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第61話 救援物資を受け取ることに

 救援物資が底をつきそうだったので、買い出しに行こうとした奈月だったが。インターホンが鳴ったので、何事かと通話ボタンを押せば。



『おーい! 奈月、紗夜!! 起きてるよな!?』

『奈月くん、さっちゃーん!! 起きた~!!』



 インターホン程度じゃ起きるわけがないシステムだろうに、こっちが応答するなりわめくのは仕方がないというべきか。セキュリティロックは正常に反応しないので、ほとんど玄関前で待機しているかもしれない。


 先に気づいた紗夜が玄関を開けに行ったのか、騒ぐ声が廊下にまで響いてきた。



「ひさしぶり~、メメちゃーん」

「「やっほ~!!」」



 わざわざ連絡も寄越さずに来たということは、直接奈月らの顔を見て確認したいことが多いのだろう。バイタルなどの問題があるにしても、まだ記憶の相互がうまくいっていない奈月には『この現実』がどうなったのか同じような状態だった紗夜に聞いてもわからないからだ。


 SNSについては虚偽にも見える情報ばかりで、どこまでが『正解』なのかもわからないので同じく。


 中に入ってきた雅博らを確認すれば、長く『VRMMO』のように脳内で漂っていたあの世代より一回りくらいは老けていた。背の高さと骨格の良さから、やはり二十代以上なのは明白。



「お? なんだ? まだ記憶が戻ってねぇのか? 『イバラキ』」

「全然。『サカキ』なのはわかってっけど。……まちゃがどこからどこまで『スカベンジャー・ハント』を設計してくれたんだ?」

「基礎の基礎程度。設定とかはお前の大学ノートを親父さんから受け取っただけ。紗夜、なんか食ったか?」

「今日はまだ全然」

「救援物資少し持って来て正解だったわねぇ。あとで、皆で買いに行く?」

「メメ。俺、まちゃと話してんだけど」

「どっちも大事よ。けどしばらく、お互いにVRMMOのダイブは休止。奈月くんもちゃんと療養しないと……活動休止宣言くらいはしておいたから。復帰したら、イベント盛りだくさんよ?」

「へ?」

「正式リリース手前。β版で、お前の脳が休眠しちまったからな? 止むを得ないから、それまでのデータだけでリリースするしかなかったんだよ。問い合わせ殺到、DL数が100万超えるのなんて秒速くらい感じたぜ」

「は?」



『クロニクル=バースト』というコテハンで、将来的にVRMMOを作ってみたいと父親に提案しただけの夢物語だと思っていた。ただ、生来の虚弱体質のせいでもって数年と言われた寿命の中でなにをしたいかと言われたら……と、いうことで医療機関以外の協力も得てつくったのが『スカベンジャー・ハント』というゲームそのもの。


 それを実現可能にしたのが、並行世界では普通に遊び惚けていた『もうひとりの奈月』でしかなかったということを雅博らが教えてくれた。


 どこにいて。


 どこで死なずに済むか。


 世界の危機ではなく、『循環』はそちらの未来よりも多く進んでいることを。


 彼だけでなく、『同時の奈月』とも呼ばれる複数の並行世界にいる『全員』で取り掛かったから、被害が必要最低限で済んだのだと。


 この氷河期は太陽フレアの変動が大き過ぎて、太陽光などが地球に届かないことから起きた『中間の氷河期』と呼ばれる世界災害らしい。ある程度の設備が整いつつあったタイミングで、宇宙センターとも協力していた奈月の父ら親世代が……子ども世代が地上で生活できる手前までを用意した。


 奈月が雅博からの説明でそれを聞けば、乾いた笑いが漏れた。



「あ~あ。父さんらのお陰が強いな。結局は」

「結局は、だな。俺もメメの親父さんらに結構しごかれたし」

「……結婚できんの?」

「もう、ほとんどその手前。俺がポッド入る前に指輪は渡した」

「……次は、俺か」

「がんばれ」



 まだ愛を育むとかどうとかは考えていなかったものの。親世代に舞台を整えてもらっているのなら……これから、『一般人』としても生活を整えるのに、紗夜との同棲も含めて人生やり直ししかない。


次回は水曜日〜

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