第6話 初めての魔力1
【ラディ視点】
ラディは両手を差し出し、ヌンツィアがその手に自分の手を重ねる。
ヌンツィアは少し緊張しているようだった。
ラディは緊張を解すため意識して笑顔を作った。
「ゆっくり大きく息を吸って。 吐いて。 痛いことも怖いこともありませんよ。 気持ちを落ち着かせて。」
言われた通り、ヌンツィアはゆっくりと大きく息を吸い、そして吐く。
ヌンツィアが落ち着いたことを確認したラディは、自分も意識を集中する。
この”秘端覚知の儀”は”聖別”の一つだ。
魔力量という【神の奇跡】を扱うにあたって最も重要な要素を国に押さえられた教会が考え出した次善の策。
だが、それは思いの外うまくいった。
こうして選別された子供の中には非常に高い魔力量の伸びを見せる者もおり、ラディ自身がそういった子供の一人だった。
ラディは自らの両手に魔力が集まっていくのを感じた。
多くの魔力を集めるが、その魔力はまだラディの内にある。
この集めた魔力の、ほんの僅かな量だけをヌンツィアに送る。
普通【神の奇跡】を行う時はこんな魔力の使い方はしない。
魔力を集めたら、それをそのまま神々に捧げるからだ。
なので、この儀式は経験と修練を積んだ【神の奇跡】の使い手だけが行うことを許される。
魔力の操作という特別な訓練を修めた者だけが。
もっとも、学院に行けば初歩の技術として魔力の操作を学ぶらしい。
それでも通常では扱わないくらいに弱々しくか細い魔力を、繊細な操作で操るようなことは学院でもやらないだろう。
ラディは学院には行かず子供の頃に修道院へ入ったので、そうした術を年配の修道士に習ったが。
手のひらから細い糸のように魔力を伸ばし、ヌンツィアの手のひらに触れる。
だが、ヌンツィアに反応はない。
その細い糸をゆっくりとヌンツィアの手の中に入り込むように進ませる。
実際には、入ろうとしてもすぐにヌンツィアの魔力に干渉され霧散してしまうのだが。
そうして糸を送り込みながら、少しずつ糸を太くしていく。
干渉し合う魔力量を増やすために。
どの時点でこの干渉に気づくかで、魔力に対する感受性を調べる。
もちろん、まったく気づかない子もいる。
そういう時には、ある程度のところで打ち切るのだ。
しばらく干渉を続け、そろそろ打ち切ろうかと考え始めた時に、ピクンとヌンツィアの手が動いた。
小さく「あ……。」と呟きが聞こえる。
「どうしました?」
「…………。」
ヌンツィアは答えず、迷っているような顔をしている。
きっと微かに感じた”何か”がよく分からないのだろう。
これが魔力かもしれないが、気のせいかもしれない、と。
ヌンツィアはまだ手を重ねたままなので、ラディは微笑んでヌンツィアが答えるのを待った。
「なんだか、手がくすぐったくなって……、風が当たってるみたいだった。」
「そうですか。 分かりました。」
ラディはそう言うと、ポケットから飴玉の入った小瓶を取り出す。
「今日はありがとう。 もう帰ってもいいわよ。」
そう言って飴玉をヌンツィアの口に入れてやる。
ご褒美があるとは思っていなかったのか、ヌンツィアは嬉しそうに帰っていく。
試しはするが、ここで合否のようなものを伝えることはしない。
本人が気になるなら後で教えることもあるが、その場で伝えることはしないようにしている。
才能があろうとなかろうと、9歳の測定まではどちらにしろ同じだ。
測定で漏れた場合に限り、才能があれば”選択肢”を与える。
もっとも、教会に入るのに才能は関係ない。
誰でも入れるし、入れば誰でも生活の保障はされる。
だが【神の奇跡】が使えるようになれば多少の優遇があるのは事実だ。
無論、それに見合った奉仕を求められるが。
ラディはヌンツィアを見送ると、今度はミカの前に立つ。
ミカは明らかに緊張しているような顔をしていた。
「それではミカ君、やってみましょうか。」
ラディは先程と同じように両手を差し出す。
ミカはラディに言われる前に自分から深呼吸をして、その手に自分の手を重ねた。
「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。 気持ちを落ち着かせて。 何かを感じたら教えてください。」
そう言ってラディは集中を始めた。
魔力を両手に集め、先程と同じように糸状にして押し出していく。
その糸がミカの手のひらに触れた瞬間、ミカはパッと手を引っ込めた。
「どうしました?」
「…………なにか、音が……、それと、波紋……?」
ミカはまじまじと自分の両手を見つめ、それから自分の身体を見る。
何か、身体の異変を探るように。
さすがに反応が早すぎて、どう解釈すればいいのかラディは迷った。
ミカが落ち着くのを待って、もう一度試すことにする。
「もう一度いいかしら? また、何か感じたら教えてね。」
そう言ってラディは手を差し出す。
ミカは慎重な面持ちで、先程と同じように手を重ねた。
その手は微かに震えているようだった。
ミカは目をつぶり集中している。
