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土用の丑の日

季節外れですが、只今田舎に帰省中の両親が日夜トモユキ伯父と宴会しているらしいので、ふと思い出して書きました。

 夏のある日のこと。

「隣の村で土用の丑の日祭りがあるから行こうで」 とトモユキ伯父が言い出した。


 その日は確か日曜日だったので、『土用の丑の日』を『土曜日の牛の日』だと思っていた私には何の事やらサッパリだったが、しかし祭りと聞けば喜んでついて行く。だってほら、祭りと言えば綿アメと金魚すくいでしょう? 私、金魚すくいメッチャ上手いんだよね。牛の日って言うくらいだから、モーモー牛さんにも会えるかもしれないし。


 当時でも珍しいほど綺麗な河原で行われたそのイベントは、祭りと言う程のものではなく、まぁ、夏やし暑いし土用やし、近所のヒトで集まってみましょか、といった感じののんびりとしたものだった。そして牛は無論のこと、綿アメも金魚すくいも無いその『祭り』の目玉は、なんと鰻すくいだった。


 大きめのビニールプールの中に大量に蠢く黒蛇の如き生きたウナギ達。

 小学生以下の子供達はウナギが食いたい大人達によってそのヌルヌル地獄の中に放り込まれ、手掴みでウナギを捕まえることを強制される。生臭い水で芋の子を洗うような阿鼻叫喚騒ぎのなか、難なくミッションクリアする私。一応都会っ子ですが、アウトドア派ですから。しかし田舎っ子なのにめっちゃインドア派の我が従兄妹達はかなり苦労していたようだ。特に従兄弟のエイちゃんなど、本当は中学生だったのに、「お前はちっこいで小学生にみえる! 大丈夫や、さっさと行ってこいっ」 などと言われ、横暴なトモユキ伯父に首根っこを掴まれ、ウナギ地獄に放り込まれていた。

 今更ながらに思うのだが、アレは蛇系ニョロニョロが苦手なヒトにはかなりトラウマな光景ではないだろうか。都会っ子に比べれば田舎っ子は遥かに逞しいが、しかしそんな子ばかりではない。現に我が従姉妹のあーちゃんは純粋な田舎育ちの癖に蛙が大嫌いだ。家の窓ガラスに張り付いている小指の先程の雨蛙にいつも盛大な悲鳴を上げている。


「……三匹か、ちょっと足りんのう」 と三人の子供達の戦利品にやや不満気なトモユキくん。 さてはこのヒト、鰻すくいの事を知ってて私達をここに連れて来たな。しかし田舎の家は只今、我がファミリーを含めて9人家族なのだ。確かに鰻三匹では少ない。


 と、ぼんやりと川を眺めていた我が父が、突如、「あっ」と叫ぶと川に突進していった。服のままじゃぶじゃぶと腰の辺りまで水に浸かる父の姿に、暑さのあまり気でも狂ったかと驚く。

「見て見て! ほら!」 と得意気に水から上がった父の手には、死んだ鰻が掴まれていた。ビニールプールの阿鼻叫喚騒ぎの最中、子供に踏まれたり酸欠で弱って死んだ哀れなウナギ。父は川に捨てられたソレを目敏く見つけて拾って来たらしい。

 死んだと言っても、ついさっきまでは生きていたフレッシュな死体だ。それをポイポイ川に投げ捨てるとは、ウナギの値段の高騰した今では考えられないおおらかさですな。


 父の手の中のウナギに、「おぉっ」 と喜びの声を上げるトモユキくん。

「大丈夫ですよね、食べれますよね?」 と尋ねる父に、「そりゃモチロン大丈夫ですわ」 と答え、受け取ったウナギをいそいそとビニール袋に入れる。

「あっ、ほらまたっ!」 と叫んで再び川の流れに突っ込んでいく父。

「そっちの方にもありますよ〜」 などと笑いながら声をかける見物客。


 (きら)めく川面を渡る風も爽やかな夏の日の、そのあまりに美しくない光景に、私は心の底からゲンナリした。小学4年生ともなればプライドやらメンツやらというモノがある。それに対し、あの父の姿はあまりに恥ずかしい。いやホント、そこまでしてウナギなんか食べたくないから、お願いだからやめてくれっ!


「……もう、やめてよ」 と低い声で文句を言うと、「だって勿体無いじゃん」 と口を尖らせる。

「まぁ、ほんにそうですなぁ。食べたらどれも同じやし」 などとニコニコ笑いながら余計なことを言って父を応援するどこかのオバさん。ちょっと勘弁してくれ。そのヒト、おだてられると益々調子に乗るからさ!

 案の定、オバさんに褒められた父は嬉しげに鼻の穴を膨らませ、またまた流れに突っ込んでいく。ダメだ、あのヒトを止めることはもう誰にも出来ない。

 そんな父の姿に、「さすがヒョウさんや、しっかりしとるなぁ」 と笑いながらも決して自分は水に入ろうとしないトモユキ伯父。彼も自分がやるのは恥ずかしいに違いない。


「……他人のフリしようで」

 いたたまれなくなった私と従姉妹はそっとその場を立ち去ろうとした。

「イズ! ちょっと見て! ほら、こんなに取れた〜」

 私に褒めてもらおうと、大声で話しかけてくる空気の読めない父。


 色々な意味でヒジョーに思い出深いモノとなった土用の丑の日。

 父の(余計な)奮闘のお陰で全員分のウナギが手に入り、トモユキくんが捌いた美味なウナギを皆でお腹いっぱい食べましたとさ。

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