後日談2 王太子は、信じた
執務室は、広すぎた。
机の上には書類が積まれている。
だが、どれも急ぎではない。
ユリウスは、椅子に深く腰掛けたまま、動かなかった。
断罪は、終わった。
正確には、終わらせられなかった。
それが、ずっと胸に残っている。
――自分は、何を間違えたのか。
答えは、もう出ている。
だが、簡単には受け入れられない。
信じたのだ。
聖女を。
宰相を。
仕組みを。
それは、怠慢ではなかった。
少なくとも、そう思っていた。
国家は、即断を求められる。
迷えば、混乱が広がる。
誰かが決めなければならない。
だから、信じた。
信じることで、判断を短くした。
リリアナ・ド・ヴァルフォードが立っていた、
あの大広間を思い出す。
泣かなかった。
叫ばなかった。
ただ、問い続けていた。
――それは、裁けるのか。
あの問いに、
自分は答えられなかった。
いや、
答えようとしなかった。
「間違っているはずがない」
そう思う方が、
ずっと楽だったからだ。
王太子は、拳を握る。
自分は、裁いたのではない。
裁きを許した。
それが、
一番重い。
宰相は、責任を自覚している。
聖女も、沈黙を選んだ。
では、自分はどうする。
罰は、与えられない。
だが、忘れることもできない。
ユリウスは、机の引き出しを開ける。
そこには、
再審で使われた資料の写しが入っていた。
何度も読み返したものだ。
事実。
判断。
省略。
信頼。
どこか一つでも、
立ち止まっていれば。
その「もしも」が、
これから先、何度も現れるだろう。
「……信じる、か」
呟いて、苦笑する。
信じることは、
責任を放棄することではない。
確認し、疑い、
それでも選ぶ。
それが、本来の形だった。
ユリウスは、立ち上がる。
次に同じ場面が来たとき、
同じ選択はしない。
そう、決めた。
それが、
断罪のあとに残された、
王太子としての義務だった。
窓の外では、
冬の雲がゆっくり流れている。
国は、変わらない。
だが、
自分は変わらなければならない。
ユリウスは、そう理解していた。




