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勇者になってみませんか?  作者: 七瀬 優
プロローグ
5/75

放課後

 放課後……。

 なんか今日は、学校での記憶がほとんど無いぞ。半分は睡眠学習してないはずなのに。(当社比1.2倍)

 めちゃくちゃ寝てるジャンとかツッコミが入るか微妙なラインだな。

 う~ん……。ま、何も無く平和だったんだな。

 そんなことより、ちゃっちゃと帰って昨日の続きをしよう。

 

「あおちゃん!一人でどこにいくつもり!?」

 ぼんやりと考え事をしながら教室を出ようとしていた俺を呼び止めたのは、おバカな幼馴染のりんだ。

「う、何かバカにされているような気がする」

 直感は結構鋭いんだよなこいつ、直感は……。

「大丈夫だ、正当な評価をしてるだけだから」

「そっか~じゃあ、バカにされてるわけじゃないんだ。それならいいや~」

 と納得してる。正当な評価として『バカ』という評価を下されてるとは考えないのだろうか?

 まあ、りんで遊ぶのはいつでもできるし、とっとと帰ろう。

「じゃ、またな~りん」と教室を出ようと

「じゃない!!話がまだだよ!」

「夜にでもうちに来ればいくらでも話ぐらいできるだろ……」

 う、何か背筋に寒いものが走った。何だ?

 周りを見回すと、怨念のこもった瞳を向ける男子が何人か。その瞳は語っていた「リア充死ね」と。

 あんなんでもりんは結構もてるみたいだしな。お前らの目は節穴かといってやりたくなるけど。

 ついでに、女子の方も興味しんしんと言った感じで聞き耳を立ててる気がする。

 リンはクラスの女子のマスコット(おもちゃ)にされているからな……。

「夜じゃ買い物にいけないじゃない!」

 私はいかにも怒ってますってふうにりんは口を尖らせる。ころころ表情が変わるやつだ。

 それにしても、「買い物?」 はて、何か約束でもしてたか?

「朝、授業前に約束したじゃない!今日買い物に付き合うって」

 朝……朝……朝……。記憶に無いな。いや、そもそも、朝の記憶そのものがない、何故だ?

「まさか、忘れてたとか言わないよね?」

 りんの表情に本気の怒りの色が見えたのであわてて考える。ああみえても、怒らすと色々面倒だ。

 う~ん、朝……。ああ、惰性のみで半分寝ながら登校したっけ?

 あ、そういえば、授業前気がついたらりんと何か約束してた気がする。

「あ~、なんかそんな約束したような気がしないでもない」

「わすれてたでしょ、あおちゃん」

 りんはジト目をこっちに向けてくる。

 まあ、平日の授業のあとの放課後だ、買い物に付き合っても、そんなに酷いことにはならないだろう。

「じゃあ、いくぞ、りん」

「うん、あおちゃん」

 うまくごまかして、りんの手を取ると、りんは満面の笑顔で握り返してきた。


『本日の営業はまもなく終了します。またのご来店お待ちしております。本日の……』

 平日の放課後の買い物なんてそんなに酷いことにはならない。そんな風に考えていた時がありました。

 ええ……、本当に……。

 精神的につかれた体を壁にもたれながら、デパートのすみの雑貨店の方をぼんやりと眺める。

 りんの奴はデパートから連れ出そうとする俺の手を振り切って雑貨店に突撃して、なにやら物色している。

 う~ん、休日ならともかく、平日はここまで酷いことになったことなんて無かったのに、なんでだ?

 何で、閉店時間の夜10時までぶっ続けでつれまわされることになったんだ!?

 いつもなら、適当に双方の見たいものを見て、適当に回って帰るのに……。

 あ゛そういえば、今日は金欠で俺の買い物とか無かったからか!?

 しまったな、俺の場合買い物は掘り出し物をみつけて”買う”事が目的だから、お金ない時は意味がないんだよな。

 

「あおちゃん、待った?」

 うん、待ちくたびれた、閉店の館内放送すら終わってる……って入り口閉められてないか!?

「りん、急ぐぞ。入り口もう閉めてる!」

「わ!本当だ~」

 二人で急いで外に出ました。そとはもう真っ暗でした。深夜営業の店いがいはほとんどしまってるし。


「じゃあ、パフェ食べに行こう」

 おい、りんまだまわり足りないのか?

「もう、店しまってるだろう」

「大丈夫だよ。いまどきのファミレスは24時間あたりまえだから」

 と有名チェーンのファミレスの看板を指差す。

「そっか、じゃあ一人で行って来い。俺はさすがにつかれたから帰る」

「えええええ~~パフェをおごる約束は?」

 思いっきり不満そうな顔でこっちを向いてくる。

「そんな約束……」ああそういえば、今日の授業中にそんな約束したような気がする。

「ふ、今日の俺のサイフは空っぽだ!」残金24円のサイフをりんに見せる。

「えええ~~約束したのに~~~」

 思いっきり不満そうな顔で文句をたれる。

「今日、おごるなんて誰も言ってないだろう?」

「う……。じゃあ今度おごってよ。絶対だよ!」

 念を押してくるが、「解った、解った」と適当に返事をする。まありんの事だから明日には忘れているだろう。


「で……今日は何を買ったんだ?」

 帰り道、りんに尋ねてみる。

「え?今日はただの下見だよ?」

 こっちに振り帰って後ろ向きで歩きながら返事をしてくる。

 おい、下見って何だ?そんな俺の表情をよんでか

「土日にあおちゃんと買い物行く下見だよ」

「まて、そんな約束した覚えはないぞ」

「え~、朝したじゃない」

 若干、目を泳がせながら答えてくる。

 うん、うそだな。

 そもそも、お前が明日以降の予定なんて立てて行動なんかしないだろう。

 計画的に動くなんてありえないからな。

「嘘をつくな。嘘を」

「じゃあ、今約束だよ。土日……」

「コトワル」

「買い物……」

「コトワル」

「い……」

「コトワル」

 りんは、若干涙目になりながらこちらを見つめてくる。

「今日のでこりた」本当に、心のそこから思う。女の買い物に付き合うものじゃないと。

「えええええええええ~なんで~~~」

 本当に心外だといった表情をしている。

 はぁ、まったくこいつは。


 ふと、視界の端に赤い何かが横切った気がする。

 改めて見やると、赤信号だ。

 あわてて足を止める。

 しかし、後ろ向きで話してたりんは当然そのまま気づかずに直進する。

「おい、りん」

 あわててりんに注意をしかけるが、視界の端に、トラックがスピードを落とさず走ってくるのが見える。

「え?」

 りんはまだ気づかない。気づいたとしても……。

 とっさに俺の体が動いていた。

 りんの体を突き飛ばそうと全力ダッシュ。

 すぐにりんの驚いた顔のすぐ近くまで迫って、そのまま追い抜きそうになる。

 あわてて抱きかかえ、そのままジャンプ。

 反対側の歩道に転がったところで、トラックのクラクションと甲高いブレーキ音が響く。

「あぶね~じゃ……」

 トラックの運転手が窓を開けて怒鳴りつけようとして、不思議そうに止まる。

 そのまま、何も言わずにトラックを再発進させて通り過ぎていった。


「あ、ありがとう」

 腕の中のりんが顔を赤くして、こっちを見ている。

 俺はそんなりんに答える事もできずにいた。

 

 今のは一体どういうことだ?

 絶対間に合わないと思うようなタイミングだったのに……。

 軽々とりんを助け出せてしまった。

 一体何が起きたんだ?

 りんを助けた安堵よりも先に大きな疑問が残った。


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