第13話 西蓮寺さん。こんにちは、始めまして?
《放課後 カラオケ店》
小鳥遊さんから。〖今日は恥ずかし…ち、違った。放課後用事があるから先に帰ってて。ゴメンね。一緒に帰れなくて〗という連絡が帰りのホームルーム終了に合わせて来た。
凪は部活のスケット。夏達は放課後は珍しく教室に何かやるらしく、珍しく1人で帰ろうとした瞬間。悪友達に捕まり、カラオケ店に拉致され2時間程、歌って過ごした。
「いやー、快斗の美声。マジ、リスペクトだったわ」
「何を言うか。真の魂、震える叫びは心に響いたぜ」
「……お前等。どっちも音痴だったろうが」
「「うるさいぞ。美声だけの音痴」」
「何だと? やるか? 騒音共。こっちは、お前等が朝、俺を助けてくれなかった事、未に根に持ってんだぞ。ん?」
俺はゴキッと手首を鳴らしながら、アホ達を挑発した。
「……おいおい。現在、お幸せなリア充様が何か言ってるぜ。快斗」
「うむうむ。こっちの彼女は長く付き合ってるってのに、お互い手も繋がなくなったし、距離も置かれてるっていうのにな。真」
「距離を置かれてる? お前等それってもう。別れる寸前のカップ…」
「「黙らっしゃい。裏切り者が。朝からあんな大勢の前で、あんな可愛い娘に抱き付かれやがって。絶対に許さん」」
アホ2人はそう言うと俺に向かってファイティングポーズをとり始めやがった。おっ! やる気か? コイツ等。
「ふっ! 良いだろう。そんなに屍になりたいっていうなら。お望み通り。骨も残さず駆逐してやる」
「ほう…ヤれるものなら」「やってみろ! 親友!」
「「「オオオオ!!」」」
こうして、俺達。アホ3人による壮絶な戦いが幕を開けようとした瞬間──
「止めろ! アホ共! ここをどこだと思ってるんだ。私のバイト先だぞ!」
「ごがぁ?!」「おえご?」「グエッ?!」
カラオケ店の店員にして同じ飛鳥学園のクラスメイトである。椿夕姫に瞬く間に制圧された。
「会計も寸断だから。さっさと帰れ。アホ共! ここは私のバイト先なんだぞ」
「「「ず、ずびませんでした」」」
「おう! 分かればよろしい。それでは去られぇ! 他の御客様の快適なカラオケの為に」
◇
「痛…夕姫の奴、容赦無さすぎだろう」
「カラオケ店員にして、我がAクラスの委員長だからな。全てを腕力で解決する鬼ぞ」
「……まぁ、俺達が店内で悪ふざけしたのが原因だけどな」
「「うん。ごもっとも!」」
コイツ等の悪友の立った1つの美点。自分達が置かした過ちを直ぐに認め、謝罪及び、直ぐに正す事だ。
俺? 俺はこんな奴等よりも速攻で自分の悪い所は、気づくし正すさ。
だって俺はこの悪友達とは心の清らかさと誠実差で圧倒的に勝っているのだからな。ハハハ!
「快斗。士郎の奴、俺達を下に見ている目をしているな」
「おう! 真。明日、早速。凪さんに士郎が夕姫委員長と良い雰囲気だったとデマを流そうか」
「おお、それは良い。また、今日の朝みたいな。面白い光景が見れそうだ」
真と快斗はとんでもないゲス顔で俺を見てくる。
コイツ等。もしかして、こんなんだからアスナと竜胆に手すら握らせてもらえなくなったんじゃないのか?
