第58話 真・初めてのクエスト
水の2の月、3の週の火の日。
午後の運動の時間。
初めはただ歩かされるだけの時間だったが、今では毎日様々なメニューをやらされる。
歩く、ジョギング、走る。
アスレチックでの競争。
棒を持っての”型”、”打ち込み”や”受け”を二人一組で行ったりもする。
そして、2年になってから追加された物がいくつか。
学院内の森林での鬼ごっこ。
リムリーシェといつも特訓を行っていた森林の、存在理由がこれだ。
森林の中で木に邪魔されながら、時に利用しての鬼ごっこをやらされるのだ。
おそらく、森林地帯での行動に慣れさせるためだと思うが、内容が鬼ごっこなので皆楽しんでやっている。
ただし手を抜いてるとダグニーやナポロの容赦のない怒声が飛んでくるが、「全力で真剣に遊べ」と言ってるようなものなので、このメニューは皆大好きなようだ。
そして、敬礼や整列などの訓練もやらされるようになった。
この世界の敬礼は元の世界での敬礼に近いが、もう少し脇を締めてやる感じだ。
横一列にほぼ隙間なく並ばされ、その状態で敬礼をする。
あまり肘を張れば、隣の人にぶつかってしまう。
間隔を開けた整列や狭い整列の仕方なども並行して訓練させられ、いよいよ軍隊という「集団」での行動を意識した内容が組み込まれるようになってきた。
最後に、【身体強化】を使える者だけの別メニューが出てきた。
やる内容は主にアスレチックだが、【身体強化】を使用してひたすら往復させられる。
今【身体強化】を発現できるのは、ミカとポルナード、チャール、最近できるようになったメサーライトの四人。
ムールトは、男の子の中で自分だけができないことに相当焦っているらしく、かなり必死になって神々に祈りを捧げている。
だからと言って、大声で呪文を叫ぶのは止めてほしいのだが。
ツェシーリアも、チャールやポルナードができて、自分にできないことに焦りを感じているらしい。
普段、喧嘩友達のようにしているミカにさえ、コツを教えて欲しいと頼みに来たほどだ。
「ねえ、何かコツがあるんでしょ? ミカはいきなり発現させてたし、なんか使い慣れてる感じだし。 ほら、これあげるから。 さくっと教えなさいよ。」
そう言って向かいに座ったツェシーリアが、自分の食事が乗ったトレイから、焼いたポレンタをミカのトレイに乗せる。
「いらないよ! ていうか、おばちゃんに言えばいくらでももらえるじゃないか!」
「いいからケチケチしないで教えなさいよ!」
そう言われても、ミカは発現させるつもりがなくても勝手に発現してしまうのだ。
コツと言われても困る。
「あー……、自分の中の魔力が動きやすい方が発現しやすいんじゃないか? 知らんけど。」
それで勝手に動く様になれば、勝手に発現するんとちゃいます?
「魔力を、動きやすく……。」
ミカは適当に言っただけだが、ツェシーリアは真剣に考え込み始めてしまった。
いや、適当に言っただけなんで、そんなに真に受けないでほしいんだけど。
ということで、現在ツェシーリアは魔力を動かす訓練を集中的に行っている。
…………ちょっと罪悪感。
リムリーシェもまだ【身体強化】を発現できていないが、あまり焦ってはいない。
みんなよりも魔力の訓練が遅れているリムリーシェだが、今一番に取り組んでいるのは、やはり魔力を動かす訓練。
自分の中の魔力を感じ取れるようになったリムリーシェは、とにかく魔力を動かすのが大変なようだ。
おそらくだが、リムリーシェは魔力が多すぎるのだと思う。
ぱんぱんに詰まりに詰まった魔力を、自分の思い通りに右へ左へと動かすのにも苦労している状態だ。
リムリーシェも最初のミカのように、魔力を動かしていると無意識に自分の身体が動いてしまうようで、時々左右に揺れている。
ミカの隣にいることの多いリムリーシェには、ミカが気がついた時になるべく注意してあげることにしている。
「リムリーシェ、また揺れてるよ。」
「あれ? また動いちゃった? 気をつけてたんだけどな。」
そう言って、えへへと無邪気に笑う。
なにこの可愛い生き物!
