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はじまり

<注意>

本作は、シリーズものの2作目です。

1作目読了後にお読みになることを強く推奨いたします。

「うわああああ寝坊!」

 樺島剛かばじまつよしは目を覚ました。

 そして辺りを見回し……思い出す。

「あ、そっか……仕事だぁ」

 徐々にはっきりしてくる意識と記憶。そして、やる気。

 それらが樺島剛……通称『バカ』の元気となって、その元気はバカの喉から雄叫びとなって溢れ出る。

「今回も解体!頑張るぞー!うおおおおおおおおお!」

 そう。バカは『今回も』特殊な解体業務に任命されている。

 ……つまり!

『悪魔のデスゲーム』にこのバカが帰ってきたということなのだ!

 おかえり!




 ……事の始まりは、3日前に遡る。


「失礼します!」

 その日のバカは、るんるん、と浮かれつつ、しっかりはっきりクソデカボイスで挨拶して、キューティーラブリーエンジェル建設の応接室のドアを叩いた。

 というのも、バカは親愛なる親方から直々に、『仕事上がりに応接室に来い。お前にしかできねえ仕事が来た』と呼ばれていたのである!

 バカは、『俺にしかできない仕事ぉ!?』と驚き、そして同時に、そんな仕事を任されるのだ!という誇らしさと嬉しさで、わくわくそわそわるんるんるん、と大層浮かれポンチであったのだが……。

「あれっ?たまも陽も来てたのか!えっ、天城のじいさんも?……あ、かにたまも居る!」

 入った応接室には、見知った顔が並んでいた。

 ……そう。そこに集まっていたのは、『前回の』デスゲームで出会った、大切な仲間達。

 小柄な体躯の、黒猫を思わせるような目が特徴的な、『たま』こと、駒井つぐみ。

 整った顔立ちに穏やかそうな表情、すらりと高い身長で頭もいい、と実によくできた男、『陽』こと、宇佐美光。

 ……そして、その『陽』の未来の姿であるらしいご老人。『天城』。

 ついでに、『たま』の魂が入っている蟹型ロボット、通称『かにたま』。

 この3名と1台が、親方と一緒に事務所の応接テーブルに着座している。尚、かにたまもちゃんと着座している。天城の膝の上に。……ここがかにたまの特等席なのだ。かにかに。

「よし、樺島。お前も座れ」

「うん!失礼します!」

 そして、バカも元気に着座して……テーブルの上に置かれた紙を、ちら、と見る。すると。

「よし、樺島。まずはこれを見ろ。次のお前の仕事だ」

「『デスゲーム解体』……えええええええ!?またぁ!?」

 ……その紙は、依頼書だった。

 そう。『デスゲーム解体』の。

 つまり……また、この樺島剛の筋肉によって破壊されるデスゲームが1つ増える、ということである!




「分かった!俺、がんばる!がんばるよぉ!」

「頑張る前にまずは聞け。座れ」

「はい!」

 元気が先走りがちなバカは立ち上がって拳を天に突き上げていたが、親方に『ぺしっ』と叩かれて、また素直に座った。このバカは元気と素直が取柄なのである。

「……いいか?樺島。よく聞け。今回のデスゲーム解体は前回みてえにはいかねえ。その上、絶対に失敗できねえ案件だ」

 素直なバカは、親方の言葉を聞いて真剣に頷く。いつだって仕事は失敗できないのだが、今回はその『失敗できない』度合いが大きく異なるのだろう。

「依頼主は『駒井つぐみ』さん2名だ」

「『駒井つぐみ』さん2名!……あっ、えっ、2名……?」

「……私と、かにたま。連名なんだけど、どっちも『駒井つぐみ』だから」

 バカが首を傾げたところで、たまが静かに助け船を出してくれた。そして恐らくは、かにたまも助け船を出してくれている。かにかに、とハサミハンドを動かして、きっと『頑張れ』のエールを送ってくれているのだ!

