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第62話 リムリーシェとの休日




 火の1の月、5の週の土の日。

 連日暑い日が続くが、魔法学院には夏休みなどという気の利いたものはない。

 というか、もしかしたらこの世界自体にそんな考えがないのかもしれない。


「暑いだぁ? 水でも被って来い!」


 こんな感じの考えが割とまじで浸透しているので、夏休みを導入させるには、その固定観念から覆す必要がありそうだ。


 そんなことを考えながら、ミカはいつもの森林で木の根元に座って時間を潰す。

 隣ではリムリーシェが集中して、魔力操作の練習をしている。

 ミカはリムリーシェが魔力を操作しにくいのは、魔力が多すぎるからではないか、と考えた。

 そこで、魔力を一旦放出して、魔力量を減らしたらどうかと試してもらった。

 この考えは当たり、効果が表れるまで少し時間がかかったが、確かに魔力量を減らすと扱いやすくなったそうだ。

 これで魔力の扱いに慣れていき、減らさなくても扱えるようになれば、リムリーシェの豊富な魔力を使いたい放題になる。

 大抵のことは、このあり余る魔力で解決できるだろうと考えた。

 だが、そうは問屋が卸さなかった。


 今のリムリーシェの目標は【身体強化】の【神の奇跡】を使えるようになることだ。

 だが、ここでまた詰まってしまった。

 ムールトやツェシーリアも中々【身体強化】を発現できないでいたが、この二人もついに習得した。

 またもや、リムリーシェが最後に取り残されてしまったのだ。

 しかも、【身体強化】には秋までという明確な時間制限(リミット)がある。

 遠足までに、ある程度のレベルまで習熟しておく必要があるのだ。


 魔力感知の時は、「僕の魔力で干渉すれば感知できてるんだから、魔法具の方もそのうちできるようになるよ。」と悠長に構えていた。

 まあ、実際にはそこまで悠長にしていられる話ではなかったのだが、この頃はまだ遠足の話など知らなかった。

 だからリムリーシェも、そこまで焦らないでいられたのだ。

 だが、遠足に参加できない者は毎年仲間外れにされる傾向にあるとナポロに脅され、すっかり委縮してしまった。


「このままできなかったらどうしよう。」


 と、最近はすっかり落ち込んでしまっている。


 ミカとしては、そんなことでリムリーシェを仲間外れにする気はない。

 今のクラスの子供たちも、そんなことをするとは思えない。

 だから大丈夫だよ、と伝えてはいるのだが、リムリーシェの気持ちは晴れなかった。


 ミカは【身体強化】を発現するのに、全く苦労していない。

 神々に祈ったり、魔力を捧げたりなんてことをするまでもなく、呪文を詠唱するだけで強制的に発現してしまうのだ。

 そのため、今のリムリーシェの問題を解決するのに、自分が適任だとは思っていなかった。

 むしろ、もっとも不適格だとすら思っていた。

 でも、それをリムリーシェに伝えても「ミカ君に教えてほしい。」と言われてしまうのだ。


(苦労して発現できるようになったツェシーリアとかの方が、指導役には向いてると思うんだけどなあ……。)


 できなかった時と、できるようになった時。

 何に気をつけ、何が変わったか。

 そうした経験を教えてあげる方が、リムリーシェのためになるのではないだろうか。

 そう思い提案したことなのだが、なぜかツェシーリアに鬼の形相で睨まれた。

 ひどくない?


(たぶん、ツェシーリア辺りはとっくにコツとかを話してるのかもしれないけど。)


 何でも、クラスメイトの女の子三人組は寮のルームメイトなのだとか。

 基本的に寮では二人で一部屋が割り当てられるが、寮の中には少し広い部屋も用意されているらしい。

 入学者が奇数の場合、その部屋で三人一部屋になるようだ。

 寮では、一人で一部屋を使うことを認めていない。

 だったら基本を四人部屋にしとけば?と思わなくはないが、まあそんなことを言っててもしょうがない。

 問題はリムリーシェの【身体強化】の発現なのだから。


 【神の奇跡】を発現する際、魔力を引っ張られるというのは、やはり仕様のようだ。

 それを感じ取れる人はほとんどいないが、確かにそういう動きがあるということは確認されているらしい。

 だが、通常はそこで「捧げるのはこれだけ」と、魔力を切り分ける。

 その切り分ける魔力量で、効果を増減させることができるのだ。

 強制的に全ツッパになってしまうような間抜けは、どうやらミカだけのようだった。


(仕方ないじゃないか! どれだけ訓練しても留めておけないんだから!)