ラディも再び集中して両手に魔力を集める。
だが、今度は両手ではなく片方の手だけで試してみる。
(まずは右手。)
右手の魔力だけを伸ばし、ミカの手に触れる。
するとミカがすぐに答える。
「……左手に感じます。 何か、そこから身体全体に広がっていく感じ。」
ラディは驚き、目を見張った。
ここまで早く反応を返す子供を、今まで聞いたことがない。
試しに今度は左手の魔力を伸ばす。
すると今度は「右手に感じます。」と、同じようにすぐ反応する。
ラディはあまりにも驚きすぎて、思考が完全に停止してしまった。
■■■■■■
一緒に残っていたヌンツィアは、飴を貰って嬉しそうに帰っていった。
(お願い、置いてかないでー……て、俺も帰りたいよ、まじで。)
外へ出ていくヌンツィアを見送り、一人残されたミカはこっそり溜息をつく。
なんでこんなことに付き合わされにゃならんのだと思うが、それを実際に言う勇気はない。
(というか、結果はどうだったんだ?)
ラディは何も言わず、ヌンツィアも何も聞かなかった。
試しておいて結果を教えないってどうなの?と思うが、他人の前で堂々と結果発表はしないという配慮なのかもしれない。
相変わらずミカの心臓は早鐘を打ち、胃の辺りがキュー…としてくる。
(こんなことで緊張するとか、俺も大概気が弱いね。)
自分が緊張しいなのは自覚している。
もっとも、意識して開き直ることもできるので、さほど困ってはいないが。
「それではミカ君、やってみましょうか。」
ラディが微笑みながら両手を差し出す。
その手を見て、しゃーないやるかと腹を括る。
一回二回と深呼吸し、ラディの手に自分の手を重ねる。
ひやりとした冷たい手だ。
(冷え性かな?)
これも感じたことになるのだろうか?と考えていると、ラディが声をかけてくる。
「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。 気持ちを落ち着かせて。 何かを感じたら教えてください。」
へーい、と心の中で返事をし、黙ったままこくりと頷く。
するとすぐに、キィーーー……ンという澄んだ音が微かに聞こえた。
ガラスのコップに水を入れ、棒で叩くと楽器のように鳴る。
あんな感じの澄んだ音が聞こえた。
そして手のひらの真ん中あたりに軽く触れるものがあり、そこから何かが広がっていった。
それは静かな水面に一滴の水滴が落ちたように、ミカの身体に波紋となって広がっていく。
思わずミカは手を引っ込め、まじまじと自分の両手を見る。
波紋はまだ身体の中を広がり、跳ね返り、波が干渉し合いながら残響のように響いていく。
少しずつ弱くなっていくその波紋を、意識を集中して追いかける。
「どうしました?」
ラディが問いかける。
ミカも何と言えばいいのか、この初めての体験をうまく表現できない。
「…………なにか、音が……、それと、波紋……?」
それは不快な感覚ではなかった。
むしろ楽しかった、気持ちよかったとも言える。
だが、その音もすでに聞こえなくなり、波紋のようなものも感じ取れなくなってしまった。
ミカは自分の中で異様に気分が高揚していることに気づいた。
これまで感じたことのない未知の感覚に興奮していると言っていいかもしれない。
身震いをするほどに。
「もう一度いいかしら? また、何か感じたら教えてね。」
ラディも少し戸惑っているような様子だったが、再びミカに両手を差し出す。
ミカは昂った気分を鎮めながら、慎重にその手に自分の手を重ねた。
手が震えそうになるのを抑えながら。
そうして目を閉じ、意識のすべてを耳と手に集中する。
先程の音と波紋を、決して逃すまいと。
キィーーー……ンという澄んだ音はすぐに聞こえた。
だが、波紋は先程とは違って左手からしか伝わってこない。
左腕から左肩に伝わり、そこから体幹に広がり、身体全体に広がっていく。
左手だけだからなのか先程より広がりも跳ね返りも弱く、残響のような響きもあまり感じない。
それを少し残念に思いながらラディに伝える。
「……左手に感じます。 何か、そこから身体全体に広がっていく感じ。」
すると左手の波紋が止まり、今度は右手から波紋を感じるようになった。
左手に感じたのと同じように、最初のような響き合いはない。
「右手に感じます。」
ミカがそう伝えるが、ラディの反応はない。
右手から伝わっていた波紋も止まり、しばらくそうしていたがラディからの反応がない。
ゆっくりと目を開けラディを見上げると、驚いた顔で固まっていた。
(あれ? なんかまずかったか? ていうか、この人のこんな放心した顔初めて見るな。 いつも余裕そうな顔してるし。)
手を引っ込め「シスター・ラディ?」と声をかけると、ラディは我に返ったようだった。
「……あ、ああ、ごめんなさい。 ありがとうミカ君。 もう帰ってもいいですよ。」
「結果はどうですか?」
慌てて小瓶から飴玉を取り出そうとするラディに、ミカは質問する。
(わざわざ残らされて結果は教えないとか、それはないだろラディ?)
