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【暗躍】真の実力を隠した最下生、影の参謀としてクラスメイトたちを勝利へ導く【下剋上】  作者: 福山松江


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第二十三話  真相と真相

 俺は川の(ほとり)に立ったまま、東側の森の奥へと声をかけた。


「隠れてないで、出てきたらどうだ?」

「ハハ、あまり驚いていないようだな」

「《局聖域(ケントゥリアウス)》を使えるのは高位の神官か聖職者。なら犯人はあんたに決まっているだろう――ベイト」

「尾行されていたことに、驚いてくれないのだなと言っているのだ――“最下位(ワースト)”」


 ジョークめかせて言いながら、E学級代表の聖職者ベイトは森の中から悠然と姿を現した。


「気づいていたから、わざとのんびり歩いてやってたんだろ?」

「敢えて追い付かせてくれたと? なかなか大口を叩くのだな、“最下位(ワースト)”」


 俺が肩を竦めて答えると、ベイトが面白い冗談を聞いたとばかりに失笑した。

 そして、茶番はもう充分だと――いきなり腰の物を抜いた。


 高価な拵えの剣だ。

 今の泰平の世に作られたものなら、まず業物と称されるだろう。

 試験のルールで戦闘は禁じられているが、狩猟や伐採、あるいは森を切り開いて進むために、武器を帯びること自体は許可されていた。

 また教会の神官たちは刃物の付いた武器を戒律で避けるが、聖殿の者らが使う武器に一切の制限はない。


「物騒だな、ベイト?」

「強がるなよ、“最下位(ワースト)”。これから貴様が泣いて許しを請うまで切り刻む。命まではとる気はないが、私が用意した退学届けにサインをしてもらう。《局聖域(ケントゥリアウス)》の効果内だ、助けは来ないぞ。たとえ教師陣の遠見の魔法でも、この中を見通すことはできない」

「たかが“最下位(ワースト)”にどうしてそこまでする? どうせ狙うなら優等生を追い込んだ方がよくはないか?」

「落ちこぼれ学級の奴らなど、貴様以外に興味はない!」


 言うなりベイトは斬りかかってきた。

 なかなか堂に入った挙措だ。

 武器も帯びていない俺は、その鋭い斬撃を右に左に回避しながら、白魔術が得意なだけの男ではなかったかと感心する。


 教会にせよ聖殿にせよ昔から自治意識が強く、ために自前の武力確保にもこだわっている。

 D組担任のグスタヴ然り、神官や聖職者の中に戦士としての覚えを持つ者が少なくないのは、それが理由だ。

 このベイトも聖堂騎士(パラディン)の称号を有するほどの武闘派ではなさそうだが、そこらの戦士や兵士など寄せ付けないだろう剣腕を持っていた。


「まるで羽虫の如くノアの周りにたかった――それが貴様の罪だ、“最下位(ワースト)”!」


 ベイトが戦士の巧技(アッパースキル)、《パワースラッシュ》を見舞ってくる。

 大上段からの強力な一撃を、俺は今までの太刀筋と()()()あっさり見切ってかわす。


「ノアの隣に男がいるのがそんなに目障りだったか、ベイト?」

「彼女は恋愛事に関して奥手だ。私も時間をかけて魅力を知ってもらうつもりだった。そこへ猪口才にも割って入ったのが貴様だ! 私以外の男のことなど、ノアは一切知らなくてよいというのに! 許せるものか、消え失せろッ!」


 ベイトはまるで嫉妬に目が眩んだ男の如く、斬撃とともに見境のない言葉をぶつけてくる。

 その激昂ぶりを冷ややかに眺めながら、俺は〈拳士〉の妙技(ハイスキル)である《歩法の真髄》を用い、剣が触れそうで触れないギリギリのところを、「ぬるり」としたフットワークだけで回避し続ける。


「貴様を退学に追い込んだ後で、私は一人悠然とゴールを決めよう! E学級を支配するに相応しい男だと皆に証明し続けよう! そしてノアの敬意と好意を勝ちとり、ゆくゆくは愛情として育んでいくのだ!」


 気持ち悪いことを吐き散らしながら、ベイトが戦士の妙技(ハイスキル)《ハイドラバイト》を放ってくる。

 秒間九連撃という刺突の嵐が俺を襲う。


()()()()()()()()()()()()()、あんたにとっては愛情というのか?」


 俺は無感動に指摘した。

〈忍者〉を手本に身に着けた裏技(シャドースキル)の《空蝉》を用い、九連刺突を全て回避すると同時に、ベイトの背後へ回り込んでいた。


「な、なぜそれを……!?」


 刺突を打ち放った格好のまま、狼狽のあまりに凍り付くベイト。


「あんたはそもそも、ノアに慕情など抱いていない」


 俺はその背後から両手を伸ばし、首を絞め上げるようにベイトを拘束した。


 そう――

 ノアの周囲をうろつく俺をこいつが狙ったのは、決して嫉妬で見境をなくしたからではない。

 あくまで芝居で、ベイトがノアに執着する理由は他にある。

 では、なぜ俺がその真実に気づいたのか?

