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勇者になってみませんか?  作者: 七瀬 優
プロローグ
4/75

勇者の効果?

 ドンドンドン

「おきろ~あおちゃん!朝だよ!」

 ドンドンドン

「おきろ~~~」

 扉を叩く様な音と、聞き覚えのある大声が聞こえる。

 だけど、俺はまだ眠いんだ。だから寝る。

「ぐ~~」

 ドンドンドン

「おきろ~~~~。まだ起きないか。しょうがないノックも十分だし部屋に突入だ!!」

 頭の片隅でそれノックなのか?とツッコミが浮かんだが、おやすみなさい。

「って、ベランダ開けっ放しじゃない!風邪引くよ!」

 なんか声が近くなった。うん、風邪ひいた。だから寝る。

「おきなさい!!!! あおちゃん!朝!!!!!」

 今度は耳元で声が響く。睡眠妨害だ。寝かせて……。

「おきろ~~~」

 耳にガンガン響く。うるさい。寝れないじゃないか。

「風邪引いた。だから寝る。おやすみ」

「え?本当に風邪?大丈夫?」

 声のトーンが落ちて心配そうな色合いがこめられた気がする。

 おでこにひんやりとした手の感触の後に、コツンと硬い何かに当たった気がする。

「うん、大丈夫ねつはなさそうだよ。と言う事で……」

 息を思いっきり吸い込む気配がして、

「お・き・ろ~~~~~~~~~~~~~~~」 

 という、頭がガンガンする超音波を放ちやがった。

「今日は寝る日にきめたから。おやすみなさい」

「………………」

 一瞬、寒気のようなものが走った気がするが、静かになったので改めて睡魔に身を任せる。

「ふ・ふ・ふ・ふ・ふ。これは最終手段しかないね」

 何か警告灯全力で点滅してる気がするが、そのまま夢の世界に……。

「えい!」

 一瞬、体が中に浮いたかと思うと、地面に叩きつけられる。

「ぐほぉ」

 背中をしたたかに打ってしばらく声もだせない。

「起きた?起きてないならもう一発ひつようかな?」

 とか聞き捨てならない事をつぶやいたので、無理やり声を絞り出す。

「起きた?とか聞く前にいう事があるだろう!」

 背中の痛みの非難をこめたつもりだったのだが。

「あ、そうだね。おはよう、あおちゃん。今日もいい天気だよ」

 よく見るとベッドから布団ごと床に落とされたようだ。

 怒りのあまり、無言でこめかみにグリグリした人が居たとしても攻める人はいないはずだ。たぶん。



「こめかみグリグリは酷いよ」

 トーストにバターを塗りながら文句を言ってるショートカットの少女は、東堂(とうどう) (りん)だ。

 隣に住んでいる16歳の同い年で腐れ縁のいわゆる幼馴染というやつだ。

 ほんの数日の違いだけで、お姉さんぶってるが、基本的にダメな妹分といった感じのだったりする。

「で、何で朝から俺の睡眠妨害しに部屋に突撃してきたり。人の家に上がりこんで朝飯たべてるんだ?」

「え、忘れたの!?お母さん達とおばさん達いっしょに旅行にでかけたでしょ。あおちゃんの事よろしくって頼まれたんだよ!」

 そうだった、うちの家族とりんの家族で一緒に旅行に出かけたんだった。置いて行くのも結構酷いと思うが、余計な置き土産はもっと酷いと思う。

「ごちそうさん」

 トーストの最後の一欠けらを口に放り込んで手を合わせる。

「ええええええ、もう食べたの!?まだバターぬれてないよ」

 そう言いながら、バターを押し付けてるトーストは真ん中に穴が開いていた。

 本当に不器用だな。りんからトーストとバターナイフを取り上げて適当に塗って彼女に返す。

「ありがと~」

 尊敬の眼差しを向けられるが、ちゃんと塗れない方が問題なんだからな。



 制服に着替えて、昨日つけっぱなしにしてたPCの電源を切ろうとマウスを動かす。

 画面にステータスが表示されたままだった。


 HP :14/15

 MP : 3/3

 SP :1

 EXP :2/10(経験値取得履歴)

