第60話 噂の大金貨二十枚の依頼
水の3の月、2週の風の日。
今日の午前中は退屈な王国史の授業だった。
退屈とは言いつつも、実はそれなりに楽しんでいる部分もあったりするのだが。
2年生になってから、魔力の訓練も含めて授業は基本的に教室で行うようになっている。
1年生の頃、ほとんど毎日訓練室を使っていたことを考えれば、2年生が訓練室をほとんど使わないのは考えるまでもなく分かることだ。
2年生になると、魔法具を使わずとも自分で魔力を動かしたり、【身体強化】の発現、維持させる訓練ができる。
魔法具を使わないと魔力を動かすことも難しい1年生が、訓練室を優先して使うのは当然といえた。
王国史では、現在”五十年戦争”中の出来事などを簡単に学んでいる。
ミカが特に興味を惹かれたのは、「魔法士の騎士運用」だ。
これは、魔法士の育成を学院で行うようになってから始めた、実験的な試みだ。
魔力の才能が認められた子供たちを、魔法士として育成するのではなく、騎士として育成したのだという。
そんなことをして何の意味があるんだ?と思ってしまったが、実はそれなりに効果を出した実験らしい。
【身体強化】は、素の身体能力から、割合で能力を引き上げる。
今も騎士学院に進んだ子供の中で、魔力が成長した子供には覚えさせるが、【身体強化】が使える騎士と使えない騎士では、その強さにはとんでもない差ができる。
ただし、魔法学院に選ばれなかった子供の魔力の成長はやはり限定的で、切り札として瞬間的な爆発力は期待できるが、効果を持続させるのは難しい。
そこで、魔力の豊富な子供を初めから騎士として育てて、【身体強化】を使わせたらすっげー強いんじゃね?と思いついた人が軍の上層部にいたようだ。
騎士として育成するので素の身体能力も高く、そこに豊富な魔力に物を言わせた【身体強化】を加える。
スーパー騎士の誕生である。
このスーパー騎士、まじで戦場を蹂躙しまくったようだ。
十人程度のスーパー騎士の小隊が、敵の百人を超える騎士隊に正面から突っ込んで殲滅してきた例もあるという。
実戦投入されたのは五十年戦争の開戦から三十年くらい経った頃らしいが、その後の十年はエックトレーム王国の優勢が続いたらしい。
だが、そのスーパー騎士の運用も十年で終了してしまった。
なぜか?
やっぱり魔法士は魔法士として運用した方が効果が高い、そう結論付けられたからだ。
(……散々戦場を蹂躙して、十年も戦況を優勢にしたのに、何でそんな結論になるんだ?)
と不思議に思ったが、軍の上層部はそういう結論に至った。
たぶん「何か」があったのだと思うが、授業でそれ以上スーパー騎士について触れることはなかった。
残念。
そして授業では、五十年戦争最後の決戦である”ダブランドル平原の決戦”の大まかな説明が始まった。
王国歴1475年に起こったこの決戦では、両国がともに二百万を超える兵を投入し、正面からぶつかり合う展開になった。
まあ、これだけの兵数になると、小細工もあまり意味がなくなるので、多少の嫌がらせ以外は手の出しようがなかったのだろう。
そして、結論から言えば、この決戦は引き分けに終わった。
それは現在の両国の関係を見れば、だいたい予想のつく結果ではある。
だが、その被害は予想を遥かに超えていた。
なんと、双方が百万人近い戦死者を出した。
投入した兵力の半数近い死者を、双方が出したのだ。
これはあまりにも異常なことだ。
こんなことは、常識で考えればありえない。
そんなことになる前に、普通ならどちらかが引くだろうし、どちらかの軍が崩壊する。
引き分けるにしても、双方が損耗率50%近いなんてのはどう考えてもおかしい。
だが、これについても授業では特に取り上げなかった。
さらっと説明して、そのまま流されたのだ。
(たぶん……、なんかとんでもないことがあったんだろうな。 さっきのスーパー騎士計画の打ち切りといい。 決戦での異常な損耗率といい。)
何かが隠されている。
おそらく、まだミカたちに教えることのできない「何か」がある。
ただし、それはいずれ教えるつもりなのだろう、というのも予想がつく。
そうでなければ、丸ごと隠蔽して終わり。
わざわざ授業で取り上げる必要もない。
ミカは、その「何か」に興味を惹かれるが、同時に「知りたくないなあ」とも思ってしまう。
きっと知ってしまえば、それはもう「教えても問題ない」と判断されるくらいに、ミカたちがどっぷりと軍に浸かっている証拠なのだ。
ちなみに、この決戦の翌年に休戦協定が結ばれ、更にその2年後に正式に終戦合意、講和条約締結が成される。
おそらく双方ともに決戦での損害が大き過ぎて、戦争どころではなくなったのだろう。
だったら始めっから戦争なんかしなきゃいいのに。
午後の運動の時間になった。
「それじゃあ、ミカ君。 またね。」
グラウンドに向かって並んで歩いていたリムリーシェが軽く手を振って、ツェシーリアとムールトのいる所に向かう。
