、バカは前回のデスゲームを全員で脱出できたのだ。

 今の、皆のことを碌に知らないバカには、ここで皆を説得して『全員でキューティーラブリーエンジェル建設の救助を待つ』という提案を押し通すことはできない。そういうことなのである。

「何度も言うようだが、お前だけは死なせるわけにはいかない。逆に、お前さえ生きていて、『やり直し』できるなら、何でも取り返しがつくから」

「うん……分かった」

 ……だからバカは、またやり直す必要がある。

 それはなんとなく、バカにも分かるのだった。




「すまない。ここで証明するのは難しい。だがひとまず、『既にデスゲーム会場の外に用意がある』とだけ言わせてくれ。それから、僕と樺島も『全員脱出できる可能性を探る』という方針には賛成だ。信用されないのは当然だろうが、ひとまず共闘はできないだろうか」

 ということで、海斗はそのように孔雀に申し出ることになった。孔雀は孔雀で、『まあ、そうだろうな』というような顔である。

「……分かった。じゃあ、その方針で。手は多い方がいいし」

「本当かぁ!?よろしくな!よろしくな!」

 そしてバカは、孔雀の手を取って『よろしくな!』とぶんぶん振った。孔雀は非常に戸惑った様子であったが、バカは『ひとまず共闘!共闘!』とにこにこなので全く気にしていない。

「で、デュオと七香さん、それから五右衛門さんとヤエさんはどうする?ひとまず探索を優先する方針で一緒に動くか否か。今、ここで決めてくれると嬉しい」

 更に、海斗が残り4人にも声を掛けると……。

「ま、そういうことならアタシは一緒に行動してもいいわよぉ。脱出できなくてもいい、とは言ったけど、アタシ以外の人は脱出したいんでしょうし、協力するのはやぶさかじゃないわ。任せて!」

 まず、五右衛門が賛同してくれた。なのでバカは、『共闘!共闘!』と握手しに行った。五右衛門は苦笑しながら握手してくれた。なのでバカは嬉しい!

「私も。……手伝えることがあったら、やります」

 続いて、ヤエも賛同してくれたのでバカは『共闘!』と握手しに行き……『あっ!ヤエは女の子だ!しかも脚が片っぽ無いんだから、おしとやかにしなきゃ!』と気づき、そっと、努めておしとやかにふりふりと握手した。……ヤエはちょっと笑っていた。

「まあ、そういうことなら俺も。明かされないままの情報があるのは気になるし……何より、どんな場合でも、最終的に場に出るカードの数は多い方がいい」

 更に、デュオも賛同してくれたのでバカはデュオとも握手した。……デュオは悪魔かもしれないのでちょっと緊張したが、ちゃんと握手してきた!握手!握手!

 ……そして。

「じゃあ七香は!?」

「……では、そのように」

 七香も、多分同意してくれた!なのでバカは七香と握手しようとしたのだが、七香にはやんわりと逃げられてしまった!なのでバカは、ちょっぴり落ち込むのであった……。




「じゃあ、そろそろ次のチーム分けを考えたい。いいか?」

 ……そうして、孔雀がそう提案して、皆で個室のドアの内側……セフィロトの図を見ながら、相談することになる。

 四郎こそ居ないが、こうしてほぼ全員揃って相談できている状況は非常に喜ばしい状況だ。バカはちょっとそわそわにこにこしながら、皆の相談を聞くことにした。……こういう時、バカは発案側にはなれないのだ。何せ、バカだから!

「あと、残っているアルカナルームは『1、5、8、10、12、16、19、20、21』、そして『0』だ。ひとまず、『0』以外の部屋を全部開けたいな」

 孔雀の言葉に、バカは『そうだなあ』と頷く。

「……そういうことなら、僕が『1』に入るのは確定か。『1』は僕にしか入れないからな」

 そして、すぐさま海斗がそう、反応した。

 ……5以上の数にもなれば、組み合わせ次第では2人以上での攻略が可能である。だが、残念ながら『1』だけは、どう足掻いても海斗1人での攻略しかできない。それは、バカにもなんとなく分かる。

「えええー……海斗、1人で行くのか?大丈夫か?」

「まあ、うん……タヌキや七香さんもそれぞれ1人で攻略してきたわけだし、なら、僕にもできないはずはない、と思うんだが……」

 そしてバカは非常に心配だ!

 海斗は、頭はいいが……パワーは無い。それは、バカがよく知っている。だからこそバカは、海斗と組むといいかんじなのだ!

 つまり、もし『1』が頭脳を使う部屋なら海斗は大丈夫だろうが、もし、パワーを使う部屋だったとしたら……。

「あ、あのですね。海斗さん。『3』のアルカナルームは、異能が無いと結構怖いところでしたよ……?」

 ……更に、タヌキがそんなことを言うので、海斗は黙って、ちょっと青ざめた。バカはもっと青ざめている!

「……もし『0』の腕輪が見つかったら、その『0』と一緒に2人以上で入れる、ってことかもしれないし……別に、後に回してもいいけど」

 そんなバカ達に、何とも言えない顔で孔雀が助け舟を出してくれた。やさしい!

「ああ、そうか……数字が無い腕輪、があれば、確かに2人以上で……いや、うーん……?」

 海斗は『そうか、0番……数字の加算が無い数字……?』と、考え始め……。




「樺島。やはり僕1人でアルカナルームに挑むのは何かとリスクが大きい。そこでなんだが……試しに、その腕輪を破壊できないかやってみてくれないか?」

 そう、提案してきたのであった。

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― 新着の感想 ―
アッハイ、その手は『前回』経てるなら寧ろ『今更』だな…… そして気になる、私のガチ推理長期人狼民時代の経験則 『他人の発言に二番目に乗っかる人は怪しい』
なるほど……最近は設定に凝る作品も多くなってきたが、昔は魔法とか神秘系のしっかりした作品なんかなくてのぅ…… 昔のオタクはクロウリーとかカバラ数秘術とかソロモンの悪魔とかは原典で履修したもんじゃよ……
腕輪壊せなくても564合いの可能性を察して刃物持ってきた誰かかカマイタチ系異能を持った人に手首ごと切ってもらうことはできるんじゃ?
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