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【暗躍】真の実力を隠した最下生、影の参謀としてクラスメイトたちを勝利へ導く【下剋上】  作者: 福山松江


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第二十話  ミーティング・イン・カフェ

 俺はアナスタシアたちと同席すると、二人と同じものをウェイトレスに注文する。

 それから二人へ軽く頭を下げる。


「遅れてすまない」


 今日はノアとビアンカにエサを届けただけで早々に引き上げてきたし、アナスタシアにも遅れて構わないと言われていたのだが、一応謝罪する。


「メンツもそろったことだし、作戦会議を始めましょうか。いいわね、メイチェ?」

「ううっ……ハイ」

「では、まず私の考えを聞いて頂戴」


 そう言ってアナスタシアは、テーブルの上に地図を広げた。

 配布されたロマールの森の概略図だ。

 スタート地点の南側入り口からゴールの北側出口まで、推奨順路としてひどく迂遠なルートが一本引かれている。


「私が思うに、教師陣は意図的に情報を隠蔽している」

「ここに書かれた林道以外に、もっと近道があると?」

「十中八九そうね」

「なるほど……ありそうな話だ。“ジルヴァ先生”も創意工夫を見る試験だと言っていたしな」

「じゃ、じゃあ当日はみんなでその近道を探しながら、移動するんですか?」

「いいえ、メイチェ。そんな泥縄なやり方では、確実な勝利をつかむことはできないわ」

「え、えと……じゃあどうするんですか?」

「試験まで一週間ある。だから事前に、森に入って調査するのよ。ルールで禁じられていなかったことだしね」


 わずか一本、順路が示されたこの地図に、もっと多くの情報を書き込んでいくのだとアナスタシアは豪語してみせた。


 今回もよくよく知恵を絞った様子だな。

 今のF学級は弱者で、知恵を使わなくては勝てないという事実から、アナスタシアは決して目を逸らさない。作戦を立てるのは苦手だからと逃げない。

 アナスタシアのこの気質は、未来の勇者(リーダー)として大変に好ましい。

 だが、まだまだだ。例によって詰めが甘い。

 彼女の成長のためにも、問題点をある程度は自分で気づかせてやらないといけない。

 得心がいって瞳を輝かせるメイチェと一緒に、俺もまずは感心する風を装い、


「名案だと思う。今日から早速、調査に入るか?」

「夜の森は危険でしょうし、明日からにしましょう」


 俺もわかっていてわざと訊ねたのだが、さすがアナスタシアは常識的な判断をしてくれた。

 自分の立てた作戦に浮かれていない。


「それに明日は休日だし、朝から夕方まで探索に時間を使えるでしょう?」

「わ、わたしもお手伝いします」

「ありがとう、メイチェ。時間もないことだし、人手は歓迎よ」


 そう――

 アナスタシアは試験まで一週間と言ったが、これは厳密ではない。

 三日後からはA、B学級の試験が始まり、五日後からはC、D学級が一昼夜かけて森を使う。

 常識的に考えてその間、部外者がロマールの森へ立ち入るのは許されないだろう。

 すなわち俺たちが調査に使えるのは、わずか明後日までということ。


「どう探索すれば効率的だろうな、アナスタシア? この間の試験で歩き回った感じ、ロマールは相当に大きな森だぞ」

「そうね……。三人で手分けする……わけにはいかないわね」

「わ、わたし、独りで森の中を歩き回る自信がありませんっ」

学級(クラス)の皆にも声をかけて、手伝ってもらうのはどうかしら?」

「い、いいと思いますっ。ピクニックみたいで」

「……遊びじゃないのよ、メイチェ?」

「ぴゃ!? ごめんなさいっ」


 涙目になって謝るメイチェの横で、俺は思案げな態度をとりながら、


「人望のあるリックやミュカに頼めば、人を集めるのは簡単だと思う。ただな……」

「ただ、何? ルース?」

「大勢で出かけていって森の探索を始めれば、相当に目立たないか?」

「…………っ」


 場の空気に合わせつつ満を持して放った俺の指摘に、アナスタシアが息を呑んだ。

 彼女もバカではない。

 それがどれだけ致命的な問題か、悟ったようだ。


「近道の探索は、E学級を出し抜かなくては意味がないわ……」


 そう、その通り。

 仮にF学級総出で始めれば当然、E学級の目に付くだろう。

 そしてE学級もまた、総出で森の探索を始めるだろう。

 めでたく両学級はより精密な地図を手に入れ、レースは公平なままとなる。

 アナスタシアの画策は意味がなくなる。

 これが彼女の詰めの甘さだ。

 近道を探すという発想自体はよかったが、具体的な方策まで考えが及んでいなかった。

 

