第87話 呪いの家1
水の3の月、3の週の陽の日。
ケーリャとトリュスの喧嘩騒ぎに巻き込まれた翌朝。
ミカは王都内にある、小さなお屋敷の前に来ていた。
「ふむ、確かに”不浄なる者”の気配を感じるな。 ここからでは確認できないが、おそらく屋敷の中にはそこそこの数がいるだろう。」
「……”幽霊”は嫌いだ。 殴れん。」
なぜか、さも当然といった顔をして、ケーリャとトリュスがいる。
ミカはじとっとした目で二人を見る。
「……あの、こういうこと言うのも何ですけど。 何で二人ともいるんですか?」
昨日、ミカが「呪いの特定、排除」という依頼を受けたら、トリュスが同行を申し出てきた。
「君はまだ”不浄なる者”を見たことがないのではないか? だからそんな簡単に依頼を受けたのだろう?」
トリュスは以前教会にいたらしく、”不浄なる者”との戦闘経験もそれなりにあるという。
ミカが無謀にもこんな依頼を受注したのを見て、放っておけないと思ったようだ。
確かにミカはこれまで”不浄なる者”と戦ったことはない。
だが、戦闘方法自体の検証も込みで今回の依頼を受けたので、正直言うと誰かに見られているとやりにくい。
なので、その申し出は断ったのだが……。
「いくら子供のように扱うなと言われても、無謀なことをしようとすれば止めるのは当たり前だ。 大人だ子供だなどとは関係ない。」
と言って聞かなかった。
ミカは隣で仁王立ちしているケーリャを見上げる。
ケーリャはどっしりと佇み、屋敷を見ている。
真っ赤なビキニアーマーに戦斧を背負った、いつものスタイル。
(……まだ朝は結構冷えるのに、相変わらずビキニアーマーだな。 この人も何考えてるのかよく分からん。)
ケーリャはトリュスのように、昨日の時点で同行を申し出てきたりはしなかった。
しかし、朝ミカが屋敷に来てみたら、もうすでにいたのだ。
ミカに会うなり抱っこしようとしたが、ミカはそれを素早く躱す。
(ケーリャには、妙な気に入られ方をしたな。 何でなのかよく分からんが。)
昨日、二人の喧嘩を回避するために「抱っこしろ」と言ってから、それがやけに気に入ったらしい。
まさかこんなに引き連れて来ることになるとは思わず、朝からげんなりしてしまう。
「僕は依頼で来てるんです! 邪魔をするなら帰ってください!」
そう言うと二人は黙り込み、それでもその場を動こうとはしなかった。
ミカは「はぁー……。」と溜息をつき、とりあえずギルドから預かった鍵を使って門を開ける。
(面倒なことになったなあ……。 頼むからこんな所で喧嘩なんかしないでくれよ。)
そんなことを思いつつ、呪われた家の敷地に入るのだった。
呪いの特定、排除。
昨日、情報担当の職員に話を聞いてみたが、こうした依頼はそれほど多くないらしい。
だいたい年間で十件くらいだそうだ。
これらの依頼の達成率は非常に低い。精々年間で二~三件程度。
そして、半数は後から取り下げられる。
なぜか?
