第35話 彩希さんのヤンデレ部屋
「よ、ようこそです。桐生君。わ、私の家へ」
「あ、ああ。お邪魔するよ………しまった。そういえば彩希さんと俺ん家近所だったんだ」
「そ、そうです。私のお母さんと桐生君のお母さんは、昔から親友で、それで私と桐生君は本当に小さい頃からずっと一緒に居てくれたんです」
何故か嬉しいそうに照れる彩希さん。
しまった。そうなんだよ。彩希さん家と俺ん家。住んでる場所が俺ん家数件先じゃないか。つうか俺ん家が真ん前に見える。
小学生の頃は彩希さんの弟の仁と公園で良く一緒に遊んでいた関係で、彩希家へもちょくちょく遊び行っていたが。
中学に上がる頃には、仁とも疎遠になって彩希さんとも全然、会話をしなくなっていたから彩希家の位置とかうる覚えになっていた。
凪と柊に見つからない様に彩希家に来たが、ここで萌萌にでも見つかれば更に話がややこしくなる。早く中に入らないと不味い。仁の奴が居れば、一緒に遊んで時間を潰し、深夜帯にでもなったら家の裏口から自室に帰る算段だったんだが。
彩希さんが何故か、恍惚の表情で空を見上げている。何か少し怖い。
「そういえば。彩希さんの弟の仁は家の中に居るのか?」
「仁? 仁君ですか? 仁君なら本格的な英語を学びたいからと言って、オーストラリアに語学留学に行ってますよ。母と父は夜勤で今夜私と桐生君だけです」トゥンク♡
ぎこちないなく右の固めでウィンクしているが、不自然だし、何か怖い。柊ならしょっちゅう、キャルルルーンとか言う擬音が出てきそうなうなポーズで、可愛いらしくウィンクできるだろうが。彩希さんは何か本当にぎこちない。
……しかし参ったな。仁が居ないって事はこのまま彩希家に入ったら。
「こ、ここが私の部屋の入り口です」
………入ったら。
「ここが私と桐生の部屋の中です」
ガチャ……ピピピッ!………ガゴンッ! ゴトッ!
………入ったら。
「これからは私とずっと一緒ですよね。桐生君」トゥンク♡
カチャッ!
………入ったら部屋に案内されて部屋をロックされたんだ。
そして、手には手錠をかけれ、彩希さんは嬉しそうに息をハァーハァーさせながら両手を未来飼育日○のヒロイン。ガーサーイーユーンの様に顔に両手を当てて喜んでいた。
「………そうか。仁は居ないのか。選択筋間違いたか? つうか部屋の壁中、俺の写真が張られまくってるんだ? あれって俺の2歳くらいの時の写真だろう? それが左端から成長記録みたいになら張られてるな」
俺はそうして壁へと近付こうとした瞬間。
「こ、これが私の宝物です。触っちゃ駄目です!」
「うわぁ! 何でいきなり抱き付くんだ。倒れるだろう」
彩希さんに後ろから抱きつかれ、ドサッと床へと2人で倒れ転んでしまった。
「……宝物? あれ? 何か小さく誰か写ってるのは彩希さんか?……写真も、これにも……俺と彩希さんが写ってるのか?」
「そうです。こ、これは私の大切な宝物で……私は今も変わらず。桐生君の
事が……好きなんですからあぁ!」
「んがぁ?! ちょっ! いきなりキ……」
俺と彩希さんの唇が重なり合う。萌萌に続き今月2人目の女の娘とのキス。
「ぷはぁ!……へ、下手な。キスでごめんなさい。で、でもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでも。この気持ちには嘘をつけないんです。暗くて根暗に成長しちゃいましたけど。私が桐生君に対する気持ちは本物なんです! だからまた桐生君を愛する権利を下さい! シー君」
「彩希さん……」
凄い熱烈な告白を受けた。俺を愛する権利って……付き合って下さいという事ではないのか?
だがここでまた小学生の時の様なはぐらか仕方をすれば、彼女の心を再び傷付ける事になる。発する言葉は慎重に選び応えてあげなくてはいけない。
「あ、ありがとう。気持ちは凄く嬉しいし、今は柊と疑似恋人みたいなものだから。多分、付き合う事ができるからさ」
「へ? 付き合うですか? だ、駄目です! まだそんなお付き合いする段階まで、桐生君の私に対する好感度は高くありませんから」
なんて事を言って照れくさそうに彼女は俺から離れた。
「ん───、とりあえず。この手錠を外してくれるか? それで紹介したいし娘達がいるからさ」
「………はい? 紹介したい娘達ですか?」
◇
《桐生家》
「というわけで今日もいろんな騒動があったが。首謀者は俺の第三の幼馴染み。彩希光莉さんだ。彩希さんからはさっき熱烈な告白を受けた。だから柊、君との偽造恋人は一端凍結。これからは友達として過ごしていこう……ギャアアア な、何で! ほ、頬っぺたを! 両頬を強く引っ張るんだー!」
「んーーー? おバカな事をお喋りする口はここかな? 折檻折檻しちゃうぞ~? 士朗君」
「あわわ! シー君から手、手を離しなさい。ギャルビッチ!」
「誰がギャルビッチなのかな? 泥簿猫さ~ん?」
「んなぁぁん! 私の頬もつねった?!」
柊はニコニコ笑顔で俺と彩希さん頬を限界まで強くつねる。
…………やはり人の強い言葉というのは人の心を強く刺激し、強く動かすものだ。
俺は彩希さんのとても直情的な告白に心を動かされ、1つの答えに辿り着いた。
そうだ。このまま中途半端に柊となあなあ関係を続けていても、凪との関係は進展しない。数日前には萌萌からキスをされあの娘の気持ちも知った。そして、今日は彩希さんだ。
だから、ここは中途半端な付き合っている状態を一度フリーにさせよう。そう思って彩希さんを連れて、凪柊萌が集う、桐生家に戻って来たんだが……
「恋人関係の解消は絶対しないよ~、士朗君。それよりも何で新たな女の子を平気で連れて来てるのかな? 士朗君~!!」
「痛たた!! 頬っぺたが千切れるってぇぇ!」
「シー君から手を離しなさい。ギャルビッチ!、いふぁふぁ!!」
「……何でここに光莉ちゃんが」
「し、知らない間にライバルが何で1人増えてるの? しかも光莉みたいな強敵が」
俺の疑似恋人関係フリーレーンのお頼みは、柊に簡単に却下され。俺は柊に家に新たに作られたお仕置き部屋へと連れて行かれ。小一時間頬っぺた伸ばしの刑に処され。彩希さんは凪と萌と一緒に夜食の料理を手伝っていた。
「光莉ちゃん。士朗の事、好きだったんだ」
「う、うん。恋する権利を貰ったの」
「……ライバル増えちゃた。しかも私よりも身体付きが良い光莉だなんて」
「ねー、これからは大変だね。私達」
「「………うん」」
3人の俺の幼馴染み達は仲良く料理を作っていた。