 恐らく同様のことを考える奴は、他学級にもチラホラとはいるはずで、そして同様の問題(かべ)に突き当たり、作戦を白紙に戻すことだろう。

 にわかに渋面になって考え込むアナスタシアに、俺は助け船を出してやる。

 さも今思い出したふりをして、


「役に立つかどうかはわからないんだが……前回の試験で、俺は皆とはぐれただろう? その時に川を見つけたんだ」


 森の主が棲む、一際高い古木の上から眺めて見つけた。

 その真実は明かせないので、森を彷徨い歩いていたら、ちょうど霧が晴れたところに出くわしたと嘘の説明をする。


「役に立つかどうかは私が考えるわ。詳しく聞かせて頂戴」

「小さな川だった。森の西寄りにあって、遥か先までこんな風に真っ直ぐに流れていた」


 言って俺はテーブルの地図上、一本の線を指でなぞってみせる。


「南北を縦断する直線ルートがあるということ!?」

「川沿いに歩けば、恐らくそうなる」

「よく見つけてくれたわ、ルース! お手柄よ」


 アナスタシアが興奮を禁じ得ない様子で言った。

 それからまた考え込むが、今度は表情が明るい。

 ほどなく彼女は再考した作戦を口にする。


「試験が始まったら、F学級全員で推奨順路を移動しながら食料を集める。そして一人分が集まった時点で、ルースに託す。その後、あなたはこっそりと別行動して、その川に沿って北上。申し訳ないけれど“最下位(ワースト)”のあなたがいなくなったところで学級(クラス)の皆もE学級も、気にも留めないでしょう。私たちはマイペースに移動と自給自足を続けて、E学級を完全に油断させる。つまり私たち本隊が囮で、その間にルースは単独でゴールを目指す。どうかしら?」

「悪くない」


 今度こそ俺は本心から作戦に同意した。

 学級の皆もまず反対しないだろう。

 問題児のドリヤンも、前回の試験で大恥をかいて以来、しばらく大人しいしな。

 F学級の作戦は、これにて決定というムードになる。


「あと気になることがあるとすれば、E学級はどんな作戦をとるでしょうかしらね」

「さあ、さすがにわからないな」

「勝利のため、恥を忍んでお願いするのだけれど――あなた、ノアさんと親しいのでしょう? 探りを入れてきなさいよ」

「俺にスパイの真似をしろと?」


 勘弁してくれ、と俺は大仰にのけぞってみせる。

 人の好いメイチェも「さ、さすがにイケナイですよ」と嗜める。

 アナスタシアは肩を竦めて、


「森の中のサヴァイバルとなれば、獣使いのノアさんは大活躍でしょうね」

「前回のベイト同様だな」

「それこそ森の獣を使役すれば、食料くらいいくらでも狩ることができるのではないかしら?」

「かもな」


 俺は曖昧にうなずいた。


 半月近くに亘るノアとの交流で、彼女の価値観は把握していた。

 ビアンカや野生動物、野鳥の類は「お友達」。

 家畜と魚は「食べ物」。

 なのでノアが森で野生動物を狩るかといえば恐らくノーなのだが、逆に野生動物たちを使い、食べられる木の実や茸を採集させるくらいのことはやってのけるだろう。


 俺に対するアナスタシアの無茶振りが続く。


「ノアさんを誘惑して、当日は手心を加えるように仕向けるというのはどうかしら?」

「メチャクチャ言うな」


 本気で言っているのなら、こいつは本当に作戦を立てるセンスがない。


「なるほど、全ての謎が解けたわ」

「……何がだ?」

「あなたみたいな非モテのぼっちが、急にノアさんのような美少女に接近するだなんて、妙だと思っていたのよ。今回の試験を見据えて、懐に潜り込む作戦だったというわけね」

「散歩していたら偶然出会って、馬が合っただけだと言っただろ」

「ハイハイ、そういうことにしておいてあげるわ。とにかくノアさんの拉致監禁、よろしくね」

「無茶のハードルを上げるな」


 ここまでくればジョークだとわかるが、真に受けたメイチェは俺たちの間に挟まれ、おろおろとしていた。

 一方、そのアナスタシア自身は、気づいているだろうか?

 ノアに接近したのは今回の試験を見据えた俺の作戦だったという、その点に関してだけは実に核心を突いているんだがな。

 まあ、それを打ち明ける必要はない。


 試験まであと一週間、俺はノアと動物触れ合いタイムを続けるつもりだった。

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新作始めました。
『辺境領主の「追放村」超開拓 ~村人は王都を追放された危険人物ばかりですが、みんなの力をまとめたら一国を凌駕する発展をしてしまいました~』
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