 2年生になって、魔力を留める魔法具をほとんど使わせてもらえないようになってしまった。

 訓練室は、基本的に今年入学した1年生が使うからだ。

 ミカたちも去年、ほとんど毎日訓練室を使っていた。

 そして、魔力を留める魔法具も、ほぼ独占状態で使わせてもらっていた。

 皆は魔力を感知する魔法具や、魔力を動かす魔法具を使うことがメインだったからだ。

 どうやら、訓練しなければならないほど魔力を留めることに苦労しているのは、ミカ一人だけのようだ。

 そんな環境でほぼ1年間訓練して、それでも成果が出ないのだから、これはもう諦めた方がいいのではないだろうか。

 自らのおかしな魔力特性に、絶望せざるを得ないミカなのだった。







 リムリーシェが「ふぅー……。」と大きく息を吐き出した。

 集中力が切れたようだ。


「お疲れ様。 少し休もうか。」

「うん……。」


 リムリーシェはやはり元気がない。

 遠足の日程はまだ分からないし、参加の可否をいつ決定するのかも分からないが、もしも夏いっぱいまでとされた場合、残りは2カ月ほどしかない。

 それを考えると、どうしても気分が沈んでしまうのだろう。

 何か、気晴らしでもした方がいいのではないだろうか?


「リムリーシェ、趣味は?」

「え?」


 とりあえず、何か気晴らしのできることがないか、リサーチしてみることにした。

 幸い、明日は陽の日だ。

 ツェシーリアやチャールと遊びに行ったり、何でもいいから少し発散した方がいいだろう。


 だが、ミカの質問にリムリーシェはきょとんとするだけで答えが返ってこない。


「何か好きなこととかないの? 遊びに行ったりとかさ。」

「好きなこと……。」


 リムリーシェは少し悩むような表情をするが、突然その顔が真っ赤になった。

 そして、膝に顔を埋め、しきりに首を振っている。

 一体、何を考えたんだろう?


(……他人(ひと)に言えない趣味くらい、別にいいと思うけどね。 他人様(ひとさま)に迷惑のかかることでなければ。)


 他人の趣味にケチをつけるつもりはない。

 他人から見れば何の価値もないようなことに、自分は価値を見出して没頭する。

 それこそが趣味の本質であり、だからこそ同好の士というのは貴重なのだ。

 自分しか価値を見出していなかった物に、同じように価値を感じてくれる。

 これほど嬉しいことはないだろう。


(考え方が完全にオタクか? まあ、それなりにオタクだった自覚はあるし。)


 廃人と言われるほどに傾倒していたわけではないが、ミカも子供の頃からゲームやアニメ、映画に触れてきた。

 いい年齢(とし)してゲームなんか、というのは聞き慣れた言葉だ。

 ああいう、他人の趣味にケチをつけるような了見の狭い人間にだけはなりたくない、とつくづく思ったものだ。


「ミカ君は……、趣味は、何?」


 少し落ち着いてきたのか、リムリーシェが膝に顔を埋めたまま、ちらりとミカを見て質問を返してくる。

 質問に質問で返すな!などと煩いことを言う気はない。

 自分の趣味について、んー……と軽く考えてみる。


 元の世界にいた時なら、ゲーム、アニメ、映画、読書、インターネットなどがスラスラと挙げられる。

 昔はこれにプログラムというのもあったが、仕事にしてからはとてもプライベートでやる気にはなれなかった。

 まあ、割とありきたりの趣味ではあるが、自分が楽しいと思えるものがこの辺りなのだからしょうがない。

 他人に自慢するためだけに、見栄えのする新しい趣味を見つけようとするバイタリティはミカにはなかった。


 では、この世界に来てからはどうだろうか。


 魔法の開発。

 以前はこれが趣味に近かったが、今では実用重視で、あまり趣味という感じはしない。

 魔法の改善も新しい魔法も、必要に迫られて、という部分が大きい。


 冒険者としての活動。

 これも趣味に近いが、今は実益重視。

 学院を優先せざるを得ないので、赤蜥蜴石の運搬などというつまらない苦行を黙々とこなす日々だ。

 魔獣討伐などの、普通の冒険者としての活動はほとんどやれていなかった。


 呪いの解除。

 これは趣味と言っていいかもしれないが、とても他人様に言えるようなものではない。

 この趣味だけは、墓場まで持って行く必要があるだろう。


(こう考えると……、他人にまともに言えることがないな、俺も。 辛うじて冒険者の活動くらいか?)


