りんの料理
「ふぅ~」
慣れた手順で自室の電気、PC起動、制服着替えと条件反射で行い、PCに向かいながら一息つく。
色々とつかれた放課後だった。
はっきりいって、りんに連れ回された買い物の時の記憶がほとんどない。
放課後だと思って油断した。本当に女の買い物は恐ろしい。できる限り避けようと改めて誓う。
本題はその後だ、りんが赤信号を飛び出して、最悪なタイミングでトラックが走ってきた。
間に合わないと思ったタイミングだったが何とか助けることができた。
死にかけた当の本人は、「お礼に今日の晩御飯作ってあげる」と言って、キッチンで悪戦苦闘しているところだ。
本来なら、クリティカルな料理を一定確立(3割ぐらい)で作り上げるので、断るところだ。
だが、いつもの笑顔で話ながら、小刻みに手が震えてるのを見て、隣とは言え家に一人で帰すのがためらわれたのだ。
ああ見えても、死ぬかもしれなかった恐怖にはこたえたのだろう。
色々と心配だったので、一緒に作ろうとしたのだが、「大丈夫だから部屋に居て」と追い出された。
まあ、料理で俺が殺されるのもあれなので、ちゃんと「冒険はしない」「隠し味は入れない」「独創的にするな」と釘を刺しておいたので、たぶんまともなものができてくると信じたい。
考えが少しわき道にそれたな。
改めて、考えてみる。
冷静になって考えると、あのタイミング、どう考えても俺の位置からは間に合うはずがない。
あの時、彼女までの距離は1mほどあった。そして、彼女からトラックまでの距離はあと、10mもなかったはずだ。
時速60kmだとして、分速1km、秒速16m。
半分の時速30kmとしても、秒速は8mになる。
あの時のトラックは結構な速度がでてたので、時速30km以下ということはありえないだろう。
そうなると、りんが引かれるまで2秒もなかったことになる。
となると2秒以内に彼女の位置まで行き、彼女を抱えて、安全圏に脱出したことになる。
車道の片側は3mとして、彼女との距離をあわせて4m。
俺の50mのタイムが8秒代だから、1秒で6mは現実的な距離かと一瞬思ってしまう。
しかし、最初の1~2秒は加速のために、それよりも大幅に遅れるのが普通だ。
そのうえ、気がついてから動き出すまでのタイムラグ、彼女を抱えての最加速など、考えれば考えるほど無茶なのがわかる。
色々加味して考えると、あの瞬間、短距離のオリンピック選手すら凌駕する速度が出ていた計算になってしまう。
明らかにおかしい、火事場のばか力にしても、早すぎる。
火事場のばか力であっても、2倍とか3倍などといった無茶な速度になりっこない。
本当に謎だ。
………………。
…………。
……。
まあ、これ以上考えても答えも出そうにない。りんが助かっただけで良しとしておこう。
さて、気分を切り替えて、PCに向かう。少し起動が遅めのPCだが、すでに立ち上がっている。
りんの料理も少し時間がかかるだろうから、いつもの巡回サイトを回ろうと、ブラウザのアイコンをクリックしようとする。
すると、近くに見覚えのないアイコンを見つけた。
あれ?このアイコンはなんだ?盾の背景に剣と杖の絵が描かれたメダルのアイコンだ。
どこかでみたような……。
…………。
……。
あ!昨日のメダル!
すっかり忘れてた。学校から帰ったら、昨日の続きをしようと思ってたんだった。
よし、昨日の続きをするぞ。
昨日までなかったメダルのアイコンをクリックする。
そこには学校に来る前にチラッと見た時と同じ画面が表示された。
あれ?レベルが上がってる?
名前:来栖川 葵
職業:勇者Lv3
性別:男
HP :21/21
MP : 6/6
SP :1
EXP :11/25(経験値取得履歴)
力 :3
体力:3
知力:4
魔力:3
速度:4
幸運:3
よく見ると、EXP11になり、勇者Lv3になっていた。
HPとMP以外能力値が1ずつ上がっている。あ、速度だけ2つあがったのか……。
朝はEXP2だったはず、学校に行った間に9もふえたのか。
一体何で経験値を得たのだろうと、『経験値取得履歴』を開く。
魔法失敗(取得経験値1)+1P
学習Lv1(取得経験値 1/時間)+2P
運動Lv1(取得経験値 1/時間)+5P
商売Lv1(取得経験値 1/時間)+1P
人助けLv1(取得経験値1)+1P
魔法失敗は昨日の夜のぶんだろう。
情報収集LV1は消えている。昨日一度みたから消えたのかもしれない。
ほかは、学習Lv1で+2Pこれは学校の授業だろう。
体育以外は5時間授業があったのに2時間分しかカウントされてないのは……。
まあ、気にしない方がいい気がする。
運動Lv1が+5Pってのは謎だ。体育は1時間でそのうえ結構サボってたのに何故だろう?
……。
次の商売Lv1が+1Pってのは買い物なんだろうか?
ああ、運動ってもしかしたら、買い物中に歩き回ったウォーキングの分なのかもしれない。確かに5時間ぐらいありそうだ。
最後の人助けはたぶんりんを助けた時のだろう。
こうしてみると、経験値については、自分で探すよりも、日常生活をしていって、取得した内容を覚えておく方がよさそうだな。
というか……やっぱりどうやって私の行動を調べるのだろう?謎と言うより、少し怖くなってきた。
まあ、気を取り直して、
LvUPといえば、あ!、SPは……。うん、ちゃんと1P増えてる。
これでスキルが取れるな。今度は回復魔法あたりとってみるか。
コマンド→スキル
・剣装備
・鎧装備
・火魔法1(取得)-火魔法2(条件×)
・回復魔法1
・ガイド(条件達成)
火魔法2とガイドというスキルが増えていた。
ガイドの方は表示がボタンになっていて、すぐに取得できそうだ。
火魔法2の方は文字が灰色になっていて取得できそうにない。
それぞれ説明を見ると。
-火魔法2
Lv2火魔法取得(SP2)
前提:????
-ガイド(Pスキル)
色々な説明。内容は随時更新(SP1)
前提:行動を10種類行う
火魔法2はまだ取れそうにないな。そもそも、魔法の発動すら成功してないからな(笑)
ガイドか、ゲームのやり方さっぱりわからないから、ガイドあった方がいいよな。
というか、SP1必要な説明書ってのもひどいよな。
まあ、
『ガイド』取得っとポチポチっと。
『ガイドを取得しました。コマンドに”ガイド”が追加されました』
じゃあ、さっそく……。
「あおちゃん~ごはんできたよ~~」
キッチンからりんの大声が聞こえてきた。
もうそんなに経ったのか、りんを待たせるのも悪いし、ご飯食べに行くか。
食べられるものであればいいが……。
その日の夕飯は激辛カレーでした。
辛いを超えて舌がいたいほどだった。
だがまあ、まともな料理が出てきてよかった。
ちなみに、りんは自分で作ったカレーを食べるのに涙目だった。自分が食べれないもの作るなよな。




