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勇者になってみませんか?  作者: 七瀬 優
第一章 名称未定 りん「りんの大冒険がいいよ!」
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のどかな放課後?

 本日の授業もおわり帰宅部の人間にはのどかな放課後のはずなのだが……。

 何故こうなった?


 教室はぴんと張り詰めた緊張感。

 ほんの小さな音すらたてられないような雰囲気に包まれていた。

 まあ、こいつはそんな空気読むような奴じゃないよな。

「あおちゃん、帰ろ! すぐ帰ろう」

 と思ったのだが、りんは頑なにそちら(・・・)を見ないようにしながら言葉を続ける。

「かきゆてきすみやかに帰ろうだよ。あおちゃん」

 可及的速やかにとかりんが使うのも驚きだが、何をそんなにあせっている、りん。

 それに、教室の前後の出口をふさいでいるあの人たちをどうにかしないと帰れそうにないだろう。


 それは……。

 ホームルームが終って先生が去って暫くした時、ごつい男を筆頭に何人かの男子生徒が教室を封鎖したのだ。

 その男は、ほほには一文字の、何か凶暴な動物にでも引き裂かれたような感じの傷跡があったり。

 体格はガッチリして一種異様な空気をまとっていたり……。

 高校にはあまりに場違いな、コロシアムか何かで戦っている方が似合ってそうな人物だった。

「ここに小娘が居ると聞いたが? どこだ?」

 凄く低くてドスの聞いた声を出している。

「番長だ」「まじかよ」「なにをやらかしたんだ?」

 などなど声が聞こえてくる。

 驚くべき事に、あの男はこの学校の生徒らしい。

 それも結構有名な生徒らしかった。

 ほんとかよ……高校生離れしすぎだろ……。


 なんて事があって、早5分一向に去る気配がなく、教室は緊張に包まれている。

「あおちゃん、今日は早く帰らないと」

 りんは問題の番長達にはいっさい顔を向けようとせずずっと帰るのを促してくる。

 何かおかしいな。

 りんだったら、何かトラブルが起きたら真っ先に突っ込んでいく。

 火事の野次馬なんて気づいた時には現場に走り出してる感じなのだ。

 それなのに、今回はまったく、いや意識的に顔を向けようとしていない。

 なんとなく、ピンとくるものがあって、探りを入れる。

「りん、今度はなにやらかした?」

「…………」

 ピシっという感じでりんが固まる。

 うん、これは何かしたな。

「で、何をやらかしたんだ?」

「な、なにもやってないよ。ほんとだよ」

 目が泳いでいるぞりん。

 なので、もう一度、

「で、何をやらかしたんだ?」

「な、何もしてないよ」

 一語一句変えずにもう一度たずねる。

「で、何をやらかしたんだ?」

「な、な……」

 りんの言葉にかぶせるように、

「で、何をやらかしたんだ?」

「こ、ころんだだけだよ」

 やっと話す気になったか。

「で?」

「昼休みに……こ、ころんで、ぶつかっただけだよ」

 昼休みの騒ぎはそれだったのか……。

 まあ、不良にぶつかって因縁つけられるのはよくある事だよな。

 ただまあ、教室にまで追いかけてくる執念深いのはなかなか見ないけど。

「その勢いで突き飛ばしちゃったんだよ」

 まあ、廊下を走ってる時にこけたら突き飛ばすぐらいあるかもな。

 りんはこのごろこけやすいんだから、気をつけろといつも言ってるだろうに……。

 …………。

 何か忘れてる気もするがまあいいか。

「その先に階段があって……」

 うん?

 何か不穏な言葉が聞こえた気が……。

「そのまま、階段から転がりおちていっちゃっても私悪くないよね?」

「…………」

 階段から突き落としたのか!?

「怖い顔して追っかけてきたから必死に逃げても、当然だよね?」

 そのまま、謝りもせず逃走したのか!?

「りん、見舞いにリンゴぐらい持っていってやるからおとなしくつかまって来い」

 ま、今のりんならそうそう大怪我とか大事には成らないだろう。

「え? 高級なメロンとか高級なイチゴとか高級なブドウとかじゃないの?」

 りん、問題は見舞いの品の方なのか……。

「スーパーの1個100円以下の安いリンゴに……ごめん、金欠だから冷蔵庫に入ってるリンゴだな」

「ひどいよ、あおちゃん、高級ふるーつぐらい持ってきてよ」

 高級の方に重点があるのか……りん。

「ま、それはともかく、ボコボコにされて来い」

「え? あおちゃん助けてくれないの!?」

 ものすごいショックを受けたように打ちひしがれる。

「今日のあおちゃんい、じわるだよ~~~」

 と走り去っていく。

 教室の入り口の男。番長と呼ばれてるらしい……。の顔には青筋がいくつも浮かんでいる。

 俺とりんのバカ話を続けてる間、刻々と増えていってたのだ。

 りん、そのままおとなしくつかまっておけ。

 と思ったのだが、りんは他の生徒も巻き込む気のようだ。

 『サヤちゃん』に

「あおちゃんがいじめる~~~~」

 と泣きついていた。

「大丈夫、私はりんちゃんの味方だよ」

「あおちゃん今日は酷いんだよ。居眠りしてるとボカスカと叩いてくるの」

「…………」

 『サヤちゃん』が目をそらしている。

「何か面白そう」と言って何発か彼女も叩いてたからな。

「酷いと思うでしょ?」

「そ、そうね……」

 う~ん、りんそろそろ番長さんを無視するのもやめた方がいいと思うぞ。

 怒りで顔が真っ赤に染まってるぞ……。

「おい、小娘。いいかげんにしないか?」

 殺気のこもったその声に、りんはビクっと震える。

 しかし、それ以上の反応を見せた人物がいた。

「私の友達になんの御用ですか?」

 顔に見た事もない笑顔を張り付かせた『サヤちゃん』だった。

 おかしいな、顔の表情は確かに笑顔のはずなのに、ものすごく恐ろしく感じるぞ。

 なぜだ?

「小娘はお前の友達だったのか、鬼ひ……」

 最後の言葉を言い終わる前にプレッシャーが倍以上に膨れ上がった。

「何か御用ですか?」

 すごいな、番長に負けてない。

 いや、番長が少し押されている!?

 番長と『サヤちゃん』の間に火花が飛び散る。

 教室に居るほかの生徒はもちろん、番長の連れてきた取り巻きさえ誰も動けない。

 そんな一触即発の雰囲気。

 どうするんだこれ?

 そんな空気を読んでか読まずか、りんがペコリと頭をさげて。

「昼休みぶつかってごめんなさい」

 と頭を下げていた。

「そ……わ、わかればいいんだ。次からは気をつけろ」

 反射的に何かを言いかけたが、その瞬間に爆発的に『サヤちゃん』からのプレッシャーが高まったように感じた。

 それに押されてだろう。番長は素直にりんの謝罪を受け入れて、そのまま教室から去っていった。

 う~ん、今の謝罪、タイミングとしてはこれ以上ないタイミングだったな。

 『サヤちゃん』との連携もばっちりだったし。

 今のをりんが狙ってやったとしたら恐ろしいな。 

 

「ありがと~サヤちゃん。さっすがサヤちゃんだね」

「私は何もしてませんよ」

 『サヤちゃん』の笑顔はいつもの様子に戻っている。

 


 今のを見ても何事もなく何時も通りに付き合えるりんは、凄いと思った。

 そして、『サヤちゃん』は一体何者なのだという大きな疑問が残った。

 本当に、何者なんだ!?

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