巣作りの季節(☆)
春爛漫。
三月も半ばに差しかかり、我が家の犬二匹は抜け毛の季節、真っ只中。
もう毎日毎日、掃除機が壊れそうな勢いで毛が抜ける。いくらグルーミングしても間に合わない。毎日毛を梳く度に一匹につきビニール袋一杯分の毛が取れる。黒い服など着ていると、ちょっと彼等の体が触れただけで一瞬にして真っ白だ。
「こんなに抜けたらハゲになるよ! 少しは体にくっつけときなさい!」と終いにジェイちゃんがキレる。
脇腹や胸の辺りの下毛などは手で引っ張るだけで束になってボソッと抜ける。これが何やら快感で、私はアンダーコートの深い吹雪を捕まえてはモコモコした毛を指で引っ張る。ムシッムシッ、ぼそっぼそっ。
しかし吹雪はものすご〜く不快そうな顔をする。櫛で引っ張られるのと指で引っ張られるのではどうも違うらしい。でもダメダメ、少しは我慢しなさい。神は空を舞う君達の抜け毛に疲れているのだ。少しくらいこっちにも楽しみが欲しい。ムシッムシッ、ぼそっぼそっ。
吹雪がキャインと泣く。チッ、デカイ図体して大袈裟な奴だ。
「そんな可哀相に、調理前の鶏じゃあるまいし、毛を毟られるなんて誰だって嫌なんだよ〜」 などと言ってジェイちゃんが吹雪の肩を持つ。仕方無い。面倒だがバルコニーに出てブラッシングしてやる。
ビニール袋一杯の白い毛を見ていると、実に勿体無いと思う。これって何か有効活用出来ないのだろうか。そう思うのは私だけではないらしく、先日愛猫の抜け毛で毛糸を作りマフラーやら鞄やらを編むヒトの話を何かで読んだ。猫の毛のマフラーなど巻いたら私は喘息で窒息死しそうだし、アイデアそのものもナントナ〜ク微妙な気がしないでもないが、しかし一部の猫好きには堪らないだろう。
それにしても我が家の犬は体の大きさが違う。猫でマフラーが作れるなら、吹雪なら布団くらいイケそうだ。そしてそう思うのもまた私だけではないのだ。
バルコニーでブラッシングすると、当たり前だがバルコニーが毛だらけになる。箒ではいてもふわふわとした毛が鉢植えの草花にくっついてしまってどうしようもなくなるので、普段は公園などに行ってブラッシングしている。しかし春だけはその必要がない。バルコニーの抜け毛は2ー3時間のうちに綺麗に跡形も無くなる。
抜け毛の塊を適当にビニール袋に詰め、しかし袋の口は閉じずに家に入る。窓から眺めていると、来ましたよ来ましたよ。数分もしないうちに雀やフィンチが次々とバルコニーを訪れる。そして皆、バルコニーをチョンチョンと行ったり来たりして、丁寧に吹雪とエンジュの毛を拾い集める。飛び去る彼等の嘴は白い毛で一杯だ。やがて毛の詰まったビニール袋に気付いたフィンチが、恐る恐る袋に近付くと中の毛を引っ張り出し始めた。ガサゴソと音を立てるビニール袋に怯えるのは最初だけで、すぐに慣れて大量の毛を咥え出し、鼻高々、意気揚々と巣に持ち帰る。
きっと我が家の周りの巣は白い犬の毛で一杯なのだろう。ふわふわモフモフの暖かな毛に包まれた小さな卵を想像すると、思わず顔がにやけてしまう。
「なに一人でニヤけてるの?気持ち悪いよ?」 とジェイちゃん。
と、一羽のフィンチがバルコニーの端に吊るした花籠にとまった。花籠には白いバーベナが咲いている。青い空。濃いグリーンの葉に真っ白の花、フィンチの紅い胸元が映えて実に絵になりますのう、ムフフ、と再びニヤつく私。別にどこかオカシイわけではない。ただ春は気分がいいのだ。
フィンチも私の花籠が気に入ったのだろうか。紅い鳥が咲き乱れる白い花を愛でるかのように小首を傾げる。ムフフ、綺麗でしょ? 素敵でしょ? アレ作るの結構苦労したんだよね。
突如フィンチが花籠の藁を毟り始めた。
「……え。え? ちょ、ちょっと!」
家の中で慌てふためく私に構わず、フィンチがムシッムシッと花籠を毟り壊す。ぎょえ〜、やめてくれーっ。思わずバンバンと窓ガラスを叩く。逃げるフィンチ。しかしホッとしたのも束の間、2分もしないうちにフィンチが戻ってくる。今度は番いの雌まで連れて来た。そして再びムシッムシッ。窓を叩く私。逃げるフィンチ。
フィンチと私の攻防はその後一時間近く続いた。
諦めて仕事に行き、夕方帰ってくると、苦労して作った花籠は藁があちこち引っ張られ、毟られ、ボロボロになっていた。
その後アブラ虫の襲撃に遭いバーベナは全滅したが、花籠はそのまま吊るしている。花の無い花籠は、理想的な巣材として犬の毛と共に我が家周辺の小鳥達の間で密かなブームになりつつある。
ちなみにチュチュも喜ぶかと思って彼のベッドの中に吹雪とエンジュの毛を入れてやったところ、あっという間に全て蹴り出し、おまけにわざわざケージの隅のトイレスポットまで運んでオシッコをかけていました。う〜む。
エンジュ一回分の雲(↓)
3月生まれの吹雪くんの子熊時代。
全く何の脈絡もありませんが、小タマネギをバターで炒めていたら起きた奇跡に感激するジェイちゃん。




