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「断罪の令嬢 ― 弁護士の記憶が織りなす逆転劇」  作者: 月白ふゆ
第一章

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19/57

後日談3 宰相は、判断した

宰相府の執務室は、夜でも明るかった。


灯りを落とす理由が、ない。


ヴィルヘルムは、書類に目を通しながら、

何度も同じ箇所で手を止めていた。


再審の記録。

判断経路の整理。

責任分担。


どれも、すでに承認されている。

だが、読み終えることはなかった。


――判断は、間違いだったのか。


そう問われれば、

答えは簡単だ。


「結果として、誤っていた」


否定の余地はない。


だが。


「当時の判断として、

 最善だったか」


そこには、言葉が詰まる。


混乱を避ける必要があった。

神殿と王権の関係は、

些細な疑義で揺らぐ。


公爵家は強大だ。

火種は、早めに摘むべきだった。


そう考えた。


だから、

断罪を進言した。


証拠が弱いことも、

記録が曖昧なことも、

理解していた。


だが、

“決めないこと”の方が、

危険だと判断した。


それが、宰相という立場だった。


リリアナ・ド・ヴァルフォード。


あの令嬢が、

感情をぶつけてきたなら、

もっと簡単だった。


だが、彼女は違った。


問いを置き、

順序を示し、

判断そのものを照らした。


――判断する側の、

 甘えを。


ヴィルヘルムは、眼鏡を外す。


老いた目に、

書類の文字が滲む。


自分は、

誰かを陥れたわけではない。


それでも、

誰かを犠牲にする判断をした。


それが、

この国の「現実」だった。


再審で、

罰を受けることはなかった。


地位も、権限も残っている。


だが、

それが赦しだとは思っていない。


むしろ、

次も判断せよ、

そう言われたのだ。


「……重いな」


誰に聞かせるでもなく、呟く。


だが、

それを引き受けるのが、

宰相の仕事だ。


今後は、

即断しない。


時間を取り、

複数の視点を通し、

裁きと政治を切り分ける。


完全ではない。

それでも、

今回よりはましだ。


ヴィルヘルムは、

再審報告書を閉じた。


判断は、終わった。

だが、

責任は続く。


それでいい。


そうでなければ、

この国は持たない。


夜は深い。

だが、灯りは消さない。


宰相は、

次の判断に備えていた。

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