今日の運動の最初のメニューは、【身体強化】を使える者と使えない者で別の内容になっている。
ミカたちは【身体強化】を使ったアスレチックの往復。
これはこれで【身体強化】を継続して使用する習熟の意味があるのだろうが、ミカ個人のことでいえばあまり意味がない。
【神の奇跡】を発現するにあたって、”吸収”を使用することが必須のミカにとって、何時間でも【身体強化】状態を維持するのに然程苦労はない。
それよりも、素の身体能力を鍛えたいミカにとっては、【身体強化】を使えない組のメニューの方が得る物があるような気がする。
(ナポロに提案してみようかな? でもなあ、【身体強化】を使える奴の余裕みたいに受け取られるのは嫌だなあ。 クラスの皆には、どうしてもそう見られちゃうだろうし。)
中々に悩ましい。
結局ミカの【身体強化】の下限は2~3倍で変わっていない。
これ以下に抑えるようと魔力を減らすと、どうしても魔力が途切れてしまい【身体強化】が解けてしまう。
2~3倍に強化したミカが、1割~2割の強化のメサーライトたちとアスレチックをやっているのだ。
これはこれで非常に嫌味な結果になってしまう。
しかも、皆はそれでも途中で魔力が尽きてしまいそうなのに対し、ミカは最初から最後までぶん回してもけろっとしている。
更に嫌味さが増量されるのだ。
(うう……、こんな変な悪目立ちしたくないのに。)
別に悪目立ちではなく、普通に優秀さの表れなのだが、あまりに突出しすぎてみんなの視線が痛い。…………ような気がする。
(よし、やっぱり今日は【身体強化】なしでやらせてもらおう。)
やることはただアスレチックを往復するだけ。
【身体強化】があろうがなかろうが、やることは一緒だ。
素の状態の身体を鍛えたい、という理由とともにナポロに相談すると、ナポロはあっさりと許可を出してくれた。
「ミカ君はすでに【身体強化】をだいぶものにしているからね。 強化していない状態を鍛えたいというのも、理に適っている。 確かに、ミカ君ならそっちの方が効果が高いかもしれないね。」
ということで、今日は【身体強化】なしでのアスレチックとなった。
【身体強化】を教わる前は、これが当たり前だったのだ。
「え? ミカは今日、【身体強化】しないの?」
「普通に運動したいんだよ。 素の状態で身体を鍛えた方が、【身体強化】の効果も高いだろ?」
メサーライトと雑談しながら準備運動をする。
【身体強化】を発現できる組は、あとはポルナードとチャールがいる。
全身の関節を順番に動かしていき、可動域を広げていく。
しっかり解しておかないと、筋や関節を痛めてしまう。
…………経験者が言うんだから間違いないよ、うん。
「何だかんだ言っても、やっぱりミカは真面目だよね。 自分から進んで運動のメニューを大変にしてるんだからさ。 ……変人だけど。」
「おい、聞こえたぞ。」
どこが変人やねん。
ミカは、身長という努力だけではどうにもならないハンデを背負っているので、それを補うためにも人より鍛える必要があると考えていた。
冒険者としての活動にも有利に働くので、同じやるならより効率的にいきたいだけだ。
「よーし、準備はできたな。 【身体強化】のペース配分はしっかり考えながらやるんだぞ。」
ナポロがミカたちをスタート地点に集合させる。
各々の魔力は、1時間のアスレチックで使い切るように言われている。
【身体強化】の割合を考えながら、途中で魔力が尽きたり、または余らせたりしないように制御するのだ。
強化を強めればアスレチックの障害を越えるのが楽になる。
ただし、強化し過ぎれば途中で魔力が尽きてしまう。
なるべく強化割合を一定に保ちつつ、魔力が足りなそう、余りそうを自分で考えて調整していくのだ。
今の自分はどのくらいの強化で、どのくらいの時間を強化できるのか。
そうしたことを、頭と身体に覚えさせるのだ。
「じゃあ、行くぞ。 はい、スタート!」
ナポロの掛け声とともに、メサーライトが飛び出していく。
【身体強化】を発現できるようになったのは一番遅いメサーライトだが、魔力量はそこそこある。
素の状態の身体能力もポルナードやチャールより高い。
ペース配分さえ間違えなければ、メサーライトが一番早く、一番多く往復できるのは当然のことだろう。
ミカは前にムールトとやっていた、アスレチックの競争のようなペースでは走らない。
あの時は「なるべく早く」が目的だったが、今回は1時間という長丁場。
マラソンと同じようにペース配分をしっかり考えて、一時間を走りきることが目的だ。
ミカがそうしてアスレチックの障害をじっくりとこなしていると、同じくらいのペースで障害をクリアしていたポルナードのペースが急に上がった。
おそらくだが、【身体強化】を引き上げたようだ。
(……? そんなに飛ばして大丈夫なのかね?)
