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第29話 並行して世界とのズレ

次回は金曜日〜

 藍葉は頭がチカチカしながら、後輩が作成したと言う端末の詳細を確認していた。


 全体の強度。


 分解までの考察。


 そして、ソフトビニールの腐臭を抜く方法に注目していたが。



(どこで? いつ?? あたしは……この方法を教わった記憶があるのに)



 小柄な少年の方が、藍葉がシェルター内の耐久性を確かめるのに使用したものよりも……もっともっと、繊細かつ秀逸な手順。アロマをこのように利用しつつも、渋をうまく活用してカビを防いでいた。


 おばあちゃんの知恵とは聞いていたが、それにしては技術面が新しく感じる。防腐剤のアロマオイルは、柑橘系がメインでも主張するような香りがない。


 頭でチカチカする何かが、その技術を教わった警報か何か……と思っていると。


『誰か』に声をかけられたような衝撃が頭痛で起きた。



『Waite…。あんたにはまだ導き出すのは、速い。このシェルターの基盤を俺はしてない。アンテナ程度だから、今手にしてる『本物』に繋ぐのも……な? 直感で応えろ。ここの主に今何を伝えるべきかを』



 気を失ったのかと錯覚しかけたが、クロードたちから声を掛けられていないことから……コンマ数秒のトリップがあったのだろうか。多次元との並行輸入を、組み合わせられた情報はまだあまり公にされていない。


 しかし、目の前の少年はどうやらそれに巻き込まれた存在なのか。基盤の少年姿にダブらせるようにして……いくつもの靄に包まれた『異質さ』は強かった。


 おそらく、咲夜がパートナー側で売れ残ってた理由がこれかもしれない。



(この子と出会うためねぇ? 運命的過ぎない? 本来の『あたし』もこれでわからなくなってきたわ)



 今のズレで、多次元で何をしようとしていたのか少し共有出来たのだ。あちらでもシェルターを介して、他のAIを育成とか称しているが。


 星の大きな終わりなどは、どの次元でも一度は経験しなくてはいけないのだろう。とりあえず、クロードが落ち着かないようでいるから、再び拳骨はお見舞いした。


 クロードが並行世界のひとつで、とても大事だと改めて認知したからこそ、彼を置き去りにしないためにも。



「はーいはい! 奈月くんのはこれで一回耐久実験やったら? このシェルターは実験用だし、段階踏んで試しなよ」

「ありがとうございます」

「こっちのは出しておくからさ」



 入れ替わりで出した、手製のソフビで作った端末。アニメ声優の声は、ツテではなくクロードが声真似で模した台詞を組み込んだだけなのに……さっきのズレた感覚では本人のような意思が込められていた。



「……なんや。悪かったわ」



 クロードの謝罪から、ピンと何かを得た気がしたが。今はふたりだけじゃないので、『いいわよ』と答えておいた。確かめるのには、まだまだ情報が足りなさ過ぎる。


 あの声も。


 奈月の正体不明なとこも。


 ひとまずは、先輩として静観する側でいることにした。

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