ミカは子犬に懐かれたような気分で、リムリーシェにはいろいろとアドバイスをしている。
出だしで多少の苦労したところで、彼女には他の追随を許さない豊富な魔力がある。
たぶん、どこかの時点で一気に急成長し、ミカすら追い抜くほどに才能を開花させる時が来るのではないだろうか。
その時が来るのを楽しみにしながら、リムリーシェのゆっくりとした歩みを見守っている。
…………これってもしかして、孫の成長を見守るおじいちゃんの境地?
「秋には皆で遠足がありますからね。 【身体強化】の訓練には、特に真剣に取り組んでください。」
午後の運動の終わりに、ダグニーとナポロがこんなことを言い出した。
いつもは「解散!」で終わりなのに珍しい。
皆は「遠足?」「遠足って何?」と不思議そうな顔をしている。
そうか、遠足自体を知らないのか。
ナポロが簡単に遠足を説明すると、皆が顔を輝かす。
ただ、ミカにはこの話でものすごく気になった点がある。
(……何で遠足があるから【身体強化】を頑張れって話になるんだ?)
ぶっちゃけ、嫌な予感しかしない。
「遠足では国境の防護壁まで、50キロメートル以上を一日で歩きます。」
ご、じゅっきろ!?
「その日までに【身体強化】を使いこなせていない子は参加できません。 皆、しっかりと【身体強化】を身につけてください。」
絶句した。
クラスの子供たちが途端に騒ぎ出す。
リムリーシェは顔が真っ青になり、泣きそうになっていた。
そんな騒がしい子供たちに、ナポロが更に追い打ちをかける。
「先生たちが判断して、ついて来れなそうだ、と思う子は留守番だ。 毎年何人かは留守番をする子がいるが、皆は全員参加できるように頑張りなさい。 参加できない子は、毎年遠足のあとは仲間外れにされがちだ。 苦労を分かち合った仲間と、そうじゃない者が区別されるのは当たり前だな。」
皆仲良く、なんて欠片も思っていない。
仲間と、仲間以外の区別を肯定しやがった。
(サーベンジールの魔法学院の集大成として、最後に試練と連帯感を持たせるってことなんだろうけど。 やり方がえげつなさ過ぎだろ。)
50キロメートルの内訳は、
2キロメートル 寮から大通りまで
4キロメートル サーベンジールの横断
45キロメートル サーベンジールから国境まで
ということらしい。
まあ、実際はサーベンジールの街の中の移動は斜辺に近い形を行くことになるから5キロメートル弱くらいか?
それでも子供相手に、これはさすがに酷すぎないか?
皆は【身体強化】が使えると言っても、ミカのように何倍なんて強化ができるわけではない。
せいぜい1割~2割といったところだ。
そう思うが、毎年の恒例行事として、今年も容赦なく慣行するのだと言う。
皆、絶望したような顔で寮に戻るのだった。
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水の2の月、4の週の陽の日。
晴れ渡った空と、緑の草花が街道に沿って広がる。
遠くの山の緑と青い空を眺めながら歩くと、まるで気分はピクニックだ。
そんな早朝の街道を、ミカはにやにやしながら歩いていた。
腰には昨日買ったばかりの鋼のナイフを差し、これでようやく装備が揃った、とにやにやが止まらないのだ。
昨日は買ったばかりのナイフを眺め、一人でにやにやしていたらメサーライトに気味悪がられた。
(まあ、ナイフ眺めてにやにやしている奴がいたら、俺でも絶対に近づかないな、うん。)
ナイフもとりあえず買いはしたが、使いこなせるわけではないんだけど。
早朝の街道はまだ肌寒く、時折サーベンジールに向かう馬車が通るだけだった。
昼間は結構暖かいのだが、夜間と朝は結構冷え込む。
春や秋は、厚着で行くべきか薄着で行くべきか、なかなか頭を悩ませる時期ではないだろうか。
今日、ミカはクエストに初チャレンジするつもりだ。いつもの定額クエストではなく、依頼書が出ている方のクエスト。
ナイフを買った帰りにギルドに寄って依頼書を眺めていたら、随分前から張られている依頼書に気づいた。
前から目にしていた依頼書ではあるが、サーベンジールから10キロメートルくらい離れた村での依頼。
これまでは「遠すぎる」と特に気にしていなかったのだが、今のミカには【身体強化】がある。
往復で20キロメートルは結構きついが、行けないこともない。
【身体強化】を3~4倍くらいにして、ちょっと急げばたぶん1時間くらいで着く。
1年間の学院生活で歩くことにも走ることにも慣れたミカなら、十分射程圏内と言っていいだろう。
ちなみに【身体強化】で4倍にしたからといって、歩く速度が4倍になるわけではない。
やろうと思えばできるが、むしろ負担の軽減のために能力を使っていると言った方が正確かもしれない。