ミカの質問に、ラディは難しい顔をする。
なんと伝えたものかと悩んでいるようだった。
「ミカ君、これはあくまで試しているだけで――――。」
「はい。 ですが何の根拠も基準もなく、試したりしませんよね。」
「……ええ。 そうね。」
「確定するのは9歳の測定をしてから。 それも分かっています。 その上で、シスター・ラディの意見が聞きたいんです。」
ミカが続けて言うとラディは息を飲み、そして大きく吐き出した。
「私としては、大きな可能性を感じました。」
「可能性……?」
「ええ。 もしも国の基準に達していなくても、ミカ君なら教会に入れば【神の奇跡】を使えるようになる可能性があると思います。」
「神の奇跡……。」
思わず呟く。
あの不可思議な現象を自分にも使えると聞き、ミカは頭の中が真っ白になった。
(……使える? 俺が……、あれを?)
あっという間に怪我を治してしまう謎の力。
あんなものが使えたら、夢が広がりまくりじゃないか?
ゲームにある、いわゆる”僧侶”や”聖騎士”という職業に自分がなれるのか?
聖職者に特に思い入れはないが、ファンタジーの世界で自分が魔法を使って活躍するという夢想に胸がときめく。
「使える可能性があるんですか!? 僕にも、【神の奇跡】が!!!」
「え、ええ。 しっかりと修行して、神々に祈り続ければ、その祈りは神々に届くようになります。 その時にはきっとミカ君にも【神の奇跡】が使えるでしょう。」
「……祈り?」
急に冷や水をぶっかけられたように、ミカの中で興奮が鎮まっていく。
(……祈るの? 神に? 祈って、それでどうなるん?)
急激に頭が冷やされていく。
(詠唱とか、たしかラディも唱えてたよな? あれで発動するとかじゃないの?)
詠唱を唱え、魔力を消費して魔法発動、というわけではないらしい。
祈りを神々に届かせるとか、そんなのどうすればいいんだ?
「あの、シスター・ラディは何か詠唱をしてますよね? あれは?」
「詠唱も神々への祈りの一つですね。 イメージをしやすくなりますので、祈りが届きやすくなります。」
「イメージ……。」
どうやら、詠唱そのものにはあまり意味はないようだ。
祈る内容をイメージしやすくするために詠唱がある、ということらしい。
「……詠唱って、僕も教わることはできますか?」
「詠唱をみだりに教えることは固く禁じられています。 これは教会だけではなく、学院でも同じようですね。」
申し訳なさそうに、ラディはしゃがんでミカと視線を合わせると、諭す様に優しく伝える。
【癒し】以外にどんな【神の奇跡】があるのか知らないが、誰にでも教えるというわけにはいかないようだ。
もしも殺傷力の高い魔法を悪党が知れば、被害は甚大なものになるだろう。
それを考えれば当然の対応といえた。
しかし、そうなるとミカも魔法を教わるのは随分と先の話になりそうだ。
しかも”素質あり”とならなければ、それすらも叶わない。
ラディの見立てでは、とりあえず可能性だけはありそうだが。
(……イメージが大事で、詠唱もそのため。 ということは、イメージがしっかりしてれば必ずしも詠唱って必要ないのでは……?)
