第59話 特異な事態は突然だった
『クロニクル=バースト』というクリエイター集団が大きく表に出たのは、『クリエイター百周年記念イベント』がきっかけだ。
SNSやソーシャルゲームだけでなく、VRMMOなどが盛んになってきた昨今。
ひとつのジャンルに特化したゲームとメディアを展開していくクリエイター集団。中心人物は『なっち』『まちゃ』『メメ』『さっくん』と四人の男女らしいとしか情報が回っていない。サブで関わっている者らも、コテハンで呼ばれているが身バレしてないことから、年齢もなにもかもが『特殊』。Vチューバーのように画像のAIを使うこともなく、『いる』『いない』だけで、注目を集めていた。
声もわからないので、情報のリソースは基本的にSNS。
温暖化が激しく、気温や気圧の変化だけで症状悪化という精神疾患以外の患者も増える中。
『なっち』は突如狂ったかのように、SNSでの発言が奇異なものになった。
『探せ』
『俺を見つけろ』
『地球は崩壊する手前』
『留めておきたいなら、俺の相方を見つけろ』
などと、意味不明な言葉の羅列を流したことで、興味を集めたと同時に運営からの注意喚起を受ける対象になった。当然、SNSが凍結させられたはずなのに、彼に似た言動の発信が日に日に増えていく。
『まちゃ』も『メメ』も。さらには『さっくん』も。
太陽フレアからの放射による異常現象かと思った矢先。日本を中心とする大地震とともに、異常気象で地面が雪でなく凍る現象が世界にも広がっていった。死ぬかどうかの大慌てになるのは人間なら当然なのだが、それを安全なものに誘導してくれたのは『クロニクル=バースト』の彼らだった。
ホログラフィかと思えるAIを世界各国の電波を乗っ取ったことで展開し、これまで秘匿にしてきた科学技術を宇宙開発よりもはやく提供してくれたのだ。
自分たちは隠れ蓑。
己の身を削っても、生きながらえるために役割を成した。
ifのifなど、想定していたわけではない。とある事象により先に依頼文を受けていただけ。
その核に自分たちの命を預けていたのだと、SNSを通じて発表しても信じる者は当然最初はほとんどいなかったが。天災がどこにいてもなにをしても起きるのなら、彼らの言うそれを受け入れようではないかと各国の首相らが声明を発表し。
関係者の技術保持者との協力を得て、世界はたしかに一度氷河期並みの終結とやらで死人も多く出たものの、生存者はたしかにいた。その中に、『クロニクル=バースト』の彼らもいたのだ。先にコールドスリープで体を冷凍睡眠させ、何年かかってでも並行世界との『夢渡り』と称して災害の縮小化である特異点との緩和を目指していたのだが。
結局は、ゲームユーザーという若者らの猛烈な協力により……誤差がたったの二ヶ月で終わってしまったのだ。シェルター開発の革新も、ほかの技術もなにもかも。秘匿にし過ぎていたのが長すぎて、技術者側が記者会見で『謝罪』するくらいだったが。
誰も彼も『無理はない』と答えるしか出来なかったらしい。
このニュースを『起きた』奈月らが確認したのも、二日目の出来事だった。
次回は金曜日〜




