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裏表(☆)

挿絵(By みてみん)


 人と違い、動物には裏表が無いから信用できる。などとよく聞くが、私はそうは思わない。動物にだって裏表くらいある。


 例えば吹雪。

 彼は誰にでも懐き、愛想が良く、家に時々出没する野ネズミにさえ優しい。どんな命令でもきちんと聞き、エンジュの牛耳る格差社会にも決して不服そうな顔をみせない。無論ソファーに上がったことなんて、行儀の良い吹雪は仔犬の頃から一度もない……筈だった。


 夜中の3時頃、不意に目が覚めた。水でも飲もうかと思って階段の明かりをつけると、トン、と何かが飛び降りるような微かな音がした。リビングルームに行くと、犬用ベッドに寝ていた吹雪がチラリと私を見上げて軽く尻尾を振った。そのまま何事もなかったように眠る吹雪を横目にソファーに座った。

 ……あれ? なんかお尻が温かいんですけど。


 御察しの通り、ソファーで寝ていたのは吹雪だ。私もジェイちゃんも、まさか吹雪がそんなことをしているなんて何年も知らなかった。彼はヒトの気配がすると素早くソファーから降り、「畏れ多くもそんなところに座ったことなんて、イイコちゃんの僕は一度もありませんよ〜」と何気無い風を装う。しかしヒトの見ていない所では堂々とソファーに寝そべり、「チッ、やってらんねーよ」 とか言ってるのだ。

 家で犬猫を放し飼いにしているヒトがいたら、是非ビデオやwebカメラを設置してみると良い。鬼の居ぬ間に洗濯するのはヒトだけではないのだ。貴方の動物達の知られざる一面、すっごく面白いですよー。


 子供の頃に飼っていたオス猫ミルクくん。彼は後から家に来た仔犬のティンクちゃんを虐め抜いた。それも、家人に気付かれないようにこっそりと。

 ある日の事。ティンクの姿が見えず、おかしいなぁ、と母が仔犬を探しまわっていた。ふと見ると、ミルクがお勝手の上り口にちょこん座っている。

「ミルちゃん、そんなところで何しているの?」

「にゃー」 と可愛く答えるミルクくん。

「ティンクちゃんはどこに行っちゃったのかしら」

「にゃー」


 首を傾げつつリビングルームに行こうとした時、目の端に床下から覗く黒い鼻の頭がちらりと見えた。次の瞬間ミルクがものすごーく意地悪な顔でシャッとその鼻面を引っ掻き、鼻が慌てて床下に隠れた。

「ミルクちゃんっっっ!!!」

 母に怒鳴られ、一目散に逃げるミルク。無論彼はコレがやってはいけない事だと知っているのだ。ミルクは人前では決してティンクを虐めたりしない。それどころか割と仲の良さそうな振りまでする。そして誰にも見つからないよう、陰でこっそりと虐める。まるきり陰湿な小学生のイジメだ。


 しかし裏表の激しさで言えば、エンジュはヘビーウェイトのチャンピオン級だ。


 長い睫毛をハシハシと瞬かせ、潤んだ大きな眼でじっと上目遣いに私を見るエンジュ。可愛い表情の作り方を熟知している彼女は、私の前では常に最高級にあどけなく可愛い顔をする。しかしそれは彼女の本性ではなく、努力して「作られた」顔なのだ。


 エンジュは私が保健所から引き取ってきたメス犬のリディアが嫌いだった。

 ソファーで私の右横に座ったエンジュを撫でていると、左横からリディアが顔を出した。

「リディアも撫でて欲しいの? よしよし」 と手を伸ばすと、突如リディアが何やら怯えと不快が入り混じった顔で後退った。チラリと横目でエンジュを見ると、彼女は思いっきり鼻にシワを寄せて目を釣り上げ、牙を剥き出していた。しかし唸り声は立てない。私に気付かれないようにリディアを脅しているのだ。

 私が見ている事に気づいた途端に大慌てて可愛い上目遣いに切り換えるエンジュ。しかし私が彼女から目を逸らすと即座に意地悪な顔になる。言葉では説明しがたい、もの凄まじい表情なのだが、他人に話しても信じてくれない。

「え〜、まさかぁ、エンジュちゃんっていっつもすごーくイイ子じゃな〜い」

 人々に褒められ、澄ました顔であくびをするエンジュ。彼女の本性を知る人間は少ない。人間を手玉に取るのなんてエンジュにとってはお茶の子さいさいなのだ。


 しかし吹雪が仔犬の時、偶然エンジュの性悪顔をカメラに捉えることに成功した。


 吹雪の成長記録の一環として、数日ごとに吹雪とエンジュを並べて座らせ写真を撮っていた私。しかしその日は吹雪が中々大人しく座らず、シットと言っても伏せしたり、ぬいぐるみを咥えてふざけたり。次第にエンジュの表情が険しくなってくる。彼女は知っているのだ。この馬鹿チビがジッとしない限り、彼女は永遠にカメラの前で可愛い顔を取り繕い続けなければならない。イライライライラ……


「大人しく座っとれやワレッ」


 唸り声は立てず、しかし不意に吹雪に見せたエンジュの一瞬の表情を文明の利器は捉えた。


 シャッター音に慌てて振り返って可愛い顔をするエンジュ。しかし全ては後の祭りである。

 

挿絵(By みてみん)

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