凛の秘策
毎日更新5日目。
もうすぐ1週間だ。
『りんの口笛大特訓』は今日もまた続いていた。
学校でも口笛の練習していて、何してるか聞かれたりんが、
「くちぶえの練習してるの」
という一言から、クラスの女子が教えようと始まった口笛教室。
なぜかいつの間にか男子も巻き込んでクラス中で口笛大会になってしまって、りんそっちのけで口笛ふきまくったり。
一人、吹けないりんが悲しそうにしょんぼりしていたり。
学校からの帰り道でも練習に夢中で電信柱にぶつかったり。
りんにしてはがんばって練習を続けて居たのだが、まったく成果は上がっていなかった。
そして、家に戻って練習を続けてるりんだが、昨日はじめた頃には120%ぐらいあったやる気も残り5%を切ったという感じだ。
「もう、疲れたよ~」
りんはリビングのソファーに突っ伏した。
とうとう、やる気も尽きたか……。
まあ、りんにしては持った方だな。
これは、『くちぶえ』のスキルでエンカウントするのはあきらめた方がいいかもしれないな。
そうなると、方法は2つか……。
1つ目はひどいエンカウント率を我慢して1回2時間で頑張る。
この場合、効率がめちゃくちゃ悪いということ以外はリスクは無いだろう。
まあ、それが最大の問題だともいえるが……。
2つ目は別の場所でモンスターを探してみる事だ。
RPG何かでも、平原よりも森や山の方がエンカウント率が高い。
なので、エンカウント率が高そうな地形もしくは、ダンジョン的な物を探してみる。
そうすれば、エンカウント率の問題は解決できるだろう。
こっちの場合は問題点はいくつかある。
1.エンカウント率の高い地形にしろダンジョンにしろ探してこなければならない点。
候補としては、近所の神社の周りに広がる森というか林、川原、ちょっと離れて県境のあたりの山か。
ダンジョンの方は候補すらない。
2.出現するモンスターの強さがわからない点。
たとえエンカウント率が高かったとしても、此方が全滅させられたり、苦戦するような相手では、逆に効率的とはいえない。
ゲームの中なら、経験値効率がすごく高ければ全滅のリスクが高くても、レベリングの価値はあるかもしれない。
だが、現実世界で全滅はさすがにまずい。
もしかしたらゲームの様な救済はあるかもしれないが、それを試してみるのはリスクが高すぎる。
失敗して死亡しましたとかでは目が当てられない。
まあ、家の周りでも強敵が出る可能性はゼロではないのだが、そのあたりを考えていては始まらないからな。
出現した敵と極端にかけ離れた敵が出る事は無いと思いたい。
あ、そうなると学校もあるのか?
でも、平日は半日いつもいるけどエンカウントは1度だし、高いとは思えないか……。
3.家から遠くで狩場が見つかったとしても、現状移動手段は自転車がせいぜいな点だ。
1時間かけて狩場に行って、1時間かけて帰ってきては平日にやるのは現実ではないだろう。
夜に戦闘をするのもそれはそれでリスクが高そうだし。
家から離れて戦うのは他にも、PCでステータス画面を弄れない事や、予想外の事態の時に逃げ帰るのにもきつい。
う~ん、いっそモンスター狩りをしないでレベリングするのは……。
それもひとつの手かもしれないが、Gの入手法が無いのがきついな。
ある程度、あの自販機で買い物もしたい。
などと、俺が考え込んでいると突然、
「あ! いいこと思いついた~」
と頭の上に電球マークでも点灯させそうな勢いでりんが飛び起きた。
うん……なぜだろう? まったくいいイメージが持てないな。
「何を思いついたんだ? 一応、言ってみろ」
何かまたバカな事をいいだすんだろうなと疑いの眼差しを向けてやるが、そんな事にはまったく気づかず、
「今日は大丈夫だよ。今回は秘策があるんだよ!」
と、自信満々に昨日の俺の台詞の真似をしている。
まさか、まねしたかっただけかと思ったが、
「『くちぶえ』とモンスター退治の準備をして家の前に集合だよ~」
とそのまま部屋を飛び出していってしまった。
まあ、どの道いきずまっているし、りんの思いつきを試してもいいかと準備に向かう。
ステータス画面を確認した。
俺のレベルに変化は無かったが、『火・範囲小』が増えていた。
『火・単体小』の熟練度が5になっていたから、多分、熟練度5で覚えたのだろう。
消費MPを確認してみると、
消費MP10:2*5(2MP/文字)
とあるから、一文字2MP消費のようだ。
大群と遭遇した時の切り札にするため、10文字で一発20MPで名前を決めることにした。
『ファイヤー・ストーム』ありきたりだけど悩んでも仕方ないのでサクッと設定する。
これは本当に切り札だ。
現状MPが全快でも3発しか打てない。
使う時は気をつけよう。
あとは、りんの『くちぶえ』の発動設定をONにする。
何気に、Lv17まであがっていた。
ざっと見たところ、HPはついに追い抜かれていた。
まあ、スキルとかの追加もなかったし、細かいところは帰ってからでいいか。
りんが痺れを切らす前にさっさと出かけよう。
そんな訳でりんの後についていったのだが……。
「ここでちょっとまっててね~」
着いた場所は近所のスーパー。
りんは一人で店の中に。
う~ん、りんはいったい何がしたんだ?
いつもとは違ってすぐに戻ってくる。
「おまたせ~あおちゃん。じゃあ行こう~」
来た道を戻り始める。
う~ん、りんはいったい何を買ってきたんだ?
「よーし。この辺で良いか~」
途中の十字路、周りを見回しても人の姿は無い。
まあ、住宅街なんて通勤通学の時間帯以外は人通りはすくないからな。
「で、こんな所にきてどうするんだ?」
「周りに人がいると、うるさい! って怒られる事がおおいから」
などとつぶやきながら、スーパーの袋からなにやら取り出す。
「テレレレッテレー」
自分で効果音までつけている。
りんが取り出したのは……
「うん? ラムネ?」
「そだよ~」
お菓子のラムネだ、ただ普通のラムネと違って、ドーナッツ状で確か中空になってたはずだ。
いわゆる、フエラムネというやつだ。
「って、まさか……」
りんは、袋を開けてラムネを一粒取り出す。
「ふふふ、そうだよ~これを口にいれて」カリカリ「美味しい~」
ズベシ
「さすがにそれは違うだろ!」
「ああ~つい食べちゃった」
りんは改めてもう一粒ラムネを取り出す。
「口に入れて~ははかはひひほほほひひひふひまふ」
う~ん、「鼻から息を思いっきり吸います」かな?
りんは胸を膨らませて一気に。
ピーーーーーーーーーーーー
街中に聞こえると思えるくらいとんでもない音でラムネを吹く。
顔を真っ赤にして力いっぱいって感じだ。
まあ、途中からなんとなく解っていた。
りんの浅知恵だしこんなもんか。
と、そこで嫌な予感とともに、
もしこれが成功したらどうなるだろう?
という考えがよぎった。
いや、遠くから聞こえてくる妙な音がそう感じさせたのかもしれない。
なぜだろう?
嫌な予感がどんどん強くなる。
一つ一つは殆ど聞こえなくても、大量に集まることで音になったかのような。
妙な音はますます大きくなっていく。
俺は、想像が外れてくれることを願いながらその音の方角に目を向ける。