やっぱり出しても無駄だった、と依頼人が諦めるからだ。
依頼通りに呪いの原因を特定し、排除できるのは二~三件。
土地や家屋自体が呪われていると結論付けられ排除が困難、もしくはまったく原因が特定できず、依頼が取り下げられるのが五件。
残りは依頼自体は継続しているが、達成されることなく放置されている依頼だという。
この放置された依頼というのは溜まっていく一方で、現在も王都のギルドだけで百件以上を抱えている。
以前見た「聖者の大秘術書」も依頼が溜まっていく一方だとチレンスタが言っていたが、こうした呪い関係の依頼もそれと似たような扱いなのだという。
呪いは解くことができない。
これはこの世界の常識であり、依頼人も「呪いを解いてくれ」と言っているわけではない。
一縷の望みを賭け、「排除できる物だった場合は排除してくれ」と言っているに過ぎない。
冒険者は「これが呪われている」と思う物を持って帰り、依頼人の指定する鑑定屋に【鑑定】をしてもらう。
【鑑定】の【技能】があれば呪われているかどうか分かるので、その鑑定屋が「これで間違いない」と認めれば依頼達成という訳だ。
(そんなの、鑑定屋とグルになれば誤魔化し放題だろ……。)
本当に原因だった呪物を持ち帰っても、指定の鑑定屋が「これは違う」と言えば依頼失敗。
その後依頼を取り下げればタダ同然で「呪いの排除」という目的を果たせる。
依頼人と鑑定屋がグルになれば、やりたい放題だ。
ただ、こうした事態にはギルドも備えており、報酬は前金で全額預かっている。
そして、依頼人がごねた場合はギルドが独自に【鑑定】を行ったり、現場に足を運んで調査を行う。
いくらでも誤魔化しようがある依頼だとギルドも分かっているので、この辺はちゃんと考えてくれているらしい。
門を潜る前にミカは魔力範囲を展開しておく。
すでに寮を出る時に【身体強化】を発現しているので、これで準備万端。
本当は”地獄耳”も使いたいのだが、自分以外にも同行者がいるのでは役に立つか分からない。
なので、必要になったらその時に使うことにした。
屋敷はそこそこの大きさがある。
サーベンジールの寮よりは少し小さいくらいの邸宅。
一般家屋としては大きいが、屋敷というには小さい、そんな微妙なサイズ。
それでも一家族が住む邸宅としては、贅沢な部類だろう。
門を潜ってすぐに庭園があるが、少々荒れている。
雑草が伸び、地面を掘り返したような跡がいくつもあった。
建物は特に朽ちているような印象は受けない。
この屋敷が放棄されて、まだ一年くらいしか経っていないらしい。
それまでは普通に人が住んでいたのだが、ある日突然”幽霊”が現れるようになった。
家人が”幽霊”に気づく少し前に、屋敷で雇っていた使用人が亡くなっていて、おそらくは”幽霊”による犠牲者だろうとみられている。
最初は教会に相談して”幽霊”の退治を行っていたが、何度退治してもどんどん集まってくる。
そうして家人は屋敷を離れ避難したらしいのだが、何とか屋敷を正常化できないかとギルドに相談に来たようだ。
数か月前にも依頼を出していたが不発に終わり、今回は報酬を増額しての再チャレンジ、ということらしい。
ミカは周囲を見回すが、特に何かを感じたりはしない。
触れていないとミカには呪いが宿っているかどうか分からないが、もしも土地や家屋が呪われていた場合は、ミカに感知することは可能なのだろうか?
しゃがみ込み、地面に指を触れてみるが何もない。
庭園を突っ切って玄関まで歩き、扉にも触れるがやはり感じるものはない。
「何をしているんだ?」
後ろを黙ってついて来たトリュスが尋ねる。
ミカは溜息をつきたくなるのを我慢し、トリュスを見上げる。
「心配していただくのは有り難いのですが、今回の依頼は僕自身いろいろなことを試すために受けました。 勿論依頼の達成を目指しますが、そもそも自分が何をどこまでやれるのか手探りなんです。」
これまで受けてきた依頼と異なる種類の依頼だ。
まったく手も足も出ずに、逃げ出す結果になっても不思議はない。
「心配だと言うなら黙って見守ってください。 ですが、邪魔をするなら帰ってください。 例え怪我をしても、それも貴重な経験です。 命からがら逃げ出そうとも、それも経験なんです。 貴女は、僕が経験によって成長するのを邪魔するために来たのですか?」
