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【コミックス第1巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第3章 魔法学院初等部の”解呪師”

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第86話 新規開拓




 水の3の月、2の週の風の日。

 ミカが【爆炎】と【癒し】の【神の奇跡】を習得し、周囲が少々騒がしくなってしまってから数日後。

 それでも幾分か落ち着きを取り戻していた。

 しかし、寮の中にいても周囲が何となく落ち着かないため、放課後もミカは自室に引き籠っていた。


「暇だ……。」


 頬杖をつき、机を指先でトントンと鳴らす。


 ルームメイトのバザルは、剣術の修行で毎日門限近くまでグラウンドで走り回っている。

 午後の運動の時間の後にそれだけ動けるのだから、バザルがこれまでにどれほど鍛えてきたのか想像もつかない。

 将来の強化剣術家の強さが楽しみになる一方、少々末恐ろしくもある。


 ミカは王都の3区と4区の探索もあらかた終わり、必要な店の場所はだいたい把握できた。

 武器屋に防具屋、道具屋に魔法具屋。

 3区の鍛冶屋街にある、各武器や防具の専門店も把握した。

 これで本当に、放課後にやることがなくなってしまった。


「……送ってもらおうかなあ。」


 ミカはぽつりと呟く。

 そのための送料を先に預けておけば、送ってもらえるのではないだろうか。


 何を送ってもらうのか?

 勿論、ミカの暇潰しと言えば、()()である。

 ”呪われた物(パズル)”。

 サーベンジールの鑑定屋の老婆に送料を預けておき、入荷次第送ってもらえないかと考えていたのだ。

 サーベンジールから王都に移ったことで、ミカは”呪物(パズル)”の入手先を失ってしまった。


(……さすがにそれは難しいか? あの老婆が呪物を送ってくれるとは思えないな。)


 呪われた物を売る訳にはいかないと、それだけは頑として譲らなかった。

 老婆の矜持がそんなことは許さない、と。


(以前の約束と同じで後で返却すると言っても、『呪物を送る』ということ自体を嫌がりそうだ。)


 王都内を探索し、当然ながら鑑定屋もいくつか見つけた。

 しかし、いきなり「呪物を引き取ったら横流ししてくれ」なんて頼んでも、了承するような店はないだろう。

 ミカ自身、そんな店を使いたいとは思わない。


(そう考えると、あの老婆には本当に無茶を言ったな……。)


 己の所業に、思わず苦笑いしてしまう。

 こんな子供の姿をしたミカが、頭を下げまくって頼み込んで、土下座してまで譲ってくれと懇願してきたのだ。

 怒鳴っても諭してもまったく聞かず、「お願いしますぅ~!」と縋ってくる。


(確か、最初はブレスレットだっけ。)


 あの時は、ミカが自分の手に握りこんで離さなかったのだ。

 土下座の姿勢のまま蹲り、身体の中に抱え込んだミカに、老婆が心底呆れ、困り果てた。

 そうして、何とか譲ってもらうことに成功したのだ。


(さすがにもう、あんな方法はちょっとな……。)


 呪物を入手するためとはいえ、もうあんな手段に出るのは躊躇われる。


(どうにか新規開拓するかぁ。 方法がちょっと思いつかないけど。)


 ギッと音を鳴らして背もたれに寄りかかり、身体を伸ばす。

 ミカは新たな”呪物(パズル)”の入手先を開拓することにしたのだった。







■■■■■■







 翌日の土の日、ミカは冒険者ギルドに来ていた。


 中々【爆炎】を習得できないリムリーシェの特訓に付き合い、夕方になる前に切り上げてきた。

 まあ、普通は半年くらいかけてようやく習得するものらしく、さっさと習得してしまったミカの方がどうかしているのだ。

 ミカには祈りや魔力の捧げ方などさっぱり分からないので、正直特訓に付き合う意味はほとんどない。

 それでも「特訓の時が一番集中できる」とリムリーシェに言われてしまうと、否とは言いづらい。


 一年生のうちに何とか【爆炎】を習得しなければ、二年生の時には席がなくなる。

 例え噂であってもそんなことを聞いてしまえば、「こんなことでも、少しでも足しになるなら」と特訓を継続している。

 おそらく、レーヴタイン組でもっとも習得に苦労するのはリムリーシェだろう。

 【身体強化】の時は、かなりぎりぎりのタイミングでの習得だった。

 もし特訓を打ち切って、一年生の終わりになっても習得できていないような事態になれば、ミカも悔やんでも悔やみきれない。

 そんな後ろ向きな、すっきりとしないもやもやを抱えながら、リムリーシェの特訓に付き合うミカなのだった。







 ミカは掲示板を見上げながら、明日受けられる依頼がないかを探していた。


(魔獣討伐はほとんど残ってないな。 ……残ってるのは、遠方の依頼だけか?)


