第19話 小鳥遊さんの恋の戦略
《映画館 放課後デート中》
「んー? 1人で居ると小鳥遊さん。ナンパされちゃうから、チケットも一緒に買いに行こうか」
「へ? 一緒に? お手手手を繋いでかな?」
「お手手手?……何かの動物か?」
「ち、違うの! いや。違わないんだけどね。でも手は繋ぎたいの! だから。はい!」
私は良く分からないけど取りあえず。右手を桐生君に差し出した。
「はいはい。じゃあ一緒にチケット買いに行こう」
「う、うん!」
も、もう! 私のアホー、桐生君を意識し過ぎて、お手手手何て変な事、言っちゃったじゃないいぃ!
でも、今日はなーちゃんと約束した最後の日。
そう。なーちゃんは忘れている様だけど。今日が桐生君を落とせる最後の日。
そうしてたら。次の2週間後まではなーちゃんが桐生君を落とす為にあの手この手で誘惑して───
「N・T・Rされちゃうの? 駄目駄目。桐生君は私の彼氏君何だから。親友にN・T・Rされるなんて絶対に駄目えぇ! 」
「ド○モがどうしたって?」
「違うの。携帯の事じゃなくて、身体的なお話で……んむ!」
「……はい。ストップ。そういうのは自分の家で1人で楽しもう。小鳥遊さん」
「んむーー!(違うのぉー!)」
「士郎の奴ー!公衆の面前でひーちゃんとイチャイチャして」
「皆、注目してますね」
「そりゃあー、あれだけ絵になればね」
◇
「……凪凪。何でここに?」
「アイツ等。友達のデートにストーキングしてんの?」
「……夕姫パイセン。柊柊達。中に入って行く。追いかけよう」
「パイセン言うな。夏パイセン。ほい! しかしのチョップ」
ポコッ!
「……あう」
◇
「《孔明が現代社会に転移? 踊れ、パリジェンヌ》……小鳥遊さん。本当にこの映画で良かったの? もっと恋愛もの方が良かったんじゃ」
「う、うん。これで良いよ。私、これが見たかったんだー」
「そうなんだ。小鳥遊さんが良いなら良いけどさ」
──────────違うの! 本当は恋愛ホラー映画の《君の真命は天気の娘》を見たかったのに。何で桐生君に口を抑えられちゃっただけで、テンパってるの私ー!
「…………」
「何か思って頼り全然、イチャイチャしないね。2人共」
「手すら繋いでませんからね」
「いや、流石に真ん中の席で目立つ中、イチャイチャはしないでしょけど……凪」
「んー? 何? アスナちゃん」
「桐生君んて、あんなに静かだったけ? 何かアンタと居る時より、だいぶ静かだよね?」
「あー、あれ? あれが士郎の素だからね。仕方ないよー、士郎とひーちゃんはね」
「仕方ない?」
「これは明日から私のターンの始まりかな?」
◇
「アイツ等。ストーカーしてる自覚ないよなー、目立ちまくってるわ」
「……凪凪がだいぶ油断してる。これは波乱の予感」
「波乱の予感? 柊が桐生を落とすと?」
「……んー、分からない」
「なんじゃそりゃあ?」
◇
〖フォー! 今日はこれで終わりたぜぇー!〗
〖孔明! サイコー!〗
「映画。結構面白かったな」
「う、うん! そうだねー! 面白かったね」
「…………」
な、何だろう? 桐生君。何で映画が始まってから、ずっとあんまり喋らないんだろう? もしかして、私と一緒に居るのつまらないのかな?