 リムリーシェに聞いておきながら、自分がまともに答えられなかった。


「冒険者としての活動かなぁ。 最近は楽しみよりも実益重視になっちゃってるけど。」


 ミカの答えを聞いて、リムリーシェがちょっと微妙な表情をする。

 まあ、命の危険もあることだ。

 理解が得られないのも無理はない。


「それで、リムリーシェは?」

「わたしは……。」


 そこでまた俯いて黙り込んでしまう。

 やはり、さきほどの顔を赤くしたものは、他人に言えるようなものではなかったのだろう。

 なんか、こういう言い方をするとそこはかとなく如何わしい感じがしてしまうが、趣味を他人に話すのが恥ずかしいと思う人はそれなりにいる。

 理解を得られなかった場合を想像してしまえば、他人に言いたくないと思うのは当然かもしれない。


「無理に言う必要はないよ。 ただ、少し根を詰め過ぎてる気がしたんで、何か気晴らしでもしたら?ってだけの話なんだけど。 明日は陽の日だし、ツェシーリアたちと出掛けたりさ。」

「……うん……。」


 ミカは努めて明るく提案するが、リムリーシェはあまり乗り気ではないようだ。

 やはり、【身体強化】の発現が気になってしまい、それどころではないのかもしれない。

 こういう時は無理矢理にでも連れ出してしまえば、それなりに気晴らしができたりすることもあるが、果たしてこの世界にはそんな気晴らしをするような場所が存在するのだろうか?


(そういえば……。)


 そこでミカはいいアイディアを思いつき、ぽんっと手を叩く。


「じゃあさ、もしよかったらなんだけど――――。」


 ミカは一つの提案をするのだった。







■■■■■■






 次の日。月が変わって火の2の月、1の週の陽の日。

 リムリーシェと寮の玄関で待ち合わせをしたら、ちょっと離れた所になぜかツェシーリアとチャールがいた。

 近寄って来たり話しかけて来たりはしないのだが、終始こっちを見てにやにやしていた。

 あの腹の立つにやけ(づら)を見ていたら、割と本気で”火球(ファイアボール)”を撃ち込んでやろうかと思いました、はい。

 さすがに後をつけて来るようなことはなかったが、何度か”地獄耳(ビッグイヤー)”を使ってしっかりと確認をさせてもらった。


「うわぁーーーっ!」


 リムリーシェが目を輝かせて、目の前の光景を見ている。

 陽の日の中央広場には沢山の人が溢れ、沢山の屋台や大道芸などを披露している人があちこちにいた。

 ミカはこれまで中央広場に来たことはあるが、いつもただ通過するだけだった。


 初めてサーベンジールに来て、ニネティアナに連れられた時。

 里帰りするために南門に行った時。

 里帰りから帰って来て、寮に戻る時。


 これだけだ。

 1年以上もサーベンジールで暮らしながら、まともに中央広場に足を踏み入れたのはこれしかなかった。

 普段はギルド周辺の店で用事は済むので、わざわざ中央広場まで来る必要がない。


 以前ニネティアナに、「そのうち時間ができたら行ってみれば?」と言われていたことをすっかり忘れていた。

 そこで、リムリーシェを連れ出す口実に、ニネティアナの言葉を使わせてもらったのだ。

 里帰りした時に、「何よ、まだ行ってないの?」と()()()()()()()()()

 すまん、ニネティアナ。ダシに使わせてもらったよ。


「リムリーシェは中央広場は来たことある?」


 ミカが聞くと、リムリーシェは首を振る。


「初めてだよ。 チャールは時々来てるみたいだけど。」


 普段クラスメイトの女の子三人組で出掛ける時も、中央広場までは来ないようだ。

 何だかんだ、寮から中央広場までは遠い。

 なにせ、片道3キロメートルくらいある。

 買い物だけなら、ここまで来る必要もない。


 ミカは普段、街中の移動でも【身体強化】を使っているが、今日はリムリーシェに合わせて強化無しで歩いてきた。

 強化なしでもそれなりに歩き慣れているが、疲れないかと言えば、やっぱり疲れるものは疲れる。


 とりあえずミカは、近くにあった屋台で飲み物を買う。

 赤い果物を絞り、水と何かよく分からない黒っぽい液体を少し入れて混ぜる(ステア)

 透き通った、見た目も綺麗な赤いドリンクが出てきた。

 よく冷えているようで、両手に持ったカップが冷たくて気持ちいい。


(……しかし、この真夏によくこんな冷えたの出せるな。)


 結構いい値段したが、ほとんど氷代じゃないのか、これ?