これまで10の労力だったものが、2~3でできるようになる、と考えればイメージしやすいだろう。
勿論、これまで25キログラムを持ち上げるのが限界だったのが、100キログラムを持ち上げられるようになる、という力の使い方もできる。
能力が引き上げられるので、その辺りの力の配分に選択肢が増える、というわけだ。
今回、ミカが選んだ依頼の内容は害鳥の大群を狩ること。十万ラーツ。金貨一枚の依頼だ。
依頼はDランクから対象となっているが、一つ下のランクであれば受注自体はOKとされている。
ランクはあくまで目安なので、その辺は柔軟になっているようだ。
すっごい実力者でも最初はFランクからスタートする仕組みなので、あまり枠組みをガチガチにしても腕を腐らせるだけ。
それなら、やれると思うならやってみろ、とばんばんチャレンジさせて、さっさと上のランクに上がって欲しい。
そういう考えの下、1つ下から受注OKという規則になったようだ。
ミカがこの依頼を選んだ理由はいくつかある。
一つ。
多少距離はあるが、移動自体に問題がない。
二つ。
2カ月以上解決されていない依頼なので、他の冒険者とのバッティングも少ないだろうと考えたこと。
一応「達成の早い者勝ち」の依頼だが、他の冒険者が容易に解決できるのなら、とっくに片付いているはずなのだ。
三つ。
害鳥が飛んでも、”風刃”があれば何とかなると思った。
四つ。
依頼の達成条件が完全な駆逐ではないこと。
鳥が相手なので、今現在どこかに飛んで行っている個体がいるかもしれない。
この害鳥自体はどこにでもいる種で、急激に増えすぎたので狩って欲しいということだった。
ギルドのカウンターに持って行って詳しい話を聞いたが、とにかく害鳥の数が多く、弓で落とす、【神の奇跡】を使って殺す、などの手段では埒が明かないのだとか。
ならば、豊富な魔力量に物を言わせて倒しまくれるミカならワンチャンあるのでは?と考えたわけだ。
元の世界でも、増えすぎた鳥に悩まされるニュースを見た記憶があるが、それはこの世界でも同じようだ。
そうして、依頼主の村に着いた。
歩いてきたから途中で暑くなって、着てきたローブは雑嚢の中に仕舞った。
今回は特に持ち運ぶような物はないのだが、一応空っぽの雑嚢は持って来ていた。
この村の印象は、割とリッシュ村に近いかもしれない。
まあ、リッシュ村ほど閑散としているわけではないけど。
あの村の人口密度の低さは異常だ。
とりあえず、村の周りを簡単に見回す。
依頼主の村は農村で、害鳥を何とかしないと、種を蒔いた端から食い尽くされてしまうのだとか。
村を囲むように田畑が広がり、少し離れた所に黒い山が見える。
黒い山の周りの山は枯れ木ばかりなのか、遠くの山が緑に染まる中、剥き出しの茶色は枯れ木なのか土の色なのか。
小鳥が空を飛んでいるのは見えるが、害鳥とやらは見当たらない。
ミカは村の中に入ってみることにした。
とりあえず、村長が依頼主ということになっているので、村長の家を目指す。
通りがかった村の人に元気に挨拶をして、村長の家を教えてもらう。
村長の家は、村の一番奥にあった。
大きさは他の家よりも大きいが、古くてボロい家なのは周りの家と変わらない。
サーベンジールのような大きな街の近くにあるが、あまり経済状況は良くないようだ。
ミカは村長の家の、ドアの前に立つ。
「おはよーございまーす。 冒険者ギルドから来ましたー。」
そういえば、こういう時何て言えばいいのかは聞いてなかったな。
まあ、依頼を見て来たことさえ伝われば問題はないだろう。
ミカが声をかけると、ドアがすぐに開いた。
中から出てきたのは、一人のおばちゃん。
おばちゃんの視線は最初、ミカの上を素通りしていたがしばらくしてから下に向けられる。
もしかしたら、他の人がいないか確認していたのだろうか。
「あら、おはよう、お嬢ちゃん。 今、冒険者さんが来ていたみたいなんだけど……。 お嬢ちゃん、見なかったかい?」
おばちゃんの質問に、ミカは自分を指さす。
「冒険者ギルドから来ました。 害鳥駆除の詳細なお話を伺いたいのですが、村長さんはいますか? あと、お嬢ちゃんじゃありません。」
「…………え?」
おばちゃんが再起動するまで、たっぷり3分もかかった。
ここまで驚かれたのは、さすがに初めてだな。
ミカは村長のおじさんと村の外に出ていた。
おばちゃんに中々信じてもらえず苦労したが、玄関で何やら話していることに気づいた村長が出て来てくれて、とりあえず依頼の詳細を説明してもらえることになった。
村長が村から少し離れた黒い山を指さす。
「あそこに、黒い山が見えるだろう?」
「はい。」
「あれが害鳥だ。」
「は?」
え、あのでっかいのが?