 力 :2

 体力:2

 知力:3

 魔力:2

 速度:2

 幸運:2


 目に付いたのはHPが1減ってるのと、EXPが1増えてる事だ。だけど時間がないので、そのままPCをシャットダウンする。

 う~ん。朝の一撃は1ダメージだったのか……。

 もしかして、あと14発で俺は死亡なのか?さすがに試してみる勇気もないので、できるだけ今日はダメージを受けないように過ごそうと心に決める。

 ふあぁぁぁぁ。それにしても、今日はやけに眠いな。



 

 気がついたら、1時限目の古典の先生が教室に入ってくるところだった。

「あおちゃん、約束だからね!」

 念をおして、りんが去っていく。

 はて、何か約束しただろうか?う~ん、オートパイロットで学校まで来て、ついでにりんへの対応までオートだったらしい。

 ま、なんとかなるだろう。と思いつつ授業の準備をする。

 授業開始直後から、教壇に立つ定年間近のじいさん先生が強力な催眠魔法を放ってくる。

 おやすみなさい。

 コツ

 頭に丸めた紙が飛んでくる。気にせず、ぐー。

 コツ

 また飛んでくる。しょうがないので、紙を開く。

『授業中の居眠りは許さないよ。起きなさい!見逃してほしくば、わいろ(フルーツパフェ)があれば考える』

 注意の形をした脅しだった。適当に『OK』と書き込んでりんに投げ返す。

 これでゆっくり寝れそうだ。

 ……何か忘れてる気がするが、まあ気のせいだろう。おやすみなさい。



 次に起きたのは、数学の授業だった。

 教壇に立って額に血管を浮き上がらせてるのは生徒指導の担当で厳しいことで有名な先生だ。

「来栖川、私の授業で相当に余裕があるようだな。それなら一つこの問題を解いてみろ!」

 そんな怒声で目が覚める。

 しまった、数学の授業は起きてるつもりだったのに、時間割り変更でもあったか?

 って、時計は3時間目の授業中を指している。え……2時間目の記憶がまったく無い。

「聞いているのか?」

 う、教壇に立つ先生の浮き出てる血管が増えたような気がする。

 りんの方に目配せする。左右に小さく首を振る。役立たずめ……。

 しょうがない、腹を決めてダメ元で挑戦してみるか。

 黒板に書かれた長ったらしい数式を見る。

 あれ?今日はやけに簡単だな?

 暗算でスラスラと答えていく。

「せ、正解だ……」

 先生がなにやら驚いた顔をしている。まあ、寝起きで答えたのにビックリしたんだろう。

 さすがにあんなに簡単な問題なら答えれる。

 結局、その後は寝る勇気はなかった。



 4、5時間目と居眠りせずに授業を受けて、今日最後の授業の6時間目。

 科目は体育。

 この学校の体育は、選択制で好きな競技を選べる。

 俺が選んでいるのは陸上。理由は簡単。一番サボりやすいからだ。

 適当に2~3回記録取って、後は休んでいればいい。

 まじめにやる人と適当にサボる人とではっきりと分かれる種目だったりする。

 ちなみに、りんはバレーボールを選択したりしている。そこでは、恐怖のスパイカーとか呼ばれていたりする。

 今も、高く上がったボールにドンピシャのタイミングでスパイクを打つ。

 弾丸のようなボールが味方のプレイヤーの後頭部に直撃。

 撃沈された生徒は保健室送りになる。

 今日のキルスコアは何人になるだろう?

 ま、りんの殺戮スパイクをずっと見ててもしょうがない。ちゃっちゃと今日のノルマを終わらせよう。

 適当に50mを3本流す。

 計測係の同級生から今日のベストタイムだといわれる。

 そんなに本気で走ったわけではなかったし、そう足が速いわけでもないから、計測ミスか今日はみんなサボり組だったんだろう。


 授業が終わった後、ガックリと言った感じでりんが教室に向かっていた。

 「どうしたんだ?」とたずねると。

 「人数が足り無そうだからって、強制的にベンチに下げられてずっと見学だったんだよ」

 と残念そうに言っていた。お前は、今日はどれだけの犠牲を出したんだ!?



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