【身体強化】を身につけ、どんどん魔力量を増やしているポルナードではあるが、【身体強化】はかなりの魔力を消費する。
強化割合を引き上げれば、あっという間に魔力が尽きてしまう。
チャールは、ミカに少しだけ遅れてついて来るようなペースだ。
普段なら、ポルナードもチャールと同じくらいのペースだったはず。
(魔力量が増えて、ペースを上げられるようになった?)
と思ったが、少し先にいった所で、ポルナードのペースが目に見えて落ちた。
ミカとチャールはマイペースで障害を越えて行き、ついにポルナードに追い付く。
そして、ミカがポルナードを追い越すと、再びポルナードのペースが上がった。
(おいおい、無理しない方がいいぞ。)
何となく、ミカを追い抜く時のポルナードの表情が、やけに必死そうだったのが気になる。
(もしかして……。)
ポルナードは、強化していない状態のミカと、強化している自分が並んでいるのが悔しいのかもしれない。
未強化のミカに負けてたまるか、と必死になっているのではないだろうか。
(素の身体能力に依存するんだから、そういうのは気にしても仕方ないことなんだけどなあ。)
これこそがミカが素の状態の身体を鍛えたい理由であり、強化してもポルナードがミカに敵わない理由だ。
素の状態である程度鍛えておかないと、何倍に強化しようが単純な力比べですら負ける可能性がある。
極端な話。
ミカが例え10倍に強化しても、ヤロイバロフには勝てないと思う。
そして、10倍まで強化すればミカの身体もその強化に耐えられない。
つまり、何をどうしようがヤロイバロフには敵わないということになる。
まあ、ヤロイバロフとなら、命がけで戦うようなことにはならないだろうけど。
だが、相手が魔獣だったら?
誘拐事件のような、ならず者が相手だったら?
早々そんな相手と戦うことにはならないだろうが、備えておかないといけないだろう。
実際に、痩身の男という、格上の相手と戦わざるを得ない事態が起きたのだ。
もしもあの時、最初の突撃でもっと早くミカが痩身の男に迫れたら?
姿を隠す前の痩身の男に”風千刃”を食らわせられたら?
あっさりと決着をつけることもできただろう。
(あの時の戦いが厳しかったのは、単に俺が弱かっただけだ。 小型の魔獣を狩れるくらいで調子に乗るなよ。 あのアグ・ベアでさえ、一対一で倒せる奴がごろごろいるんだぞ?)
そんなことを考えながら、ミカは次々に障害を越える。
ミカの目の前に、今度は5メートル以上もある金属の棒が立っている。
ミカはその棒に掴まりしっかりと握ると、するすると登っていく。
(俺は、まだまだ強くなる! 強くなれる!)
