マスコットレベルUP?
俺達のほうを見て、クスクスと忍び笑いしながら女子の集団がすれ違う。
朝、家を出てから、人とすれ違う度にこんな感じで笑われていた。
「なんか、私達笑われてない?」
りんが不思議そうな顔をする。
「なぜだろうな?」
そ知らぬ顔で答えてやる。
う、笑いをこらえるのが辛い。
「ほんとになんでだろう?」
りんの疑問の声を聞き流しながら、こっそり、りんの顔から視線をはずす。
「おっはよ~」
りんが元気に教室に入っていく。
俺も続いてはいっていくが……。
「「「………………」」」
教室がシンと静まり返った。
確かに、これを見たら一瞬固まるよな、まあその後大爆笑だろうが……。
あと、少しでみなの硬直が解けると思った、一瞬まえに、
「うわ~~かわいい~~~~」
何か一人の女子がハートマークを撒き散らしそうな感じでりんに抱きついてきた。
「かわいい~~~~」
その女子の様子にクラス中があっけに取られる。
「サ、サヤちゃん、ど、どうしたの?」
りんは目を白黒させている。
「りんちゃん、語尾に『ニャ』ってつけて~」
りんにの顔にスリスリしながら『サヤちゃん』……う、ほんとに名前忘れたな、今度りんにそれとなく聞き出しておこう。いまさら聞けないしな。
「にゃ?」
「かわいい~~お持ち帰りしたい~~~」
「どうしたにゃ? サヤちゃん変だにゃ!」
「食べちゃいたい~~」
『サヤちゃん』の何かに火をつけてしまったのかもしれないな。
あとりん、律儀にネコ言葉にしなくていいぞ、暴走に拍車をかけてるから。
「あおちゃん~助けてニャ~サヤちゃんがおかしくなったニャ~~」
りんの声に若干のおびえが混じり始めたところで、周りの女子達がりんと『サヤちゃん』を引き離す。
「落ち着いて」「正気に戻って」「冷静になろう」とか色々声が聞こえる。
ただ、りんの周りで『サヤちゃん』からガードしてる女子達の目にも『サヤちゃん』と同じ狂気が少し見えるような気がするのは気のせいか?
「うう、酷い目にあったニャ」
その言葉に『サヤちゃん』が微妙にウズウズしてるのが少し気になるが、一応沈静化した。
「なんで、こんなことになったニャ?」
りんの言葉に、女子の一人が手鏡をりんに見せる。
ソレを覗き込んで
「私の顔がネコになってる~~~」
と驚いていた。
う~ん、何か驚くポイントが違う気がするんだが……。
「それ来栖川君にやられたの?」
と言う女子の質問に
「あああああああああああああああ~これやったの、あおちゃんなのニャ!?」
いまさら気がついたかりん。
そして、非難とかならまだわかるのだが、グッジョブと言いたげにサムズアップしてるのは友達としてどうなんだ?
まあ、やった俺がいえたことじゃないのだが。
「あおちゃん酷いニャ、どうしてこんな事をするニャ?」
「本当に……来栖川君、こんな酷い事(いい仕事)をするなんて……」
うん、『サヤちゃん』微妙に本心が漏れてるから。
「りん、心当たりがあるはずだぞ? 特に土曜日になにやったか思い出してみるといい」
「え? 何かあったニャ? ご飯食べて、あおちゃんの部屋でお昼ねして、遊んで、寝てるあおちゃんに、ら……」
あわてて目をそらす。
「何にもなかったニャ。あおちゃんの顔に落書きなんてしてないニャ」
まあ、とぼけても別にいいさ、ちゃんと仕返しは出来たしな。
あ、そういえば、もう一人お仕置きしないとだめな奴がいたな……。
「ところで、『サヤちゃん』?」
「来栖川君にサヤちゃんなんで呼ばれる覚えはないんだが?」
少し不快感をこもってる。
『サヤちゃん』と言うあだ名に何か思い入れでもあるのか?
りん以外がそのあだ名使ってるのも聞かないしな。
「いや……、『サヤちゃん』と言う人から妙な事を吹き込まれたとりんが白状してな……」
『サヤちゃん』に視線を向けると、額に冷や汗が浮かぶのが見える。
「……あ、ちょっと用事があるんだった……」
と言って逃げようとする。
「逃がすか!」
すばやく間合いをつめて、こめかみにグリグリを食らわす。
「りんちゃんに聞いてたけど……ものすごく痛いねこれ」
頭を手で押さえながら力ない様子だ。
「そうだニャ。あおちゃんのグリグリはものすごく痛いニャ!」
りん、なんで胸をはってえらそうにしてるんだ?
ま、ちゃんと二人にお仕置きできたしよしとするか。
ただ、周りのクラスメイトが「来栖川恐ろしい事するよな」「勇気あるよな」「彼女にあんなことするなんて……」などと少し恐れのこもった声でしゃべってるのが少し気になった。
その後、りんが朝のホームルームまで顔を一生懸命洗っていたが、ほんの少し落書きが薄まったていどで、殆ど落ちていなかった。
まあ、油性ペンだったからな。
俺のときも相当時間かかったし。
あと、りん猫言葉気に入ってないか?あの後ずっと続けてるよな。『サヤちゃん』の理性が微妙に危ういぞ。