 だが。

「それで、依頼内容は……デスゲームの解体と、私の弟……『駒井燕の救出』」

 ……そう続いた内容に、いよいよバカは頭がパンクした。

 まるで、理解が追い付かない!かにたまのエールでは到底、足りない!


 ……だって、たまの弟は、『もう死んでいる』はずなのだから!




「あの、たまの弟、って……その、木星さんに、殺されちゃった、んじゃ……?」

 バカの記憶では、そうだ。今も尚、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部で『無敵のバット』として使われている木星さんこと井出亨太だが、彼こそが前回のデスゲームの考案者であり、黒幕であったのだ。

 ……そして、その井出亨太が過去に開催した別のデスゲームで、たまの弟は殺された、と。バカはそう、聞いていたのだが……。

「うん。そのはず。大丈夫。樺島君は間違ってないよ。私がデスゲームに参加したのは、弟を殺した井出亨太を殺すことだったし、悪魔のデスゲームを破壊することだったから。けれど……『駒井燕』が、デスゲームに参加してるらしくて」

 たまが説明してくれるのを聞きつつ、バカは、『もう死んでて、でも生きてて、デスゲームに参加してる……?』と混乱する。他の人にもよく分からない話なので、バカにはもっと分からないのであった。

「え、ええと……分かんねえけど、分かった!多分、たまの弟がデスゲームに居るんだな!?で、俺はそいつを助ければいいんだな!?よし、任せろ!」

 だがそれでも、バカは元気で責任感のあるバカである。友達が困っているのだから、助けたい。それはバカにとって、ごく当たり前の感情であった。

「それに、皆、助けてくれるんだろ?前みたいに!」

 そして何より、バカは1人ではない。このキューティーラブリーエンジェル建設の仲間達が……そして、前回のデスゲームで一緒に戦った仲間達も、居てくれる。だから、バカはバカだが、きっとなんとかなるのだ!


 ……と、バカは元気に笑っていたのだが。

「……本当なら、俺とつぐみ、或いは天城さんがデスゲームに参加するべきだと思う」

 苦い顔の陽を見て、バカは『あれ?』と首を傾げ……そして。

「けれど、俺達4人……と言っていいのか分からないけれど、とにかく、『駒井つぐみ』と、『宇佐美光』は、そのデスゲームに参加できないらしい」

 ……衝撃的な事実を聞いてしまい、バカは唖然とした!




「な、なんでェ!?」

 バカはバカである。非常に、バカである。なのでバカは、誰かに頼るということを覚えた。

 大抵の人はバカより頭がいいので、頭脳労働は仲間達にお任せするのだ。そしてバカは、自分にできることをやる。主に肉体労働を。……それがバカのバカなりの処世術なのである。

 よって、今回のデスゲーム解体についても、『陽もたまも天城のじいさんもかにたまも、頭いいもんなあ!俺達5人で行ったら、どんなデスゲームだって楽勝だよなあ!』と思っていたのに!まさか、その4人が参加できないだなんて!

「分からん。だが、主催の悪魔に聞いてみたら『ややこしくなるので……』とのことだった。ついでに、『怪しまれる』とか、『特に宇佐美光は既に1回無理した直後なんだからな!』とか言ってやがったぞ」

「……まあ、確かに私が無理を言って、例のデスゲームに自分の枠をねじ込んでもらったのは確かだが……」

「あー……それから、どうも次のデスゲームに関わってる悪魔が、駒井つぐみさんの魂を狙ってるって噂だ。だから余計に、参加させられねえって訳だ。分かったか?」

 どうやら、色々と理由があるらしい。バカは、『そっかぁ、ならしょうがねえよなあ……』と諦めた。しょんぼり……。




「ま、そういう訳だ。今回、陽とたま、ついでに天城さんとかにたまは、同行させられねえ」

「え、ええと、それじゃあ、親方、一緒に行く……?」

「バカヤロ。お前みたいな『輪っか無し』ならともかく、俺達みてえな羽も輪っかも立派にある天使が参加したら、悪魔に警戒されるのがオチだろうがよ」

 そして、親方が駄目だとなると、職場の先輩達もダメだろう。ああ、いつも頼れる先輩達にも、今回は頼れない!

