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第57話 犯人ではないことを

 加東奈月こと『クロニクル=バースト』としての認知度は、世界各国に知れ渡っていたのは現状そのまま。


 奈月は大学時代から身体面以外の障がいが発覚し、支離滅裂な会話になるたびに入退院を繰り返していた。そして、大学卒業後の就職はうまくいかずに、障がい者としての生活を自宅で送るのみ。


 その生活に嫌気がさしてきたのかを、並行世界側が読み取ったのか。奈月にアクションを起こしてきたのは、向こう側の『加東奈月』だった。



『ひとつの世界だけでは、地球の救済措置を落ち着かせることは出来ない。それに、協力してくれるかい?』



 こちらの奈月より、数年歳を食った大人の奈月。健常者として生活できているのか、身なりもよくて笑顔も良好。それが羨ましくて、夢の中だとわかっているのに毒を吐いてしまった。相対したときが、何回か目の入院で拘束処置を受けていた時だったからだ。点滴の薬で自律神経を落ち着かせるための錯覚かもしれないと思ったくらいに。



『違う違う。俺は本当に別の次元にいる君だよ。夢嘘とかじゃなしに、ちゃんとパートナーもいるし。生活も健常者とそんな変わらない』

『……ifの自分?』

『そう、そんな『別の自分』。役目があるから、異常なのは当然さ。別の次元が先に動いているんだからね』

『……俺。治る?』

『そちらの技術革新をいっぺんに起こすことは難しい。けど、数年で飛躍することは多いから……命を懸けても、やれるのなら協力してほしい。一番厄介なのは、地球側に接触部が近いそちらだから』

『……治る以外も、出来る?』

『出来る。さっくんのためにも』

『! する!』



 そして、同個体でも別次元にいる『加東奈月』と協力して……クリエイターの『クロニクル=バースト』というコテハンでもともと好んでいた『作曲』『編集』の仕事をメインにSNSで少しずつ活動していった。


 向こうが言うには、そのクリエイターが救済措置に導く『きっかけ』であって、宇宙からのメッセージとかではない。並行世界側との接触がある人間などはそれぞれ『同個体』もしくは、このクリエイターの『作品』をメッセージとして気づくのだ。


 奈月が最後の最後に、短い演出作品である『スカベンジャー・ハント』という台本を書き上げたあとは……もう、障がい者としての意識しか保てずに、『健康体(アンドロイド)』の手術を受けるサインを書いた。この手配は、あちらの奈月が両親を経由して準備を残してくれていたのだ。



「ただ、並行世界側とのダイブ以外に……『スカベンジャー・ハント』もやり過ぎて、俺は犯人扱いか?」

「SNS投稿で神経こんがらがっていたからだよ? あれ、私たちがフォローするの大変だったんだから」

「……それは、誠に申し訳ございませんでした」



 VRMMOなどに『ダイブ』することで、どれが現実でどれが脳をリンクさせただけの疑似世界なのか。わからずわからず、で実際の自分の肉体を動かしたところ……電子の向こうにいる『無関係者』を驚かせ、こいつは『黒』じゃないかと思わせてしまった。


 それが、『クロニクル=バースト』としての奈月が『犯罪者扱い』されてしまった経緯なのである。実際は、心配をかけた知人らのDMが殺到していただけで、なんてことのない現実ではあった。


 だが、そのフォローの甲斐があって、現実では『クロニクル=バースト』の知名度が初リリースの『スカベンジャー・ハント』と同時期にうなぎ登りなのも今知れた。使える端末のどこもかしこにも【『クロニクル=バースト』の中身は若手なのか? バズりが凄い】などのトレンドが載っているくらいだったから。


 紗夜にもそれを見てもらえたので、こちらの情報共有もすると。シェルター開発はあちらの奈月からの情報提供もあったおかげで、五年程度でこのくらいの天災と被害で済んだそうだと。



「もうちょいしたら、まちゃくんにも報告しなきゃだけど」

「この家だと寝るのも大変だな……。コールドスリープもやだし」

「……休み休み、片付ける? 途中でお風呂入って」

「そうするか」



 くらいしか、普通にごろ寝も難しいので協力し合うしかなかった。『加東奈月』と『月峰紗夜』のパートナーとしての生活はこれからだ。ほかの仲間との合流前に、まだまだすべきことは多いのだから。

次回は月曜日〜

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