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勇者になってみませんか?  作者: 七瀬 優
第一章 名称未定 りん「りんの大冒険がいいよ!」
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くちぶえ

毎日更新4日目。


この調子で続けばいいな。


 今日も一日何事も無く……とはいえないが、学校から帰宅した。

 いつもの通りの居眠り常習犯のりんだが今日は居残りの補習は無かった。

 緊急の職員会議があるとかで教師が全員手が空いてなかったのだ。

 なんかこのごろちょくちょく話題に上がってた行方不明について話し合うとか担任がホームルームでもらしてた。

 行方不明になっても二三日でみんな戻ってくるのでまだ大事にはなっていないが、色々危惧したらしい。

 部活に入ってない俺は他学年などの情報に疎いのであんまり気にしてはいなかったが、結構な人数になってるようだ。

 戻ってきているというなら、モンスターに食べられてるようなことも無いだろうしその点は、少し安心したりした。


 まあ、その辺は置いておく。

 俺は帰宅してすぐ、PCで準備を整えた。

 もちろん、モンスターでレベリングする準備だ。

 昨日みつけた『くちぶえ』のスキルをりんに使わせてガンガン倒してレベルを上げるのだ。


 準備を整えて一階のリビングに行くとそこには、ソファーでお菓子片手にくつろぎながらテレビを見てるりんが居た。

「りん、いくぞ」

「え? どこかに行くの?」

 ああそういえば、りんに話してなかったな。

「今日もモンスター倒しに行くぞ」

 二つ返事で喜んでついてくると思いきや、

「ええええええ、昨日全然でなくて疲れたから嫌だよ~留守番してる」

 まあ、俺も昨日みたいに2時間歩き回って1回戦闘とかいうならさすがに行きたいとは思わないからな。

「今日は大丈夫だ。今回は秘策がある!」

「ひさく? どんなどんな?」

 興味津々に聞いてくるりんに

「まずは準備して来い」

「うん! わかった」

 まったく現金なやつだ。



 5分とかからず準備を終えたりんと一緒に家の前の道路に出る。

 住宅街の道路で車が通ることもめったに無い。

 通るとしたらご近所さんだけといった感じの場所だ。

 まあ、だから道路の真ん中に話していても特に問題になることは無い。


「あおちゃん、あおちゃん、ひさくって何? 何?」

 我慢しきれず聞いてくるりんに俺は答えてやる。

「モンスターを呼び寄せるスキルを見つけたんだよ」

「おおお~それを使えばすぐに戦えるね」

 などと言いながら準備運動をはじめるりん。


「準備できた。あおちゃんモンスター呼んで~」

「モンスター呼び寄せるスキルは俺のじゃなくてりんのだ」

「わたし? わーすごい。どうやるの?」

「ああ、くちぶえを吹くとその音を聞いたモンスターが集まってくるらしい」

「うんうん、それで?」

「だからりんは、くちぶえを吹くだけでいいぞ」

「おおお~簡単だね~じゃあ早速はじめよ~」

 この時まで俺も『くちぶえ』のスキルを発動させてモンスターを呼ぶことは簡単だと思っていました。

 それが甘かった事をすぐに知ることになる。



「じゃあ、あおちゃん行くよ準備いい?」

「おお~いいぞ~」

 りんは唇をすぼめ息を吸う。

 そして……。


 スーーーー。


 スースー。


 フスー。


 りんの口から空気を吹く音がかすかに聞こえる。

 それだけがかすかに聞こえる。


「どうだ? モンスターきた?」

 りんはきょろきょろと周りに視線を向ける。

「…………」

「あおちゃん、モンスターは? モンスターはどこ?」

「…………」

「いないよモンスター」

 それでもりんはモンスターを探すのはやめていない。

「……りん……」

「なに、あおちゃん?」

「くちぶえ吹けてない」

 そうなのだ、りんはくちぶえが吹けなかったのだ。


 その後、指を口にくわえて吹くやり方も試してみたが、りんのくちぶえは成功しなかった。



「これはくちぶえの特訓が必要だな」

 リビングに戻ってきた俺はそう宣言する。

「うん、わかったよあおちゃん。がんばるよ!」

 りんもやる気だ。よっぽどモンスターと戦いたいのか、それとも特訓という言葉に引かれたのかどっちだろう?