 そんな余計な考えが浮かぶが、今は置いておく。


「はい、リムリーシェ。 喉乾いたでしょ。」


 ミカがドリンクを差し出すと、リムリーシェが慌てて自分の財布を出す。


「あ、ごめんなさい! いくらだった!?」

「いいよ、これくらい。 今日は付き合わせちゃったからね。 ここまで暑かったし、飲みながら少し休もう。」


 ミカがにっこりと微笑むと、リムリーシェが顔を赤くして、俯いてしまう。

 そして、小さく「ありがとう。」と呟くのが聞こえた。


 ドリンクは少し酸味が強いが、甘みと果物の爽やかな香りが感じられる、暑い日にぴったりの飲み物だった。

 こんなに美味しいのなら、飲み物の名称をもっとちゃんと見ておけば良かった。

 何というのか分からない謎の飲み物を飲みながら、少し離れた所でやっているジャグリングを眺める。


 気晴らしになればと思い、リムリーシェを連れ出したが、実はここからはノープランだ。

 メサーライトに何か面白い物はないかと一応はリサーチをしてみたが、大道芸は完全にその日毎でバラバラ。

 アミューズメントなんかもあるわけない。

 この世界の人って、本当に何して遊んでるんだ?


 ちらりとリムリーシェの様子を窺うと、ちびりちびりとドリンクを飲みながら、ミカと同じようにジャグリングを見ている。


(……か、会話ができん……。)


 普段は何気なく話をしているが、改まって何かを話そうとすると、何を話せばいいのか分からなくなる。


(必要なことならいくらでも話すことができるのに! 何でこういう時は話題が思いつかないんだ!?)


 軽度のコミュニケーション障害が発症していた。

 とりあえず、「暑いねー。」とかできっかけを作るか?

 しかし、そこからどう繋げて行けばいいのか。


(そ、そうだ……!)


 こういう時は、とりあえず何かを褒めるのがいいと大昔に雑誌で読んだことがある。

 久橋律にもファッション雑誌でお洒落に気を遣ったり、女性との会話に気をつけたりしていた頃があるのだ。

 もっとも、そういうのが面倒になって独身貴族になってしまったという副作用もあるのだが。


 それはともかく、褒めるなら基本は服装やアクセサリだ。

 再びリムリーシェを窺う。


(制服じゃん! しかもアクセなんかしてる訳ないじゃん! 9歳ですよ、俺たち!?)


 ミカもリムリーシェも、基本的には外出着は制服、寮では運動着である。


(だって、支給される服着てれば、お金使わなくて済むんだもん。)


 メサーライトは部屋着も外出着も自分で買ってきているが、ミカもリムリーシェも余計なお金は使わない派だ。

 寮では、そこそこ運動着を普段着にしている子供がいる。


 だが、ここでミカは神の啓示の如き閃きを得た。

 丁度サーベンジールの大聖堂が目の前にある。

 きっとこれは神の啓示に違いない!


「……リムリーシェは、甘い物は好き?」


 女の子の好きな物。

 そう、スイーツである。


「うん。 好きだよ。」


 リムリーシェはミカの方を見て、微笑みながら答える。

 ミカは心の中で、ガッツポーズを作った。


(今日のプランは決まった!)


 ミカの目がギラリと光を放つ。

 題して「中央広場、甘い物全部食べるまで帰れま(ピー)ン」だ。


「よーし、じゃあさくっと広場の甘い物全部食べよっか。」

「……へ?」


 リムリーシェの目が点になった。

 そんなリムリーシェの手を引き、早速近場の甘い物系の屋台に向かう。

 屋台の食べ物は、ほとんどが安いと聞いている。

 大銅貨一枚。百ラーツ以下の物が結構あって、高くても大銅貨三枚する物が稀にある程度。

 仮に屋台が百軒あったとしても、最大でも大銀貨三枚だ。


(いや、大銀貨三枚って結構するな……。 三万ラーツだもんな。)


