装備を探せ
「という訳で、りんの部屋に行くぞ」
「え? え? 私の部屋で遊ぶの?」
喜んで駆け出そうとするりんに、
「お前の部屋で武器を探すんだよ」
こいつ、モンスター退治に行くために必死に武器探してたんじゃなかったのか?
「え~? 私の部屋に武器なんてないよ~」
あるだろ、お前の部屋には……。
あの混沌とした場所には……。
という訳で、りんの家の2階。
さっきまで居た俺の部屋の、すぐ隣だ。
まあ、屋根伝いで来たほうが早いぐらいの距離ではある。
「あおちゃん、入らないの?」
後ろからりんが不思議そうにたずねてくる。
「う……」
このりんの部屋へと続く扉。
本当は封印してしまいたいぐらい、あけたくないんだよな。
でも……あけるしかないのか……。
なんて迷ってたからだろうか。
りんがガチャと躊躇なく扉を開いて、はいっていく。
「あおちゃんも早くおいでよ~」
しょうがない、意を決して入っていく。
そこには……。
ファンシーなピンクで統一された、女の子らしい部屋があった。
「りんの部屋が消えた!?」
俺は驚きもあらわにそう口にしていた。
「ここが私の部屋だよ!」
何をいってるのあおちゃんとでも言いたそうに顔をしかめる。
「り、りんの部屋がこんなにきれいなはずがない!!」
「し、しつれいだよ、あおちゃん。私の部屋だよきれいに決まってるじゃない」
ほほを膨らませてプンプン怒りながら抗議する。
そんなはずはない。りんの部屋はもっと、ぐちゃぐちゃで滅茶苦茶なはずだ……。
あの大量にあった物はどこに行った?
洋服ダンスの中か?
いや、あれでは小さすぎる、入るはずがない。
それじゃあ押入れか?
押入れでも小さすぎるか……。
まさか、押入れから天井裏をぶち抜いてそこに隠してる?
う~ん、りんにそこまでの知恵はなさそうだし。
天井裏は荷物を詰め込めるほど頑丈にはできてないはずだ。
そんな事をしたら天井が抜けるだろう。
う~ん、どこにいったんだ!?
「あおちゃん何かさがしてるの?」
「お前の部屋にあった、ゴミの山はどこにいった?」
「私の部屋にゴミの山なんてないよ」
嘘をつくなと言いたいが、話は進まないので、譲歩する。
「そうだな、ゴミなんて言って悪かった。あのガラクタの山はどこにいったんだ?」
「ガラクタでもないよ! あれは宝の山だよ」
何かえらそうに胸を張っている。
「まあ、宝の山とよびたいならそれでいい。で、それはどこにいった?」
「あ゛……」
りんは俺から目をそらすと、
「た、宝物なんて隠してなんかないよ、本当だよ」
そうか、どこかに隠したのか?
「で、どこに隠した?」
「か、隠してないよ」
う~ん、これはしゃべらすのは面倒そうだ。
それならと、俺は部屋の外に出ようとする。
「こっちになんて隠してないよ!」
りんは俺が部屋から出ないように通せんぼする。
うん、実は白状してるって気がついてるのか?りん。
まあ、りんを押しのけて廊下にでる。
さてどっちだ?
階段の方に向かって行く。
りんが邪魔する様子はない。
1階ではないのか。
う~ん、とは言っても、確か2階にはおばさん達の部屋とおじさんの書斎、トイレと……あとは客間ぐらいだったはずなんだが……。
おばさん達の部屋や書斎に行こうとしても思ったとおり、じゃましては来ない。
まさか、りん。少しは知恵をつけて邪魔をしないようにしたのか?
そうなると……しらみつぶしに探すとか面倒な事になるな、どうするか。
そんな事を考えながら客間の方へ足を向けた時。
ものの見事に、りんは行くのを邪魔してきた。
まあ、りんにそんな知恵はなかったか。
「こっちは、お客さんが来たときの部屋だよ!」
うん、それは知っている。
だから何もなかったら邪魔もしないよなりんは。
「な、何で客間に行こうとするの!?」
もちろん、りんの態度が怪しいからに決まってるさ。
「あ、あけちゃダメだよ!!」
た、確かにあけない方が幸せな気がする。
だが、ここまで来たんだ。
心を決めて「えい」とばかりに扉を開ける。
そこは……。
まさにゴミ捨て場と言った感じで物が滅茶苦茶に詰め込まれていた。
「うん、これこそりんの部屋だ」
その光景に俺は逆に安心した。
りんの部屋がきれいに片付いている方が落ち着かなかったんだ。
中身は結構増えているが、知っているものもいくつかあるな。
まず目に付くところで、ペ○ちゃん人形。
あれって店先に設置してある奴のはずなんだが、どうやって持ってきたんだ。
他にも薬屋のかえるの人形。
あれは知っている。
りんが一日店の前で欲しそうにずっと眺めてたら、薬屋のおばあちゃんがかわいそうになってくれたんだったな。
あの時、俺も付き合わされた覚えがある。
持ち帰るのに酷い苦労した覚えも。
他に目に見えるような大きい人形は……カーネル○ンダース人形?