元の世界で40代後半だった久橋律は、時間の経過とともに身体の衰えを感じることがあった。
いつの間にか、それまで当たり前にできてたことが苦しくなる。
意識しないでてきてたことが、意識して取り組まないと上手くいかない。
そんな、ほんの些細なことで「老い」を感じ始めていた。
だが、ミカは違う。
ミカにとって「時間」とは、最大の味方なのだ。
子供の身体を不便に思うことも多いが、時間経過による「成長」という、無限の可能性がこの身体には眠っている。
時間の経過とともに、それまでできなかったことができるようになる。
注意して取り組まなくては失敗していたことが、意識しなくてもできるようになる。
ミカは、自らの成長を感じることが何よりも嬉しかった。
長い棒を登り切り、一息つく。
普段見ることのない、高い位置からの眺め。
メサーライトは、もうすぐゴールして折り返してくるところだ。
チャールはミカの一つ手前の障害で苦労している。
ポルナードはミカに抜かれまいと、二つ先の障害まで頑張って進んだようだ。
更に遠くを見ると、グラウンドではリムリーシェたちがジョギングしている。
法によって強制的に集められた子供たちだが、皆一生懸命に頑張っている。
「……俺も頑張ろう。」
ミカはそう呟き、勢いよく棒を降りるのだった。
その10分後――――。
魔力の枯渇でポルナードが倒れた。
ナポロが背負って、ポルナードを校舎の保健室みたいな所に運ぶ。
「まったく。 あんな無茶苦茶なペースでやれば魔力が無くなるのは当たり前だ、馬鹿者。」
ナポロがポルナードに小言を言うが、たぶん気を失ってて聞こえていない。
やはりポルナードは、ミカのことを意識しすぎて、ペース配分など考えずに【身体強化】を引き上げていたらしい。
(……すまん、ポルナードよ。 そんなつもりじゃなかったんだ。)
ミカは心の中で、ポルナードに詫びるのだった。
■■■■■■
ポルナードがぶっ倒れた日の放課後、ミカはギルドに来ていた。
【身体強化】を手に入れたことで、平日の放課後でも大通りに行くことがそれほど苦にならなくなってきた。
たぶん、素の状態での体力がついてきたというのも大きいのだろう。
鑑定屋の老婆から譲ってもらった”呪われた物”も、すでに十個以上あるがすべて呪いを解いてしまった。
慣れてきたのだろうが、最初は3カ月かかったパズルの解除も、最近では2~3日で解けてしまう。
弱い呪いの場合、貰ってきたその日のうちに解いてしまうのだ。
いよいよ平日の放課後にやることがなくなったミカは、その時間を情報収集や魔法の研究などにあてることにした。
今日は、次の陽の日に行ける依頼が何かないかを見に来たのだ。
特になければいつも通り赤蜥蜴石の採集に行けばいい。
前回の依頼は大変だったが、一日で金貨一枚稼げる美味しい仕事だった。
その後の数日間、クラスの皆に臭い臭い言われたのはちょっとトラウマだけど。
ギルドとしても、あの依頼は中々厄介なことになってきた、と頭を悩ませていたところだったようだ。
ミカが解決して帰ってきたことに、かなり驚いていた。
窓口対応したユンレッサまで、鼻を摘まんで微妙な表情してたけどな!
ミカが依頼書を張った掲示板を見ていると、最近張られた依頼書の中に大金貨二十枚というとんでもない依頼を見つけた。
大金貨二十枚。二千万ラーツ。
たぶん、節約生活すれば二十年とかは働かないで暮らせるくらいのお金だ。
リッシュ村なら、一生暮らしていけるのではないだろうか。
娯楽なんかまったくない村だからな、あそこ。
ミカは興味が湧いて、大金貨二十枚とやらの依頼の内容を確認してみる。
「えーと…………七公国連邦にて『聖者の大秘術書』が発見されたとの情報。 これを確認、持ち帰ること。 ………………聖者の、大秘術書……?」
なんか聞き覚えがあるような……?
なんだっけ?