ミカの言葉にトリュスは一瞬ムッとした表情を見せるが、ゆっくりと深呼吸して気持ちを静める。
(……あえて怒りそうな言い方したんだけど、意外に理性的? ケーリャにはあんなに喧嘩腰なのに。)
ケーリャはうんうんと、何やら頷いていた。
たぶんだけど、ミカの話を理解した上で頷いているわけではないと思う。
ミカはもしも怒って帰っても、それでも構わないと思い強く言ったのだが、トリュスはどうやら感情を押さえ込むことに成功したようだ。
「……それが君の希望だと言うならば、従おう。 それでいいかい?」
トリュスは強い意志を感じさせる目でミカを見る。
おそらく、あまりに危険と判断した場合、ミカの言うことなど聞かずに介入してくる気だろう。
いざという時まではミカに従う。
それまでは我慢だ、と自分に言い聞かせている。
そんな目だ。
(どこまで面倒見がいいんだか。 人がいいにもほどがある。)
こんな赤の他人が何をしようと放っておけばいいのに、トリュスはそれをしない。
わざわざ自分まで危険な場所に足を運んでいる。
ミカはぐるっと屋敷の周りを歩いてみた。
ケーリャとトリュスは黙ってミカの後ろをついて来る。
建物の裏側は日が当たらないため地面の土は湿っており、雑草も生えている。
少々荒れている以外は特にこれといった気になることもなく、再び玄関前に戻って来た。
ミカは鍵を使って屋敷の玄関を開け、扉をそっと開く。
少しだけ隙間を作り、中を覗き込むと、
「うわあっ!?」
ミカは驚いて飛び退き、身構える。
目の前に、体育座りをした”幽霊”がいた。
ミカが扉の隙間から覗き見ると、”幽霊”もまた隙間からミカのことを覗き見ていた。
”幽霊”の真っ赤に輝く目と、ばっちり目が合ってしまった。
いくら魔力範囲を展開していても、意識して魔力を広げなくては扉の向こうまでは分からない。油断していた。
ケーリャとトリュスはそんなミカを黙って見守っていた。
たぶん、猫が気になるものにちょっかいを出して、勝手に驚いたり飛び跳ねたりしているのを見ているような感じだろう。
一人だけ大袈裟に驚いている所を見られ、少々気恥ずかしい気持ちになる。
相変わらず”幽霊”はミカのことを見ているが、どうやら外に出てくることはないようだ。
「……何で出て来ないんだ?」
ミカは深呼吸をして心を落ち着ける。
「”幽霊”は日の光を嫌う傾向がある。 絶対に外に出ないという訳ではないが、普通は外に出てくることはない。 昼間ならな。」
ミカの呟きに、トリュスが答える。
聞かれたから答えただけ、というスタンスのようだ。
素っ気ない顔をしながら、それでも律儀に答えてくれる。
「そう、なんですか……。」
ミカとしても、トリュスを嫌っている訳ではないので「ありがとうございます。」と教えてくれたお礼を伝える。
(絶対ではないにしろ、基本的には外に出て来ないっていうなら、少し試してみるか。)
ミカは扉の前まで戻り、隙間からミカをじっと見る”幽霊”をよく観察する。
(眼窩っぽい窪みに赤い光があるな。 これが目でいいんだよな? 身体は当然透けてるけど、そもそもどうやってこんな状態を維持しているんだ?)
魔物や魔獣は、魔力の溜まった場所を好むというのをニネティアナに教わったことがある。
魔物や魔獣は、過剰に体内に魔力を取り込んだ結果、変異したりするらしいと授業でも聞いた。
しかし、そんな法則からは離れた存在が、この”死霊系”の魔物だ。
ぶっちゃけ、こいつらに関しては何も分かっていないに等しい。
教会では、こうした”死霊系”の魔物を”不浄なる者”と定義し、滅するための【神の奇跡】が伝わっている。
それが【祓い】や【清め】と呼ばれる【神の奇跡】だ。
以前、図書室で読んだ文献に載っていた。
【祓い】は”不浄なる者”を滅するための専用の【神の奇跡】で、【清め】というのは本来”場所”や”物”を清めるための【神の奇跡】だ。
どちらも”死霊系”には抜群に効く【神の奇跡】らしい。
(そういえば、魔物とか魔獣は魔石を体内に宿してるんだよな? …………無いよ?)
全身透っけ透けなので、体内に宿してるなら見えるはずだが、魔石らしき物は見当たらない。
これについても、”死霊系”は例外なのだろうか?