あとは神々に祈りが届けばということだが――――。
(信じる信じる。 ていうか、信じてるし。 だから神様仏様、魔法をどうか……!)
臨機応変というより、もはや信仰を侮辱しているとしか言いようのないミカの変わり身の早さ。
当然そんなことで【神の奇跡】が扱えるようになるわけもなく、その日はそのまま家に帰されるのだった。
■■■■■■
自宅に戻ったミカは、ラディに言われたことをずっと考えていた。
自分の中にある魔力を感じることが重要だと話していたが、あの時感じた波紋のようなものや澄んだ音が魔力なのだろうか。
身震いするほどの高揚感を感じたが、その感覚はすでになくなっている。
もう一度同じ感覚を得ようと意識を集中するが、まったく感じられるものがない。
(言い方は悪いが、あの時はラディが強引に俺の魔力に干渉したってことだよな? 俺の意思で何かしたわけじゃないし。)
干渉され、揺らいだからこそミカにも感じることができた。
安定した状態では普段と何ら変わらず、いくら意識を集中したからといって魔力を感じられないのは当たり前かもしれない。
その程度で感じ取ることのできる感覚なら、ラディに試される前に自分で気づいていてもおかしくない。
座禅の真似事をしてみたり、”循環が大事”と某漫画のように手を合わせてみるが、そんなことでできるようになるわけもなく、ついにはうんうん唸る姿をアマーリアやロレッタに心配される始末だった。
とりあえず二人に午前中にあったことを伝えると「ああ、あれね。」と理解をしてくれた。
ロレッタはもちろんのこと、アマーリアも覚えがあるそうだ。
二人とも、教会で試した時はコトンテッセから司祭が派遣されて来たという。
ロレッタが7歳の頃は、まだラディも修道院で修行中で村に居なかったらしい。
教会が対象となる子供に毎年行っているというのは、どうやら随分と昔からのようだ。
そんなことを考えながら、家の中を忙しなく動き回るアマーリアとロレッタを見る。
今日は二人とも陽の日でお休みらしく、普段できない家事をしている。
俺は掃除や洗濯などの家事は控えめに言っても大嫌いで、自分から進んでやりたいとは微塵も思わないのだが、二人は楽しそうに家事をしていた。
(一人暮らし歴ウン十年。 全自動洗濯機ですら面倒に思っていた俺からすると信じ難いが、家事が好きって人は確かにいたな……。)
元の生活を思い返すと、洗濯機や掃除機など、便利な機械はあったがそれでも家事が面倒だった。
だが、家事が趣味という人も僅かながらにいたことも知っている。
かつての上司であるハゲ部長もその一人で、意外と言っては失礼だが料理が趣味だと話していた。
休日に普段はできない手間と時間のかかる料理をし、それを食べながらの晩酌が生き甲斐だと言っていた。
趣味とまではいかなくても、料理や掃除を楽しいという人はそこそこいた気がする。
二人が家事をしているのに自分は見ているだけでは悪いと思い、手伝おうとしたがやんわり断られた。
ミカ・ノイスハイムの記憶を探ると、どうやら普段からミカは家事の手伝いなどはしていないようだった。
この世界では”家事は女性がするもの”という考えが浸透している上、以前にミカが手伝おうとしてかえって邪魔をし、手間を増やしたことがあったらしい。
すごいのは、それでも二人はミカを叱ったりせず、楽しそうに後始末をしていることだ。
このまま育つと、ミカ少年はとんでもない生活破綻者に育ってしまったのではないだろうか。
(これが当たり前なのか、この二人がミカを溺愛しすぎなのか、この世界での基準は分からないけど……。 元の世界だったら毒親と言われかねない溺愛っぷりじゃないか?)