それはちょっと想定外っていうか、依頼内容が違うような。
「もはや何羽いるのかも数えきれないほどの害鳥が、あそこの山の木で休んでいるんだ。 そのせいで黒く見える。 周りの山の木に葉っぱが一枚もないだろう? 芽が出た端から害鳥が食べてしまって、そのせいでまるで枯れ木の山のようになってしまっているんだよ。」
あの黒い山が丸々害鳥の群れ?
それって何万羽とか、何十万羽って数なのでは?
そりゃ弓で落としたり、ちょっと【神の奇跡】を使うくらいじゃ駆除できない訳だ。
いくら何でも数が多すぎる。
「依頼を出した頃はここまでじゃないかったんだがね。 ここ1カ月ほどで急に数が増えたんだよ それで、今もギルドの方と相談中なんだ。 正直、今の報酬、今のランクではどうにもならないだろうと言われてしまって……。」
そう言って、村長は肩を落とした。
「だが、然程豊かな訳でもないこの村では、これ以上の報酬は難しい。 種を蒔かなきゃ収穫なんかあるわけがないが、種を蒔けば害鳥の餌にしかならない……。 八方塞がりだよ。」
村長は首を振り、諦めたように零す。
「そういう訳で、来てもらって悪いが無理はしない方がいい。 害鳥は魔鳥ではないが、それでも攻撃をすれば群れで反撃をしてくる。 この間もCランクの冒険者が、あの黒い山を見て諦めて帰っていったよ。 数が多すぎる、てね。」
そりゃあ、この数は普通にやっても無理だろう。
反撃がなければ魔法の連発で何とでもなるが、反撃があるのではちょっと厳しいか。
それでも”火炎息”を使えば威嚇にはなる。
まさか、普通の鳥が”火炎息”に向かってくることはないだろう。
「とりあえず、試すだけ試してみます。」
「い、いや、試すって、一度手を出せば群れで襲い掛かってくるんだ。 悪いことは言わない。 やめておいた方がいい。」
引き留めようとする村長にミカは雑嚢を押し付ける。
雑嚢の中は制服のローブだけ。雑嚢も含めて無くしても問題ないが、とりあえず邪魔な荷物は手放しておきたい。
「すいませんが預かっててもらえませんか。 終わったらまた伺いますので。」
「お、おい、君!」
ミカは黒い山に向かって走り出す。
問答している時間も勿体ない。というか、面倒くさい。
できるできないなど、結果で見せればいい。
村長ができると言えばできる、というわけではないのだから。
(さーて、思ったよりも数が多いのは確かだしな。 どうすっかな。)
ミカは頭の中でシミュレーションしながら、黒い山に真っ直ぐ向かった。
とりあえず、黒山まで50メートルほどにまでやって来た。
うん。言ってた通り、鳥の群れだ。
真っ黒い、カラスによく似た鳥。
多すぎて、見ているだけでちょっと気持ち悪いレベル。
ガヤガヤガヤッ!ガヤガヤガヤガヤッ!ガヤガヤガヤガヤッ!
