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85.降って来た

「……ここは」


「目が覚めたかい?」


 タッタッタッタ、と揺れるのに合わせて、自身の体も揺れるのを感じながら目を覚ますと、まず始めに目に入ったのが、茶色の馬の頭だった。


 今は馬に乗っているのか? そうぼんやりと考えていると、後ろから話しかけられる男の声。振り返るとそこには、馬の手綱を握る仮面を付けた男がいた。


 ……そうだ、彼らの助けがあって皇城から何とか逃げ出したけど、その後の追っても凄くて、何度かシーシャに放たれた矢を受けたんだった。そのせいで気を失って


「……シーシャは?」


「彼女は大丈夫だよ。今はエリーゼ皇女と共に馬に乗ってセシラ様といる。でも、さすがあの人の配下だ。背中にあれほど矢が刺さっても生きているのだから……いや、レイスだから生きているとは違うのかな?」


 後ろから気を紛らわすためか話しかけて来る仮面の男だったけど、今は何よりシーシャの無事な姿を見たかった。


 それから1時間ほど走った先、隠れる事が出来る山の中に入り、そこで一旦休憩するらしい。そこでようやく、シーシャやエリーゼ皇女と出会う事が出来た。


 周りにはセシラと呼ばれた女弓兵にセルと呼ばれた仮面の男。その部下が100人ほどらしい。まだ先に進めばいるようだけど、現時点ではこれだけなのだとか。


「クロノさん!」


「シーシャ、無事で良かった」


 シーシャは周りの目を気にしないで僕に抱きついては頭を擦り付けて来る。僕は彼女を優しく抱きしめる。良かった、見た限り大きな傷はなさそうだ。その後ろからエリーゼ皇女もやって来た。


「目を覚ましてくれて良かったわ。あなたが矢を受けて気を失っている間、彼女の慌てようといったら見ていられなかったもの」


 そう言い笑うエリーゼ皇女。シーシャはそれを聞いても抱きついたまま離れない。それから、シーシャが満足するまで抱き締めてから、今後について話す事になった。


 現在は亜人国と帝国の国境、帝国内の領地に置いている帝国軍の元へと向かっているらしい。その帝国軍は亜人国へと攻めに入った兵士たちで、治療を名目に休ませているそうだ。だけど


「まあ、役には立たないでしょう。ただでさえ勝つ予定だった亜人国との戦争に負けて士気も戦意もガタ落ちのところ、今度は自国の兵士と戦えなんて言っても、まあ、無理でしょう」


 僕だったら逃げるね。絶対に。ましてや向こうには四獣家がいる。玄武家は兎も角も確実に朱雀、白虎、力はないが青龍家が出て来るのは目に見えている。


 それに対してこちらは皇女が何と言おうと、僕たちは皇女を攫った犯罪者でセシラたちは謀反者という扱いをされるのは目に見えている。


「でも、今はそこを目指すしかありません。帝国内は第1皇子の派閥の貴族ばかりですから。少しでも味方、もしくは盾に出来る者がいるところへ向かわなければ。皇女殿下を守る事は出来ません」


「……そういう考え、あまり好きじゃないのだけど」


 エリーゼ皇女はセシラの言葉に顔を曇らせる。その事に関しては追々話していけばいいと思うけど。


 その日は山の中で野宿をして、次の日朝早くに再び国境へ向けて馬を走らせた。既に各領地には連絡が行っているのか、街の警備が厳しく中に入る事は出来なかったけど、僕が目を覚ましてから5日後、何とか国境付近の最後の街まで辿り着いた……隊列を組んだ帝国軍の出迎え付きで。


 まあ、各領地に連絡が行っているのなら国境軍にも行っていてもおかしくない。ただ、不思議だったのがその中に四獣家が混じっている事だった。当然各領主も。


「……不味いわね。眷属たちもいるじゃないの」


 エリーゼ皇女が冷や汗を流しながら呟く。確かシーシャに聞いた話だと、領主に認められた者には帝具から力を与えられるんだっけ。その力を持ったのが眷属と言われる存在だったはず。


 それらを含めた帝国軍は2万ほどだけど、100に満たないこちらとしてはかなりきつい。


「……ここは私が」


「身代わりの意味はないと思うよ。ここまで来れば向こうも反逆者は殺さないと示しがつかないだろうしね」


 何とか突破する方法を考えないと。何かないかな? 策を考えていると、煌びやかな鎧を着た老兵が出て来た。そして皇女を返せば命は助かると全く信じられない事を叫んでいた。


 皇女を返したところで殺されるのは目に見えているし、返した皇女も殺す可能性がある。人質に取られた皇女は悪徳非道な反逆者に殺されたとでも言って。


 しかも、皇女を捕らえた者には恩赦を与えるなどほざき始めた。その言葉を聞いたこちらの兵士は当然目の色を変える。


 負け戦確実な現状を打破しようと思ったらそれしかないだろうしね。セシラやセルは先程まで味方だった兵士たちからエリーゼ皇女を守るように武器を構える。僕もシーシャの側に寄り、いつでも魔結晶を取り出せるようにしておく。


 死霊を呼び出す事が出来る魔結晶は千個ほど。それを使えば一時的には凌げるけど、国境は超えられないだろうね。


 ……最後の方法としては、魔道具師としての力を使ってこちら側にある青龍の涙を暴走させる事かな。ただ、それをすると僕の存在は消えるだろうし、青龍の涙は壊れるだろう。


 一度死んだ身としては、もう一度死ぬ事なんか怖くはないし、シーシャを守るためなら構わないと思っている。だけど、彼女の形見を壊すのは最後の手段にしたい。この辺、僕は甘いのだろう。まあ、曲げる気は無いけどね。


「皇女を渡す気は無いようだな。ならば仕方あるまい。全軍、とつげ……」


 老齢の将軍が号令をかけようとした瞬間、僕たちの視界から入らない空から何かが降って来た。ズドォン!!! と、大きく揺れる地面。もくもくと立ち込める砂煙。余りにも突然な事で帝国軍側もこちら側も動く事が出来なかった。


 ただ、砂煙の中から嬉しそうな笑い声だけが聞こえてくる。


「なぁ、旦那っ! こいつらとは戦っても良いんだよな! なぁ、なぁ!!」


 そして、砂煙が晴れる頃には、中から3人の男女が現れた。1頭大きな狼がいるけど。


「あわわわっ、お、俺は何としても生きて帰ってティエラに会うんだ!!」


「そんな緊張しなくていいよ、マルス。死んでも僕が蘇らせてあげるから。レルシェンド、好きなだけ暴れていいよ。ロウも」


「ワウッ!」


 まさかこのタイミングでやってくるなんて……カッコ良すぎだよ……ボス。

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