叱られた記憶がないわけではないが、この二人のミカへの愛情は過多すぎる。
これに慣れてしまってはいけない、と強く自分に言い聞かせる毎日だ。
実は、何日かに一度お湯で身体を拭くのだが、その準備どころか、身体を拭くことまでアマーリアやロレッタがしようとする。
いつも三人一緒にするらしいが、さすがにそれはと辞退したのだが聞き入れてもらえなかった。
二人には俺が清拭を嫌がっていると受け取られたらしく、抱きすくめられ身動きができないようにされながら全身を拭かれた。
いくら「自分でやる!」と言ってもまったく信用されなかった。
どうやら、ミカ少年はいつもそう言って適当に済ませようとしていたらしい。
「そうやって、いっつも逃げるんだから。 お母さん、私が捕まえてるから拭いちゃって。」
「はーい、ミカ。 すぐ済むからねー。 ロレッタ、ちょっと腕上げさせて。」
「はーなーしーてー……っ! 本当にっ、自分でっ、やるって!」
「はいはい。 今度はこっちの腕ね。」
じたばた暴れるが、簡単にロレッタにあしらわれる。
いくら男女差があろうと、この年齢での6歳の差は絶望的な差だった。
俺がこの女体地獄から脱するには、まずは信用を勝ち得るところから始めなければならないようだ。
そう考えて、最近は寝る前に毎日身体を拭いている。
暖かくなってきたおかげで、水で身体を拭いてもさほど寒くはない。
お湯でしっかり清拭するのは数日に一度としても、毎日水で拭いていればそこまで汚れを溜めないで済む。
そうやって普段から清拭している姿を見せれば、三人で清拭する時も自分でさせてもらえるようになるだろう。
いずれは二人が終わった後に一人でやらせてもらえるようにもなる。
そうなると信じ、とりあえずは地道なアピールをすることにしたのだった。
夕食を食べ、女体地獄も終わり、一家団欒の時間になった。
アマーリアは雑巾を作り、ロレッタはミカの服の擦り切れた部分を繕っている。
俺は意識を集中し、魔力を感じ取れないかを試していた。
「今日は随分と大人しいのね。」
「最近少し元気がないみたいだけど、どうかしたの?」
俺とミカ少年が入れ替わったことで、ロレッタには以前と比べると元気がないように見えるようだ。
いくら気をつけていても、俺に7歳児の溌剌さを真似しろと言うのは無理である。
「別に何もないよ。」
「そう?」
俺の返答にいまいち釈然としないようだが、ロレッタはそのまま服を繕う方に集中したようだ。
俺も再び意識を集中し、魔力を感じ取れないかを試した。
そうしてしばらく頑張ってみるが、やはりどうにもならない。
午後はずっと意識を集中したり、いろいろ考えていたのでさすがに疲れた。
テーブルに突っ伏してぐったりすると、アマーリアがくすくすと笑う。
「魔力は感じられた?」
「んー……、無理ぃー……。」
アマーリアに力なく答える。
「【神の奇跡】が使える人は本当に少ないもの。 試してみて、少しでも魔力を感じられたっていう人もあまりいないわね。」
「私も分からなかったなー。」
ロレッタは繕い物が終わったのか、片付けながら話に入る。
「くすぐったかったとか、ちょっと温かかったとか言う人はいるけどね。」
「そうね。 お母さんの時はみんな何にも感じなかったけど、ミカは何か感じたのでしょう?」
ミカが頷くと、アマーリアは微笑んで優しい目で見つめる。
(これ、完全に”プロ野球の選手になる”って言う子供を見守る親の目だよな。 それぐらい難しいってことなんだろうけど。)
あまりの手応えのなさに、思わず溜息が漏れる。
「焦らないで、じっくりね。 さあ、そろそろ寝ましょう。 明日からまたお仕事があるわ。 ロレッタも準備して。」
はーい、と返事をしてロレッタが寝室に向かう。
ベッドを整えるのだろう。
俺はロレッタを見送りながら、疲れにプラスして更に憂鬱な気分になる。
こっそりと、先程よりも大きな溜息をついた。
ノイスハイム家には寝室がある。
だが、ベッドは2つしかない。
1つはアマーリアが使い、もう1つをロレッタが使う。
じゃあ、俺はどこで寝ているのか?
もちろんベッドである。
毎日アマーリアとロレッタのベッドに1日交代でお邪魔しているのだ。
当然ながら俺は抵抗した。それはもう必死に。
床でもいいと訴えた。
だが、ミカを溺愛するこの二人がそんなことを許すはずがなかった。
抵抗したところで所詮は7歳の子供、敵うはずがない。
こちらとしても、まさか怪我をさせるほど抵抗するわけにもいかないので手加減せざるを得ない。
結果、あっという間にベッドに引きずり込まれる。
そして、もがけばもがくほど強く抱きしめられる。
結局、無抵抗に従うのが最も穏便に済むのだ。
今日はアマーリアのベッドにお邪魔して眠る番だった。
アマーリアはミカを抱きしめると額にキスをする。
「おやすみなさい、ミカ。」
「……おやすみなさい。」
こうして、ミカの一日は終わるのだった。




