第68話 根底自身
それはそれは、『星の礎』とも言える存在だったかもしれない。
生まれ落ちたことで、ひとつの『惑星』と繋がったのか。
『病』と区別されて、外の世界をひとつも見ることを許されないことにされていたからか。
幼い頃からの、過ちだと指摘されただけでない。
『夢を……見てきたんだ。ずっと』
浅い眠りを繰り返し、その合間を流れるようにして見てきた夢はどれもが『星の巡り』に関するものばかり。
いつかの、星の循環が来るだけだ。
怖いことはない。お前はその礎のひとつになるだけ。
などと、幻聴が聞こえた時点で『加東奈月』という存在は外の世界から隔絶されたような生活を送るしかなかった。
虚弱はあくまで仮初の姿。
実際は、己の役割をこなすべく確保されてしまっただけの『人柱』に近い存在。しかし、関係者の一部は彼の見てきた『未来』が本当に現実となるのを……近辺の災害情報と一致したことから、緩和せざるを得なかった。
むしろ、彼と協力し合って被害を矮小化出来ないかの検証をするほかなかった。表向きの活動を犠牲にしても、本来の『目標設定』は違えない。
たとえ、幾百万人もの命が潰えても……常世のシステム変換がきちんと成されていることを確認すればいいこと。その事実を告げてきたのも、並行世界側の彼自身だった。
『終わるんじゃない。ひとつの巡り合わせが交差したまで』
感情が。
行動が。
やけに過敏になってしまったときこそが、兆しのひとつ。
奈月の場合は、残された身体機能の低下を犠牲にしてまで……あとの時間を生命維持の手術に託したのだ。
どの世界でも。
どの本人であれど。
『本人』が死んでしまえば、元も子もなくなる。
そのために、媒体として『クロニクル=バースト』という団体として動き続けていた。メディアでも現実でも既視感を与えさせ、星の循環のときが来たらコールドスリープで冬眠出来るくらいに手術費用を稼ぎに稼いだ。
引っ掻きまわすだけしまくり、周囲を混乱させるだけでなく『自分の命』を差し出してもいいくらい……星の繋がりを大事にしたかったのだ。
それを、月側の『加東奈月』は離れていく地球の姿をシェルターで見ながら……また、一からのやり直しに嘆息するしかない。
「あ~あ。肉体が若返っても、星の巡りが元に戻っても……紗夜との『最初の朝』はまだ無理か」
地球に置いてきた『自分』があの年代に成長しても、内面がこちらと差異無ければまた一からのやり直しも仕様がないのだ。根底が整っていなければ、外見がいくら大人であれなんであれ関係がない。
つまりは、矮小化し過ぎた逆の欠点が表に出てしまったのだ。地球環境の変動が大きくあっても『なんとかなる範囲』で生き残れた。科学技術とやらの中途半端さが今であれ、『加東奈月』自身のやり直しも利く範囲で被害が収まった。
「……なら。宇宙空間で存在している『加東奈月』たちもやり直し……必要か」
死に戻りをするわけではない。
もう一度、のチャンスは『神』のような疑似生命体と融合しているので、問題ないだけ。
かつて、どこかの洋画かなにかで『ゼロからスタート』のラストで終わったようなあのシーンのように……こちらの『加東奈月』もやり直しをすればいいだけだ。
生まれるその瞬間からのやり直しのために、意識を蕩けさせれば……シェルターごと縮小化して地球へと飛んでいくのだった。
次回は金曜日〜




