第51話 その頃①
(……まったく、彼らも仕様がない)
宗ちゃんのホログラフィーとして、実体化に近い状態でナビゲーションしていたのは。奈月にとっては、少し遠縁の男性だった。
並行世界の気づきを奈月とは間接的に相談し合い、今日という日が来るまで影ながらバックアップを務めてきた幹部とでも言おうか。
大陸全土どころか、地球全土に影響を与えたクリエイター集団として偽った特殊部隊『クロニクル=バースト』として、活動してきた人物のひとりに過ぎない。
奈月らのアパートからホログラフィーを一旦回収し、自分たちのデータとして集計し直すのがこれからの厄介な仕事だからだ。
「二ヶ月……長いようで、短かったな」
世界各国で、氷河期手前の天災が起きたのがだいたい五ヶ月前。シェルターの開発があまり進んでなかったものの、金のある人材だけで実行して失敗と成功を繰り返してきたのが三ヶ月前。多くの死人も重傷者も出たりしたが、何もそのために『クロニクル=バースト』が援護しないわけがない。
魂の核とやらが残っていれば。
骨の一片よりも確実に再生できる技術を、奈月が多くの並行世界にダイブしている間に……バックである自分たちがこれまでの貢献者たちに手を差し伸べたのだから、うまくいかないわけがない。
特に、宗ちゃんとしてしばらく共にいた自分は、『あの世』の門番としてそこの選別を守っていた。その時の記憶の共有はだいぶ薄れているが、『あの時の』とか『もしかしたら』のトリップとやらを軌道修正したのだから、これはこれで仕方がないことだ。
どの世界線であれ、地球は一度ならず何度も『死と再生』を繰り返す星に変わりないのだから。
「修正が誤差二ヶ月で済んだんだ。これからだぞ、奈月? 僕らとリアルで出会い、共に会話して笑い合う時期がちゃんときたんだ。政治や戦争は今は停戦状態であれ……それをやりくりするのは僕らの仕事ではない。僕らは『ただの人間』に変わりない。一般市民でしかなり得ないんだ」
冷凍睡眠もせず、ここ五ヶ月をきちんと生活してきた自分にとって。今日という日をどれだけ待っていたことか。奈月の親友である雅博も今頃大慌てだろうが、彼が先に色々手順を踏んでくれなければ自分も『生きて』いなかった。
身体の適正手術を奈月と同レベルで執刀させられ、健康体でいなければ……この五ヶ月まともに生きていなかったのだから。
「じいちゃんでもばあちゃんでもないが、遠縁として宗則じいさんの逸話くらいはたっぷり聞かせてやろう」
そろそろ、外から自宅へと戻らねばまた体が芯から冷え切ってしまう。奈月と同じ屋台で飲み物を買っていくことにし、自宅でおそらくフリーズドライの非常食のどれを食べようか悩む相方を浮かべ……その可愛らしい様子を後ろからこつんと揶揄うのが楽しみで仕方ない。
まずは、宗ちゃんの本当の操作人物。加東茂明の振り返りが終わったのだ。
次回は月曜日〜