 ……尚、『輪っか無し』とは、『天使資格免許』以外に免許を持っていない天使のことである。ペーパー天使とも言う。バカはバカなので、小型特殊座天使免許すら未だに取れておらず、『ペーパー天使』のままなのである!

「というかだな……お前のその『やり直し』の異能はだな……下手に頭いい奴が一緒に居ると、危険なんだよ」

「えっ、そうなの……?」

「あー……樺島君はパラレルワールドとかタイムパラドックスとかの概念が理解できないから、うまく『やり直し』ができるんだっけ……?」

「……あ、かにたまが『バカと鋏は使いよう』だって」

 また、バカ自身にはよく分かっていないことだが、バカの異能である『やり直し』は、どうやら危険な異能であるらしい。が、『異能の使用者であるバカがあまりにバカであるために、世界の矛盾が認識できず、矛盾が起こらないようになんかうまいこと纏まる』のだとか。そう。バカにはよく分からないのだが……。


「そういう訳で、お前以外の天使も同行できねえ。というか、下手に頭のいい奴は連れて行けねえって訳だ」

「あ、あうううう……」

 そうしてバカは、『次のデスゲームに1人で臨まなければならない』という事実に、どんどん不安になってきた。

 前回のデスゲームが上手くいったのは、皆が協力してくれたからだ。バカは1人では、きっと上手くやれない。

 ……だが。

「そこで、樺島。お前に1つ、提案がある」

 親方がそう言うのを聞いて、俯いていたバカは顔を上げる。

 親方は、真剣な顔をしていた。ちょっとだけ、言うのを躊躇っているような顔でもあった。……だが、親方はそれでも、バカに話してくれた。

「……例外として、『お前の異能に既に巻き込まれてる人』なら頭が良くても大丈夫だろう、ってのが、専門家の見解らしい。勿論、『宇佐美光』さんと『駒井つぐみ』さんは除くがな。そこで……だ」


「お前、前回のデスゲームに参加した仲間達の中で、次のデスゲームに同行してほしい奴は、居るか?」




 ……と、以上が、3日前に起きていた話である。

 バカのデスゲーム入りが決定し、バカはそれから頑張って色々と準備を進め……そして今、目が覚めたらこの見知らぬ部屋に居た。

 バカは元気に立ち上がる。デスゲームの参加は2回目だ。となると、色々と勝手も分かってくるというものである。

「よし!まずは……」

 バカは元気に部屋の中を見回す。

 ……部屋は、円形だ。そして、薄暗い。

 部屋の中にはバカが寝ていたベッドがあって、ベッドサイドに小さな机があって、その机の上にはアンティークなデザインのカンテラが1つあって、カンテラの中には蝋燭が灯っていて……そして、封筒がある。

 早速、封筒の中身を見てみると、『お前の異能は『やり直し』だ!忘れるんじゃねえぞ!』と、先輩の字で書いてあった。先輩のことを思い出したバカは、ちょっぴり元気が出た!

 それから、部屋の壁にはモニターが1つあって、そこには『ゲーム開始までの残り時間』が表示されているらしかった。バカが見た瞬間の残り時間は『25分25秒』であった。ニコニコである!バカはまた元気が出た!

 モニターには他にも、『ゲーム開始時刻になったら、ドアは自動で開きます』『ゲーム開始時には安全のため、ベッドの上で待機していてください』と表示されていた。成程。どうやらこのドアは自動ドアらしい。それから、時間になったらベッドの上。バカはふむふむと頷いた。

 ……そうしてバカは、そわそわしながら『もう何もねえよな……?』と首を傾げる。

 どうも、今回は首輪も鎖も無いらしい。とても親切だ。前回は首輪を引き千切っちゃったから色々と大変だったのである!