もはやどんな鳴き声なのかも分からないほどの音の洪水。
バージョンアップして”地獄耳”改め”地獄耳”と正式に魔法名を決めた魔法を使おうとして……、やめた。
今回は音に関してはそれほど重要ではない。
それなら、余計な魔法はやめて、必要な魔法に集中するべきだろう。
「そいじゃあ、いっちょやってみますかね。」
少々距離はあるが、まあ問題ないだろう。
どれだけ適当に撃っても、外す方が難しいほどに密集している。
だったら、数に物を言わせて、ひたすら撃ち込みまくってやろう。
「”風刃”!」
十個以上の”風刃”を作り、どんどん撃ち込む。
撃ち込んだ端から再び”風刃”を作り、それらも撃ち込む。
ミカは初撃は何で行こうか考え、結局”風刃”にした。
”火球”では、火のついた鳥が突っ込んで来たら、ミカが危ない。
”石弾”や”氷槍”では、この後の反撃のターンで真上に撃つ必要がある場合に、落下してきてミカにぶつかる可能性がある。
”風刃”なら撃ちっ放しで、撃った後のことを考える必要がないのだ。
一発の”風刃”で、何羽もの鳥が首や羽を斬られて落ちていく。
適当に”風刃”を撃ち込むだけで、何十何百の鳥が次々に落ちていく。
そうして、鳥たちが一斉に空に飛び立った。
ミカは構わず、飛び立つ鳥に向かって”風刃”を撃ち込んでいった。
まるで真っ黒な竜巻が空をうねるような鳥の群れに、ちょっとだけ見惚れそうになる。
うねうねする鳥の群れを、「面白い動きだなあ」などと思っていると、数羽の鳥がミカに向かって来た。
当然、”風刃”で迎撃。
ミカに近づく前に落とす。
すると、更に数羽の鳥が群れを離れてミカに向かって来た。
さっきよりも数は多いが、これくらいなら問題ない。これも迎撃。
そんなことを数回繰り返し、ついに本体が動いた。
黒い竜巻のようなうねりは、上空で一旦広がり、そこから一気に収縮しながらミカに突っ込んで来た。
ミカは迎撃の”火炎息”を出そうとし、――――緊急停止。
「”風千刃”!!!」
咄嗟に魔法を切り替える。
半径10メートルの半球状の魔力を展開する。
”吸収”でかき集めた全力の魔力を、すべて”風千刃”に注ぎ続ける。
(突っ込んで来る勢いが強すぎる! 火を見て避けるとか、そんなレベルじゃない!)
鳥なら火を避けるだろうと考えたが甘かった。
この勢いでは、避けようと思った瞬間にはミカと衝突する。
それほどの勢い。
ミカの作り出した”風千刃”の範囲に、黒い竜巻から黒い槍に変形した巨大な鳥の群れが衝突する。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
ミカの前に真っ赤なカーテンが現れる。
”風千刃”で細切れにされた鳥の血肉が魔力範囲の外縁部に沿って広がっていく。
だが、そんなことはお構いなしに、鳥たちは衝突し続ける。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
前方に血肉の赤、左右と後方は魔力に触れずに通り過ぎた鳥の黒が広がる。
凄まじい衝突音と、羽ばたき、空気を切り裂く音が混じり合い、耳を塞ぎたくなるような騒音の三重奏がミカの鼓膜に突き刺さる。
「あーーーーーうるせーーーーーーーーーーーっ!」
あまりの騒音に集中力が切れそうになるが、必死に繋ぎとめる。
今”風千刃”が途切れれば、間違いなく鳥の嘴で蜂の巣になる。
というか、細切れにされる。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
衝突音が前方だけでなく、上からも聞こえてきた。
見上げると、赤いカーテンが天井にもできている。
通り過ぎた鳥たちが、一旦上空に行ってから真下に滑降するように突っ込んできているのだ。
もはや、ミカの魔力範囲は真っ赤な半球状のドームのようになっていた。
ボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタッ!!!
そして、上から降り注ぐ真っ赤なシャワー。
”風千刃”でできた血肉のジュースが、ドームに入り込んでいた。
「うぎゃぁぁああああああああああああああっ!」
ミカはたまらず悲鳴を上げる。
鳥たちの血肉で、あっという間にミカの全身が真っ赤に染まる。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
ボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタッ!!!
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ぃぃい!!!」
命がけで必死に”風千刃”を維持するが、ミカは半泣きだった。
というか、普通に泣いてた。
「もうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダッ!」
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!」
ミカは少しずつ移動し、鳥たちの衝突を避けようとするが、鳥たちはしっかりと軌道修正をしてついてくる。
そうして、ミカには永遠にも感じられた、悪夢のような15分間が過ぎた頃。
「……………………………………………………。」
気がつけば、周囲が静かになっていた。
鳥たちのミンチの山に囲まれ、ミカは茫然として立ち尽くした。
こうして、鳥たちの血肉を滴らせながらも、ミカの初めての依頼クエストは無事?に達成されたのであった。




