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「断罪の令嬢 ― 弁護士の記憶が織りなす逆転劇」  作者: 月白ふゆ
第一章

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20/57

私的独白 裁かれなかった者の夜

夜は、静かだった。


屋敷の廊下も、庭も、

何も変わらない。


それが、少しだけ不思議だった。


私は、部屋の机に向かっている。

灯りは一つだけ。


再審が終わって、

断罪は取り下げられた。


それでも、

拍子抜けするほど、世界は続いている。


――勝った、わけじゃない。


何度も、そう思う。


裁かれなかった。

それだけだ。


誰かに謝られたわけでもない。

誰かが罰せられたわけでもない。


私の人生は、

ただ「壊されなかった」だけだ。


それで十分だと、

頭では分かっている。


前世で、

もっと酷い終わり方を、

いくつも見てきた。


無実でも、負ける。

論理が通っても、切り捨てられる。


だから、

今回は運が良かった。


それだけの話だ。


……でも。


指先が、少し震える。


あの大広間で、

全員の視線を浴びながら立っていたとき。


怖くなかったわけじゃない。


怒りも、あった。

悲しみも、あった。


ただ、

それを出した瞬間に、

全部終わると分かっていた。


感情を見せたら、

「令嬢」として裁かれる。


黙っていたら、

「罪人」として終わる。


だから、

問い続けるしかなかった。


――それは、裁けるのか。


あの言葉は、

誰かを追い詰めるためじゃない。


自分を、保つための言葉だった。


私は、正義の味方じゃない。

英雄でもない。


ただ、

理不尽に飲み込まれるのが、

嫌なだけだ。


机の引き出しを開ける。


中には、

前世の癖で書き溜めた紙がある。


判断の順序。

問いの立て方。

感情を排した言葉。


もう、

使う必要はないかもしれない。


それでも、

捨てる気にはなれなかった。


この世界は、

優しくない。


だが、

全部が敵というわけでもない。


人は、

簡単に歪む。

簡単に信じる。

簡単に、裁く。


それを、

責める気にもなれない。


だから私は、

前に出ない。


導かない。

叫ばない。


ただ、

必要なときに、

問いを置くだけでいい。


それで、

誰かが救われるなら。


……救われなくても、

少なくとも、

潰されはしない。


灯りを消す。


部屋は、闇に沈む。


裁かれなかった者として、

私は明日も、生きていく。


それだけで、

今は十分だ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


この「断罪編」では、

誰かが勝つことよりも、

誰も簡単に裁けなくなることをゴールに置いています。


無罪判決も、喝采もありません。

残るのは、

判断を下した側の戸惑いと、

裁かれかけた側の静かな疲労だけです。


それでも、

裁きが“そのまま通らなかった”という事実は、

確かに世界を少しだけ変えました。


次章では、

この事件の「後」を描きます。


リリアナが前に出ることは、ほとんどありません。

制度を作るわけでも、改革を叫ぶわけでもない。


けれど、

別の場所で、

別の立場の誰かが、

同じように裁かれそうになったとき。


彼女が置いた「問い」だけが、

静かに機能し始めます。


次章は、

断罪のあとに残った“余白”の物語です。


必要とされたときだけ、

言葉を置く人の話になります。

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― 新着の感想 ―
後日談分を含む感想です(笑)。 「罪があります」と…人前に突き出したのなら、たとえ悪意がなかろうが、それが間違いであった事に対する「謝罪」はしろよ!…と言いたい(笑)。 でないと、「誰もが持つ、人と…
着想がとても面白い 聖女がどのような神託をしたのか 神託が最終的にどのようなものになったのか 何をもっての神への冒涜なのか この3点がぼかされたまま終わったので(わざとなのでしょうが)モヤモヤが残っ…
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