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七面鳥(☆)

挿絵(By みてみん)


 春の早朝、まだ暗いうちに乗馬クラブに来た私。


 霜を踏み踏み、広い放牧場で干し草を食べる馬達の中から愛馬を探す。と、馬の足元をうろつき地面を啄ばむ黒っぽい鳥の群れを発見。私は最初ソレが何かよく分からなかった。どこかの農場から逃げ出したニワトリかな〜、と思い、何気無く近付いて驚いた。デカイ! ニワトリの4倍はある。

「なんだコイツラ?!」 興奮して更に近付く私。と、一際デカイ一羽が私に気付いて顔を上げ、「キョーーーエッ、キョキョキョッ」とけたたましいアラームコールを上げた。


 グリーンの光沢を帯びた黒い胸毛、毛の無い赤い顔と嘴の上から垂れ下がる20cmくらいの細長い肉垂れ。七面鳥だ! 和泉興奮MAX。カメラを持っていないことが悔やまれてならない。


 七面鳥と言えばアメリカでは感謝祭のご馳走だ。お腹に野菜やらドライフルーツやらを詰め込んだ七面鳥(ターキー)の丸焼きのレシピは家族代々受け継がれるモノらしく、感謝祭の季節になると人々はレシピの自慢話に花を咲かせる。ちなみに我が家はジェイちゃんがターキー嫌いのチキン好きなので、毎年チキンの丸焼きを作っている。私としても、オーブンで半日以上かけてじっくりとローストしなければいけないターキーなどあまり手を出したくない。


 と言うわけで、私にとって七面鳥とは、11月にマーケットに並ぶ毛を毟られ頭の無い大きめのチキン程度のモノだった。鶏よりデカく、重く、鈍そうなイメージ。

 確かに七面鳥達はデカかった。雄など私の腰より上に頭がある。言うならば孔雀の首を少々短くしてメチャメチャ太らせた感じ。しかしその大きな体に似合わず、七面鳥達は意外に素早かった。雄のアラームコールで10羽の雌がドドド、と地響きを立てて一斉に走り出し、あっという間にフェンスの向こう側に消えた。


「ちょっと聞いてっ! 今日凄いモノだった見ちゃった!」

 家に帰るなり惰眠を貪るジェイちゃんのベッドに飛び乗る私。むぐぐ、と芋虫のように丸まるジェイちゃんの掛布団を容赦無く剥ぐ。

「野生の七面鳥! 群れで雌が10羽で雄が一羽いたんだよ! スッゴイ大きいの!」

「……ふ〜ん、良かったね」反応の薄いジェイちゃん。

「野生だよ? 本物だよ? マーケットで売ってる首無し毛無しじゃないんだよ? 家から車で10分の所でデカイ七面鳥が自然繁殖してるんだよ? ちょっと凄くない?!」 ジェイちゃんの反応の薄さに不満な私。もっとこう、「うわーっ、スゴイッ! 僕も見たいっ」とベッドから飛び起きるような反応が欲しいのだ。

「ジェイちゃん、野生の七面鳥見たことある?」

「さぁ、よく憶えてないけど、多分あるんじゃないかな……」

 多分あるって何だそれは? あんなデカイ鳥、一度見たら忘れようがないだろうが。お前の記憶力はチュチュ並みか?

「明日早起きして一緒に見においでよ。6時頃行けばいると思うんだよね」

「……イズミじゃあるまいし、僕は七面鳥にそこまでのロマンは感じない」

 折角のヒトの好意を踏みにじるジェイちゃん。ムカついたからエンジュと吹雪にベッドに飛び乗ってジェイちゃんを叩き起こすよう命令を下す。


 その日以来、朝乗馬に行く時は必ず iPhoneを持っていくことにした。7時前に行けば、ほぼ必ず七面鳥の群れに会うことが出来る。10羽の雌のハーレムを率いる雄の七面鳥ターキーを、私はタッキーと名付けた。タッキーは物凄く大きく、マーケットで売っている毛を毟られた七面鳥達とは一味違う。ツヤツヤ青光りするような黒い羽も見事だ。七面鳥はかなり強気で凶暴だと言う人も多いが、タッキーはとても慎重な性格で、私の姿を見ると、けたたましいアラームコールと共にあっという間に雌を連れて逃げてしまう。あまりにも素早くていつも逃げてゆく黒いお尻の群れの写真しか撮れない。私は尻フェチではない。尻より頭の写真が撮りたい。


