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【暗躍】真の実力を隠した最下生、影の参謀としてクラスメイトたちを勝利へ導く【下剋上】  作者: 福山松江


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第十五話  結果発表

「無事で何よりだ、メイチェ」


 俺はぽつりと独白した。

 ロマールの森で一番高い古木の上に、森の主の許可を得て登っている。

 足場にできるほど太い枝に立ち、弓矢を構えている。

 ここから〈武士〉の極技(マスタースキル)《心眼》で霧の中を見通し、〈狩人〉の妙技(ハイスキル)《超長距離狙撃》を用いて射を放ち、およそ一キロ先にいるメイチェを迫る亡霊(ファントム)から助けたというわけだ。

 使った長弓は〈破魔の天弓イーライ〉。

 二百年前、“勇者一行(ブレイバーズ)”が悪竜を討伐し、手に入れたものだ。

 この弓から放たれた矢は、アンデッド特効を持つ。

 実体を持たない亡霊(ファントム)さえ、ダメージを与えることができる。

 それを元の場所に戻しておく。

 俺が〈商人〉から継承した天技(ギフテッド)《秘密の保管庫》により、亜空間に存在するいつでも出し入れ可能な場所に収納する。


 その後はアナスタシアチームにトラブルは発生せず、メイチェの《上位浄霊魔法(ヒエロ・ルルニャス)》による庇護もあって、ゆっくりとだが着実にフラッグを回収していった。

 俺が何か助ける必要はもうなかった。

 そして、試験開始から三時間。

 教師らによるものだろう、終了を報せる警笛がロマールの空に響く。

 俺は森の主に頼んで速やかに霧を晴らさせ、また俺自身の魔力を操って全ての亡霊(ファントム)どもを天へ解放していく。

 これにて学級対抗試験は、俺たちF学級の勝ち。

 それもアナスタシアの率いるチームの大活躍により、学級に勝利をもたらすという格好になるだろう。

 全て俺の狙い通りだ。

 アナスタシアを勇者として卒業させるためには、ただ勝つだけでは足りないからな。


「助かった。また何かの時は頼む」


 俺は森の主に礼を言うと、古木から飛び降りる。

 十メートルを超える高さを〈盗賊〉から学び取った特技(スキル)、《軽業》により難なく着地。

 アナスタシアチームとの合流を急ぐ。

 すっかりはぐれてしまったドジな学生のふりをして、何食わぬ顔で落ち合うのだ。


    ◇◆◇◆◇


 D、E、F学級の生徒九十九人が、集合場所に帰還した。

 早々に棄権してこの場に転移した者、亡霊(ファントム)から逃げ惑いつつも最後まで粘り、自分の足で戻ってきた者――いろいろいるだろうが、ともかく一人も欠けることなく顔をそろえている。