「とりあえず倒し方を検討するか。」
「え!?」
ミカの呟きに、トリュスが驚いた顔をする。
「倒し方を検討するって…………今からか!? まさか、倒す方法を持っていないのか!?」
そんなものが、ある訳ない。
そもそも、幽霊なんて物を見たのも初めてだ。
元の世界では、幽霊などいないと思っていたのだ。
当然、倒し方に見当などつく訳がない。
「さすがにこんなのは見過ごせん。 すぐにギルドに言って、受注の取り消しをしてもらいなさい。 この手の依頼はギルドも『失敗して当然』と考えているので、多少失敗してもペナルティはないから心配しなくていい。」
無謀なミカの行動を止めようと、トリュスがミカの肩を掴もうとする。
その動きを魔力範囲で感知していたミカはスッと躱した。
「ケーリャ。 トリュスさん押さえてて。」
ミカがそう言うと、ケーリャがニタァと凶暴な顔で笑う。
その大きな体からは想像もつかない素早い動きでトリュスの後ろに立つと、丸太のような両腕でトリュスを抱きしめ、持ち上げる。
向かい合うのではなく、後ろからのベアハッグって感じだ。
「なっ!? こ、この馬鹿ゴリラ! 離しなさいっ!」
腕ごとケーリャに押さえつけられてしまい、トリュスは身動きが取れなくなった。
「ゴリラだから言葉が理解できないって、いつも言ってるのはどこの誰だ? だから、お前の言葉は理解できない。 お前の言う通りな。」
ケーリャは楽しそうにトリュスを締め上げる。
然程力を入れている風でもないのに、ミシミシと効果音が聞こえてきそうなのはきっと気のせいだろう。
「怪我はさせないでね。 ちゃんと加減して。」
「分かった。」
「分かったじゃないっ! いいから離しなさい!」
トリュスは必死になってもがくが、締め上げる腕はびくともしない。
間違いなく、ミカでは例え五倍に強化しても抜け出すことは不可能だろう。
「さて、と。」
ミカは扉の方を向く。
”幽霊”はじぃー……とミカたちの茶番を見ていた。
魔物だというから、もっと凶暴なのを想像していたが案外大人しい。
とりあえず、最初に試すならまずはこれかな、とミカが考えていると――――。
「燦然と輝き、遍く世界を照らしたる光の大神。 その偉大なる眷属神、澄み清らかな浄化の神よ。 我が祈りを聞き届け、迷い子をどうか、その清らかなる御手の内に。 理を乱す、醜穢なる者をあるべき姿に還し給え。」
「あ。」
ミカの目の前で、隙間からこちらを見ていた”幽霊”がキラキラと白い光に包まれ、少しだけ身悶えるような動きをしながら消えていった。
振り向くと、トリュスが必死な形相でミカを見ている。
どうやらトリュスが【神の奇跡】を発現したらしい。
「悪いことは言わん! 今すぐこの依頼を止めなさい! ”不浄なる者”は君が考えているよりも遥かに危険なんだ!」
トリュスはケーリャに動きを封じられながらも、ミカにその危険さを伝えようとする。
ミカはぽりぽりと頬を掻く。
「邪魔をするなら帰ってくださいって言いましたよね?」
「ああ、帰るさ。 君を連れてね。」
どうやらトリュスは、本気でミカを思い留まらせようとしているらしい。
正義感なのか何なのか。
大変素晴らしい美徳ではあるが、今は少々厄介だ。
ミカはトリュスの前に立つ。
「あと、何回打てます?」
「……何?」
「今のは【祓い】ですか? 【清め】ですか? どちらにしろ、それなりに魔力を使いますよね。 あと何回打てますか?」
「…………。」
ミカの質問にトリュスは答えない。
「その扉を全開にして、僕を囮に”幽霊”をおびき寄せれば、否応なしに魔力を空にできますかね? 魔力の枯渇で気を失ってくれれば、押さえつける必要もなくなるし。 ……どうですか、この案は。」
ミカの悪辣な案に、トリュスは目を見張る。
「……馬鹿なことを考えるのは止めなさい。」
「馬鹿なことをさせたくなければ、大人しく見ててください。」
ミカとトリュスが睨み合う。
ミカとしても遊びでやっているのではない。
邪魔をするなら排除する必要がある。
これは、ミカが正式に受けた依頼なのだ。
それを堂々と邪魔しているのはトリュスの方。
いくら立派な理由を並べたところで、依頼を受けた者が「邪魔するな」と言っているのを無視するなら、それは重大な違反にあたる。
「ケーリャ、離していいよ。」
ミカはケーリャに声をかける。
離してもいいと言われたが、ケーリャは不満そうな顔をして離そうとしない。
「ケーリャ。」
ミカがもう一度名前を呼ぶと、渋々トリュスを離す。
トリュスはケーリャから少し距離を取り、警戒しながら身体を軽く解す。
そんなトリュスにミカは笑顔を向ける。
「もう邪魔しないでくださいね。 僕も無闇に危険な目に遭いたい訳じゃないんです。 さっきの案を、僕に実行させないでください。」