 まあ、これはあくまで最大の話で、実際には大銀貨一枚前後といったぐらいだろう。

 ミカも普段ほとんど散財などしないので、たまにはこれくらい羽目を外すのも悪くない。


「おっちゃーん、それ一本。」

「あいよ、毎度ありぃ。」


 ミカは甘い匂いを漂わせる屋台に行き、適当に注文する。


「ミ、ミカ君! 本当に全部食べるの!?」

「勿論本気です。」

「無茶だよ!」


 ミカは屋台のおっちゃんからチュロスのような棒状のお菓子を受け取り、半分に折る。


「はい、これ。 リムリーシェの分。」

「あ、ありがとう。」


 戸惑いながらリムリーシェはチュロスを受け取る。

 ミカがかぶりつくのを見てから、自分も恐るおそる齧る。

 だけど、一口食べると途端に笑顔になった。


「美味しい。」

「中々美味しいね、これ。」


 砂糖が使われているのか、しっかりとした甘みを感じる。

 どうやら、エックトレーム王国には砂糖がそれなりに安価で出回っているようだ。

 そうでなければ、この値段でこのお菓子は出せないだろう。


「中々じゃねーよ。 うちはサーベンジールで一番の屋台だぜ?」


 どうやら、ミカの言葉を聞いていたらしい。


「あははは、すいません。 すごく美味しいです。」


 ミカは素直に訂正する。


「さあ、次行ってみよう!」


 ミカはチュロスを食べ終わり、リムリーシェの手を引いて次の店に向かう。


「ちょ、ちょっと待って、ミカ君!」


 リムリーシェは、あと二口分くらい残っている。


「慌てなくてもいいよ。 自分のペースで食べてて。」


 でも、先は急ぐけどね。

 なにせ、あと何軒あるのかすら分からないのだから。


 そうして、ミカは次々にスイーツ系屋台を制覇していく。

 リムリーシェとの食べるペースを考慮し、ミカが三分の二、残りをリムリーシェが食べるくらいの配分にする。


 鈴カステラ、ホットケーキ、プリン、クレープ、リンゴ飴、クッキー、チョコバナナ、ドーナッツ、ソフトクリーム、ワッフル、パフェ、などなど。

 これらはすべて、見た目や味からミカが勝手にそう思っているだけのスイーツだ。

 正式な名称は知らん。

 というか、とても憶えきれない。

 これらのスイーツは屋台によって様々なバリエーションがあり、クリームたっぷり、チョコたっぷり、果物どっさりなど、それぞれがいろんなアレンジをしている。


「うっぷ……。」


 そしてこれらを、匂いを嗅いだだけでも吐き気がするほどに食べた。


 はい、正直舐めてました。

 直径で500メートルを超える円形の中央広場。

 スイーツ系の屋台だけで百軒なんて軽く超えてます。

 考えが甘かった。……スイーツだけに。


「ミカ君、大丈夫?」

「だ、大丈夫…………たぶん。」


 リムリーシェが心配そうにミカに声をかける。

 とてもすべて制覇なんてできるわけがなかった。


「くっ……ここまでか……っ!?」

「もう、無茶し過ぎだよー。」


 そう言ってリムリーシェは苦笑する。

 だけど食べ歩いている間は、ミカの鼻の頭に付いたクリームで笑ったり、リムリーシェが頬についた砂糖を恥ずかしがったりと、【身体強化】のことを忘れて笑い合えたと思う。

 とりあえず、当初の目的は達せられたのではないだろうか。


「そろそろ帰ろうか。」

「うん。」


 そうして、リムリーシェと並んで寮まで歩いて帰るのだった。


 ちなみに、リムリーシェはけろっとしてました。

 いや、結構食べてますよ、君も。

 何で平気なの?







■■■■■■







 リムリーシェと、中央広場に遊びに行った数日後の夜中。

 ミカは寮の自室で手紙を書いていた。

 勿論、家族への手紙だ。


 簡単な近況を綴り、家族の健康と平穏を願う。

 仕送りは大銀貨二枚。

 リッシュ村では使いやすいのは銀貨の方だと思うが、銀貨は以前の里帰りで五十枚預けてある。

 必要に応じて大銀貨と銀貨を使い分けてもらえればと思う。


 ミカは椅子の背もたれに寄りかかり、考える。

 最近の冒険者としての活動のほとんどが赤蜥蜴石の採集だ。

 それはそれで収入アップに繋がり、仕送りが増やせたので狙い通りではあるのだが、魔獣との戦闘がほとんどない。

 森の近くを通るので、ごく稀にソウ・ラービやクート・バイパーを見かけるが、一方的に魔法で攻撃して終わり。

 面白味がない。


 安全に稼げるのが一番だろうと思う反面、物足りなさを感じていた。

 近場の魔獣を狩るような依頼は、普通に冒険者として活動している人たちに、どうしても先に取られてしまう。

 ミカが受けられた依頼は、数が増え過ぎた害鳥狩りだけだ。

 あれも、難度とランクと報酬の設定がミスマッチを起こしていたので残っていただけ。

 普通、そんなことはほとんど起きない。


「……どうしようかなぁ。」


 そう呟き、お金を包んだ布切れに手紙を入れ、大きな紙で包む。

 手紙を出す準備を整えてから引き出しに仕舞い、ベッドに入るのだった。





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