 ギルドでは、依頼を受け付けたギルド支部だけではなく、近隣の支部にも依頼書が張り出されるものがある。

 基本的にそういう依頼は高難度のもので、受注の早い者勝ちではなく、達成の早い者勝ちという類のもの。

 最寄りのギルドに張り出すだけでは不安のある、広く腕のある冒険者を募りたい内容のものだ。

 つまりは、今のミカには用のない依頼である。


(さすがに、横取り作戦でもこういう依頼に手を出すのはまずいよな。 上位の冒険者に睨まれるのは俺も避けたいし。)


 横取り作戦とは言っても、実際に横取りしている訳ではない。

 ミカではランクの足りない依頼だが、張り出されて少し時間が経っても誰も手を出さない依頼を、無断で受けているだけだ。

 今のところ現場でバッティングしたこともないし、トラブルにならないで済んでいる。

 依頼達成の報告の時に、ちょっとユンレッサにお小言をもらうだけである。

 すでにそうして数件のCランクの依頼を受けているが、失敗はなく報酬も美味しい。

 ギルドとしても、勝手にそんなことをして依頼に失敗し、ただ状況を引っ掻き回すだけのような真似をしなければ、黙認してくれるらしい。

 黙っててくれないのはユンレッサだけである。


「あら、ミカ君。 来てたの。 依頼探してるの?」


 ミカが掲示板を見ていると、ロズリンデが依頼書の束を抱えてやって来た。

 依頼を張り出しに来たらしい。


「こんにちは、ロズリンデさん。 それ、新しい依頼ですか?」

「そうよぉ。 ……ミカ君が受けたくなるような依頼はあるかしら? ちょっと待ってね。」


 そう言ってロズリンデが、依頼書の内容をざっと確認していく。


「ちょっと、ロズリンデさん! 張ってください! 張ってくれれば普通に探しますから!」

「そう? 遠慮しなくてもいいわよ?」


 ミカは冷や汗を流しながら、ロズリンデに早く張るように促す。

 周りには沢山の冒険者がいて、「お、新しい依頼か?」と張り出されるのを待っている。

 こんな中で「あ、これいいかも。 はいどうぞ。」なんて渡された日には顰蹙(ひんしゅく)を買いまくること間違いなしだ。


 遠慮してんじゃないよ!

 俺の保身のためにも、頼むから普通に張ってくれ!