ミカは自分を身を脅しの材料に使い、トリュスの横槍を封じる。
勿論、本当にそんなことをするつもりはない。
だが、本気だと思わせなければ、またトリュスは手を出してくるだろう。
トリュスは苦々しくミカを見るが、それ以上は何も言ってこなかった。
これでもまだ邪魔をしてくるなら、本当にさっきの案を実行するか、ケーリャと協力してトリュスを排除するしかない。
(さて、検証の続きに戻るか……。 と、その前に。)
ミカは目を閉じ、先程トリュスが使った【神の奇跡】の呪文を頭の中で繰り返し唱える。
(思わぬところで【神の奇跡】をゲットしてしまった。 【祓い】か【清め】か知らないが、アンデッドによく効くんだろ? 忘れないようにしないと。)
そう、忍び笑う。
ただし、【神の奇跡】は長い呪文を詠唱しないといけないのがネックだ。
できれば、普段使いできるもっと楽な倒し方を見つけておきたい。
ミカは玄関前に戻り、隙間から中を覗き見る。
先程までいた”幽霊”は消えてしまったが、エントランスには数体の”幽霊”がいた。
ミカは扉をもう少しだけ開く。
「それじゃあ、まずはお約束の……。 浩々たる生命の源流、水の大神。 その偉大なる眷属神、潤い満たしたる癒しの神よ。 我が祈りを聞き届け、傷つきし者をその腕に。 生命の温もりを、再び立ち上がる力強き息吹を。」
「っ!?」
「おおっ?」
ミカは【癒し】の【神の奇跡】を近くの”幽霊”に使ってみる。
ミカが【神の奇跡】を使えると知らなかったのか、ケーリャとトリュスが驚いて声を上げる。
黄色い、淡い光の粒がふわふわと”幽霊”を包むが、特に何か反応したりしない。
(回復魔法でアンデッドにダメージってのは、割と定番の設定だけど、この世界では通用しないのか……。 残念。)
これも長い詠唱が必要なので普段使いには向かないが、とりあえず試しておかないと気になって夜しか眠れなくなる。
ミカは後ろの二人に見られているのが気になったが、とりあえず”火球”、”石弾”、”風刃”などを次々に試す。
とりあえず効果があるのか試すだけなので、威力は最小に抑えてだ。
”火球”をふよふよ漂わせてぶつけると、少しだけ反応があった。
だが、それ以外のものには一切反応がない。
(どれもいまいちだな。 こうなると、何かしらの魔法を新たに開発する必要がありそうだけど。)
しかし、そもそもお化けだ幽霊だといった存在を信じていなかったミカには、どうすれば”死霊系”を倒せるのか皆目見当もつかない。
ミカが「うーん。」と考えていると、トリュスが声をかけてくる。
「……君は、【神の奇跡】を使えるのか? 一体、何者なんだ……?」
ユンレッサがミカのことを教えたと聞いたが、学院に通っていることは言っていないようだ。
これからいちいち驚かれても面倒なので、中の様子を窺いながら、少し説明することにした。
「僕は王都の魔法学院に通っているんです。 すでに地方の学院も合わせて二年以上通ってます。 ……まさか、ただの子供がDランクになったと思ってたんですか?」
別に【神の奇跡】に限定した話ではない。
だが、何かしらの戦う手段を持っているからこそ、魔獣を倒し、ランクアップをしているのだ。
「僕の【神の奇跡】は少し変わっているみたいなんで、今は正しい【神の奇跡】を勉強中です。 だから、あんまり人に見せたくはなかったんですけど。」
一応、今見たものも【神の奇跡】だよ、と言っておく。
そして、本当なら見られたくなかったのだ、と付け加える。
「勝手について来た上に、今日見たことをぺらぺら話すような人を、僕は信用しません。」
とはいえ、ミカも絶対に見られないようにしている訳ではない。
そのうち噂でも何でも広がっていくことになるだろう。
ケーリャとトリュスを見る。
二人とも、真剣な顔をしていた。
「別に人に話したいなら話してもらっても構いませんよ。 単に僕が、貴女方を信用しなくなる。 それだけのことですから。」
ミカがそう言うと、ケーリャは姿勢を正し、右手の拳を胸の中心にあてる。
「誓おう。 誰にも言わない。」
それは、ケーリャなりの宣誓なのだろう。
こんな子供との約束を、真剣に受け止めてくれている。
トリュスも祈りの仕草をして、「沈黙」を誓う。
これはミカとの約束というより、神々との約束という意味も含まれるらしい。
「まあ、そこまで大袈裟に受け止めなくてもいいですよ。 そのうち他の人にもバレていくでしょうし。 それまで黙っててくれればいいです。」
ミカは気軽に言うが、二人は真剣な表情のままだ。
どこまで有効な口止めになるか分からないが、ミカは更なる検証を続けることにした。