 下生えに足を取られて自分で転倒したり、俺が霧を発生させる前に他学級の生徒と交戦していたりと、怪我をした者の姿もチラホラ見えるが、まあ全員無事といっていいだろう。

 確保したフラッグも各担任に返還し、これから教師たちによる結果発表が行われる予定だが、それを待つ間俺たちF学級は一所に集まり、互いの成果を報告し合っていた。


「ええっ。アナスタシアさんのチームは十本もフラッグを回収したのかい!?」

「すごー」

「快挙じゃん!」


 リックが驚き、彼のチームメイトたちが絶賛する。


「メイチェが大活躍だったのよ!」


 アナスタシアが殊勲者を皆に紹介する。

 それで皆も、メイチェがどう活躍したのか聞きたがる。

 だが皆の目を見れば、指揮を執ったアナスタシアの株も上がっているのが伝わる。


 一方、リックチームの成果もリーダーの口から聞かされる。


「僕たちは霧が出る前に、幸運にもフラッグを二本確保できたんだ――」


 またその二本をリックが孤軍奮闘、死守をして、亡霊(ファントム)の群れからも逃げおおせせたのだという。

 俺が用意した地獄のようなステージの中、よくぞ学級(クラス)へ持ち帰ってくれたものだ。。

 これには素直に称賛せざるを得ない。

 やはりリックは生徒の中でも図抜けて能力が高いというか、F学級に配されたのが不思議な男である。


 そして最後、ドリヤンチームだが――


「幽霊が出た途端、ダーリンが一番にビビって棄権してさ~。ウチらフラッグ集めどころじゃなかったわ~」


 ドリヤンの情婦ポジにいるダークエルフのカニャが、「あんまりゲンメツさせないでよね~」と肩を竦めていた。

 クラスメイトたちが堪らず噴き出す。

 忍び笑いをする者もいれば、遠慮なく大声で嘲笑う者もいる。

 ドリヤン自身が気絶していたので憚りがない。

 奴は亡霊(ファントム)を目にした途端、「はうわ幽霊!?」と恐怖のあまりに失神してしまったらしい。


「結局、ドリヤンのチームだけ成果〇本かよ」

「普段あんだけ威張り散らしてるのにね~」

「ダッサ」

「寝顔もブッサ」


 いつもクラスメイトを悪し様に罵るドリヤンが、ここぞとばかりに陰口を叩かれている。


「まあまあ、あの状況じゃフラッグ回収が難しいのは仕方ないよ。他の学級の人たちだって、ほとんど持ち帰ることができてないしね」


 人格者のリックが、ドリヤンのようなクズでさえ公正にフォローする。

 ところがかえってドリヤンがみじめになるというか憐れを誘い、ますます皆の失笑を買う。


「――静粛に」


 というD組担任グスタヴの声が聞こえたのは、その時だった。

 三学級の教師たちが生徒の前に立ち、生徒たちも学級ごとに一斉に整列する。


「皆ご苦労だった。これより試験の結果を発表する」


 試験前の訓示も短かったグスタヴは、試験後のねぎらいの言葉も短く、単刀直入に本題に入ろうとする。


「苦労ってレベルじゃねーっすよ!」

「あんなメチャクチャな状況じゃ、フラッグ回収なんて無理だよセンセ~っ」

「試験やり直しじゃないんですか?」


 主にD学級の生徒から抗議の声が上がった。

 D組の三十三人は、わずか二本のフラッグしか持ち帰ることができなかったようだ。

 文句の一つもつけたくなるのが人情だろう。

 ところが、


「おまえたちも“勇者一行(ブレイバーズ)”を目指すなら、どんな不意且つ困難な状況にも、冷静に対処できるようになることだ」


 とジルヴァがぴしゃりと正論で黙らせる。


 そして、これはなかなかに巧い言い様だった。

 おかげで霧も亡霊(ファントム)も、まるで教師陣がサプライズで用意した試験の一環のように聞こえたからだ。

 もう誰も生徒の中に真犯人がいるとは思うまい。

 俺の正体を秘匿したいという点では共犯者のジルヴァの、さりげなくも効果的な一手。


 生徒一同が悔しげにしつつも口をつぐんだのを見て、グスタヴが結果発表に移る。


「諸君ら初の学級対抗試験において、一位となったのはF学級だ。獲得フラッグ数は十二本」


 まさかの落ちこぼれ学級の番狂わせに、場が騒然となった。


「あんな奴らにオレたちは負けたのか……?」

「嘘でしょ……っ」

「あの魔界みてーな状況で十二本も!?」

「“勇者一行(ブレイバーズ)”の末裔もいないのに……」


 D、E、両学級の生徒たちが一層悔しげな顔つきになって、歯噛みしながら俺たちを見る。


「私たちが決して落ちこぼれ学級などではないことを、憶えておくことね!」


 アナスタシアがクラスメイトたちを示しながら、誇らしげに言った。

 D、E学級に――まだ一部だけとはいえ――俺たちを見る目が変わる者がいた。

 これより以後F学級は「〈騎士〉ナイトハルトの末裔アナスタシアが代表する学級」という認識が、他学級に芽生えていく可能性もあるだろうな。


「続いて二位を発表する――」


 グスタヴが生徒たちの私語を咎めるように、強い語調で発表を続けた。

 生徒たちも一斉に押し黙った。

 二位となったのはD組か? E組か?

 獲得本数はいくつか?


「――二位となったのはE組だ。獲得本数は十本」


 そう。

 E組は学級(クラス)を二つのチームにわけて捜索する作戦をとったようだが、そのうちの片方が二本のフラッグを持ち帰った。

 そして残る片方が――周囲を驚かせる――八本のフラッグ確保に成功したのである。

 メイチェを擁するアナスタシアチームに次ぎ、他を大きく引き離す大成果といえよう。


「さすがはベイト君ね」

「ああ……」

「本物の“勇者一行(ブレイバーズ)”の末裔は、やっぱ違うよ」


 そんな称賛の声が、あちこちから聞こえる。

 入学から半月足らずで早やE学級を掌握している、蜂蜜色の髪の男子に注目が集まる。


〈聖者〉マーノウの末裔、ベイト。


 それが彼であり、極めて優れた白魔術の使い手だ。

 メイチェ同様に《上位浄霊(ヒエロ・ルルニャス)》を習得しており、 それで亡霊(ファントム)の群れがたむろする森の中にもかかわらず、八本ものフラッグを持ち帰ることができた。

 ただし同じ《上位浄霊(ヒエロ・ルルニャス)》でも、メイチェの会得した「魔法」とベイトの「魔術」では効力に大きく差がある。

 その分、ベイトチームの方が亡霊(ファントム)の処理に時間がかかるし、獲得フラッグ数にも差が出たのは当然の帰結というわけだな。

 だが、ほとんどの生徒には詳しい事情などわからず、ベイトの「“勇者一行(ブレイバーズ)”の末裔」という風説が独り歩きするのもあり、誰も彼もがE組代表に畏敬の目を注ぐ。


 そんな空気の中で――

 アナスタシアが一人静かに、呆れ口調で独白した。


「〈聖者〉の子孫が『本物の“勇者一行(ブレイバーズ)”の末裔』だなんて、面白い冗談ね」


 ――と。

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新作始めました。
『辺境領主の「追放村」超開拓 ~村人は王都を追放された危険人物ばかりですが、みんなの力をまとめたら一国を凌駕する発展をしてしまいました~』
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