 ロズリンデはミカに言われ、残念そうにしながらも依頼書を張り出していった。

 そうして依頼書を張り出していくと、依頼を受けたい冒険者であっという間に掲示板の前は人だかりになる。

 ミカは押し寄せる冒険者に圧し潰されそうになり、とても依頼を探すどころではなくなってしまう。

 仕方なく、何とか脱出を試みる。


「ちょ! ぐぇえ……っ。 と、通して! うぐっ!?」


 だが、あまりにも体格に差がありすぎて、まともに抵抗もできない。

 揉みくちゃにされていたら、突然ミカのローブが引っ張られ、持ち上げられた。


「ぷはぁ!?」

「大丈夫か、坊や。」

「え、ええ……。 ありがとうございます。」


 ミカを引き揚げ(サルベージし)たのはケーリャだった。

 ケーリャはいつぞやの時と同じように、ミカのローブを掴み、首根っこを掴まれた猫のようにミカを持ち上げる。


「えーと……。」


 ケーリャはミカを顔の高さまで持ち上げ、じぃー……と見ている。

 助けてもらったのは有り難いが、ちょっとこの扱いには不満がなくもない。


「あの、ケーリャさん。」

「ケーリャでいい。」


 真顔でケーリャが答える。

 正直、ちょっと怖い。


「……ケーリャ。」

「何だ?」


 ケーリャはミカを持ち上げたまま掲示板の前から離れる。

 目の前に人がいようがお構いなしにケーリャは歩き、ぶつかった冒険者たちの方がよろよろと道を譲っていく。

 譲っていく、というよりは、押し退けられる感じか。

 ケーリャはただ歩いているだけだが、冒険者をしている大の男たちが普通に当たり負けしている。

 なんちゅー体幹(フィジカル)お化けだ。


 掲示板の前から離れ、周りの人が減った。

 ミカが降ろしてくれるように頼もうとした時、入り口付近が騒がしくなった。


「おい、やばいって。」

「どうすんだよ、これ。」

「あー……、何でギルド行くの、今日にしちまったんだ、俺。」


 騒がしくなってきた入り口の方を見ると、そこには青い髪の女騎士がいた。


「また性懲りもなく……。 ユンレッサに言われたことをもう忘れたのですか? ああ、口で言ってもそもそも憶えることもできませんか。」


 トリュスが冷えた目でケーリャを睨み、真っ直ぐこちらに歩いてくる。


「ゴリラ以下の知能しかないのなら、後は身体に教え込むしかないですね。」


 そう言って、長剣(ロングソード)の柄に手を置く。

 ケーリャもトリュスに気づくと、その表情が見る見る怒りに染まっていく。


「うわぁ!? 早速かよ!」

「おい、お前ちょっと止めて来いよ。」

「ふざけんな! お前が行けよ!」


 瞬く間に周囲に野次馬の人だかりができるが、誰も割って入ることはしない。

 面白がっているのか、怖がっているのか。

 おそらく、その両方だ。

 巻き込まれるのは御免だが、他人のトラブルを眺める分には楽しい。

 そんなところだろう。


「私は優しいから、一応警告だけはしてあげる。 今すぐその子を離しなさい。 どうせ理解なんてできないでしょうけどね。」

「うるせえ、ズベがっ! 神に股開いて腰振ってる売女が偉そうにすんな! 7(ピー)でもしてろやっ!」


 ぅわお!?

 ケーリャさん、お下品ですわよ。

 ていうか、こういう常套句ってこの世界にもあるんだね。


(神に股開くだの、聖母とフ(ピー)ックしてろだの、聖職者向けの売り言葉だね。 ってことは、トリュスは教会関係者なのかな?)


 7(ピー)っていうのは、光神教の六柱の神々プラス、トリュスで7(ピー)ってことか?

 そんなことを考えている間にも、どんどん雰囲気が険悪になっていく。

 正に一触即発の状態だった。


(おっと、やばいやばい。 このままじゃ一番危ないの俺じゃん!? 何とかしないと!)


 とりあえずミカは宙ぶらりんのまま、ケーリャの頬をぺちぺち叩く。

 今のミカの手が届くのが、目の前にあるケーリャの顔しかないのだから仕方ない。


「ケーリャ! ケーリャ!」

「ぐっ! な、なんだよ。 今忙しいんだよ、後にしてくれ。」


 忙しいなら、降ろしてくれてもいいんですよ?

 とりあえず、素直にそう頼んでみることにする。


「降ろして。」

「…………だめだ。」


 なぜ?

 ケーリャはトリュスから目を離さず、ミカの提案を却下する。


「やはり、その手を斬り落とすしかないようですね。」


 トリュスが少しずつ腰を落とし、殺気を漲らせていく。

 ケーリャも背中に背負った戦斧(バトルアックス)の柄に手をかける。


(おいおい、まじで勘弁してくれっ!)