 それにしても逃げ足の速いやつらだ。ネットで七面鳥を検索してみる。

 ウィキペディアによると、七面鳥は毎時32kmで走るらしい。32km/hr……って秒速8.9m?! 100メートルを11秒ちょいで走るってこと?! それって私より全然速いじゃんっ! 七面鳥よ、デブとか馬鹿にして悪かった。ジェイちゃんもそうだが、見た目と運動能力が比例しない動物というのは確かに存在する。陸上ではボテボテのメタボ体型なのに、一旦水に入れば驚くほど華麗な海の妖精と化すペンギンなどが良い例だ。


 タッキーのハーレムの周りをウロつくのは私だけではない。

 群れの周りをゆっくりと徘徊するコヨーテのカップルの姿を度々目にした。どうも雌を狙っているらしいが、タッキーが怒ってキョキョキョキョッと叫びながら体を膨らませるとコヨーテ達は呆気なく逃げてゆく。コヨーテの平均体重は14ー5kg、それに対して七面鳥は10kg前後で、中には20kg近い大物もいるらしい。タッキーはがっちりと大きく、ゆうに10kg以上ありそうだ。つまり体格的にはコヨーテと互角。あの爪と嘴の鋭さを見れば、コヨーテだって慎重にならざるを得ない。


 そんなある日のこと。

 久し振りに朝乗馬に行くと、タッキーのハーレムがいつもより小さいような気がした。雌を数えると、8羽しかいない。2羽足りない! どこかで卵を温めているのかも知れないが、もしかしたらコヨーテ達に獲られてしまったのかもしれない。ナショナルジオグラフィック的大自然ドラマだのう。


 と、タッキーが私に気づいた。


 大事な雌を失った悔恨が彼に火をつけたのだろうか。いつもなら、「危険危険!変なヤツちかづいてきた〜」と叫びながら逃げるタッキーが、突如私に向かってバサリと尾羽を広げて胸を大きく膨らませた。更に横腹の白と黒の縞模様の羽も広げる。わたしに対する威嚇のディスプレイだ。

「おぉ〜」と感動してiPhoneを構える危機感の薄い私。基本バカなのだ。

 タッキーの顔が興奮で青くなる。嘴の根元に垂れる肉垂れは真っ赤だ。七面鳥の名の由来は、興奮すると顔の皮膚の色が赤・青・紫などに変わることから来ているらしいが、本当なんだ〜、と喜ぶ無邪気な私。


 タッキーが尾羽を打ち震わせながら私にゆっくりと近づいてきた。上手く説明できないが、動物にはそれぞれ「これ以上近づいたら絶対に戦いの避けられない距離」というのがあって、多くの動物はその射程範囲内に入った瞬間に襲いかかってくる。ヒトにはちょっと言えない数々の修羅場をくぐり抜けてきた私は、なんとなくその距離感が分かる。肌にピリピリと相手の緊張を感じるのだ。だからタッキーの場合も、あと数歩だな、と思った時に、先にこちらから数歩後ろに下がる。と、タッキーが広げていた下羽を閉じ、ふっと緊張を緩める。しばらく待ってから、再びタッキーに近づく。タッキーがバサリと羽を広げる。緊張感が昂まり過ぎる前に一歩後ろに下がる。そうやって少しづつ近寄った。

 わかってますよ、コレって実は結構危ないって。鳥と言ってもコヨーテを相手にするような体格だ。あの鋭い足の爪で蹴られたら肉くらい簡単に裂けるだろうし、眼でも突つかれたら大事だ。でも仕方無いじゃん。私のiPhoneのカメラでは、結構近付かないと写真撮れないんだもん。


 結局10メートルくらいまで近づいて写真を撮ってきた。ウィキペディアに書いてあることが本当なら、タッキーが1秒ちょいで私に襲いかかることの出来る距離だ。しかしやはり携帯のカメラではイマイチだったので、皆様にこの感動を伝えるべく、今週末はデジカメを持ってタッキーに再挑戦するつもりだ。

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