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第50話 次に食べたいのは②

 カップ麺は見つかっても、絶望的にひしゃげていたので使えない状態。まだ袋麵は無事だったので、湯が沸かせるか蛇口をもう一度試してみたが、シャーベット状の水が出てくるのには最初ぞっとしてしまった。


 たった、二か月。


 されど、二か月。


 この建物が解凍されるまで、紗夜はずっと風呂場でミイラのように氷漬けになっていたのにも……正直言って、はらわたが冷え切るくらいにぞっとした。氷漬け直前に、タブレットかなにかで生命維持がぎりぎりできるようにしていたとしても。精神疾患者をこんなところで野放しにしていたのは……理由があれど、怒りも少しずつ込みあがってきたが。


 紗夜が少し以上の精神障がいを持つ者となって、どれくらいの年月が経ったのか。隔絶させられた期間内で、どのタイミングでかかったのかも奈月には知り得ない。それでも、奈月がこうやって『帰って』くることを信じて待っててくれたのならば。


 周りの協力がうまくいったということに違いない。奈月とて、少しの精神疾患はあるが程度が彼女と同じかそれ以下かは今言い合う必要はないのだから。



「えーっと、水……色も泡も出てない。ガスコンロはさっき確認したし」



 それにしても、袋麵どころかインスタント食品をまともに口にするのも何年ぶりだろうか。かなりの大手術を繰り返してきた奈月の食べるものなど、本当に限られていたのだ。固形食は論外、流動食も最後はなくなって点滴に切り替わるくらいに。だからこそ、これから共に生活していくかもしれない女性との最初の食事が『インスタント』なのも面白いものだ。


 二百年近い研究を重ねても、カップ麺はともかく袋麺はノンフライであれ、バキバキであれ、賞味期限がなんとか無事だったので遠慮なく調理していく。と言っても、卵も野菜も解凍できていないので、ただの素ラーメンでしかないが。



「わぉ。びしゃびしゃだけど、一応着れた。あとで洗濯機と風呂乾燥も復活しているか確かめなくちゃ」



 紗夜は相変わらずのはしゃぎっぷりだが、『誰か』がいるので若干躁状態になっているかもしれない。服薬もろくにしてなかったというのなら、麺を煮込んでいる時間の間少し探すかと薬箱か棚を探そうとしたが……どこもびしゃびしゃ過ぎて、使えるかどうかもわからない状態になっていて眩暈しそうになった。考えれば、この部屋ごと冷凍させられ、ゆっくり解凍されたにしても物理的にものが使える状態が残っているのも……袋麺も入れて、奇跡的に残っているのが少ないのは当たり前だった。


 端末でセットしていたタイマーが鳴ったので、とりあえず食べようと紗夜を呼ぼうとしたときにふと思い出したことが。端末のナビになっていた宗ちゃんのホログラフィーがいつの間にか消えていたことに。


 充電は切れていないが、まさかサーバーを通じて別場所の『まちゃ』や『メメ』に報告でも行ったのだろうか。それは逆に手間が省けてありがたいが、ひとことは言ってほしい『人工知能』様だなと思った。

次回は金曜日〜

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