「お、お前等。揃いも揃って、何てゲスな事を考えやがる。こっちだってお前等がそんな事をするなら。報復の策が…」
「おっと! バイトの時間だ。じゃあな。士郎。また明日、楽しい朝の拷も…ホームルームでな」
「おっと! 俺もだ。明日の朝、楽しみにしとけ。親友」
「ちょっと待て! お前等。両方ともバイト何か経験した事ないだろうがぁ!」
ゲス顔のアホ共はそう言い残すと、楽しげに走って帰っていった。そして、俺は静かにスマホを取り出し───
「アスナと竜胆にアイツ等。夕姫を口説こうとしていたぞと。フェイクニュースを伝えてと……良し。これで明日の朝が本当に楽しみになったな。お前等」
俺は心の中でざまあ見ろと静かにほくそ笑んだ……本屋でも寄って。参考書とブルーラッキーの最新刊でも買って帰るか。
俺は直ぐ近くにあった本屋へと入っていった。
◇
「……へー、クノンのアニメ化かー、絶対見ようと」
夕飯までの暇潰しがてら、書店内に売られている漫画や小説の新刊をボーッと眺めている。こういうのは見ているだけでも楽しいものなんだ。
まぁ、勿論、何冊かは買うけどさ。
「あれ? 君は確か凪の友達の……桐生士郎君だよね?」
「ん? 何で俺の名前を知ってるんだ…てっ! 君は確か朝の練習試合の時の…えーっと名前は確か」
「西蓮寺だよ。よろしく」
俺が後ろを振り向くと。飛鳥学園の直ぐお隣、莉桜高校の制服を着た。テニスラケットバックを背負ったブレザー姿の女の子が立っていた。
身長180センチの俺よりも10センチ位低く、ボーイッシュな髪型で中性的な顔立ちの活発そうな女の子。
「あー、そうそう。西蓮寺萌さんだよね? 凪や小鳥遊さんの友達の」
「うん。そうそう。西蓮寺さ! よろしくね。桐生君」
「あぁ、よろしく。 西蓮寺 萌さん」
「ふぅぅ……ちょっと! 何で君はボクの名前をフルネームで何回も呼ぶんだい? 他の人に聞かれたら恥ずかしいじゃないか」
「は? 恥ずかしい? 西蓮寺 萌さんの名前が?」
「あぁー、また言ったあぁ」
……この娘の見た目は、一言で言えばイケメンだ。ボーイッシュで背が普通の女の子よりもスラッとしてるし、カッコいい。そんなカッコいい娘の名前が。
「萌か」
「何でいきなりボクの下の名前を言うの?」
ガシッと俺の両肩を掴むと涙目で俺を睨み付けて来た。
つうか掴まれてる両肩に凄まじい力が加えられてて、滅茶苦茶に痛い。この娘、凪並みに力が強いな。
「あー、ゴメン。ゴメン。西蓮寺さん」
「そう。その名前で良いんだよ。桐生君」
「それで? 俺に何か様かな? 西蓮寺さん」
「い、いや。朝の凪の試合で久しぶりに君を見かけて気になってたんだ。そしたらこの本屋に居るからビックリしてね。それで君に聞きたい事もあったし、声をかけたんだ」
「俺に聞きたい事?」
何だ? こんな、全く面識が無い娘に何を質問されるんだ?
「うん。柊とは、小鳥遊さんとは上手くやっているかい?」
「小鳥遊さん? 何でそんな事を聞くんだ?」
「何でって、凪から聞いたんだよ。君達が付き合っているってね。練習場でも朝からあんなにイチャイチャしててさ」
……何もかもが間違っているが。ここで変に西蓮寺さんに否定すると、また変に話が拗れる気がするな。
「あ、ああ。数日前に付き合い始めたばかりだけど。仲良くやれていると…思うよ。俺はね。小鳥遊さんの方はどう思っているかは分からないけどね」
「へー……それは良かった。それじゃあ。叶ったんだね。柊の長年の願いが、良かった。」
「ん? 小鳥遊さんの長年の願い? 何だ? それ」
「んー? まだ柊から聞いてないのかい?……それならボクの口から話せないかな~」
その後、俺と西蓮寺さんは、本屋の中で小鳥遊さんの事についての会話をした。
◇
「おや。あれは? 凪さん。あそこの書店に士郎君と小鳥遊さんとは違う女の子と居るみたいでけど」
「何? 竜ちゃん。たい焼きもう少しで焼けるって…士郎が…モエモエとデートしてる? 何でぇ!!」
「あー、これは新しい修羅の時ですね。御愁傷様です。士郎君」
「おーい! 遅くなってゴメン。凪~、竜胆~」
「あっ! 夕姫さん。バイトお疲れ様です」
この西蓮寺のたったの数分間の会話が原因で、自宅に帰宅後、凪にとんでもない事をされるとは、その時の俺は知らなかったんだ……




