第15話 西蓮寺萌ちゃんはご近所さん
西蓮寺さんの服装は、上は黒色のブラウスに下は白色のミニスカートというシンプルながらも、着ている娘の素材が良いのかとても可愛らしく似合っている。
服を着こなすとはこういう事を言うんだろうな。
そして、俺はてっきり西蓮寺さんみたいな娘は、ボーイッシュな服装を好むのかと勝手に思っていたが……どうやら違っていたらしい。
「な、凪。萌って言われる事、ボク、凄く恥ずかしいからあまり人前で言わないでって、いつも言ってるよね? それに夏も!」
「えー、良いじゃん。実際、萌ちゃん。可愛いし、可愛い物好きだしさぁ」
「……萌萌可愛い。キュン」
「あー、そうやっていつも私をからかって~、それも彼の前で…うぅぁ、恥ずかしい」
あれ? 今日の朝、見かけた時と放課後に話した時のクールビューティーな感じの面影が一切ないぞ?
小鳥遊さんがあたふたしている姿に似てて、おもしろ可愛いな。いや、今、気づいたけど……
「何で西蓮寺が俺の家の中に居たんだ? 凪が電話して速攻でこの部屋に来たよな」
「へ? あ、あぁ、桐生君。やあ、こんばんは。お邪魔するよ」
「お、おお。いらっしゃい…じゃなくて、何で俺の部屋に?」
「ああ、それ? 私達。凛ちゃんの部屋で遊んでたんだよ。気づかなかった?」
「何? 嘘だろう? こんなうるさい凪と夏が居たら俺が気づかい分け…」
俺がそう言いかけると夏の奴が、両手で忍者が印を結ぶ時のポーズをいきなり始めた。
「……忍者の様にこっそり入った。勿論、凛の許可済。共に士郎を折檻…んも」
「は~い。ナッちゃん。これ以上は喋っちゃ駄目~、逆に私達が士郎に折檻されるよ~」
「なんだ。つまりあれか。凛も抱き込んで、俺に折檻された時の援軍として。萌萌を待機させてたのか」
「ちょっと! 桐生君。萌萌って言わないでくれるかい! 恥ずかしいだろう」
西蓮寺さんは俺の肩を掴むと。赤面しながら抗議してきた。な、何だ? この反応! 可愛い過ぎだろう。今までのクールな印象はどこへやら。グッ何かをそそられる様な。
……おっと。これは心の奥底に眠る嗜虐心がそそられてしまう。
「おや。士郎も気づいちゃったみたいだね。萌ちゃんの魅力に」
「も、萌ちゃんて言うな。凪~!」
「待って! 萌ちゃん。 萌ちゃんの握力で私の柔らかい頬っぺたを摘ままないでぇ!……いふぁい!!」
西蓮寺さんは恥ずかしがりながら。凪に頬っぺたを強く引っ張った。
「……ちなみに萌萌言いすぎると。悲惨な制裁が待っている。あの様に」
夏は俺の耳元に顔を近付けて小声でそう告げて来た。
「成る程。あまり西蓮寺の下の名前で呼んでいじらない方が良いって事だな」
「……うん。そして、あれがその末路」
「凪~!」
「痛たた! 2人共。見てないで助けてえぇ!」
ガチャッ!
「萌姉。兄貴との勘違い話は解決したの~? したんなら例のエッチ本。萌姉の家に仮に行ってい……」
「萌って、恥ずかしいから萌って言わないでえぇ!」
「アウッ…何で両頬を摘まむの? 萌姉えぇ!! 痛たた!!」
新たに我が妹が犠牲になった。
◇
「うえぇん! 痛いよう。頬っぺたがヒリヒリするよう」
「びよんびよんに伸びたじぇ」
「……うん。自業自得」
「だから。萌……西蓮寺さんとは本屋で偶然出くわして、少し話してただけなんだよ」
冗談で萌ちゃんと言うおうとした一瞬。西蓮寺さんの手が、俺の頬っぺを狙おうと動くのに気づいて、言うのを止めた。
「そうそう。それを凪はいつもの暴走してさあ。人の話も聞かないで。ボクも呼び寄せて、凛の部屋に待機させるなんて」
「……すみません」
珍しくあの元気な凪がショボンとしている。あの両頬摘まみが、相当効いたみたいだな。
人が嫌がる事はしてはいけませんの典型をだな。俺も気をつけよう。
「んじゃあ~、疑いも晴れたし解散、解散。もう夜の20時近いし、帰れご近所さん達」
「えー、まだ言ても良いじゃん。皆、数件先のご近所さんなんだからさ~」
「は? 皆? 西蓮寺さんは違うだろう? ここら辺に西蓮寺なんて家なんかあったか?」
「ああ、それかい? ボクの家はあそこのマンションだからね。知らないのも仕方ないよ」
西蓮寺さんはそう言って、部屋の窓から見えるマンションを指差した。
あれは確か、うちの家から数軒離れた先にある。藤林レジデンスとか言うマンションだ。
「へー、西蓮寺はあそこのマンションに住んでるのか。まぁ、確かに近所と言えば近所か……でも。凪はともかく夏や凛とも知り合いだったのは知らなかったな」
「……昔から塾が一緒」
「萌姉はそこの先輩なんだわ…あぅ。頬っぺたが」
「私もー」
ああ、成る程な、俺は塾に通った事ないから西蓮寺さんとは面識がないがこの4人は塾友達ってやつだったのか。
「成る程。成る程、じゃあ、今日はもう解散しろ。凪の勘違いも解決したんだしな」
「えー、もっとお話していようよ。せっかく、萌ちゃんが士郎の部屋に来てくれたんだしさ。どう? 萌ちゃんの私服姿可愛い過ぎるでしょう?」
「ん? ああ、そうだな。本屋で会った時の印象と違って、今の萌ちゃんは凄く可愛い……ん? 今、俺、萌ちゃんって言ったか?」
「うん。私も言ったから……」
「ふ、2人共、ボクを萌萌って言うなぁぁ!」
「「うわぁぁ!!」」
西蓮寺はそう言って俺と凪に襲いかかり転倒した。
ムニッ!
「んぁん!」
「痛てて、ん? ムニッ? んぁん?……なんだこれ? 柔らかいお尻か?それに……白色の」
「き、桐生君のエッチ!!」
バチンッ!
「ぐはぁ! 痛!」
体勢を崩した俺は、どうやら西蓮寺さんのお尻を鷲掴みにしていた様で、彼女からフルスイングのビンタをお見舞いされた。