 そんなバカはふと、ドアの方を見て……ドアに、不思議な模様が描いてあることに気づいた。

「えーと、丸が10個……?」

 ……それは、10個の丸が直線で繋がれている図形、のようなものだ。直線と直線が交差したり、1つ1つの丸には複数本の直線が接続していたり。まあ、ややこしい。

 バカは、『この模様、なんか意味あんのかなあ』と首を傾げつつ……ドアをもう少し調べてみる。

 ドアは引き戸のようだ。それ以上の情報は特に得られない。模様は、時々光る部分があって面白いが、それだけである。眺めているとちょっと楽しいが、それもだんだん、飽きてきた。

 ……そして、このドアは時間になったら開くタイプのドアらしいので、バカは大人しく待っていることにする。タックルしたら開きそうだが、あんまり物を壊すのはよくない。バカはこれでも、破壊を好むタイプのバカではないのだ。物を作る尊さも大変さも分かっているので、無闇に物を壊しはしないのだ!

 前回のデスゲームでは色々なものを無駄に壊してしまったので、今回はできるだけ、壊さない方がいいものは壊さないままにしておきたいバカなのであった。尤も、その誓いがいつまで持つかについては、あまり期待できないだろうが……。


 ……そうしてバカは、『あと23分かぁー……』とモニターを眺めながら、大人しく、ベッドの上で体育座りをして待つことにした。

 時々、ちょっと寝てしまったが、すぐ起きたので大丈夫である!




 ……そして、ゲーム開始時刻になったらしい。

 モニターに『ゲーム開始』『ベッドの上にお戻りください』と表示される。バカは『ベッドの上、ヨシ!』と元気に確認しつつ、しっかり体育座りのまま姿勢を正し、わくわくそわそわと待機し……。

 ……がこん、と、部屋が揺れた。

「え?わっ、わっ……!?」

 突然の揺れに、バカはおろおろしながらベッドの上でひとまず頭を守る。こういう時は頭を守るものである。だからヘルメットは大事なのである!ヘルメットが無いと即死だった、という事故は世の中にたくさんあるのだ!


 ……そうしてバカが頭を抱えて丸まっていると、やがて、部屋の動きは止まった。

 そして。

「あっ、光った!開いた!すげえ!すげえ!」

 ふっ、とドアの模様全体が光る。次いで、ドアが音もなく、すっ、と開く。素晴らしい技術だ!なんかよく分からないが、すごい!

 バカは『すげえ!すげえ!』とすっかり興奮しながら、部屋の外へと走り出す。

 ……そして。




 部屋を出たバカは、『ほぇ』と目を丸くすることになる。

 なんと、そこはだだっ広い空間であった。その空間の中に、ぽこ、ぽこ、と幾つか円柱状のものがある。……それら円柱は1つ1つが、部屋のようであった。振り返って見ると、バカが入っていた部屋も同じような円柱である。

 ということは、このだだっ広い空間に1つ1つ、参加者の個室があって、今、参加者達が出てきた、ということになるのだろう。バカは納得しつつ、それぞれの部屋から人が出てくるのを見て……。

 ……一番遠くの部屋から出てきたその人影を、見つけた。




「あっ!海斗ぉおおおおおお!」


 職場でも『おめえの挨拶はいっつもでっけえなあ!』と褒められる自慢のクソデカボイスで、バカは呼ぶのだ。

 ……今回一緒にデスゲームに参加してもらうことになった、自慢の友達の名前を!

 海斗!今回もよろしく!


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― 新着の感想 ―
セカンドシーズンはじまってたーーー! そーですよねー!頑張れ海斗くーーんwwww
やっぱ海斗だよなぁ!がんばれ!
セフィロト?
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