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第12話 小鳥遊さんは純情乙女


《放課後 2年Bクラス》


「………」

「ツンツン…ツンツン……」

「あれ? ヒー。アンタ、まだ教室にいたの? てっきり。桐生君と帰ったんだと思ってたのに」


 ───違うの。あれは油断していただけだったの。そう、あれは桐生くんのただの悪戯いたずらで、私はそれに、それに反応して……


「ツンツン…ツンツン…ブスリッ!」

「あっ! ヒーの脳天の旋毛つむじなつの指が刺さった…」


 そう。あれは事故。単なる桐生くんの暴走なのにぃ……


「ニャアアアアア!! 違うのぉ! あれは私が油断していただけで、あんなに動揺したわけじゃないのおぉ!」

「……おぉ、目覚めた」

「起きたら起きたらでうるさい小悪魔だわ」



「で? 何で今日は大切な桐生君と帰らなかったわけ? アンタ。朝は教室であんだけ私に惚気のろけ話を聞かせて来てたくせに」

「の、惚気のろけって…まぁ、朝からナーちゃんに桐生くんとのイチャイチャを見せ付けられたのは楽しかったけど」


 同じクラスのアスナ《アーちゃん》とナッちゃんに、桐生くんとのお昼休みの時の出来事を聞いてもらおうとしたんだけど。


「……流石、凪限定の天然鬼畜」

「夏の言う通りだわ~、小鳥遊さんは凪の事になると腹黒くなる困った人だわ。ねえ? ヒー」

「……何で最初の方。他人行儀みたいな言い方でいうの? 私の親友のアーちゃん」


 私はアーちゃんの脳天に軽くチョップしながら、そう告げた。


「いや。私、基本的に凪が親友だし。ヒーとは高校でまた一緒になるまで疎遠だったからね。そりゃあ。なるでしょう他人行儀に。ねぇ? 夏」

「……私は柊柊ひいひいとは塾が一緒だったから、ずっ友」

「ナ、ナッちゃん! 私の親友はやっぱり。ナッちゃんだけだね。嬉しい」

「そして、真の親友は凪凪である」

「ナッちゃん?!」

「うわぁー、コイツ等の友情はかね~、そんで? 私達と他人の小鳥遊さんは、何で放課後1人寂しく教室の机に突っ伏して夏にツンツンされてもてあばれてたんだ? 私等、親友に相談する為に残ってたんだろう。ん?」

「うぐ! それは…その通りです」


 アーちゃんは私の頭に手を乗せると優しくで始めた。はぅ! アーちゃん。天邪鬼あまのじゃく過ぎるよー!


 さ、さっきは他人行儀とか言ってたのに。この親友はもう!


「……んー、昼休みは士郎と2人きりで、旧校舎の空き教室で食事してたみたい」

「へぁ? 何でそんな事、知ってるの? ナッちゃん!」

「昼休み満面の笑みを浮かべながら脱兎の如く、教室から出てったと思ったら。2人きりの密室でイチャイチャしてただけかい。お盛りがぁ、心配して損したわ。夏、このリア充はさっさと置いてマスド行くよ。竜胆達も待ってるんだし」

「……ラジャ~」


 アーちゃんは呆れた表情でを椅子から立ち上がると、鞄を片手に持って教室から出ていこうと歩き始めた。

 それよりも、何でナッちゃんは私と桐生くんが空き教室に一緒に居た事を把握しているのかな?


 ガシッ!

「ち、違うの! 問題はその後なの。イチャイチャした後に、桐生くんが私を誘惑してきたのぉ」

「誘惑? つうか。私の胸を鷲掴わしづかみにして動きを封じるな。動けんだろが」

「……ふくよかで羨ましい」


 ちなみにアーちゃんは女子生徒、皆がうらやむ大きい物をお持ちで。ナッちゃんは私が羨む、スレンダーで可愛い小動物みたいな娘です。

 そして、私は……普通くらいの大きさかな。



「ほう。朝のAクラスの騒ぎの話がツボってたら右手を優しく頬に触れられて、優しく柊と呼び捨てにされたと。ふむふむ…そんで恥ずかしい過ぎて硬直こうちょくしている間に、お互いのひたいと額をくっ付け合わせて、羞恥心で気を失ったねえ」

「……そうそう。その時の映像もバッチリ残してある」

「そうなの! 桐生くんたら強引に私の頬におでこをこうしてね…てっ! 痛い!」

「アンタの額と私の額を重ね様としないでよろしい。それよか、夏の盗撮の件はスルーなんかい」

「うん。後で見させてもらうから。ナッちゃん」

「……任せろ。一部始終を取ってある」

「ツッコミ所が多すぎてワケわかんないわ。アンタ等…」


 ふー、でも2人に桐生くんとの話を聞いてもらって良かった。昼休み終わりからずっとモヤモヤしてたから。スッキリしたよ。


「それにしても。たかだかそれだけで意識を失うって……もう教室には私達しか居ないか。ヒー、アンタさ…」

「んー? 何かな? アーちゃん」


 アーちゃんは私の耳元まで顔を近付けると小声でとんでもない事を言ってきた。


「そんなんでもしも桐生君とエッチな事まで、発展した時。耐えきれないんじゃないの?)」

「はぇ? エッチな事ぉ?! 桐生君と私があぁ?!」


 アーちゃんのその一言で私の頭は一瞬で沸騰し、頭の中には一瞬。凄い映像が流れる。


(ひいらぎ。可愛がってやるからな。覚悟しろ)

(ま、待って士郎くん! わ、私! まだ心の準備があぁ!)


「────」

「……フリーズしてる」

「まぁ、でも。そもそもアンタと桐生君は疑似恋人だっけ? そんな関係だし。彼には凪の事もあるから、そうなるかは分からな…てっ! ヒー? アンタ。何、机に突っ伏して再び動かなくなってんの? ヒー!」

「……柊柊ひいひいが壊れちゃった。ツンツン…」


 ナッちゃんに指でツンツンされ続ける事。数十分後に自分の妄想の世界から目を覚ました。


 少し桐生くんの事を妄想するだけでこんなになっちゃうなんて、もしかして、私、恋愛の沸点低すぎるのかな?


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