 ミカはあわあわしながらケーリャとトリュスを見る。

 そこでふと、視界に入ったものに指さす。


「ケーリャ! ケーリャ! あれ!」


 ミカはケーリャの頬を叩きながらトリュスの向こう、入り口から見える外に向かって指さす。

 そこには、子供を抱えた女性が歩いていた。


「あれやって、あれ! あんな感じ!」

「だから、今忙しいって。」

「いいからっ! 早くっ!」


 ミカが強く言うと、ケーリャは渋々戦斧(バトルアックス)から手を離し、ミカを抱っこする。

 ミカのお尻を支える腕は、まるで太い枝のような安心感でミカの腰を安定させる。

 宙ぶらりん状態が解消され少しだけほっとするが、まだ終わっていない。

 ケーリャに降ろすように説得するには、状況がひっ迫しすぎている。

 まずはこの状況を何とかしなくてはならない。


「トリュスさん、もう大丈夫です。 ありがとうございました。」


 トリュスはミカが笑顔でお礼を言うと少しだけ驚いたような顔するが、すぐにその表情を引き締める。


「心配しなくても今すぐ助けてあげる。 ちょっとだけ待っててね。」

「いえ、本当に大丈夫ですから。」


 ていうか、本当にやめて。


「ケーリャは僕を助けてくれただけなんです。 そうだよね、ケーリャ。」

「あ、ああ……。」


 なぜか少し困った顔をするケーリャだが、ミカは構わず仲良しアピールをする。

 まずは、トリュスの戦う理由を奪うことが先決。

 上位者同士の本気の争いに巻き込まれたら、ミカの命など風前の灯も同然だろう。

 自分の命がかかっているのだから、そりゃ必死になって説得もする。

 ミカがにこにこと仲良しアピールをしていると、トリュスが訝し気ながらも剣から手を離す。


「ケーリャも! 次からは最初からこうする! そうじゃないとまた誤解されるよ!」

「あ、ああ。」


 ミカが注意すると、ケーリャは戸惑いながらも素直に頷く。

 その瞬間、周囲がどよめいた。


「嘘だろ!?」

「あのガキ、二人を止めたぞ!?」

「まじかよっ!?」

野獣使い(ビーストテイマー)か!?」


 ざわざわと周囲が騒いでいる所に、冒険者たちを掻き分けてロズリンデがやってくる。


「もう、何そんなに騒いでんのぉ? あ、ミカくーん。 依頼書張り終わったよー。」


 ロズリンデがミカに向かってぶんぶん手を振る。


 来るの遅いよ!

 もっと早く来てくれよ!

 ミカが心の中で「仕事しろよ、ギルド職員!」と文句を言っていると、


「あ、そうだ。 今日はあとでカウンターにも顔出してね。 ついにミカ君もランクアップしたから。 カードの更新すれば、今日からミカ君もDランクよ。 おめでと。」


 そんなことをさらっと言う。


「は?」

「D?」

「あんなガキが?」


 野次馬たちから、先程よりも大きいどよめきが起こる。


「え、ちょっと待って。 あの子供がDランクなの?」

「おいおい、あのガキ。 お前と同じDだってよ! あっはっはっ、ウケるんだけど!」

「え、嘘だろ? 俺、あいつと同じなの?」


 周囲のざわめきが、さっきの比じゃない。

 口々に「うそだろ?」「まじかよ!」「俺、あのガキ以下なの……。」と、もはや収拾がつかない状態になる。


(ロズリンデ! もうちょっと空気読め! お前、ほんとそういうとこやぞ!)


 相変わらず空気を読まないロズリンデに、ミカは頭を抱えるのだった。







 再びギルド内で騒ぎを起こしたミカたちは、一カ月ぶりに応接室で事情聴取を受けることになった。

 この応接室はカウンターの外にあり、普段は依頼の相談などに使われる。

 カウンターの中にも応接室はあるが、そちらは上客専用の豪華な部屋だ。

 ミカもまだ入ったことはない。

 チレンスタの部屋に行く時に前を通りかかり、たまたま扉が開いていて中を見たことがあるが、絵画が飾ってあったりして本当に豪華だ。


 とりあえず今回の騒ぎはミカやケーリャ、トリュスが大元ではあるが、本来ならその騒ぎは収束に向かっていた。

 それをぶち壊してくれたのはロズリンデなのだが、そのロズリンデはここにはいない。

 だいたいの事情が分かった時点でチレンスタの部屋に連行され、現在はお説教中のはずである。


「いい加減にしないと、本当に懲戒の対象になりますからね。」


 三十過ぎくらいの神経質そうな男が、ミカたち三人を冷ややかな目で見る。


「いくら腕が良かろうと、風紀を乱す貴女たちのような人がいるから冒険者の評判が下がっていくのです。 なぜ上層部(うえ)が貴女たちのような冒険者を野放しにしているのか、私には理解できない。」