いやあれは、そのパチモンの中国かどこかのファーストフード店の奴か?
って、どこから手に入れてきたんだ?
他にも交通標識、あれは落石注意か?
勝手に持ってきたら問題だろあれ。
何処かのネオンサイン、古タイヤ、コーン、大型ライト……。
見るだけで大きな物も色々とある。
細かな雑貨にいたっては埋もれていて良くわからないほどだ。
さてと、ずっと見ていてもしょうがないので、俺は準備してきた登山用の頑丈なブーツを履いてその部屋に入っていく。
りんもなれたもので、いつの間にか玄関から持ってきた長靴を履いていた。
この部屋には素足はもちろんスリッパですら危険なのだ。
ガラスの破片が落ちてるのはまだマシな方で、刃物が何気なく転がってたりするのだ。
思えば、りんは良くこんな部屋で生活できていたな。
まあ、前見たときは、部屋半分をガラクタ置き場、半分をベッドと生活スペースに区切っていたような気もする。
境界線がどんどん、侵食されていた感じで生活スペースは日に日に減っていってた気がしたが。
ついに、生活スペースがなくなったのかもしれないな。
「あおちゃん~探さないの?」
おお、そうだ、忘れてしまいそうになるが、今日探しにきたのは、装備できる武器だ。
早速……。
まず見つけたのは、木刀。
確か修学旅行のお土産にりんが買った奴だよな。
危ないから取り上げたのにいつの間に取り戻したんだ?
次は竹刀。
ああ、授業で使った奴だな。
俺の竹刀はどこにやったけな?
え……武士が着るような鎧兜!?
何でそんなものがあるんだ?
あ、5月人形から強奪でもしたのか?
あ、あれはレイピア?
フェンシングをしてる奴からもらいでもしたのか?
本物のレイピアではないよな?
そうだよな?
他にも出るわ出るわ、大きな木槌、バールのようなもの、鉄扇、ピアノ線、死神の鎌?、メリケンサック……。
う~ん、ダーツを見て安心してしまうのは何故だろう……。
「あおちゃん~これなんかどう?」
りんは白木作りの杖を振り回している。
まあ、杖としては高価なんだろうが、武器としては微妙だな……。
なんて思っていたら。
「これには秘密兵器があるんだよ!」
とか言いながら、シャランと刀を抜く……。
「は!? 仕込刀!?」
その光る刃が妙に本物っぽく見えた。
「これすごいんだよ~」
ポケットに入っていたティッシュを一枚取り出すと刃の上に落とす。
ヒラヒラと刃に近づいていき、そのまま真っ二つに……。
「ほら~よく切れるんだよ~」
喜んで刀を振り回す。
まさか、真剣なのか!?
それも恐ろしい切れ味じゃないか。
「どこかで手に入れたんだそれ」
俺は思わず尋ねずには居られなかった。
「仲良くなったおじいちゃんからもらったんだよ~。背中の絵がカッコいいんだよ~」
…………。
……。
りんさん、それは絶対に堅気じゃないよね……。
結局りんの部屋(物置)の探索は想像以上の成果を上げた。
まさか業物の真剣が出てくるとは思わなかった。
それらの武器を、俺の部屋まで運んでPCで装備出来るかどうか確認した。
わざわざ運ぶ時は箱に入れてガムテープで封までした。
たしか、梱包しないと銃刀法で逮捕されかねないんだよな。
そんな努力の甲斐もなく、装備できた武器は一つもなかった。
これは、ゲームイベントで手に入れるアイテムじゃないと装備できないのかもしれない。
思い当たるイベントは、クエスト、ダンジョンの宝箱、モンスタードロップ、武器屋で買うってところか。
う~ん、狙えそうなのはモンスタードロップか……。
モンスターと戦うために武器が欲しいのに肝心の武器はモンスターを倒すと出てくるかもしれない。
素敵な堂々巡りだな。
「あおちゃん~これでモンスターもバンバン倒せるね!」
仕込み刀をぶんぶん振り回している。
もちろん仕込み刀は没収して封印した。
万に一つモンスターに効果的だという可能性は捨てきれないが、確実な事が一つだけある。
あんなもの振り回したら警察につかまる。
そして、誰かが怪我をする。
…………。
……。
モンスター倒す事ばかりに目がいっていたが……。
RPGと違って武器は普通に携帯しても問題ない範囲じゃないといけないな……。
そんな武器あるのか?
武器探しは、武器であって武器に見えないものなんていう難題が追加された。
ほんとうに、どうしたらいいんだ?
一部追記 2013/04/04