 教えてやろう。


「ノアの額に痣のようなものがあった」


 本人も気にも留めてないほど、小さなものだ。

 しかも生え際の辺りで、ちょうど前髪で隠れている場所だから、周囲からもまず見えない。

〈軍師〉の特技(スキル)《観相》も持つ、俺だからこそ気づけたといえる。


「だがそれは痣じゃない。小さすぎて気づくのも難しいが、見る者が見ればわかる。あれは二百年前に魔族どもが崇めていた、邪神にまつわる刻印だ。人柱にする娘の体のどこか一部に、魔力で刻み付ける儀式が流行っていた」

「き、貴様っ、どこまで知っているっ!?」

「さあな。実は大して知らないから、今からあんたに吐かせる」


 俺は腕でベイトの首をさらに絞め上げ、圧をかける。


 俺がノアの額の刻印に気づいたのはスキルによるものだが、ノアが生け贄の標的だったこと自体は出会った後から知った。

 最初はあくまで学級対抗試験の布石として、ノアに近づき仲良くなった。

 だが刻印の存在を知った以上は、ただ試験で勝つだけでは足りない。

 誰が、なんの目的でノアを生け贄にしようというのか、暴かなくてはならない。

 だから俺はノアとの関係が、殊更に周知のものとなるよう画策した。ノアを人柱にしたいその誰かかからすれば、俺の存在がさぞ目障りになるだろうからな。

 下世話な好奇心で俺たちの動物触れ合いタイムを覗こうという者がいなくなった後も、E学級の生徒がずっと監視を続けていることにも俺は気づいていた。

 一昨日だってそうだ。

 俺は周囲の気配を探り、聞き耳を立てている者がいないか確かめた上で、その密偵役の生徒に聞こえるように、今回の作戦を漏らしたんだ。無論、あれはわざとだ。

 俺が単独行動をとると知れば、俺を目障りに思う真犯人が、これ幸いに襲ってくるはず――

 と、これらがアナスタシアにも言っていない、今回の俺の本命作戦だった。


「吐け。内容如何にもよるが、命は助けてやる」

「ぐぎぎ……」


 首をじわじわと絞められ、ベイトはもがいた。

 だが暴れようとも無駄、〈鉄人〉を手本にした《剛力無双》を使う俺の腕はびくともしない。

 またベイトの右手には剣がにぎられたままだが、いくら振り回したところで俺には通じない。

 腰の入っていない斬撃など、〈拳士〉の特技(スキル)の《硬気功》で簡単に弾ける。

 ものともせず、俺は淡々と繰り返し命じる。


「吐け。魔族が滅びた今さら、邪神なんぞに(すが)ってどうする?」

「――ぃないっ」

「なんだ? はっきりと言え」

「魔族は滅びていない!」


 ベイトは自暴自棄になったように叫んだ。

 と同時に暴挙に走った。

《硬気功》のある俺には効かないその剣で、ベイトは自刎――己の首を斬り飛ばしたのだ。

 結果、奴の頭部は上にすっぽ抜け、胴体は前のめりに倒れた。

 異様な方法で俺の拘束から逃れた。

 そう、首と胴が泣き別れになってなお、ベイトは生きていたのだ。

 本来断面から噴き出して然るはずの鮮血も、わずかに滴る程度だった。


 いや――

 果たして「ベイト」は生きていたと、言うべきなのだろうか?

 斬り飛ばされた奴の頭部は、憤怒の形相を浮かべたまま地面に転がり、俺の方を恨めしげににらんでいた。

 一方、首を失ったはずの奴の胴体は、そのまま酔っ払いのようにふらつきながらも、確かに歩いて俺から距離をとっていった。

 やがてゆっくりと俺を振り返った。

 さらには、断面も生々しい首から肉塊が盛り上がり、新たに頭部を再生させてしまった。

 全くの別人となった顔で、俺を凝視していた。


「やれやれ、なかなか便利な宿主だったのが台無しだ」


 そいつの両目には瞳がなく、眼球は闇のようなドス黒い色をしていた。

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新作始めました。
『辺境領主の「追放村」超開拓 ~村人は王都を追放された危険人物ばかりですが、みんなの力をまとめたら一国を凌駕する発展をしてしまいました~』
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