 厭味ったらしく言う男の言葉に、ケーリャはあくびで応え、トリュスはうんうん頷き「ひどい冒険者もいたもんだ。」と完全に他人事だった。

 真面目に聞いているミカが馬鹿みたいである。


「おい、聞いているのか! 本当に貴女たちは――――。」


 コンコン。


 神経質そうな男がイラついた様子で声を上げたところで、ドアがノックされる。


「はい、どうぞー。」


 男の代わりにミカがしれっと入室を許可する。

 何度も同じことを繰り返す男のつまらないお小言に、ミカも正直うんざりしていた。

 目の前の男がミカを睨むが、ミカは涼しい顔ですっとぼける。

 ドアを開けて入ってきたのはギルドの女性職員、続いてチレンスタだった。


「三人とも、もういいぞ。 だが、次からはもう少し静かにしてもらえると助かる。」

「副支部長! こいつらはちっとも反省してません! 今回こそしっかり懲戒にかけて――――!」

「必要ない。」


 チレンスタがきっぱり言うと、神経質そうな男は悔しそうに顔を歪める。


「すいません、チレンスタさん。」


 ミカが素直に謝ると、チレンスタが苦笑する。


「前回も今回も、ミカ君はほぼ巻き込まれたようなものだ。 気にすることはない。 しかも、今回は騒ぎを収めてくれたそうじゃないか。 次からも期待しているよ。」


 チレンスタがにやりと笑った。

 そういえば、前にケーリャとトリュスを何とかならないかと、相談されたのだった。







 前回の騒ぎでは、ミカは事情聴取だけでさっさと帰された。

 その時、ケーリャとトリュスにはミカのことを多少説明したらしい。

 前はケーリャには「嬢ちゃん」と呼ばれたが、今日は「坊や」だった。


 ミカが男の子であること。

 すでに冒険者として二年の実績があり、魔獣とも戦闘をしていること。

 それによりEランクにもなっていることなどだ。

 確かにまだ子供だが、あまり子供扱いするのは失礼だ、といったことがユンレッサより説明されたらしい。


 一応、されたらしいのだが……。


「ケーリャ。」

「何だ?」


 応接室から出てすぐ、自然にミカを抱っこしたケーリャに声をかける。


「何でまた抱っこしてんの?」

「さっき、これからはこうしろ、と。」


 あー、言ったね。

 うん、確かに言いました。

 でも残念、そういう意味じゃないんだなー。


「降ろして。」

「…………。」


 ミカが降ろすように言うが、ケーリャは動こうとしない。

 トリュスが不穏な空気を出し始めたが、ミカが首を振って止める。

 これ以上ややこしくするのは止めてくれ。

 ミカは「はぁー……。」と溜息をつき、掲示板を指さす。


「僕、今日は依頼を探しに来たんだよ。 ……本当は。」


 思わぬアクシデントで時間を無駄にし、相当に出遅れてしまった。

 今からでも残った依頼を確認して、明日の分を受注しなくてはならない。


(でも、そっか。 Dランクになるってことは、これまでみたいに無断で受ける必要がなくなるのか。)


 Eランクになってから二年近くかかったが、依頼書のクエストをまともにやるようになったのは王都に来てからだ。

 それを考えれば、ここでランクが上がってくれたのは運が良かったと言うべきか。

 これで堂々とCランクの依頼を受注できる。


 ケーリャに掲示板の前まで行ってもらい、新しく張られた依頼書を見ていく。


(……やっぱり、だいたい持って行かれちゃったよな。 こりゃ、明日は開店休業か?)


 これまでも、いい依頼が無くて陽の日にクエストに行けないことは時々あった。

 それでも一回の報酬が大きいので、二~三週に一回でも依頼を受けられれば、これまで以上に稼げる。

 普通の冒険者が定額クエストにほとんど興味を示さない理由がよく分かる。


「……あれ?」


 ミカは掲示板に張られた依頼書の一つに、気になる文言を見つけた。

 ケーリャに指で指示を出し、その依頼書の前に行ってもらう。


「Cランク。 ……呪いの原因の特定、排除。 ……報酬、金貨五枚。」


 王都の中にある家だ。

 呪いによって死霊系の魔物が集まる?

 呪いの原因を取り除いてくれれば依頼達成。

 魔物の排除は達成条件には含まない、か。


「悪いことは言わん。 その手の依頼はやめておいた方がいい。」


 ミカが依頼書をじっと見ていると、横にいるトリュスが忠告してくれる。


「【鑑定】の【技能(スキル)】がなければそもそも呪われた物かどうかなど分からないし、それが分かっても排除できる物とは限らない。 土地や家屋が呪われていたら排除そのものが不可能。 そうでなくても”不浄なる者”を相手にするのは相当に厄介だ。 報酬の高さは伊達じゃないし、それでも残っているのにはそれなりの理由がある。」


 トリュスがミカのことを真剣に心配してくれているのが、その目で分かった。

 ケーリャに関することでイメージが駄々下がりだが、元々ミカがちょっと呟いた魔獣に対しての質問にも親切に答えてくれた人だ。

 だが――――。


 ミカはピッと張られた依頼書を剥がす。


「おい、それは本当に危険――――。」


 ミカは止めようとするトリュスを真剣な目で見る。

 トリュスはミカから伝わる気迫に、それ以上の言葉を続けることができなくなった。


(報酬も魅力だけど、何よりも……。)


 ”呪物(パズル)”が手に入るかもしれない。

 ミカは少々不謹慎な動機によって、静かに闘志を燃やすのだった。





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― 新着の感想 ―
>ああ、口で言ってもそもそも憶えることもできませんか ……トリュスさん……あんたもや
[良い点] いよいよタイトル回収に向けてですね
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