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とってこい(☆)

挿絵(By みてみん) 


 私は運動神経はわりと良い方だと思う。運動会ではリレーの選手だったし、今でもよく走っている。乗馬だけでなく、スキー・スケート・水泳等も大好きだ。特にバランス感覚を競うものが得意で、子供の頃は一輪車や竹馬でよく遊んだなぁ、などと神戸の親戚宅で子供達が遊ぶのを眺めつつ感慨に耽っていた時のこと。

「イズちゃんもやって!」と子供達が一輪車を差し出してきた。

 しかし私はヒールのあるブーツだし、スカートなんだよな、と思いつつちょっとトライ。だめだ、全然乗れない。そもそも小学生用の一輪車なんてタイヤが小さ過ぎて、足の長いお姉さんには無理なんだよ! そんな私を見て笑うジェイちゃん及び我が親族達。ムッとする私。

「ちょっと待っててね!」

 公園から家に走って帰り、スカートやセーターを脱ぎ捨て、ジーンズ・タンクトップ・ランニングシューズに履き替える。戦闘態勢を整えて公園に現れた私を見て驚く親族達。彼等は子供達に借りた一輪車を乗りこなし、竹馬で歩き回る私を褒めるどころか涙を流して笑い転げ、「イズちゃん◯◯歳の本気!」とか失礼なナレーションを入れつつビデオを撮っていた。ちなみにデブのジェイちゃんは子供達から借りた竹馬をぶっ壊していた。


 勝手気儘に身体を動かすのは良いが、団体競技は苦手だ。苦手な理由は……まぁ皆さん大体察しがつくと思うので敢えて言及しないが、とにかく野球などルールすらよく知らない。そんな私が何の因果か大学院の男女混合ソフトボールチームでプレイする羽目になった。

「1チームに最低四人は女のコが必要なのに、男ばっかり集まっちゃって、プレイしてくれる女のコがいないんだ。頼むよ、イズミは一応女のコだし、いっつもジムで鍛えてるじゃん!」

 仕方が無い。緊急時の助っ人のみという約束で、嫌々チームに入る。

「イズミは運動神経イイから助かるよ!」と喜ぶ男子学生達の笑顔に多大なプレッシャーを感じる私。家に帰るなりジェイちゃんの肩を掴んで揺さぶる。

「ジェイちゃん! バッティングセンター行こう!」

 人々の期待を裏切ることは出来ない。私は根が真面目なのだ。

 バッティングセンターなど初めて行ったが、数回の大空振りの後、コツを掴んで球を打ち返せるようになると中々面白かった。

「球を打つ練習よりも、キャッチボールの練習した方がいいんじゃないの?」とジェイちゃんに言われ、マイ・グローブまで用意して、ジェイちゃんと私の公園通いが始まった。吹雪も嬉々としてお供する。吹雪はキャッチボールが大好きなのだ。


 ジェイちゃんと私の間を行き来するボールを取ろうと懸命に走り回る吹雪くん。しかし誰も彼の為にはボールを投げてくれない。しばらく考えた後、吹雪は走り回るのを辞めて私の真横で待機するようになった。

「コッチの方がボールを取り落とす確立が高い。つまりボクがボールを手に入れることの出来る可能性が高い」とか思っているらしい。失礼な犬だ。

 上手くキャッチ出来ず(ジェイちゃんの投げ方が悪いのだ)、地面に転がったボールに飛びつく吹雪と、そんな彼に向かって喚き散らしながら草叢にダイブする私。私からボールを奪った吹雪が意気揚々とジェイちゃんへボールを運ぶ。お前が咥えたボールは涎でベトベトして気持ちが悪いんだよ!と怒る私。

 ジェイちゃんにボールを渡すと素早く私の横まで駆け戻ってくる吹雪。私がボールを落とさなくなってくると、奴はなんと私の前に飛び出し、ジャンプしてボールを掻っ攫っていくようになった。

「ふぶきーッ」

 私が幾ら喚いても、吹雪くんは僅かに耳を伏せて尻尾を巻くだけで私からボールを奪うのを辞めない。彼は普段は物凄く大人しくて従順なのだが、昔からキャッチボールに関してだけは譲らないのだ。ボールの所有権を巡って争う私と吹雪を見て、ジェイちゃんが家からテニスボールを持ってきた。テニスボールを見て目を輝かせる吹雪くん。彼はベースボールよりテニスボールの方が好きなのだ。


 テニスボールのザラザラ感が心地良いのか、何やら恍惚とした表情でガミガミと噛む犬がよくいるが、アレは歯のエナメル質に非常に悪いのでオススメしない。たまに公園でキャッチボールをするくらいなら構わないが、普段から噛んで遊ばせている犬は犬歯の後側が独特な形に削れているのですぐ分かる。無論吹雪くんも滅多にテニスボールでは遊ばせて貰えないので、これは非常に稀な機会なのだ。


 夕暮れ時の公園で、ベースボールとテニスボールを手にしたジェイちゃんの前に並んで待機する私と吹雪。

「吹雪、取ってこーい」と言ってテニスボールを投げるジェイちゃんと嬉々としてそれを追う吹雪くん。

「イズミ、取ってこーい」と言ってベースボールを投げるジェイちゃんと、嬉々として……。


 この光景、ナニカが間違っている気がした。

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