第55話 情報共有②
一方、雅博と花蓮はふたりきりになったことに今更だが羞恥心を覚えていた。花蓮の父のデバイスだと思っていたホログラフィーはどこかへと転送されてしまったし。残されたふたりは現実感覚でも、半年ぶりに顔を合わせた恋人同士。
解凍とかは無事に出来たし、軽く飲食も取れるくらいに呼吸は安定してきた。であれば、次は情報を少し共有するのがいいか。雅博はバスタオルを腰に巻いたまま、湯舟に浸かったままの花蓮の横に入った。
「ちょっと! 先に言ってよ!?」
「お互い、初めての風呂とかじゃねぇんだからいいだろ?」
「いや……そうだけど。久しぶりだから、なんか……」
「そりゃ俺もそうだけど? 飲み物、無事だったらなんかいるか?」
「……いい。いっしょにいて」
「はいはい」
ならもう少し近くに来てほしいと促し、肌は触れるがまだ冷たいので追い炊き機能を使うことにした。少し湯があたたまってから、メメはぽつりと話題を切り出してきた。
「……奈月くん。さっちゃんとこ行けたのかな?」
「さっきのホログラフィーが言ってたんだ。そこは大丈夫だろ」
「うちのパパに似てたの?」
「横顔はな? けど、最後に気づいて違うとか言ってたし」
「んー? そんくらい似てるのって、従兄弟の政樹?」
「……そんな似てんの?」
「若い頃のパパにはよく似てる刑事のお兄ちゃん。って言っても、三つ上だけど」
「警察協力がすんなりいったのはそのせいか?」
「今頃、彼女候補さんとらぶらぶじゃない?」
「候補? いないのか?」
「だーかーらー! 並行世界側でパートナーシップ制度あったでしょ? あれ、リアルになってたんだよ? 思い出せ、責任者の一人!!」
「……まだ。頭混乱してんだから、勘弁してくれ。さっきまで、スカベンジャーの中に居たんだしよ」
「あ、そっか。あたしはイラストの依頼の続きしてたけど、そっちはダイブしてたの?」
「そ。あれでプレイしてるとしばらく記憶飛ぶ」
「じゃ、しょうがない」
メメが現実では神絵師と称されるくらいのイラストレーターとして活躍し。雅博も、ゲーム制作会社の幹部の下くらいに昇進していたが、奈月の意識をうまくサポートするのを優先していたために……関係者と悪友として、『クロニクル・バースト』が専門に創り上げたVRMMOの『スカベンジャー・ハント』のなかにプレイヤーとしてダイブしていたのだ。今さっきまで、誘導用のアカウントでログインしていたため、こちらの事情をよく知らないままコールドスリープさせられていたのだ。
並行世界側とのズレを請け負いつつ、向こうの己を奈月に明け渡して。
あちらとこちらは表裏一体なくらいに、未来予測のズレがほとんどない。今頃『正常な自分』に戻ったあちらの雅博らは世界災害の対策をこちらへ伝えるのに尽力しているだろうが……現実側ではもう遅かった。
交通網は事実上、神戸大震災や北関東震災くらいのレベルまで水準が下がっているし。建物の設備も強化が間に合っていない。資産がある者らは、開発途中だった宇宙シェルターで既に飛び出してはいても……宇宙飛行士と同等の訓練を受けているわけではないため、時間をかけて地球に戻ってこようとしている。
そこまでの記憶のズレが、なんとか戻ってはきたが。結局は冷凍睡眠していたせいで現実では『何月何日』にコールドスリープさせたのか記憶が怪しかった。
「しっかし。並行世界にはあった『転送装置』だけはサプライズも兼ねて試運転してたんだな?」
「へ? まさか……あたしが?」
「ここ、お前んとこのマンションじゃねぇぞ?」
「……嘘。魔法科学立証??」
「じゃね? 軽くSF慣れしてる人間にはテンション上がるだろ?」
「わぁ!! 今いい新キャラ浮かんだ!!」
「……仕事は一旦休め。お互い凍ってたんだから、まずは体調改善」
「……だね。まともに食事してなかったから、なんかお腹空いた」
「外……の出店は、開いてるかわかんねぇしな? コンビニもまだ復旧無理だろ」
「ここそのまま冷凍なら、袋麺くらいは大量にあるんじゃない? まちゃだったら、やりそう」
「探してみる。メメはもちっと浸かっとけ」
「はーい」
タオルを巻いたままの徘徊になったが、ぬるくなった室温の中で無事だったのは……やはり、定番の袋麺だったが。濡れてても適当に着替えてから、雅博はコンロで調理してみることにした。
次回は水曜日〜