「………小鳥遊さん。気づいてた?」
「へ? 何がかな? 桐生君」
「俺達のデートにストーキングしてるアホ達の事が5人も居るのを」
「ご、5人? なっちゃんと夕姫ちゃんだけじゃなくて?」
「あー、その2人には気づいてたんだ。流石だね」
「……うん。でしょう」
ごめん。なっちゃん、夕姫ちゃん。貴女達を犠牲にします。
「他は凪、アスナ、竜胆か。厄介な! アイツ等。最後まで見てくみたいだから、先に映画館から脱出しようか。小鳥遊さん。行こう!」
「え? 行くってどこに? 桐生君」
桐生君は私の右手を掴むと前のめりになって、シアターの出口を出たの。なーちゃん達。皆に見つからない様に……
「うぅー、孔明。幸せになれて良かったねぇ~」
「感動しました。まさかパリピの伏線が爆発落ちだなんて」
「見れて良かった。最初は内容が意味分からなかったけど。意味が分かると良かった……てっ! ひー達、いつの間にか居なくなってない?」
「「へ?」」
「……孔明サイコー」
「付き添いで来たからどんな映画見せんねん。とか思ってたけどエンドロール最後まで見たら最高の映画だったわ。ん? 夏希どうした?」
「……パイセン。あの2人居なくなってる」
◇
《とある公園》
「どうにか巻けたかな?」
「ハァー、ハァー、桐生君。何で息一つ上げてないの?」
「逆に何で数十メートルしか小走りしてないのに疲れ切ってるの? 小鳥遊さんは……大丈夫?」
「駄目……だから背中擦ってほしい」
「背中? 了解。後、これお茶飲みなよ。落ち着くよ」
「あ、ありがとう。いつの間に買ってたの?」
……映画も終わっちゃったし。このくらいの最後のわがまま言っても良いよね。今日で桐生君と一緒に過ごせる時間もだいぶ減っちゃうんだもん。
「……小鳥遊さん」
「んー? 何かな。桐りゅふゅん?……いふぁい」
桐生君は私の両頬を摘まんで。ゆっくりと引っ張って、私の顔に近付けて……来ちゃうの?
「さっきから、らしくないな」
「へ? 何が? それよりも頬っぺたから手を離して、桐生ふぇん……」
「凪かアスナなのかは聞かないけどさ。さっきから色々と変じゃない? 小鳥遊さん」
「べ、別に変じゃないもん。なーちゃんと桐生君についてあったわけじゃないの」
「あったんかい……凪、関連ねえ。アイツ、また何したんだか?」
「な、何もないよ……ただ私が今日、最後の日だから頑張ろうと思っただけだから」
そう。今日で幸せな時間は終わり。これからはなーちゃんが桐生君と一緒に過ごして……最後には付き合う所までいくんだろうな。
「…なあ。俺って君の彼氏何だよな?」
「え? う、うん。そうだよ! 君が私に告白してくれて、それで私は凄く嬉しくなって……桐生君か私を彼女にしてくれたの」
「疑……いや。もう良いや。疑似とかなんて、この際な」
「桐生君?」
「小鳥遊さ…いや。柊さぁ」
「へ?……いふぁふぁふぁいい!」
桐生君はさっきよりも私の頬っぺたをにょ~んと横に伸ばしてくる。痛い。
「とりあえず。俺達は付き合ってるって事なんだから、お互い変な気遣いは止めよう。疲れるしな」
「変な……気づかいなんてしてないもん。私、普通だったもん」
「ほう。映画館であんなにN・T・R連呼してた奴が私、普通と抜かすか。ムッツリ小悪魔は 」
「だ、誰がムッツリ小悪魔なのかな? 彼女にそんな事を言う彼氏がいる?」
「おう。ここに居るわ。君の目の前に……君の疑似じゃない彼氏がな。ほっ!」
ペチンッ!
「はぅ!……ひたい。私の両頬をペチンっんてした」
「ああ、君の彼氏がな……元気出た? 柊」
「元気?……うん。出たかな士郎君」
「そうか。なら帰ろうか。仲良く手を繋いでな」
「手を……」
桐生君……ううん。士郎君は私の前に右手を出して───
私の右手に手を優しく添えて、恋人繋ぎをしてくれた。
「行こう。柊、君の家まで送るよ」
「うん。ありがとう。士郎君。一緒に帰ろう」
────この間違った告白から始まった恋愛がどんな結末を迎えるかは私には想像もつかないけど。
今は彼との時間を大切にしよう。だって私は桐生士郎君と凄く時間が、幸せで大好きな時間なんだから。