「あ。」
前にニネティアナの言ってた与太話だ。
確か、錬金術だの王になれるだの言ってた、胡散臭い話。
高額の依頼がギルドに出ていると言ってたが、本当にあるんだな。
「ミカ君は、その依頼に興味があるのかね?」
ミカが胡散臭い依頼書を眺めていると、後ろから声をかけられる。
振り向くと、ミカの面談をしてくれた口髭の渋いおじさんが立っていた。
「その依頼は似たような物が沢山ある。 どの依頼人に渡すかは慎重に選んだ方がいい。 ……手に入れば、だけどね。」
そう言って、おじさんは肩を竦める。
「そんなに沢山あるんですか?」
「ああ。 なにせ、これまで一度も達成されたことのない依頼だからね。 溜まる一方さ。 とても張り切れないから、一定期間張ったら掲示板から下げるという条件で依頼を受けているよ。 依頼自体は取り下げられない限り、一応は有効だからね。」
「へえ~……。」
そんな出しても意味のない依頼を出す酔狂な人がいるらしい。
しかも、大金貨二十枚も出して、だ。
「なんか、すっごい高額の依頼ですけど、本当に支払われるんですか?」
「それは間違いないよ。 先に報酬は預かっているからね。」
「え? 全額預かってるんですか!? 大金貨二十枚も?」
ミカが驚いて聞き返すが、おじさんはにっこりと微笑むだけ。
あまり生々しいお金の話を、ここでするつもりはないようだ。
ミカは「はぁ~……。」と感心半分呆れ半分で依頼を見上げる。
「今回は七公国で見つかったという噂だが、まあこんなのはいつものことだ。 真に受けない方がいい。 話が持ち上がって、しばらくしたら消えていく。 それの繰り返しだよ。」
なんか、未確認生物みたいだな。
ビッグフットとかモスマンとかチュパカブラとか。
ツチノコなんかも、時々新聞の記事になってたな。
(皆、こういう話好きだよなー。 まあ、俺も嫌いじゃないけど。)
読む分には面白い。
探す気にはなれないけど。
「ミカ君は七公国は行ったことあるかね?」
「いえ。 名前も初めて聞きました。」
七公国連邦?
聞いたこともない。
「七公国連邦は大陸の北にある、元は大国だった所なんだがね。 お家騒動が原因で、分裂に次ぐ分裂。 結局七つにまで分裂してしまった国だ。」
最初は王位継承問題が原因で、A王子派とB王子派で国が真っ二つ。
この二人の王子が争ってる間にC王子派が漁夫の利を狙って暗躍。
王を騙して譲位させ、即位してしまった。
勿論、AとBの両王子はこれに激怒。
一応正式な手順を踏んで即位、戴冠したC王(元C王子)を殺害してしまった。
その後は、それぞれの派閥内でも主導権争いで対立が始まってしまい、分裂しまくる事態に。
そして、分裂で弾かれた者たちが別の王子を擁立したりと混迷を極めることになる。
C王子に騙された元王がまだ健在なこともあり、それぞれの王子は擁立する派閥を拠り所に公国として独立。
そんな事情により、それぞれの公国は非常に仲が悪かった。
そんな仲の悪い状態でも、何とか危ういバランスを保っていた。
なにせ、どこかを攻めようとすれば、その隙に自分が攻められるのだ。
迂闊には動けない。
しかも、下手に手を組もうとしても、国の分裂の原因がお家騒動からの主導権争い。
こいつは信用できるのか?
裏切るんじゃないのか?
と、お互いに不信感の塊になっているため、手も組めない。
だが、それでも手を組まざるを得ない事情ができてしまった。
エックトレーム王国とグローノワ帝国だ。
エックトレーム王国が国土を拡大し、いくつかの公国と隣接することになり、次いでグローノワ帝国も国土を広げて複数の公国と隣接してしまった。
超大国に両側から挟まれ、分裂した公国のままでは簡単に飲み込まれてしまう。
だが、元の一つの王家に戻ることも不可能。
そこでできたのが”連邦”という枠組みだ。
相互に、王国や帝国の侵攻を受けたら兵や武器、食料などを支援し合うことになった。
さすがにいくら仲が悪かろうが、これを裏切れば次は自分が侵攻を受けることになるかもしれない。
仕方なくであろうと、一応はそれなりにまとまることができた。
こうして、内をまとめるには、外に敵を作ればいいという、実例のような連邦国家が誕生した。
「…………馬鹿ですね。」
ミカが呆れたようにそう呟くと、おじさんは「あっはっはっはっ。」と大声を出して笑った。
この人が、こんな風に笑うのはちょっと珍しいな。
フロアにいる冒険者や、カウンターのギルド職員までが驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「こほん…………失礼。 まったくその通りではあるんだがね。 一応、現在は王国の友好国なんだ。 あまり昔のことを蒸し返してやらんであげてくれ。」
いや、説明したのあんただし。
だがまあ、中々面白い話が聞けた。
「教えていただいて、ありがとうございました。 とりあえず、僕の受けやすい依頼は無いようなので、次の陽の日はいつも通り採集に行こうと思います。」
ミカがそう言うと、おじさんが頷く。
「しばらくは赤蜥蜴石が不足気味だったのでね。 ミカ君が採集してくれると助かるよ。 だが、くれぐれも気をつけてな。」
ミカは頷き、ギルドを後にするのだった。