 その前にPCでりんの『くちぶえ』のスキルの発動設定をOFFにしておいた。

 練習がうまくいっていきなり準備なしでモンスターが現れても困るからだ。

「じゃあ、まずは手本をみせるぞ」

 おれはくちぶえを吹いてみせる。


 ヒューヒューヒューヒュー


 よくやる冷やかすときに吹く感じでやってみた。

 俺もそこまで得意ではないから音程を自由自在に使い分けて楽器代わりにはできない。

 だけど、今回は音さえ聞こえればよさそうだからこれで十分だろう。

「おお~すごい~私もやってみる」


 スースーフスーフスー


「どう? できた?」

「全然ダメだな」

「う~ん、難しいね」


 こうして、なぜだかいきなり『りんの口笛大特訓』がはじまったのだ。




「今度こそ!」

 

 フスーフスー


「やっぱりダメだ~」

 あれから一時間近く続けているが、一向に上達の気配が無い。

 どうしたものかな?


「それにしても何かおかしいよ!」

 多分、なかなかうまくいかないから飽き始めているのだろう。

「何がおかしいんだ?」

 りんがどんな言い訳を始めるのか少し興味をもって聞き返してみる。

「だって、なんでやねん! とか」

 そう言って俺に『ツッコミ』を使うりん。少し痛いぞ。

 俺がグリグリのお返しをしようと考えていると。

「スキルって勝手に動いてくれるのにくちぶえだけ練習しないと使えないなんて変だよ!」

 ああ、なんとなく言いたいことはわかった。

「それはな……」



 RPGのゲームなどには大雑把に言って2種類の系統のスキルが設定されていることが多い。

 アクティブスキルとパッシブスキルだ。


 まずアクティブスキルは簡単だ。

 スキルを使うと必殺技が発動したり、体力を回復させたりするような類のスキルだ。

 プレイヤーが自発的に発動の命令を与えるタイプである。


 逆にパッシブスキルというのは、ステータスが恒常的に5%UPしたり、毒などの状態異常にかかりにくくなるなどの類のスキルだ。

 自動的に常時発動し、スキルの効果を発動し続けるタイプである。

 

 さて、今回のりんの『くちぶえ』のスキルだが、もしこれがアクティブスキルであったなら、こんなに苦労する事はなかっただろう。

 スキル発動させれば、自動的に『くちぶえ』を使えたはずだ。

 問題は今回『くちぶえ』のスキルがパッシブスキルだという点だ。

 どうやら、このスキルはプレイヤーが吹いた口笛に、モンスターを呼び寄せるという効果を付与するようである。

 なので、口笛が吹けないと効果が発動しないという事態におちいったのである。

 


 という感じで、りんに説明してみた。


「うん、解った」

 おお、りんにしては物分りがいいな。知力UPの効果か?

「良くわからない事が解った」

 と思ったら全然理解できてなかった。

「だから難しいことはあおちゃんに任せるよ~」

 一瞬、りんがバカばかりやって一向に改善する兆しが見えないのは俺のせいなような気がした。

 それよりも、『くちぶえ』のスキルを使えるようにするのが先だ。

 多分深く考えたら色々だめな気がする。

 

 

 その後、寝る前まで『くちぶえ』の特訓が続いた。

 2時間かけてモンスターとエンカウントして経験値稼ぐのと、りんが『くちぶえ』使えるようになるのどっちが効率いいのだろう?

 その夜、俺は真剣に悩み始めた。 




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